平ヶ岳
昨年のGWに至仏山に登ったとき(山行記録)に頂上から平ヶ岳を遠望して、あそこまでスキーで辿ってみたいなと、ふと思った。
その思いつきを実行すべくネットで調べてみると、いくつか記録があり、山ノ鼻から11時間程で往復している。距離があるので、猫又川二俣(猫又川が右俣と左俣に分かれる地点)にテントを張って、ここから日帰りで往復する計画を立てた。
山ノ鼻から二俣までは雪に覆われた湿原の上を歩く平坦なコースなので、テントで荷が重くてもなんとかなる。二俣からは比較的傾斜が緩そうな右俣を登ることにした。
鳩待峠への車道は今年は4月28日に開通した。山行の初日は鳩待峠から二俣までの短い行程なので、時間の余裕はあるが、この時期の鳩待峠は至仏山を目指すスキーヤー&ボーダーで大賑わいなので、到着が遅いと峠の手前に路駐することになって、ちょっと余分に歩くことになるかも知れない。
ということで、少し早めに桐生を車で発ち、県道沼田大間々線経由で鳩待峠へ。今年は路面の凍結もなく、2時間程で到着。峠の駐車場は満杯だが、そこから始まる路駐の列はわずか10数台という、いいタイミングだった。
至仏山へ向かう大勢のスキーヤー&ボーダーと別れて、山ノ鼻に向かって滑って行く。山ノ鼻で一休みの後、猫又川の上流を目指して雪原をつっきって行く。テレマークだとこういう場所の歩きは楽だ。左手にはずっと至仏山が聳えている。昨年滑ったムジナ沢を出合から見上げる。やっぱ、いい斜面だ。
今年は残雪が多いとは言っても、猫又川は雪が割れて流れが見えているところが多いので、右岸をずっと歩いて行く。特に柳平の前と後では、右岸の山際の緩斜面のトラバースしかルートがない。
二俣に到着し、右俣と左俣に挟まれた尾根の末端のブナ林の中にテントを張る。なかなか居心地が良いところだ。早く着いたので、まずは昼寝。昼頃から雲が厚くなり、ぽつぽつ雨が降って来たので、午後もテント内で寝て過ごす。この間、もう少し先へ行ったパーティもあったようだ。この日、二俣には計3張のテントがあった。17時頃にレトルト中華丼の夕食を済ませ、ちょびっとウィスキーを嘗め、明日の好天を願いつつ、シュラフに潜り込んだ。
翌朝5時に起きる。晴天だ。朝食にレトルト赤飯+豚汁を食べ、日帰り装備を持ち、テレマークにシールを張って出発。右俣を登る。傾斜の緩い谷は雪でほぼ埋まっていて、昨晩の冷え込みで雪面が締まってシールが良く効く。振り返ると、至仏山の大きな山容に朝日が当たっていた。
右俣が東へ向きを変える標高1570mあたりで、左手の低くなった斜面を登る。オオシラビソの林を抜けると小広い雪原に出て、大白沢山のピークが見える。ここで方向を確認して、ピークの左を目指すような感じで登って行く。下の方は林が密で見通しが利かないが、上へ行くと疎な林となって、振り返ると至仏山が大きい。大白沢山の頂上直下の大きな崖から始まる谷を渡ると頂上南西の緩斜面に出て、ススヶ峰あたりの稜線を眺めながらのトラバースとなる。
大白沢山の北西の鞍部にでて、広くて緩い稜線を1911m峰の東の肩に登る。行く手に真っ白な平ヶ岳と、そこへ続く長大な稜線が見える。
1920m峰からは標高差約130mの下りなのでシールを外すが、稜線には雪が大きく波打つように付いていて、快適には滑れない。鞍部で再びシールを付ける。オオシラビソの林を抜けると再び広大で緩い雪尾根の登りとなり、白沢山のピークに到着。平ヶ岳へはまだまだ遠いし、ちょっとへばって来たので、お湯を沸かして大休止とする。平ヶ岳の頂上直下の斜面を登って行く4つの黒い点が見えた。
白沢山からは標高差約50mのわずかな下りで、雪の波打ち方も大きいので、シールを外さない方が良かったかも。さぁ、いよいよ平ヶ岳の登りだ。振り返ると、白沢山が大きな雪庇をつけた稜線を広げている。頂上への最後の登りはきつかったが、丁度、山スキー単独行の人が滑るところとすれ違う。見事なシュプール!これを励みに登りきった。
頂上はだだっ広い雪原で、最高点を示す?ポールがぽつんとあるだけだ。途中で、数名の人とすれ違ったが、今は誰も頂上にいない。遠くは霞んでいるが、まさに360度の展望。越後三山、荒沢岳、未丈ヶ岳、会津駒ヶ岳、燧ヶ岳、奥白根山、至仏山、武尊山、谷川岳、そして利根川源流の名前を知らない奥山が真っ白な姿でぐるりと連なっている。雪原をあちこち歩き回って、しばしこの山岳パノラマを楽しんだ。
展望を楽しんだら、さあ帰ろう。次のお楽しみは頂上からの滑降である。丁寧にターンし、振り返って斜面に刻んだ自分のシュプールを見てにんまり。しかし、滑りに良い斜面は頂上直下だけで、あっと言う間に終わってしまうので、ちょっと物足りない。
白沢山はシールをつけて登る。雪庇を避けてかなり反対側を歩いていたのだが、隠れた雪の亀裂に肩の深さまで落っこちた。ぐわー、危ない危ない。板を外して脱出。気温が上がって雪がぐさぐさになり、段差もあってシールでは登りにくくなったので、以降の登りでは板を担ぐ。
1920m峰に登ると、あとは滑って下れる。大白沢山の鞍部付近で、平ヶ岳への途中ですれ違ったパーティがテントを張っていた。今晩は天気も良さそうだし、展望も良いし絶好のロケーションですね、と挨拶。前日はススヶ峰付近に泊ったが、ガスの中の行動で大変だった模様。
オオシラビソの林の中には沢山のトレース。どうも二俣から尾根を登って来ているようだ。右俣に滑り込むとテントまですぐだった。この晩はウィスキーを美味しく頂き、疲れもあってぐっすりと眠った。
最後の日は鳩待峠へ戻るだけである。山ノ鼻でキャンプをして、スノーシューやスキーで雪原散歩を楽しむ人が結構いた。帰りに戸倉で♨に入ってさっぱり汗を流す。山行の間に片品川の周囲の緑がすっかり深くなっているのに驚きながら、桐生に帰った。