塔の峰〜庚申山

天気:のち
メンバー:M,T
行程:鳥獣観察舎 7:15 …乗越峠 7:45 …日ヶ窪峠 9:20〜9:35 …新道から分かれる 10:15 …塔の峰(1738m) 11:10〜12:00 …庚申山(1892m) 13:30 …庚申山荘 14:25 …一ノ鳥居 15:20 …銀山平ゲート 16:15 …鳥獣観察舎 16:40
ルート地図 GPSのログ(往路:赤、復路:緑)を地理院地図に重ねて表示します。

桐生から近くて行き易く、奥山の魅力もたっぷりの足尾の山々だが、登ったことのない山はまだまだ多い。塔の峰もその一つ。2010年6月にMさん、Kさんが登った際に私も同行させて頂く予定だったのだが、体調不良でドタキャンした経緯があり、シロヤシオが咲く時期に登ってみたい、と考えていた。

関東甲信地方は5月29日に梅雨入りした(気象庁速報値)が、この土曜日は晴れの予報。シロヤシオもそろそろ咲いているのではと期待し、Mさんに同行頂いて登って来ました。

桐生を朝6時に出発。銀山平から舟石林道を走り、舟石峠手前の鳥獣観察舎に車を置く。今日はここから庚申山荘まで通じる、いわゆる「舟石新道」を途中まで辿って塔の峰に登ろうという計画である(なお、Mさんによると、この道は元々「新道」あるいは「庚申山新道」と呼ばれていたそうである)。

『足尾山塊の山』によると、この新道は昭和25年に足尾町の有志により開かれたものの、その後に銀山平〜一ノ鳥居間に林道が通じたため、歩かれなくなったとのこと。長年、登山者から忘れ去られて半ば廃道と化していたが、近年“その筋”の方々による踏破記録がネットに公開され、GPS軌跡による正確な経路と現況が明らかになっている。これらの記録を読んで、新道を実際に歩いてみたいと思ったことも、今回の山行の動機の一つである。

鳥獣観察舎から山腹に取り付く。伐採のための作業道が造成中で新道の入口が分かりにくいが、杉林の中を斜め左上に登って行くと斜面を横切る道型があり、木の幹に打ち付けられた新道の案内標識も見つかって、新道に乗ったことが確認できる。

鳥獣観察舎
新道の案内標識

この案内標識は道型に沿って点々と残っており、これを確認しながら進めば道を外す恐れは少ない。杉林を抜け、新緑が鮮やかな山腹をトラバースする道となる。途中、沢を横切る個所には、橋脚の石組が残存している。Mさんによると、かつては立派な木橋が架かっていたらしい。

明瞭な道型を辿る
橋脚の石組が残る

エゾハルセミのオーギッ、オーギッ、ギギギギギギという合唱を聞きながら樹林の中をトラバースして、小さな尾根を乗り越す。ここはその名の通り、乗越峠と呼ばれている。ここからトラバース道は岩を穿った狭い岩棚を渡る個所があるが、通行に特に支障はない。

緩く下って樹林に覆われた広い鞍部に降り着いたあたりが熊ノ平(山ノ神)である。平坦でどこでも歩けるため、道型が錯綜して分かりにくい。再び尾根が立ち上がる辺りから左にトラバースする道型が現れる。新緑の中にはヤマツツジが鮮やかで、その下には花びらが散り敷いてもう終盤に近い。

ヤマツツジ
トラバース道が続く

案内標識を次々と辿りながらトラバース道を進む。樹林に覆われて展望はないが、ところどころから垣間見える周辺の山々はことごとく新緑に覆われてきれいだ。丸石沢の上流を渡る個所で一本立てて、細い沢の水を飲む。沢近くの湿った斜面には、クワガタソウの花が多い。

カエデの新緑
クワガタソウ

丸石沢を過ぎると、丈の短い笹原のトラバースに入る。道型がやや不明瞭で、案内標識を確認しながら進む。足を置きにくい傾いた路面が続き、なかなか疲れる。丸石沢右岸の支流をいくつか横断するところが、新道で一番道が分かりにくい区間で、前回のMさん達はこの辺りで道型を失ったらしい。しかし、笹原と新緑の疎林が続き、感嘆するような美しい風景も多い。

日ヶ窪峠は、峠と名がついているが小尾根の乗り越しに過ぎない。しかし、満開のシロヤシオがあり、陽当たりの良い草原には沢山のワラビが生えているので、しばし休憩。小尾根の先端に立ち寄ると1456m三角点標石(点名、銀山)がある。展望は木の間越しに庚申山が眺められるだけである。

低い笹原に微かな道型が続く
青空に映える新緑の木立
日ヶ窪峠
シロヤシオ(1)

日ヶ窪峠からさらに新道を辿るとカラマツ林が切れて笹原が広がる区間があり、袈裟丸山から小法師尾根、遠く根本山方面の山々の展望が開ける。沢筋を横切る湿った斜面にはコバイケイソウが青々とした葉を広げて群生している。

小法師尾根と根本山方面を遠望
袈裟丸連峰を望む

笹ミキ沢支流の涸れ沢と、続いて水流のある沢を渡り、尾根に乗ったところで新道から離れ、塔の峰の西側の鞍部辺りを目指して尾根を登る。すぐに大岩があり、左から巻くと緩やかな尾根の登りとなる。この尾根は、低い笹原とシラカバが混じる疎らな樹林に覆われ、藪はなく歩き易い。ところどころで西側の樹林が切れて、満開のシロヤシオを前景にして庚申山や袈裟丸連峰が眺められる。

新道から分かれて尾根を登る
庚申山を望む
シロヤシオ(2)
低い笹原の尾根を緩く登る

緩く尾根を登って、塔の峰と1662m標高点の間の平坦で広い鞍部に着く。塔の峰に向かうと腰程の深さの笹原となり、鹿道を辿ってなるべく楽をする。カラマツやダケカンバの疎林を抜けると、背の低い笹原に覆われた広い緩斜面の登りとなる。盆栽のような見事な枝振りのシロヤシオが点在し、振り返れば足尾の主要な三山の袈裟丸山、庚申山、皇海山が連立して眺められる。この開放的な展望は、足尾山塊でも白眉ではないかと思う。

塔の峰の西側稜線を登る
シロヤシオ(3)
袈裟丸連峰(左)と庚申山を望む
オロ山(左)と日光白根山を遠望

笹原を登り切った緩やかなピークが塔の峰の頂上で、「山」標石と山名標が一つある。鹿のフンに注意してランチシートを広げ、まずは缶ビールで乾杯。お湯を沸かしてカップ焼きそばを作り、展望を楽しみながら昼食とする。

塔の峰から皇海山を望む
塔の峰頂上

さて、これからどうしようか。当初の計画では、塔の峰から東に稜線を辿って、日ヶ窪峠から新道を戻る予定であったが、時間に余裕があるので庚申山まで縦走することにする。

頂上から西の鞍部まで戻り、笹原と疎林の尾根をさらに西へ辿る。少し笹が高くなり、なるべく歩き易い鹿道を拾って歩く。針葉樹に覆われた岩稜を進むとシャクナゲが咲いている。今年初めて見るシャクナゲなので嬉しい。岩稜から笹原が広がる鞍部に下る。庚申山の東の肩からオロ山にかけての眺めが開け、ここも気持ちの良い場所だ。

笹原に出る
岩稜を辿る
アズマシャクナゲ
オロ山と男体山(奥)を望む

この鞍部からオロ山と庚申山を結ぶ稜線までは、標高差100m程の緩斜面の登りとなる。笹原は腰程の深さとなり、登るにつれて針葉樹林が密になって、奥秩父の山のような感じとなる。鹿道も拡散気味で不明瞭となり、少々歩きにくい。

深い笹原を進む
笹原とコメツガ林を登る

ようやく稜線に乗るが、庚申山へ向かう道型は微かだ。緩く登ると右側の樹林が切れて、皇海山と鋸山が間近に姿を現す。こちらから見る皇海山は見事な鋭峰だ。その奥には緑深い松木川源流域を隔てて両毛国境の山々が連なり、遥か彼方に日光白根山が僅かに白く見えている。素晴らしい山岳展望だ。

鋸山(左)と皇海山を望む
両毛国境稜線と白根山を遠望

庚申山へはコメツガと笹原に覆われた揺るやかな稜線を登る。頂上はすぐのようで、小さなアップダウンがあり、なかなか着かない。皇海山を眺めた地点から20分ほどで、ようやく庚申山の1892m標高点のピークに登り着いた。やれやれ、水を飲んで休憩とする。

庚申山への稜線
庚申山頂上

庚申山からは一の鳥居へ下山する。この道は既に何回か歩いている(前回、2009年7月の山行記録)。頂上台地を東に進み、右に折れて急な下りにかかると大岩があり、1962年1月の遭難の慰霊碑のプレートが埋め込まれている。Mさんによると、松木川から皇海山を目指した3人パーティのうち2人が遭難死したとのこと。いずれも桐生の方で、当時は大事件になったらしい。

庚申山の頂上を取り巻く岩壁を縫うように下って行く。途中、コウシンソウが咲く岩場を見てみたが、まだ葉っぱも見当たらなかった。その代わり、下の方の岩場でユキワリソウが咲いているのを見た。

庚申山荘まで下って一休み。水場で冷たい水を飲む。今日の山荘は静まり返っているが、6月中旬から7月にかけてコウシンソウが咲く時期になると大いに賑わうだろう。

庚申山荘へ下山
岩壁を縫って下る
ユキワリソウ
庚申山荘

庚申山荘から約1時間の下りで一ノ鳥居、さらに林道を歩いて約1時間で銀山平のゲートに着く。今回はここから舟石林道を駐車地点まで登らねばならない。鳥獣観察舎に到着したときは、よくまあ長いルートを歩いたなあ、という感慨を抱く。日が長い季節、まだまだ明るい足尾の山々を眺め、次はどこに行こうかなと考えながら帰途に着いた。