阿能川岳
この2月、3月は仕事の関係と震災の影響のため、山に登る余裕がなく、モチベーションも下がっていた。3月26日に地元の雷電山〜前仙人ヶ岳〜雨降山を歩いて山登りを再開したが、約二か月のブランクですっかり体調を落としていることに気づかされ、4月2日〜3日の石塔尾根では縦走に参加せず、銀山平から庚申山荘の往復にとどめた。残雪期の庚申山荘にMさん、Hさんと一泊したのは、なかなか貴重な経験だった。
その後、調子も徐々に上がって来たので、この週末は長めの行程の残雪の山にチャレンジすることにした。谷川連峰前衛の阿能川岳は、群馬100名山の一座でもあり、以前から気にかかっていた山だが、登山道がなく、残雪が利用できる限られた時期しか登れないため、なかなか出かける機会がなかった。今回は雪の状態、天気とも絶好で、Mさんに同行頂いて残雪の稜線歩きを楽しんで来ました。
桐生を4時に車で発ち、北関東道、関越道を経由して、水上ICで高速を降りる。赤城辺りでは低い所を漂っていた雲もやがて霧散して青空が広がり、真っ白な谷川連峰が眺められる。ドピーカン間違いなしの天気に、テンションも上がる。
登山口の仏岩ポケットパークに5時半に到着。一番乗りで他の車はない。雪がたっぷりあるので、アルミワカン(Expert of Japan社製SN4を新調)を履き、ストックと念のため軽アイゼン、ピッケルを持って出発する(アイゼン、ピッケルは結局使わなかった)。スパッツを忘れたのは大失敗だが、ずぼる雪ではないので、問題はなさそう。
暗い杉林の中の雪道を登って赤谷越に着くと、峠上には雪は僅かしかなく、ワカンを外す。阿能川岳に向かう稜線上には送電線巡視路が通じ、最初はこれを辿る。尾根を絡んだり小ピークを巻いたりしながら登って行くうちに雪が増え、ヨシガ沢山からは雪が続くので、私だけ再びワカンを履く。
緩く登ると樹林が切り開かれた稜線上に送電鉄塔が立つ。振り返ると、吾妻耶山が台形のなかなか格好良い山容を見せている。赤谷越からここまで約1時間かかったが、阿能川岳までの行程のまだ2割であることを知ってがっくり。先は長い。休憩していると、単独の年配の男性が追い越して行った。なかなか健脚の方だ。
送電鉄塔からは緩くて広い尾根が続き、ブナやアスナロなどの疎らな樹林の中を、雪を踏んで快適に歩く。雪の量もだんだん増え、東側には小さな雪庇が張り出す。行く手には、黒木に覆われたこぶこぶの稜線が連なっているのが見える。あの辺りが難所と聞く痩せ尾根らしい。その奥には三岩山らしいピークが見える。まだまだ遠い。
黒木の付いた岩峰に突き当たると、ここから痩せ尾根が始まる。赤ペンキやテープのマーキングがあり、ルートははっきりしている。最初の岩峰を一旦ワカンを外して真っ直ぐ越えると、その後しばらくは雪の上を歩ける。傾斜が増して、雪庇の段差を越えるところもあるが、この辺りはまだまだ楽な登りだ。
やがて稜線が細くなり、小さなアップダウンを繰り返す。岩稜に黒木が密に生え、その上に雪が載っているような痩せ尾根なので、なかなか歩きにくい。雪が少ない時期は藪漕ぎになりそう。ところどころの雪が割れそうな個所は、樹林の中の踏み跡を拾って歩く。
痩せ尾根の最高点のピークに登り着いた時は、結構へばっていた。このピークは展望が良く、三岩山から小出俣山にかけての真っ白な稜線や、その奥の万太郎山が望まれ、右手には関越道の谷川岳PAと水上市街を俯瞰する。しばらく休憩していると、後続のパーティが到着した。先に進むと、すぐに岩場の下りがある。足場の雪が凍っていて、固定ロープがなければちょっと嫌なところだ。
次の岩峰を右から巻けば痩せ尾根は終わり、雪稜の緩い登りとなる。三岩山に登り着くと、頂上は広い雪原となっていて、眼前に阿能川岳への緩やかな雪の尾根と白銀の谷川連峰の眺めが展開する。
ここから阿能川岳へは雪稜の散歩道。残雪期の山歩きの楽しさいっぱいの行程で、ここまでの疲れも吹き飛ぶ。小出俣山への稜線を左に見送り、右の雪原を進む。どこが最高点か判然としない平坦な尾根だが、一番奥の木立に山名標が掛かり、先行の男性が休憩していた。
頂上からの展望は360度。谷川岳から俎嵓にかけての稜線が、谷を隔てて指呼の間だ。万太郎山、仙ノ倉山と真っ白な稜線が続き、小出俣山が意外とどっしりとした山容を見せている。雪原に腰を下ろして、素晴らしい展望とコロッケを肴に、雪でよく冷やした缶ビールで乾杯する。風は弱く、陽射しは強くて、ジャケットを着ればポカポカと暖かい。頂上でこんなにうまいビールを飲んだのは、久し振りだ。おにぎりやラーメンで各自昼食を摂っていると、後続のパーティも到着して、頂上は賑やかになった。この日は5パーティ10人くらいが阿能川岳に立った。
下山は往路を戻る。三岩山から帰路を眺めると、遥か彼方に吾妻耶山が台形の山容を浮かべている。あの少し手前から延々と稜線を辿って来たのだから、良く歩いたものだ。
痩せ尾根区間の通過は少し神経を使ったが、そのあとは緩い雪尾根を下るのみだ。
途中でワカンを外し、赤谷越から一気に下って、仏岩ポケットパークに帰着した。登り5時間、下り3時間の長丁場を歩いたので、体調の回復に少し自信が持てたかも。
帰りは水上にあってMさん推奨の「温泉センター諏訪の湯」(300円)に立ち寄る。以前、沢登りの帰りに寄ろうとしたのだが、場所が判らず断念した♨だ。今回は事前に調べて来たが、それでも迷う程判りにくい場所にある。しかし、温泉は最高!少し温めのお湯にゆ〜ったり浸かる。山の帰りに♨に入るのも、久し振りだなあ。充実した一日を完璧に締めくくって、帰途についた。