千軒山〜神丸山〜白石山
先月、神流マウンテンラン&ウォークのコースの一部となっている若御子尾根を歩いてみた(山行記録)。大会のために山道が整備されていて快適に歩けるし、コース自体も山歩きに向いていて楽しめた。
そうすると次は、同じく大会コースに設定されている神丸(かんまる)尾根に興味が湧く。神丸尾根は万場宿から立ち上がって、千軒山、神丸山、白石山を起こし、最後は赤久縄山に突き上げる長い尾根だ。大会コースは途中の安取(あとり)峠までだが、その先も道が良ければ赤久縄山まで登ろうと企てて、出かけてきました。
今回の行程は少々長いので、早朝5時に桐生を車で出発。藤岡ICで高速を降り、神流川沿いにR462を走る。万場の町中で「鯉のぼり会場入口」という横断幕を見て左折、神流川公園の駐車場に入る。そう言えば、今日は「神流町鯉のぼり祭り」の期間中で、しかも「こどもの日」だった。大勢の観光客が車で押し寄せそうだが、まだ朝7時と早いので駐車場は空っぽ。一番奥の隅っこに車を置かせて貰う。
神流川の上にはたくさんの鯉のぼりが泳いでいる。折角なので観光していこう。神流川に架かる歩行者専用の「こいこい橋」で対岸に渡り、車道を歩いて鯉のぼりの下まで行く。爽やかな風に吹き流れる800旒(りゅう)の鯉のぼりはなかなか壮観だ。しかし、川面に目を落とすと、神流川は川幅いっぱいに近く増水していて、河原に残るテントやステージも流されかかった痕跡がある。犬の散歩中の地元のおじさんから伺った話によると、昨日の大雨で神流川が増水し、おじさんにも非常召集がかかって、河原で開催していたイベント用の施設・設備を小学校に移動するなど大変だったそうだ。
車道のすぐ脇に落ちる龍門の滝を見たのち、神流川公園に戻る。R462に出て万場の町並を西へ歩くと八幡神社がある。境内には推定樹齢600年の大ケヤキの御神木があり、芽吹いたばかりの鮮やかな新緑がきれいだ。これにて観光は終了。ここからが山歩きとなる。
塩沢川を渡り、尾根の突端から山道に入る。入口には「城山道」と刻まれた石碑と、若御子尾根でもたくさん見かけた青地のプレートに白文字で手書きされた道標がある。薄暗い杉林に覆われた山道は少々荒れ気味で、ここを歩く人は稀な感じがする。蜘蛛の巣を払い、朽ちかけた木の祠や、摩耗して碑銘が読めない石碑を過ぎ、急坂を登ると城山の頂上に着く。頂上には稲荷神社が祀られ、反対方向から車道が上がって来ている。
神社に参拝したのち、車道を緩く下る。200m程進むと右に分岐する山道の入口があり、神丸尾根登山口の道標が立つ。道標によると赤久縄山まで360分だそうだから、相当の長丁場だ。ここからマウンテンランのコースに合流し、杉林の中の掘割のように抉れた山道を登る。やがて、雑木林と杉林が混じる緩やかな尾根道となる。大会コースの区間は歩き易いし、雑木林の鮮やかな新緑で気分も明るくなる。
途中、「←一寸寄り道・一服 黒田展望地 2分」という道標を見掛けたので、立ち寄ってみる。分岐点からすぐで雑木林が切り開かれた場所に出て、南面の展望が開ける。眼下には新緑で覆われた神流川の谷が広がり、その向こうには上武国境稜線が青空にギザギザのスカイラインを描いている。これは展望地の名に相応しい佳い眺めだ。
分岐点に戻って尾根道を辿ると、やがてトラロープが張られた急坂となり、曲輪(くるわ)の跡を経て千軒山の頂上に登り着く。樹林に囲まれて展望は全くなく、「千軒山(一夜城跡)」と書かれた道標があるだけだ。最後の急な登りで一汗かいたので、一休みして水を飲む。
千軒山頂上の先は、小さな空堀を通り、アセビのトンネルを潜って進む。このあたりは坂道に付けられたステップが新しく、マウンテンランのために整備されたようだ。左から上がって来た未舗装の林道に合流し、暫く林道を辿るが、直ぐに終点となって山道に戻る。842m標高点のピークは右から巻く。新緑の木立を透かして、御荷鉾山系の主稜線が意外と近くに見える。巻道から尾根上に戻ると、南面の展望が得られる個所がある。再び上武国境稜線の山々が、黒田展望地からとは少し角度を変えて遠望できる。
山道はなだらかな尾根の右側の緩斜面を水平に進む。ほとんど平坦でのんびり歩けるところだ。神丸山の山頂は巻いているので、頂上に近づいた適当な地点から疎らな雑木林の中を登って高みを目指すと、大した距離もなく神丸山の頂上に着く。頂上には三角点標石と鯉のぼり形の山名標がある。大会コースから外れたピークにも山名標があり、ちょっと嬉しい。樹林に囲まれて展望には乏しいが、南東方向に父不見山が見える。
神丸山頂上から尾根を辿ると、大会コースと合流する。合流点には神丸山への案内の道標があり、逆コースの場合は目印になる。この先も緩い尾根が続き、杉林を抜けると広く平坦な尾根となる。新緑の雑木林の中にはヤマツツジの赤い蕾がぽつぽつとほころび始めているのが見える。
広い尾根の幅が急に狭くなると、高塩峠に着く。右(北)側にははっきりした峠道が下り、左(南)側はすぐ下まで作業道が通じている。左の木立の陰には苔むした1基の石祠がある。「昭和十八年十二月十七日」という銘が刻まれ、比較的新しい。今では峠を越える人はないだろうが、当時は往来が多かったのだろうか。
高塩峠からは、これまでの平らな尾根から一変して急登となる。左側は急斜面で、下の谷から流水の音が聞こえてくる。やがて新緑のカラマツ林に入り、右へ進路を変えて山腹をトラバースする。白石山の稜線は急な山腹のずっと上だ。神丸山とは隣同士なのに、山容が全く異なるのが面白い。
やがて送電線の真下で、山道と送電線巡視路の分岐点に着く。白石山に登るには巡視路に入る。直ぐに送電鉄塔があり、その下を潜って背後の稜線に上がる。
稜線の反対側の斜面には若い植林帯が広がり、鹿除けのネットが周囲に張り巡らされている。ネット越しになるが、上武国境稜線の眺めが良い。ネットに沿って稜線を登る。微かな踏み跡を辿るかなりの急登だ。大会コースを離れると、とたんに藪山っぽくなるな。
ようやく登り着いたピークには、新しいが潰れた石祠がある。ぽつぽつとミツバツツジが咲く稜線を緩く登ると、白石山の頂上に着く。頂上には石垣の上に3基の石祠が南を向いて祀られている。山名標は2種類ある。赤久縄山が木立を透かして見えるくらいで、展望はほとんどないが、雰囲気は明るく、落ち着ける山頂だ。腰を下ろして、しばし休憩する。吹き抜ける風が爽やかで、気持ち良い。
白石山頂上から安取峠へは急な尾根の下りとなり、標高差約180mを一気に失う。相対的に赤久縄山がぐんぐん高くなって、がっかり。最後はイバラが密生する法面の上に出て、刺に引っ搔かれながら這々の体で安取峠越えの車道に降り立つ。
車道を右(北)に降りると栗木平、左(南)は船子川に通じる。古い道標を見ると、かつては尾根通しに山道があったようだが、今は藪に覆われて通れそうにない。「持倉・白髪山・御僧尾根→」という青プレートの道標にしたがって、未舗装の作業道に入る。ここから再びマウンテンランのコースに合流する。すぐに安取峠の道標があり、峠越えの旧道の切通しが残っている。かつての峠道も藪に覆われて廃道化し、全く通れそうにない。
作業道は山腹の杉林の中を斜めに上がって行く。結構急な坂道だ。道端にはヤマブキが黄色い花をつけ、小さくて可愛いフデリンドウが咲いている。
やがて作業道の終点に着き、山腹をトラバースする山道に入る。急斜面を横切るところもあり、張られたトラロープを握って通過する。滑落するとただでは済まない感じ。こんなところを走るのだから、マウンテンランはかなりハードだ。沢を横切る個所で水を掬って飲み、一息付く。
山道から林道に出ると道標があり、左に続く林道は「持倉・白髪山」に通じるらしい。右に続く作業道には道標の案内がない。どこに続くのかな。ちょうど単独行のハイカーさん(男性)がそちらから歩いて来たので、挨拶してどこから来たかを伺うと、栗木平からとのこと。赤久縄山に向かう道ではなさそうだ。この辺から、赤久縄山に登る山道があると思っていたのだが、それらしい道はなさそうだ。左の林道(大反線)を辿って持倉に向かうことにする。
(追記:実は「右に続く作業道」が赤久縄山に登る山道。詳細は山行記録を参照。)
林道は山腹を巻きながら緩く下って行く。途中、湧き水で出来た道端の水たまりに夥しい量のカエルの卵があり、一部が孵ってオタマジャクシが群れて泳いでいた。オタマジャクシは可愛くて春爛漫という感じだが、卵の方は量が多過ぎて、ちょっと気味が悪い(^^;)
林道をなおも緩く下って行くと、マウンテンランのラスト10km地点の案内板がある。ということは、万場からここまで10km歩いて来たことになる。万場に戻ると20kmで、ほぼハーフマラソンの距離。復路も大変だ。
赤久縄山への登山道はどうも見つからないし、正午を回って腹も減った。林道が沢を渡る所で昼食にする。人も車も通る気配は全くないので、道端でものんびり休める。缶ビールを沢水で冷やして飲んだのち、ラーメンを作って食べる。
昼食を食べた沢から少しの距離で持倉の集落に入る。神流川支流の船子川の奥深く、赤久縄山の中腹、標高900m圏に僅かばかりの耕地が切り開かれ、数軒の民家が点在する。集落の正面には新緑に覆われた谷がゆったりと開け、遠く二子山を望んで素晴らしい眺めだ。「天空の里」とも呼ばれているのも頷ける。
山村の風情があまりに良いので、集落を通り抜けて白髪山の登り口まで行ってみることにする。黄色い菜の花やピンクの芝桜を眺めながら車道を歩く。船子川の源流を鈴波橋で渡ると山道の入口があり、御僧尾根登山口の道標が立つ。道標によると、白髪山まで120分とある。今日はさすがに時間と体力の余裕がないので、ここで引き返して下山することにする。次の機会には、持倉を起点にして御僧尾根を登り、白髪山〜赤久縄山を周回するのも面白そうだ。
地形図には鈴波橋から船子川に沿って下る車道(林道桜井沢線)が記載されているが、全くの廃道となっている。集落の中央のT字路まで戻り、山腹をつづら折れで下る車道に入る。見上げる赤久縄山はなかなか急峻で高い。船子川に降り着き、あとは川に沿って車道を歩く。新緑に包まれた周囲の山々や、船子川の清流、ところどころに現れる山村の佇まいと、眺めはなかなか楽しめる。途中のオートキャンプ場には、BBQを楽しむグループが大勢来ていた。川には釣り師も多い。
眺めはいいが、長時間の舗装道の歩行はやはり疲れる。2時間歩いて、ようやく神流川本流沿いのR462に出、さらに40分、国道を歩いて万場に戻る。万場の町中は人出で賑わい、お祭りの雰囲気が盛り上がっていた。神流川公園の入口には駐車場の空きを待つ車の列ができ、神流川の河原では大勢の観光客が水遊びに興じていた。
帰りは前回(4/15)に続いて桜山温泉に入る。3週間前に満開だったサクラは濃い緑の葉を出して、もう一気に夏が来そうな陽気だ。湯船にゆっくり浸かって長い車道歩きの疲れを癒したのち、桐生に帰った。