丁須の頭
妙義の山々は9月の台風9号によって登山道に被害を受け、地元の警察・自治体により入山禁止や登山自粛の措置が取られていました。10月末になって、ウェブの情報で登山が解禁されたことを知り、紅葉もそろそろ見頃かなと思って、裏妙義の丁須の頭に御岳コースから登って来ました。
上信越道を松井田妙義ICで降りて、R18を横川へ向かう。おぎのやのドライブイン横川店を過ぎるあたりから左の稜線を見上げると、岩壁の上にポチッと突き出たザンゲ岩が見える。あの上からの展望は、今回の山行で楽しみなことの一つだ。
R18の旧道に入り、左折して碓氷梁への脇道に入る。突き当たりに吊り橋があり、右折すると広い駐車場とWCがある。3台程、車があった。紅葉の時期にしては人が少ない気がする。駐車場からは入山川を隔てて、山急山のゴツゴツとした山容がよく見える。
準備を整えて出発。吊り橋のたもとには、「登山注意!台風により登山道が大変荒れています。登山に注意して下さい。」という立て看板が設置されている。文中の『に注意』の箇所は、元は『を自粛』という文面で、その上にシールを貼って改訂してあった。
吊り橋を渡ると登山届のポストがあり、記入して提出する。東屋や七福神の石像のある渓谷沿いの遊歩道を歩くと、目の前にドーンと大きく麻苧(あさお)ノ滝が現れる。落差40mと言われ、黒光りする岩壁が迫力だ。
滝の下流で吊り橋を渡ると遊歩道の終点で、ベンチのある広場になっている。「あさを俳句會發祥之地」という石碑があり、清水寥人氏の次の句が刻まれていた。
天眷の 瀧ひっさげて 裏妙義
遊歩道から登山道に入ると、のっけから支流の滝の落ち口へトラバースする鎖場になる。濡れた岩は滑りやすく、いやらしい。さらに岩壁の基部を鎖を伝って登る。振り返ると、深い谷の奥に麻苧ノ滝が落ちている。うーん、さすが妙義の山は険しい。
最初の難所を過ぎ、色付き始めた樹林の中の山道を登る。稜線に出て小さなピークに登ると、ザンゲ岩がある(登山道はピークをわずかに巻いているので、知らないと気付かずに通り過ぎるかも)。岩壁から突き出た岩場の上に立てば、期待通り、横川の街並が一望。足元が全く見えず、鳥になった気分が味わえるが、転落にはくれぐれも注意。
山道に戻ると、雑木林に覆われた里山の雰囲気の稜線のアップダウンが続く。「産泰大神」という石碑のあるピーク(産泰山)に着くと左手の林が開けて、再び絶壁の上からの眺めが得られる。
産泰山から一旦下って登り返すと、稜線上の岩峰に突き当たる。これの左に回り込み、ルンゼの源頭をトラバースする。仄暗い谷間に黄色や赤い葉が点在して奇麗だ。急な斜面を登ると、岩峰の基部が大きく抉れて岩屋になった場所に着く。岩屋の中は広く、焚火の跡があった。岩峰の基部を鎖を伝って登ると、再び稜線に出る。ここからは紅葉に包まれた、岩場の多い痩せ尾根が続く。右手には鍵沢の谷を隔てて、西大星のささくれた切り株のような岩峰が見える。あちらの紅葉もいいねえ。
石祠のある小ピークを越えると、三角点と「御嶽神社」という石碑がある御岳の頂上に着く。眼下には妙義湖の水面、中木川の谷を隔てて表妙義の白雲山から金洞山、星穴岳にかけてのぎざぎざの稜線、それに丁須の頭の展望が良い。
少し休憩したのち、丁須の頭に向かう。樹林に覆われた痩せ尾根上の小ピークを次々に越えて行く。5m程の垂直に近い鎖場は腕力で登る。その上にも5m程の鎖場が続く。足元の枯れ草の中には、リンドウがぽつぽつと咲いている。
やがて、岩稜にかかった鎖場が現われる。左右に支えがあるチムニー内の鎖場より、いやーな感じ。気合いを入れて登る。この上も岩稜が続くが、難所は越えた。稜線の両側に、紅葉、岩壁、岩峰を眺めながら歩く。途中で年配の女性3人パーティとすれ違う。挨拶を交わした際、老婆心で「この先は怖い鎖場がありますよ」と付け加えると、「25mチムニー(たぶん、裏妙義縦走路にある鎖場)を越えたから、大丈夫じゃないかしら」とちょっと心配しながら降りて行った。
丁須の頭はすぐそこに見えるのだが、小さなアップダウンが多く、意外と疲れる。国民宿舎から籠沢を登るルートと合流し、岩壁の基部を右にトラバースする道に入る。鎖場を二か所ほど越えて、丁須の頭の直下に出る。ここから長い鎖場を1本登ったテラスで昼食にする。今日のランチは蔵王土産の白石温麺+カップスープの味付け。結構いけるv(^^)
丁須の頭に登るのは、これが2回目。前回、同じ時期に登ったときは人が多かったが、今日は誰もいない。昼食の途中で、ご夫婦一組が到着したが、それにしても静か。登山自粛が続いていた影響かな。
今日は鎖場のウォームアップが充分なせいか身体が軽く、丁須の頭のてっぺんに登れそうな気もしたが、危険を冒す必要もないので、今回もパスする。
下山は鍵沢コースへ。下り口でうっかりこぶし大の浮き石を踏んで、鍵沢に転げ落とす。すぐに大声で「ラク!」と連呼する。石はあっと言う間に視界の外へ。人声がしたが、トラバース道を来た人だった。いやー、焦った。鍵沢に誰もいなくて良かった。
鍵沢コースは、最初にスラブにかかった長い鎖場があり、足元が滑りやすい。おまけに、自分がさっきやったように、上から石が落ちて来ないとも限らないので、要注意箇所だ。ここを下ると、落ち葉に埋もれたガラガラの沢の下りになる。道標が随所にあるので、迷う心配はない。
やがて水流が現れ、段々と水量が増す。沢登りっぽいルートなので、登りにとっても楽しめそう。第二不動滝を過ぎ、左岸に渡って杉林の中の山道を歩く。やがて沢を離れて、山腹を高巻く道になる。木の間越しにあさおの吊り橋を見おろすと、急な山腹をジグザグに下る。最後は台風で崩れた?箇所もあったが、問題なく入山川の川岸に降り立ち、吊り橋を渡って駐車場の車に戻った。
帰りは峠の湯に立ち寄り、鎖場の登りで凝り固まった腕や脚の筋肉をよく温めほぐしてから、帰途につく。横川を通りかかったとき、御岳コースですれ違った3人パーティを車窓から見かける。無事に下山されたことがわかり、安心しました。