三十六童子
(注記:三峰山の石像の名称については諸説がありますが、ここでは「やまの町桐生」の三峰山の記事に依って表記を改めました。)
川内町名久木(なぐき)地区から三十六童子の石塔群を経て三峰山に登るコースは、『野山歩きのヒント』(桐生タイムス社刊)で紹介されているのを読んで以来、桐生の山で気になるコースの一つだった。かつては本で紹介されるくらい一般的なハイキングコースだったようだが、今年1月に登ったhisiyamaさんの記録や、4月に登ったハイトスさんの記録を読むと、道が荒れて不明な箇所があるようで、一般コースとは言い難い。
しかし、ハイトスさんの記事にはGPS軌跡を表示した地図があり、これを参考にすればなんとか迷わずに歩けそう。道も少し怪しいくらいの方が、面白みが増すというものだ(^^)。桐生の里山歩きに適した季節を迎え、「やまの町桐生」代表幹事代行のKさんに同行頂いて、三十六童子を訪ねて来ました(Kさんによる記事はこちら)。
Kさんを車に乗せて名久木に向かう。桐生市街では曇りだったが、山あいに入るにしたがって、フロントガラスにポツポツと小さな雨粒が当たり始める。天気が心配だ。未舗装の大崩(おおくずれ)林道に入り、金沢峠への林道を右に分ける。今日は三峰山に登り、金沢峠から降りて来る計画なので、この分岐に車を置いても好都合だが、天気によっては三峰山まで行かずに引き返す可能性もあるので、直進して奥まで行ってみる。
しかし、この決断はすぐに後悔。先日の台風で荒れた路面は、重機で均してあるものの、まだでかい凹凸や岩が残り、車の底をかするのでヒヤヒヤ。なんとか林道終点の小さな広場に着いて、車を置く。
車を降りると、霧雨から小雨へ強まっている。「三峰山登山口」の道標があり、その先の山道は雨に濡れた草藪に覆われている。雨具を着て、ザックにカバーを被せて出発する。左に分かれる小さな沢を渡り、右の沢に沿って登る。幅のある道型が通じているが、草藪と小枝が被さって荒れ気味。沢床から少し高い右岸を進む。
やがて、右に谷が分かれるのを見ると、道は沢に近づいて、右手の木に色褪せた赤テープが巻かれている。ここで沢の左岸に渡り、戻る方向に踏み跡を辿ると、3本の杉の大木に囲まれた石祠がある。ここが先程見た谷の入口で、谷の奥へ踏み跡が続いている。
谷沿いの踏み跡は藪がない分、先程までよりは歩き易い。少し進むと沢の二股に着き、右の沢には赤テープが見える。先達のお二方が道を間違えた地点はここらしい。右の沢を詰めると三峰山〜金沢峠間の稜線に出てしまうので、直進して左の沢に入る。
沢に沿って杉林の中の踏み跡を辿ると、三方を取り囲むように聳える岩壁に突き当たる。ここがハイトスさんが下りで出くわして、大きく巻いて降りた崖に違いない。確かにこの崖は降りれんわ(@_@;)。岩場を登って奥に近づくと、岩壁の割れ目を小滝が落ちていた。
滝の左の岩壁には大きな岩屋があり、登って中を覗くと不動明王が祀られていた。比較的新しい石像に思えるので、今でも信仰が続いているのかも知れない。お酒をお供えしたらしい陶器の杯が置かれていた。
この岩壁の上に抜けるには、やはり大きく巻くしかない。左側の岩壁基部の斜面に微かな踏み跡があるので、これを辿って斜めに上がる。やがて踏み跡は怪しくなるが、疎らな杉林の斜面をとにかく登って行くと、右手に岩尾根のある小さな鞍部に登り着く。急登で一汗かいたので、ザックを降ろして一休み。雨も既に上がっているので、雨具を脱ぐ。
岩尾根の上がちょっと気になって登ってみると、絶壁の縁に谷を見おろす様に、全部で3基の石祠が祀られていた。岩尾根の上には赤松などの木が生え、そこから眺める周囲の山は少し色づいて、里山とは思えない奥深い雰囲気のある場所だ。ここはお勧めのスポット。Kさんも岩場を登って来て、この景観を探勝した。岩場を注意して下り、鞍部に戻る。
ザックを担いで先に進もう。鞍部を越えて先程の滝の上流にあたる枝沢を渡り、対岸の踏み跡を辿って斜面を右にトラバースする。右手には岩尾根があり、末端は急角度に落ち込んでいる。この岩尾根は、「ルート地図」上ではGPSの軌跡がΩ字のように迂回している真ん中にあるのだが、等高線では全く表現されていない。
やがて杉が植林された浅い谷を登る。ここもすぐに踏み跡が消え、杉林の中の歩き易い所を登る。逆コースの場合は、谷を下って行くと岩壁の上部に出て進退窮まるので、右へ枝沢を上がって鞍部を越え、岩壁の下に出ることになる。初めてでこの下降ルートを見つけたハイトスさんには感服!
左上に露岩のある小尾根が見えるので、徐々にそちらに進路を取って登ると、赤テープと踏み跡が現われる。これを辿って小尾根の上に着くと、石塔・石像群が始まる。
まず最初に、肩から上が欠け落ちた石像を見つける。傍らに落ちていたお顔を見ると不動明王かな。その次には、やはり右肩から上がぱっくり欠けた石像がある。
短い笹の生えたアカマツの尾根をしばらく登ると、今度は石塔が連続して現れる。刻まれた文字は風化してどれも読み難いが、「三十六童子」の石塔だけは年代が新しいようで、文字も鮮明に読める。それにしても、多数の石像・石塔が訪れる人も稀な山中に点々とあるのは、やはり興味深い。
やがて踏み跡は尾根上から僅かにそれて、右斜面をトラバースする。ここにも踏み跡に沿って、いくつかの石塔が点在する。最後に小さな不動明王の石像があり、赤テープに導かれて斜面を一登りすると、三峰山の頂上に飛び出た。
頂上に出た所には「三十六童子を経て名久木登山口へ」という道標がある。頂上の周りの雑木林は黄葉して、すっかり晩秋の雰囲気だ。風も冷たく、じっとしていると寒い。お湯を沸かして温かい飲み物を作り、Kさんが用意してくれたおにぎりとゆで卵、果物で昼食とする。三峰山頂上で会った、鳴神山から縦走して来たお兄さんが、この日に見かけた唯一のハイカーさんだった。人気の鳴神山〜吾妻山縦走コースも、今日の天気ではさすがに人が少ないようだ。
三峰山からは縦走路を金沢峠まで辿る。金沢峠から峠道を梅田側にほんの数歩降りたところに鏡岩がある。断層運動によって、表面が磨かれて鏡のようになった岩だそうで、顔を映すのは無理としても、見る方向によっては確かに光を反射して、ピカピカ光る。金沢峠には何度か来ているが、いつも気づかず通り過ぎていたので、今回初めて見た。
峠からは、立派な道標が「川内町五丁目」と指し示している川内側に下る。最初は山腹を左へトラバースする明瞭な山道があるが、沢に降りた所(小さな石積みあり)でぷっつり道が途絶える。以前、逆コースで登ったことがあるので道は承知しているが(山行記録)、知らずに初めて下るとかなり不安を感ずるだろう。ここからはこの沢を下る。
やがて水流が現われ、土砂が押し出した荒れ沢になるが、構わず下るべし。踏み跡が現われ、木橋で沢を渡ると林道に出る。峠道の入口には道標の類いは何もない。
林道を下り、行きに車で通過した分岐点に出る。ここから路上の邪魔そうな石をどけつつ、車を置いた三峰山登山口まで戻った。来た時は天気が悪くてどうなるかと思ったが、計画通りに歩けて良かった。しかも、かなり面白かったし。烏天狗や八海山大神など、いくつか発見できなかった石像もあり、まだ見所が隠されていると思うので、また来てみたい。笠懸のかたくりの湯に立ち寄り、のんびり温まって帰途についた。