船形山
(この記事は、仙台の山1日目、泉ヶ岳からの続きです。)
翌朝、5時過ぎに目を覚ます。風が吹いて少々寒いくらいだが、天気は良い。夕べは少々飲み過ぎたが、良く眠れた。朝食は野菜をプラスした日清ラ王を食べる。ポリタンに水1ℓ、コッヘル、ガスコンロなどの装備をザックに入れて出発する。駐車場には次々に車が到着して、相次いで登山者が出発して行く。さすがに泉ヶ岳ほどは多くないが、人気の山だ(この日の登山者は数十人と思われる)。
駐車場の直ぐ上に登山道入口があり、赤い円盤に白抜き数字で30と書いた標識が掲げられている。これは登山道に沿って設置された通し番号の標識で、頂上が1番となっている。
登山道はブナ林の斜面をゆるゆると登って行く。道端にはカタクリやキクザキイチゲの花があるが、まだ朝早いので花びらは閉じたままだ。帰りには開いているといいな。
程なく標識29があり、小尾根に乗って登って行くと標識28があって、番号が順調に減って行く。尾根上にジグザグを切って登ると傾斜が緩んで、旗坂平の道標と標識27がある。
ブナ林と笹原の尾根の緩い登りが続く。山に登るというよりは、山を旅するという感じだ。年配の男性2人パーティと前後して、一群平(標識25)を通過。登山口から1.5km、頂上まで6.0kmで、まだ5分の1来たところだ。先は長いのでゆっくり歩く。
尾根が少し痩せると、直下の斜面に残雪がある。やがて、登山道の上にも断続的に雪が現れ、だんだん雪が繫がって、雪に覆われたちょっと急な斜面となる。念のため軽アイゼンは持っているが、柔らかい雪なのでストックだけを使い、つぼ足のまま登る(軽アイゼンは結局未使用)。
斜面を登ると尾根上の平坦な道となり、鳴清水の標識がある。清水と言っても水場はない。この辺りではたと気がついたのだが、昼食用のパンを持ってくるのを忘れた!これは大失敗、やっぱり飲み過ぎたかなあ(^^;)。しかし、アルコールと朝食はしっかり摂っているし、カップスープは持って来ているので、まあなんとかなるだろう。
鳴清水を過ぎると、木の間を透かして行く手に船形山頂上付近の真っ白な稜線が見えてくる。尾根上の雪も多くなり、やがて一面の雪野原となる。大勢のトレースがついているし、番号標識も適当な間隔であるので、ルートを失う心配はない。
ブナ林に広がる雪斜面をトラバース気味に登って標識15を過ぎ、ほとんど平坦で広い尾根を登って行くと、左手に針葉樹に覆われてこんもりと盛り上がる小さな丘がある。この丘の上が三光の宮だろう。
踏み跡を辿って登ると、天辺の岩場の上に日月星のマークと幣束、「三光宮」という銘が刻まれた石碑が建つ。船形山の遥拝所だが、樹林に遮られて頂上をすっきりと見通すことはできない。しかし、こんな奥山に山岳信仰の石造物があるとは。昔の人の信仰心には感心する。
三光の宮の先は緩い下りとなる。トレースは夏道を離れてショートカットするルートに付いているようだ。疎らなブナ林のところどころにクロベの見事な大木がある。
再び夏道に合流して標識11を通過し、緩やかな山腹をトラバースする。行く手には、なだらかで真っ白な船形山の頂上稜線が望まれる。山頂の山小屋も見え、長い登りを経てようやく頂に近づいて来た。
緩く下って升沢避難小屋に着く。豪雪地帯にあるため、基礎を高くして建てられている。新しくてしっかりした小屋だ。中に入ってみると、休憩中や食事中の登山者で満員だった。そう広くはないが、明るくて居心地が良さそう。中の様子を覗いてみるだけのつもりだったので、すぐに外に出る。
升沢避難小屋からは、小さな谷の中を登る。途中、女子高生の山岳部?のパーティとすれ違って、元気な挨拶を貰う。夕べは山中泊だったのかな。本格的だなあ。
谷が右に曲がると、稜線に向かって急な雪斜面の登りとなる。のんびり写真を撮っているうちに、避難小屋で休憩していたグループが続々と上がって来て、広い斜面をてんでんに登って行く。
稜線に近づくと頂上の山小屋が大きく見えて来る。あとわずかの距離だ。振り返ると、登って来た斜面が広がっていて、ここを山スキーで滑ったら楽しそうだ。その向こうには三光の宮の森が小さく見え、なだらかに広がる山裾が眺められる。
稜線に登り着き、矮小な樹林を切り開いた夏道を辿る。山形県側の展望も開けるが、そちらから吹き付ける風がとても強い。緩く登って、船形山小屋のある頂上に到着した。先行した登山者は皆、あまりの強風に小屋の中に逃げ込んだようで、外にいる人は誰もいない。冬用のジャケットを着込んで、周囲を見渡す。
頂上からは360度の展望が得られる。白い稜線と谷が複雑に入り組んで、私にとってあまり馴染みのない山々が連なる。北の方、遠くに薄らと見える大きな山塊は鳥海山のようだ。頂上北西面の山形県側は急崖となっており、足元には最上川支流丹生川の深い谷が延々と食い込んで来ている。そちらから間断なく強風が吹き付けて、デジカメを構えても静止できない。西を見ると、白髪(しろひげ)山が一際白くて目立つ。その右の黒々とした急な山肌を見せる山は、ロッククライミングで有名な黒伏山のようだ。南には昨日登った泉ヶ岳が小さく望まれる。
下山する前に山小屋に立ち寄って中を覗いてみる。こちらも新しく、そう広くないが快適そうだ。
下山は往路を戻る。雪斜面の下りは快適で速い。升沢避難小屋に入って一休み。コンロでお湯を沸かしてカップスープを作る。腹の足しにはなったし、温まって元気が付いた。
雪を踏んで快調に下る。標識25辺りで雪は消え、登山道の上を雪融けの水がさらさらと流れている。登山口に近づくと、行きは閉じていた花が奇麗に開いている。キクザキイチゲは今シーズン初めて見ることができて、特に嬉しい。
そして無事にキャンプ場の駐車場に帰着。車で登山靴をサンダルに履き替えて、テントに戻る。
時間が1:30と早いので、テントを撤収して帰途につくことも可能だが、今すぐビールを飲みたいという欲求には抗し難い(^^;)。テントの裏手に僅かに残った雪で缶ビールをよーく冷やし、東屋のベンチに陣取って飲む。うまーい。長丁場を歩いて喉が渇いているので、めちゃうまい。空きっ腹に沁み渡る。
その後は昼寝をしてのんびり過し、夕方にフリーズドライのグリーンカレーを食べて就寝する。この晩もキャンプ場には学生さんのグループの2張があるだけ。ぐっすり眠る。
翌朝も良い天気だ。風もなく暖かい。高速の渋滞を避けるため、早めに帰ることにする。野菜入りラーメンを作って食べ、テントを撤収、車に荷物を放り込んで出発する。
キャンプ場から下って僅かのところで船形山神社という標識を見たので、ちょっと立ち寄ってみる。脇道のすぐ奥に駐車スペースがあり、車を置く。鳥居があり、その奥に建物が見える。神社はすぐそこだろうと思って、デジカメだけを持ち、サンダル履きのまま鳥居を潜り、小川を渡る。件の建物は社務所のようだ。
社務所を通り抜けて裏手に出ると、急斜面に山道がついていて、ロープまで下がっている。これは意外、神社はこの上にあるようだ。
急斜面を登ると痩せ尾根の上に出て、さらに急角度になって岩峰に向かって上がって行く。梯子や鉄鎖もある山道を急登すると平坦で広い頂上に出て、ようやく立派な社殿に到着した。船形山は樹林の間を透かしてわずかに見える程度だが、遠く山頂を遥拝し、神さびた雰囲気のある境内だ。図らずも軽い山歩きもできたし、立ち寄ってみて良かった。
車に戻って帰途につく。大和ICから東北道に乗り、途中、渋滞にも遭わず順調に走って、昼過ぎに桐生に帰った。