田沢奥山〜中野山〜五覧田城址

天気:のち
メンバー:M,H,T
行程:橋倉橋 7:05 …送電線巡視路入口 7:35 …稜線に出る 8:20 …田沢奥山(1260m) 8:50 …1216m三角点峰 9:55〜10:10 …970m三角点峰 11:45〜12:15 …中野山(785m) 13:25〜13:35 …五覧田城址 15:40〜15:50 …高橋登山口 16:20
ルート地図 GPSのログを地理院地図に重ねて表示します。

岡田敏夫著『足尾山塊の山』の一節に「家の串越えと村界尾根」と題する紀行があり、次のような書き出しで始まっている。

後袈裟丸から西南へ延びる郡界尾根に家の串と呼ばれるところがあり、古くから小中と根利を結ぶ道が通じていた。今は近くを林道が通じているのでこの歩道は廃道化しているが、村と村を結ぶ峠道であり、かつてはハイカーにも親しまれたコースである。

この家の串から南へ延びる長い尾根が派生している。東村と黒保根村を分ける村界になっていて、道記号の入っていない藪尾根である。この二つのコースを結びつけ、ツツジの咲く季節を選んで歩いてみた。

平成の大合併により東村はみどり市、黒保根村は桐生市にそれぞれ編入されたので、上記の村界尾根は、現在はみどり市と桐生市の市界となっている。

岡田氏が歩いたのは1984年5月中旬で、1日目に小中駅から家の串を越えて根利の奇応館に投宿し、2日目に再び家の串に登って、峠から田沢奥山(たざわおくざん)に登り、ここから村界尾根を縦走して花輪駅に下っている。

Mさん発案の今回の山行はこの行程の大筋をなぞるもので、アプローチに2台の車を利用して日帰りとし、家の串越えの小中側の峠道を登って、市界尾根(旧村界尾根)を田沢奥山から中野山を経て五覧田城址(要害山)まで縦走しようというロングコースである。私は、このコース中の中野山〜五覧田城址の区間は既に歩いているが、家の串越えと田沢奥山〜中野山間は未踏なので、大変興味を惹かれる。この山行に参加させて頂き、Mさん、Hさんと私の3人パーティで歩いて来ました。

桐生を朝6時に出発し、あにねこ号を下山予定地の要害山・高橋登山口に駐車。Hさんの車で小中川支流平仁手(ひらんて)沢沿いの林道平仁手支線に入る。ここは大変な山奥だ。Mさんの話によると、かつては数軒の集落があったが、今は無人となっているとのこと。

途中から未舗装の悪路となり、橋倉橋を渡った先の広い路肩に車を置く。橋の架かる沢の奥には不動滝という大滝があるそうで、これも興味を惹かれるが、今日は先が長いので探勝は次の機会とする(この滝については、Mさんの著書の『袈裟丸山』に記述がある)。

対岸の山腹の鮮やかな紅葉を見ながら林道を奥へ歩き、「田沢(小中)林道起点」の標識を見て野川橋を渡る。昨夜は雨が降り、今も雲が多くてパッとしない天気だ。周囲の樹林の紅葉はしっとり濡れ、晩秋の風情が漂う。左に送電線巡視路が分岐すると林道は沢に突き当たって終わりとなり、沢に入って登る。


平仁手沢沿いに林道を登る


沢に入って登る

かつては沢沿いに峠道があり、荷馬が行き来したそうだが、現在は崩壊して道の痕跡を見出すのも難しい。幸い傾斜が緩いゴーロの沢なので、遡るのはそう難しくない。滑り易いナメ床の通過には少し苦労したが、周囲の紅葉を眺めながら簡単な沢歩きが楽しめる。


小さなナメ床を登る


沢沿いの紅葉

やがて沢は稜線に突き当たって右に折れるので、正面のザレた斜面を稜線に向かって適当に登る。最後は立ち木を頼りに急斜面を登り上げ、息を切らせて稜線上に出る。

稜線は背の低い笹原と疎らな樹林に覆われ、笹原の中に一条の山道が続いている。これが家の串越えの道のようだ。右に向かう稜線は田沢奥山のピークを起こし、峠道はピークを左から巻いている。まず、こちらの方へ峠道を辿ってみる。


沢を稜線直下まで詰める


稜線上の家の串越えの道

峠道は黄葉したカラマツとヤマアジサイに覆われた緩やかな山腹をトラバースして続く。雨露をつけた笹原の中を進むので靴とズボンの裾が濡れるが、道型ははっきりしている。高原的な情緒があって気持ち良い道だ。稜線を越えて下り始めるところまで峠道を辿る。この先も道型はあるが不明瞭だ。機会があれば、山麓の根利まで歩き通してみたい。

少し戻って稜線に上がり、田沢奥山に向かって登る。稜線上にも明瞭な踏み跡が続く。雑木林が見事に紅葉しており、やがて紅葉のトンネルの中を登るようになる。これは素晴らしい。私にとっては今シーズン最高の紅葉だな。登り着いた田沢奥山の頂上は疎らな林に覆われ、二つの古びた山名標がある。そのうちの「1972.11 渡良瀬源流登山」と書かれたブリキ板のものは、Mさんの旧知の方が設置したものだそうだ。


田沢奥山への登り


露に濡れたツツジの紅葉


田沢奥山頂上


頂上の古びた山名標

頂上から稜線を少し戻ってカラマツ林の緩い山腹を下り、家の串越えの道に復帰。旧村界尾根を南下する。稜線を覆う低い笹原に踏み跡が続き、藪漕ぎもなくて快適に歩ける。

やがて、左の谷から笹を綺麗に刈り払った送電線巡視路が上がって来て、稜線上に続く。これを辿ると、巨大な送電鉄塔が立つ開けた笹原に出る。行く手には紅葉で色付く1216m三角点峰が眺められる。巡視路はここで行き止まりのようだ。再び、低い笹原の踏み跡を拾って稜線上を歩く。


旧村界尾根上の踏み跡を辿る


送電鉄塔より1216m三角点峰を望む

1216m峰の手前に、稜線を横切る道型があった。やはり低い笹に覆われているが、どちらの斜面にも明瞭な峠道があり、それぞれどこに通じているのか興味が湧く。

ここから紅葉した雑木林の稜線を登って、1216m峰の頂上に着く。三角点(点名、小中山)の標石の脇の木立には、文字が掠れかかったR.K氏の標高プレートが掲げられている。氏の足跡の広さには驚かざると得ない。


低い笹原の尾根道を辿る


1216m三角点峰への登り


1216m三角点


藪のない尾根を辿る

旧村界尾根は、1216m峰で左に折れる。下った鞍部の左側の谷は気持ち良さそうな笹原の斜面に覆われている。Hさんは以前、この谷を降りて、下の方でえらい目にあったそうだ。未知の谷の降下はやはり恐い。

鞍部から小ピークに登って、今度は右に折れる。稜線を緩く下って登り返すと1119m標高点だが、何の変哲もないピークで通過。次のピークへの登りにかかる辺りから露岩や小さな岩場のある稜線となり、変化に富む。紅葉も見事だ。


紅葉を愛でつつ登る


袈裟丸山を振り返る

1072m標高点へは広く緩やかな尾根の登りとなる。頂上は平坦で樹林に覆われ、「山」標石がある。ここから下る尾根は幅広く、方向を定め難い。小鞍部に近づくと、右側に木立を透かして開けた場所が見えるので、不思議に思って行ってみる。緩い谷の源頭がぽっかり開けていて、気持ち良い空間となっている。何故、ここだけ木立がないのかは不明。


1072m標高点から
幅広い尾根の下り


稜線直下に開けた平地

970m三角点峰へは短いが急な登りとなる。最後は両手も動員して頂上に登り着く。樹林に囲まれた小平地に三角点(点名、戸ノ口)の標石がある。木立に板切れが下がっているが、文字は完全に消えている(オッサンの山旅の管理人さんが設置した追付山と記した山名板らしい)。 既に正午近いので、林が切れて眺めの良い場所に座って、昼食とする。


970m三角点峰への急登
(Hさん撮影)


970m三角点

朝は雲が厚く肌寒い天気だったが、今は陽が差してポカポカと暖かい。見晴しも利くようになり、これから辿る旧村界尾根が要害山まで見渡せる。先はまだまだ遠いな。赤城山の頂上は雲の中だが、その手前に台形の山容が特徴的な栗生山を望むことができる。


970m三角点峰より市界尾根を望む


970m三角点峰より
栗生山(中央左)を望む

パンとペットボトル飲料で軽く食事を済ませ、先に進む。ここからしばらくは松の幼樹が蔓延り、露岩が多い細尾根を辿る。東側が伐採されて展望が開け、山麓の小中の集落や、渡良瀬川を隔てて十二時山から白浜山への山並みが眺められる。小さなアップダウンが続き、振り返ると970m峰がなかなか急な山肌を擁して、格好よい。山名がないのは惜しいな。この辺りの稜線は展望と変化があり、飽きさせない。


東に展望が開けた尾根を辿る
(Hさん撮影)


小中の集落と十二時山を望む


970m三角点峰を振り返る


小ピークの登降が連続する

やがて尾根が広くなってゆるゆると下ると大きな杉の木が現われ、その根本に石祠が祀られている。年号は判読できなかったが、「上田沢 沢入中」の銘が読み取れる。お賽銭が上がっており、現在もお参りする人があるようだ。

ここからひと登りで盆栽のような枝振りの松があるピークに着く。中野山の頂上はここから旧村界尾根をわずかに外れたところにあるが、5分とかからない。頂上は樹林に囲まれて展望はない。ここで全歩程の約2/3だろうか。休憩して、残りの行程に備えて鋭気を養う。


大杉の根本に祀られた石祠


中野山頂上

旧村界尾根に戻って縦走を続行。雑木林からヒノキの植林帯に入り、一部に草藪も現われて里山の雰囲気になる。ところどころで右側に植林越しの眺めが開け、栗生山の意外と急峻でもっこりした山容が望まれる。振り返ると1216m峰が既にずいぶん遠ざかっている。

稜線を下ったところに鏡石と称する大きな岩がある。右側の面には光沢を持った擦痕があり、由来が不思議な岩だ。


植林帯の尾根を辿る


センブリ


怪異な山容の栗生山を望む


鏡石

さらに下った鞍部が田嶋峠だ。安永七(1778)年の石祠がある。傍に立て札が倒れていたので、立てて置いた。立て札の表には「田嶋峠標高635m」、裏には「田嶋ノ十二様」と書かれいる。


田嶋峠


稜線上の急坂を登る

ここからアカマツ林の急坂となり、長丁場の終盤に差し掛かって、登りがなかなか応えて来る。ピークを一つ越えると、北側が開けた個所がある。田沢川沿いの集落を俯瞰し、栗生山が間近に望める展望ポイントだ。

少し進むと、行く手に要害山も見える。御覧、あれが五覧田城址だ、などど励まし合いつつ、雑木林の尾根をひたすら歩くと、中山峠に着く。深い切り通しに面して石祠が祀られている。峠道の道型ははっきりしているが、あまり歩かれていないようだ。


栗生山と上田沢の集落を望む


中山峠

中山峠から最後のひと登りで、高いアカマツ林に囲まれた台地上の要害山頂上に着く。右に関守登山口への道を分け、左に進むと五覧田城址の展望台に出る。いやー、よく歩いた。東屋にザックを降ろして、最後の食料を腹に入れ、ペットボトル飲料を飲み干す。


要害山頂上


五覧田城址の展望台

展望台からの眺めは相変わらず素晴らしい。袈裟丸山を遠望し、そこから延々続く旧村界尾根を眺める。970m峰の尖ったピークは識別できるから、その左に見えているのは1072m峰辺りだろうか。渡良瀬川と周辺の集落も一望し、遠くに白浜山の双耳峰や三境山を望む。見飽きない風景だが、そろそろ陽が傾いて、青空に浮かぶ雲にも茜色が差してきた。下山するとしよう。


展望台から旧村界尾根と
袈裟丸山(遠景)を振り返る


展望台から渡良瀬川方面の展望

高橋登山口の降り口を探してちょっとうろうろしたが、展望台東側の渡良瀬川に向かって開けた斜面を下り、左にトラバースして林道終点に向かうと、そこから刈り払われた登山道が下っている。薄暗くなってきた杉林の中を下り、無事、高橋登山口に降り着いた。前回は道のないところを強引に下ってしまったので、今回、正規ルートを歩けてすっきり。


林道終点を経由して下る


高橋登山口に降り着く

あにねこ号に乗って、平仁手沢奥に置いたHさんの車の回収に向かう。そして、すっかり暮れて暗くなる前に未舗装の林道を下り、桐生への帰途についた。