景鶴山

〜4日(火)
ルート地図 GPSのログ(赤:往路、青:復路)を地理院地図に重ねて表示します。

尾瀬は、尾瀬ヶ原・尾瀬沼とそれらを取り囲む山々の全域が尾瀬国立公園の特別保護地区に指定されており、貴重な高山植物や湿原の保護のため、登山道から外れた場所に立ち入ることは自然公園法により規制されている。したがって、登山道のない景鶴山は、植生が厚い雪の下に覆われた時期にのみ登ることができる(実態は黙認?)。

景鶴山は日本三百名山の一座であるため、GWを中心とする残雪期に登る山として人気が高く、東電小屋から笹山、与作岳(松嵓高山)を経由するルートが盛んに登られているほか、ヨッピ橋から上ヨサク沢やケイズル沢を登るルートも歩かれている。

このGWは天気も良さそうだし、尾瀬の残雪も例年並みかそれ以上ありそうなので、余裕のある日程でスキー登山がやりたいな。という訳で、山ノ鼻にテントで2泊し、猫又川右俣を経由するスキー向きのルートから景鶴山に登って来ました。

5月2日
天気:
行程:鳩待峠 13:00 …山ノ鼻 13:55

今回の山行には、骨折のリハビリを兼ねてMさんも同行。ただし、Mさんは「岳人」選定マイナー12名山の赤倉岳に徒歩で登る予定である。

初日は山ノ鼻までの行程なので、桐生をゆっくり10時に車で出発して、鳩待峠に向かう。途中の戸倉では、鳩待峠の駐車場は満車、という看板を多数見かけたが、鳩待峠に着いてみれば余裕で駐車場に置くことができた。数年前のGWに鳩待峠に来たときは、駐車場が溢れて路上駐車が列をなしていたが、今回は路駐は皆無である。

車中で昼食を済ませ、荷物を背負って出発する。道中はほぼすべて雪に覆われているが、既に大勢が歩いているのでトレースは明瞭だ。

鳩待峠
山ノ鼻へ向かう
(山の)川上川橋を渡る
山ノ鼻キャンプ場にテントを張る

山ノ鼻に到着し、早速、テントを張る。他のテントは10数張くらいで、混み合う程ではない。設営後、缶ビールを開け、ウィスキーをちびちび飲みながら雪景色を眺めてのんびりする。夕食にご飯と麻婆春雨を食べ終わった頃、ようやく陽が傾き始めて至仏山の右肩に落ちた。尾瀬ヶ原の中に出てみれば、燧ヶ岳が夕日で赤くなっていた。明日も天気は良さそうだ。

山ノ鼻より至仏山を仰ぐ
山ノ鼻より夕暮れの燧ヶ岳

シュラフ&ゴアのシュラフカバーに潜り込んで就寝する。最初は暑くて薄着で寝ていたが、夜が更けるにつれて冷え込んで、薄手のフリースやオーバーズボンなどフル装備を着込んで、ようやく眠ることができた。

5月3日
天気:
行程:山ノ鼻 5:35 …猫又川二俣 6:35〜6:50 …岩塔ヶ原 7:45〜7:55 …西の肩 9:15〜9:30 …景鶴山(2004m) 10:00〜10:10 …西の肩 10:45〜11:30 …岩塔ヶ原 12:10 …猫又川二俣 12:35〜13:10 …山ノ鼻 13:55

まだ薄暗い朝4時に起床。もうちょっと寝ていたかったがなんとか起きて、レトルトの赤飯と豚汁の朝食を摂る。WCやらなんやらと準備に手間取って、5時半に出発する。期待通り、穏やかな良い天気だ。

猫又川二俣まではMさんと一緒に進む。夜に冷え込んだので雪面が凸凹のまま固まっていて、シールなしのスキーでは滑り過ぎて少々歩きにくい。至仏山のムジナ沢を横断する所では、木の枝葉が広範囲に散乱していた。これはムジナ沢からの雪崩の跡かな?

猫又川上流を目指す
至仏山ムジナ沢を見上げる

猫又川の右岸を歩いて上流に向かうと、途中で川の流れが迫って山腹をトラバースする所が二カ所ある。積雪は多いが、猫又川の流量も多く、滔々と流れている。

山ノ鼻から1時間程で猫又川二俣に到着する。5年前のGWに尾瀬から平ヶ岳に登った時はここにテントを張ったが、自然環境に配慮すると、ここでの幕営は避けた方が良いだろう。赤倉岳を目指すMさんとはここで別れ、スキーにシールを張って、猫又川左俣をスノーブリッジで渡って右俣に入る。

猫又川右岸を進む
猫又川二俣で左俣を渡る

右俣は平ヶ岳に登った時にも通った既知のルートだ。また、今日は先行者のトレースも付いている。谷は緩く、残雪で埋まっていて快適に登れる。ただし、川の水量も依然として多く、雪が割れている個所も多い。谷の真ん中に鎮座する大岩を過ぎると、谷が開けて雪原に出る。

猫又川右俣を遡る
谷の出口にある大岩

右に外田代の雪原を見送って左に曲がると、西丸震哉氏が名付けたところの「岩塔ヶ原」の雪原に出る。正面に頂上直下に岩壁を抱く大白沢山を望み、ススヶ峰から岳ノ倉山にかけて白い稜線を遠望する景勝の地だ。雪原の周囲にはカッパ山や八海山(背中アブリ山)のピークもあるはずだが、雪と黒木に覆われた緩やかな斜面が広がり、判然としない。しかし、スキーで歩き回るにはもってこいの地形だ。陽射しが強く、登りで汗をかいたので、上着を脱いでTシャツ1枚になる。

岩塔ヶ原より大白沢山
ススヶ峰を遠望する

雪原を突っ切って、山腹の登り易そうな所に取り付く。ところどころに開けた斜面があり、至仏山やススヶ峰の眺めが開ける。カッパ山の北の鞍部に登り着くとここも雪原となっていて、緩やかな山並みの上に景鶴山の頂上がちょこんと頭を出しているのが見える。よしよし、漸く近づいて来たぞ。

右手に至仏山を望む
頂上だけ頭を出した景鶴山

樹林に覆われた山腹を斜上し、緩やかな県境稜線に出て、景鶴山の西の肩(仮称)に着いた。ここはケイズル沢の源頭にあたり、沢を見おろすと広大な雪のスロープの先に尾瀬ヶ原を俯瞰して絶景だ。

沢から吹き上げる風がさすがに寒いので、上着を着込む。先行していた2パーティ3人のスキー登山者が休憩中だったので、声をかけてこちらも一休みする。そのうち、景鶴山からも単独行のテレマーカーさんが降りて来たので、話を伺う。山ノ鼻を出発して景鶴山に登り、これから大白沢山、ススヶ峰を回って猫又川へ滑るそうで、それはすごい(@_@;)

景鶴山の頂上へはどこを登ろうか。稜線通しは急峻な岩稜の上に樹林が繁茂して通過が大変そうなので、トレースについて行って頂上北側斜面をトラバースし、途中から頂上に登ることにする。しかし、北側は樹林が疎らなかなりの急勾配の斜面で、滑落したらヤバい。頂上に登れそうな所も見当たらず、結局、頂上東側の稜線までトラバースしてしまった。東側稜線は与作岳経由の登山者が大勢歩いているので、こちらの方が安全だろう。

西の肩より景鶴山の頂上稜線
頂上東稜線を歩く登山者

しかし、スキー板をデポしてつぼ足で稜線に上がると、頂上へは両側が切れ落ちた細い雪稜となり、短い距離だが高度感があって怖い。景鶴山の頂上への登りは急と聞いていたので、実は山行の直前に軽量のピッケルを購入して持って来たのだが、これが大いに役に立った。慎重に登って、景鶴山の頂上に登り着いた。

頂上からの展望はまさに360度で素晴らしい。北には平ヶ岳の白い稜線が眩しく、東には会津駒ヶ岳が遠望できる。眼下には尾瀬ヶ原をヨッピ川が蛇行して流れ、燧ヶ岳からアヤメ平、至仏山にかけての尾瀬の山々も一望できる。頂上は雪に覆われて狭く、展望を楽しんでいる間にも登山者が続々と登ってくるので、寛いで長居できる雰囲気ではない。一通りパノラマをデジカメで撮影したのち、下山にかかる。

景鶴山頂上より平ヶ岳を遠望
景鶴山頂上より与作岳(右)
遠くは会津駒ヶ岳
景鶴山頂上より燧ヶ岳
景鶴山頂上より至仏山

雪稜をへっぴり腰で下り、スキーをデポした地点に戻る。さらにスキーを履き、北斜面をトラバースして西の肩に戻った。やれやれ、あとは危険な箇所はないので、ひと安心だ。

西の肩から頂上の南斜面を見ると、北斜面をトラバースするより安全な気がする(未確認)。ここでラーメンを作って昼食とする。食べている間にさらに天気が良くなって、雲一つない青空となった。

西の肩より尾瀬ヶ原を俯瞰
西の肩より景鶴山を仰ぐ

西の肩からの下りは、時々GPSで現在位置をチェックしながら、広い斜面のある方へ足の向くまま滑るのみである。ヒャッホー!

岳ヶ倉山(左奥)を望む
広い緩斜面を滑る

楽しい滑降もアッという間に終わって岩塔ヶ原に下り付き、一休み。雪原の傍らにひと際高く密に盛り上がる黒木の木立が岩塔だろうか。

中央の黒木の木立が岩塔?
残雪に覆われた岩塔ヶ原

猫又川右俣も快適に滑って、二俣に着く。スノーブリッジを渡って休憩していると、赤倉岳に向かったMさんがちょうど帰って来た。快調なペースで赤倉岳に登頂できたそうで、怪我からもほぼ復活を遂げたようだ。良かった、良かった。

雪渓の穴から覗く雪解けの奔流
柳平付近の猫又川の流れ

二俣から山ノ鼻に戻り、テントに着いたらまずは缶ビール。一汗かいたあとのビールはまた格別。私は持参した350mlだけでは足りなくなったので、営業中の至仏山荘から500ml(580円)も買って飲んでしまった。うまいなあ。これのためにもう1泊するようなものかも。夕食にレトルトのご飯とカレーを食べて就寝。この晩はテントの数が少なくなり、尾瀬の残雪のシーズンももう終盤のようだ。

5月4日
天気:
行程:山ノ鼻 6:55 …鳩待峠 8:25

最終日はもう一山登るという案もあったが、目的の山の登頂を果たして既に大満足なので、鳩待峠へ帰ることにする。峠への登りの途中で、景鶴山の西の肩で会った単独行のテレマーカーさんに偶然再会した。昨日は予定通り滑って山ノ鼻にテント泊し、今日はムジナ沢を滑って山ノ鼻にもう一泊するそうだ。すごい(@_@;)。こちらはドッと汗をかきながら鳩待峠に到着。花豆ジェラードがうまーい(500円)。

帰り際に、戸倉に昨年春にオープンした「尾瀬ぷらり館」の日帰りに立ち寄ってみたが、営業時間前で残念。再オープン後、初めて入る水沼駅温泉センターで汗を流す。GWとあって、午前中にも関わらず大勢のお客さんが入っていたので、ちょっと安心した。GWの間にすっかり深くなった新緑に驚きながら、桐生に帰った。