雲仙岳
所用で長崎に出かける機会があり、そのついでに雲仙岳に登って来ました。
登山当日の朝、滞在していた長崎市街のホテルから窓の外を眺めると、灰色の雲が空一面を覆っていて、天気は良くない。行くかどうか迷いつつ、ホテルをチェックアウトし、レンタカーで長崎を発って、とにかく登山口の仁田峠に向かう。
雲仙温泉を経由して仁田峠に到着すると、やっぱりシトシトと雨が降っている(T_T)。ここは人気の観光地だが、平日でこの冴えない天気ではさすがに訪れる人は少ない。広い駐車場に停まっている車は、片手で数えられる程だ。さて、どうしようか。雨の中を歩くのは嫌だし、携帯サイトで雨雲の様子をチェックすると、晴れる可能性もありそうだ。暫く様子見することにし、車のシートを倒して昼寝をする。
小一時間経つと、まだ雲は取れないが雨は止んだので、天気に不安を残しつつも出発する。今回は旅行中の軽ハイキングなので、荷物は軽量化して必要最小限のものだけなのだ。ザックは布袋に肩紐がついているだけの簡易型だし、靴はトレラン用のものだ。ザックには雨具とペットボトル飲料、仁田峠の売店で買ったお菓子だけが入っている。
仁田峠から妙見岳までロープウェイがかかっているが、それには乗らず、登山道を歩いて登る。春はミヤマキリシマの群落で有名な場所だが、今日は雨に濡れた草木が多少被さり気味の道だ。ロープウエイの山頂駅と、岩肌を見せて意外と険しい妙見岳を見上げながら登る。振り返れば、ガスの切れ間からロープウェイの山麓駅と仁田峠の駐車場がずっと下に見える。
約20分程でロープウエイ山頂駅に着く。展望台とWC、自動販売機、東屋がある。ここから手摺のある石段で樹林の中を登るとT字分岐に出て、右へ僅かに登ると妙見展望所に着く。展望盤と望遠鏡があるが、ガスに囲まれて展望はない。子供の頃、雲仙岳に登ったことがあるのだが、そのときはロープウェイで上がって、この展望所まで登って来たような気がする。朧だった記憶が少し蘇って来た。
T字分岐に戻り、「国見・妙見神社」という道標にしたがって左に進む。こちらは初めて歩く道ということになる。妙見神社の鳥居を潜り、樹林に覆われた稜線を辿ると、すぐにコンクリの鳥居と社殿に着いた。社殿の奥に石祠があり、これが本殿にあたるようだ。石祠の前には、幼子を抱いた石像(子安観音?もしかして切支丹と関係あるかも)がある。
神社の裏手が妙見岳の頂上だが、登山道は頂上を左から巻く。再び稜線に戻ると、カルデラの深い谷を隔てて、普賢岳と平成新山が姿を現した。平成新山は、台形に盛り上がった溶岩ドームの上に尖塔を立てて、羽を広げた鳥のような山容だ。普賢岳は平成新山よりも約120m低く、平成新山の前景に溶け込んであまり目立たない。
稜線上の行く手には国見岳がもっこりと丸いピークを擡げ、振り返ると妙見岳が急峻なカルデラ壁を見せている。軽いハイキングと思っていたが、どの山も意外と険しくて、見応えのある山岳展望が開ける。
国見岳と普賢岳の分岐(国見分れ)に着き、折角の機会なので国見岳も踏んで来ることにする。国見岳への登山道に入ると、いきなり笹藪が深くなり、先程までの雨の雫でスラックスがびしょびしょになった。これはまいったなあ。ゴアの下を着れば良かった。途中、鎖場もある急登だが、頂上までは約7分程で到着する。
国見岳の頂上は低い樹林に囲まれて狭く、露岩と山名標があるだけだ。晴れていれば展望は良さそうだが、今は雲に覆われて何も見えない。風が強く、温度計を見ると16℃。かなり寒い。お菓子を口に入れ、長袖シャツとゴアの下を着込んで、国見岳の頂上を辞す。下っているうちに身体が温まって、スラックスも(速乾性素材だし)直ぐに乾いた。
国見分れに戻り、普賢岳へ向かう登山道を辿ると、カルデラの底に向かって急降下する。カルデラは美しい自然林に覆われている。新緑や紅葉の時期は素晴らしいだろうなあ。急坂を階段を下り、外輪山と中央火口丘を結ぶ鞍部に下り着く。ここには紅葉茶屋という標識があるが、かつては茶店でもあったのかな。右に、薊谷を下って仁田峠に戻る道(帰りに通る予定)、左に鬼人谷を下る道を分ける。ただし、鬼人谷への道は火山ガスと崩落のため通行止となっている。
紅葉茶屋から普賢岳へは急登となり、しっとりと湿った樹林の中を苔むした岩を踏んで登る。道端にはオオマルバノテンニンソウが群生している。この花は四国と九州に分布するそうで、一昨年に登った阿蘇・根子岳で初めて見たので、ここでまた見ることができて懐かしい。
傾斜が緩くなって平地に着くと、普賢神社という標識と真新しい石祠がある。ここから右手のピークに登ると普賢岳の頂上だ。頂上には露岩が点在し、一等三角点標石と山名を刻んだ標石が立つ。あいにく、分厚いガスの中で全く展望がない。風が強いので、岩陰で風を避けて軽く昼食を摂る。ここから間近に平成新山を眺めるのが、今回の山行の最大の楽しみだったのに、残念!晴れないかなあ。しばらく頂上で粘る。
すると、ガスが急速に切れて、視界が広がり出した。まず、妙見岳と国見岳が雲の中から姿を現す。カルデラに向かって深く切れ込んだ山肌が、1300m級の山とは思えない険しさだ。ワクワクしながら平成新山の方角を注視すると、下からガスが切れて溶岩ドームが見え始め、雲が頂上にかかるだけとなり、やがてそれも取れて頂上の尖塔が姿を現した。荒々しく盛り上がる溶岩ドームは、今は静まっているけれども、1990〜1995年の大噴火と火砕流はまだ記憶に生々しい。内に膨大なエネルギーを秘めている感じがする。間近に見る平成新山は期待以上の迫力で、ここに登って来て良かったなー、と感動。
展望を楽しんだのち、頂上から普賢神社に降りる。ここから平成新山方面は入山禁止となっており、警告の大きな看板が立っている。隣りのピーク(というか瘤)の上に何やら建っているので、見に登って行くと、青銅製の円柱に「秩父宮殿下御登山記念碑」と刻まれていた。
紅葉茶屋まで戻り、薊谷への道に入る。頭上に妙見岳の岩壁を仰ぎながら、緑深い樹林の中をジグザグに下る。やがてカルデラの底について、石畳の緩い下りの道となる。薄暗い湿った林の中にはオオバショウマやカノツメソウの白い花がポツポツと咲いている。ほどなくベンチのある広場に着く。鳥居があり、それを潜って分岐する道があるが、そちらの道も現在は立入禁止になっている。
登山道はここから妙見岳の中腹をトラバースする。モミ林を抜けると普賢神社の仮社殿(元の社殿は平成新山の噴火で溶岩ドームに埋もれてしまった)があり、ロープウェイの山麓駅の前を通って仁田峠の駐車場に戻った。観光地のハイキングと軽く考えていたし、歩行時間は3時間と短かったが、意外と険しい山で充実した山歩きだった。
仁田峠から車で雲仙♨に下る。共同浴場の場所を探して、教えて頂いた湯の里共同浴場に行ってみる。浴場の前には5台分しか駐車場がないので、少し離れた湯の里駐車場(有料)に車を置く。湯の里共同浴場は料金100円(石鹼、シャンプーはない)。白濁して硫黄臭のする熱いお湯が深い湯船にどんどん注がれて、これぞ温泉!という感じ。極楽〜。
ゆっくり温泉に浸かり、それから雲仙の地獄をひと回り散歩したのち、今夜の宿の大村に向かう。レンタカーを返却して長崎空港近くのホテルで一泊し、翌朝の飛行機で帰途についた。