ススヶ峰
GWの尾瀬は、なだらかな山容の楯状火山群が豊富な残雪で覆われて、山スキーにはうってつけ。その上、桐生からは車で約2時間と近く、GWの渋滞に巻き込まれる心配もない。下山後に片品村にいくつかある温泉に入る楽しみもある。
昨年のGWは、山ノ鼻でテント泊して、猫又川から景鶴山をテレマークで登った。今年のGWも、猫又川奥の未踏の山に登る計画を立てて、尾瀬に出かけて来ました。
昨年、GW山行に同行頂いたMさんは、今年は怪我が癒えて2年振りの北海道遠征中なので、今回は単独行と相成る。テント泊の装備と2泊3日分の食料を用意し、初日は鳩待峠から山ノ鼻に滑り込んで泊まるだけなので、桐生を車で10時半頃にのんびり出発する。
戸倉から笠科川沿いの車道に入ると、道端や両側の山肌の残雪は昨年に較べて明らかに多い。鳩待峠の駐車場は既に満車だったが、至仏山を滑ってもう帰る人がいる時間帯なので、しばらく待つと空きができた。
鳩待峠から山ノ鼻への下りも雪が多く、昨年は雪がなくて露出していた川沿いの木道部分も、今年は川自体が雪に埋もれていて、滑って通過できる。山ノ鼻手前の川上川に架かる橋の上にも雪が厚く残っている。
山ノ鼻キャンプ場に到着すると、既に沢山のテントがあった。昨年は特に場所の指定がなかったが、今年はテントを設営できる範囲がロープで区切られているため、テント密度が少し高い。まあそれでも問題はなく、端っこの良い位置にテントを張ることができた。
あとは、尾瀬ヶ原の雪原に出て至仏山や燧ヶ岳を眺めたり、テントの中でウィスキーをちびちびなめたりして、のんびり過ごす。雪が多い上に曇っていて肌寒く、春近しという雰囲気はない。明日の天気は大丈夫だろうか。
17時頃に夕食で餅入りワンタンを食べたのち、シュラフに潜り込む。酔いのおかげで、すぐに眠りについた。
テントの外がぼんやり明るくなって、目が覚める。時刻は、と腕時計を見ると5時過ぎだ。朝食にラーメンを食べ、テレマークを履いて出発する。今日はススヶ峰と赤倉岳を登る予定で、猫又川の上流に向かう。
雪は程よい柔らさで、シールなしで快適に板を滑らせて歩く。左には、青空を背景に至仏山の雪斜面が高く聳えている。天気は上々。行く手には岳ヶ倉山(日崎山)辺りの雪尾根が見え、進むに連れてススヶ峰の真っ白で平坦な頂上も視界に入って来た。
二か所ある猫又川の高巻きも、残雪が豊富で楽に通過。入山者が多いようで、トレースが沢山ある。二俣にはテントが一張りあった。左俣に入り、次の二俣の正面の尾根が登路だ。ここで一休みし、テレマークにシールを張る。尾根の突端にはつぼ足で降りた跡があるが、ほとんど崖に近く、登るのは難しい。左の谷を少し遡ったのち、戻るように山腹をトラバースして尾根に乗る。
尾根の上はブナが疎らに生えた緩斜面で、シールで快適に直登できる。木立を透かして、左側には岳ヶ倉山の真っ白な頂き、右側にはちょこんと尖った景鶴山を眺める。背後には至仏山が大きい。
ほとんど平坦な尾根を進むと、行く手に急な坂が現れる。この坂をジグザグを切って登る。高度が上がるに連れて、大白沢山や燧ヶ岳も姿を現す。大白沢山は右側に大きな岩壁を擁する台形の個性的な山容だ。あの平らなてっぺんの上は気持ち良さそう。登ってみたくなるな。
急坂を登り切ったところで、一息入れて水を飲む。振り返ると至仏山が相変わらずデンと大きく、その左側の山懐には山ノ鼻の雪原が広がり、山小屋が小さく見えている。だいぶ歩いて来たなあ。
針葉樹林を縫って緩やかな尾根を進み、尾瀬と奥利根を分ける主稜線に登り着いた。ちょうど、主稜線を至仏山方面に歩いて行く登山者を見かけた。トレースも多く、GW中に大勢が歩いているようだ。
主稜線は幅広く、さらに膨大な残雪に覆われている。樹林は疎らで傾斜は緩く、シール登高が楽しい。しかし、主稜線に登り着いた頃から急に灰色の雲が上空を覆って、あたりは薄暗くなった。陽射しがあれば気分は最高の雪稜なんだけどなー。
稜線をゆるゆると登ると、行く手にススヶ峰の平坦な頂上が現れる。頂上には4人くらいのパーティーがいるのが見え、ルートを見定めたのち、こちらに降りて来た。広い雪原の頂上に着いたときは、誰もいなかった。
曇り空と黄砂のせい?で遠望は霞んでいるが、それでも周辺の主要な山が眺められるのは幸いだ。登る予定だった赤倉岳への雪稜もよく見えているが、これは遠いなあ。天気は段々悪くなるし、往復2時間はかかりそうなので、今回は登頂を断念して、ここから下山にかかる。
シールを外し、大白沢山の方向へ主稜線を滑る。幅と傾斜があって標高差100m。今日一番のいい斜面だ。鞍部まで滑って、大白沢山に登るつもりも少しあったが、同じ標高差を登り返すのがおっくうになってきたので諦めて、そのままワル沢左岸をトラバースして岩塔ヶ原に滑り込むことにする。岩塔ヶ原からは、昨年も滑った右俣経由で帰れるので安全確実だ。
しかし、トラバースの途中に良い斜面があるとついつい滑ってしまい、標高を下げて大白沢山の南西の岩壁の上に出た。この岩壁は下れない。ここから見るとワル沢の右岸が滑れそうに見える。沢に滑り込むと、今度は滝の上に出た。後日調べると、西丸震哉氏が名付けたところのプルプル滝らしい。この滝は右岸の雪の急斜面(ほとんど崖)を滑って降りたが、この下降はヒヤヒヤものだった。
ワル沢の左岸を滑り、左の尾根が低くなったところを乗り越すと、簡単に岩塔ヶ原に滑り込むことができた。雪原が開けた気持ち良い場所で、晴れていればのんびりしたいところだが、ポツポツと雨が降り出してきたので、背後のススヶ峰を眺めただけで、先を急ぐ。
岩塔ヶ原から猫又川右俣を滑り、二俣からは往路を戻って山ノ鼻のテントに帰着した。2泊する予定だったが、天気は悪いし、予報では明日も雨とのこと。パンで簡単に昼食を済ませたのち、テントを撤収して帰ることにした。幸い、鳩待峠に着くまでは小雨でもった。
帰りは戸倉の尾瀬ぷらり館の温泉に立ち寄る(500円)。浴室はあまり広くないが、お湯はぬるぬるしてとても良かった。なんといっても、雪の中で2日を過ごしたあとで、湯船に浸かって温まるのは極楽だ♪。ぷらり館を出ると、雨はザアザアと本降りになっていた。鎌田の尾瀬ドーフでざる豆腐をお土産に買って、帰途についた。