南天山
先々週の山行で、天丸山から帳付山を目指して上武国境稜線を歩いたときのこと(山行記録)。途中で眺めた武州側の山々の中に、小粒ながらもキリッとした三角形の山容の南天山が目に留まりました。
この週末は、晴れだが風が強くて、高い山では吹雪くかも、という予報。南天山は紅葉で有名な中津峡の奥にあって、シーズン最後の紅葉も楽しめそうだし、アプローチは遠いが行程は短く手頃、天気の心配も少なそうなので、出かけて来ました。
桐生を車で発って秩父を経由し、湛水が始まっている滝沢ダムを過ぎてR140から分岐し、トンネルの多い新しい道で中津峡を上流に向かう。紅葉の名所なので、カメラを構えた見物の人や路上駐車が多い。しかし、紅葉もピークを少し過ぎたせいか、思った程の混雑はなかった。それにしても断崖絶壁を連ねた渓谷美と紅葉は、やはり見事だ。
「彩の国ふれあいの森」を過ぎ、未舗装道となって暫くで南天山登山口の鎌倉橋に到着。今日は出遅れたので、既に10台程の車が停まっていた。その中には小型のバスもあり、団体さんが登っている模様。運良く残された1台分のスペースに車を置く。
準備を整えて出発。登山口の道標には南天山まで3.2kmとある。鎌倉沢に沿った道は、最初は右岸の山林を高巻くが、すぐに沢に降りると、木橋で水流を左右に渡り返しながらの楽しい遊歩道となる。沢は小さなナメや小滝を連ね、紅葉に囲まれ、仰ぎ見ると青空に白い雲が流れて行く。うーん、いい気分だ。
ちょっとした沢登り気分を味わいながら歩いて行く。小さな滝が現れ、左から鎖で越える。といっても、鎖がなくても登れるほどの所で無問題。この小滝を越えるとすぐにナメを滑るように流れ落ちる優美な方円滝が現われる。ちょうど、団体さんが滝を左から高巻いて越えているところだった。しばし休憩して、ゆっくり滝を鑑賞する。
方円滝の上流も小滝とナメが連続するが、やがて植林の中の流れになり、沢コースと尾根コースの分岐に到着する。団体さんが休憩中で、どうも尾根コースを行くようだ。私は元から沢を詰めるつもりだったので、左の沢コースを選ぶ。
沢コースと言っても水はすぐに枯れて、ガレた明るい谷を登って行く。右手にはカラマツ林に覆われた南天山の斜面が広がり、そちらから団体さんの話声が聞こえて来る。沢コースはやがて、杉林の中のジグザグの急斜面に差し掛かる。振り返ると十文字峠越えの稜線や、雲が掛かった奥秩父主稜線が見えた。
登り詰めて稜線に出る。常緑の木が多い(何だろう)。稜線を右に行くと南天山。左にも稜線上に踏み跡があるが、そちらへの入口には「この先行き止り」の看板があった。
南天山へはカラマツと杉の林の稜線を辿る。南天山の直前に見晴しの良い小ピークがあり、登山道は巻いているが寄り道して登ってみると、「広河原沢→」という新しい道標があった。西の広河原沢へ下るルートがある様だ。入口から覗いてみると、とんでもない急斜面の灌木帯に微かな踏み跡があるかないかの道のようだ。しかし、ちょっと面白そうだ。
登山道に戻り、南天山を目指す。行く手には左側が急な斜面となった南天山の山頂が仰ぎ見られる。頂上直下で尾根コースを合わせ、最後の短い急登を詰め上げると南天山の頂上に到着した。
露岩からなる頂上は360度の大展望だ。数名のハイカーさんが展望を楽しんでいるが、団体さんはまだ到着していなかった。頂上が混み合う前に、その一角に腰を下ろすスペースを確保する。
ここからの展望でまず目に入るのは両神山から赤岩尾根にかけての稜線で、バリカンの歯のようなギザギザのスカイラインが望まれる。中でも赤岩岳の大岩壁はひときわ目立つ。
赤岩峠から大ナゲシ、帳付山にかけての上武国境稜線は広河原沢を隔てて指呼の距離。この辺の稜線は歩いてみたいところだ。特に大ナゲシの左隣りの双子の円錐峰は、ちょっとピークに行ってみたくなる。上武国境稜線の広河原沢側は直下まで伐採が進み、里山の雰囲気なので、歩くのもそう難しくはないように見える。
天丸山は手前に標高が高い上武国境稜線があって見えない。その左には、三角形のピークがちょこんと抜きん出た帳付山があった。
さらにぐるーっと視線を巡らせると、遥か遠く、たれ込めた雪雲に頭を突っ込んだ甲武信岳付近の奥秩父主脈が見える。そのうち、こちらまで風花がパラパラと飛んで来た。十文字峠越えの稜線の向こうには茫洋とした山容の和名倉山がでんと鎮座し、その肩には雲取山が僅かにピークを覗かせていた。
展望を楽しんでいると団体さんが到着し、頂上は満員に。どうも「彩の国ふれあいの森」のガイドツアー?のようだ。引率のガイドさんは周辺の山々に詳しいようなので、双子の円錐峰の名前を尋ねると、左のピークが宗四郎山(1510m)と教えて頂いた。また、南天山もかつて山火事に遭い、谷底まで焼けたそうだ。
缶ビールを開け、ゆで卵、豚角煮を添えたラーメンを食べて昼食とする。団体さんが頂上を去ると私一人になり、しばし静かな山頂に。さて、大展望に名残を惜しみつつ、私もそろそろ出発、という頃、西の方から雪雲が押し寄せて来て、本格的に雪が舞う天候となった。防寒具を着込んで尾根コースを下る。カラマツ林の中を丁寧にジグザグを切った歩き易い道だ。
尾根コース・沢コースの分岐点まで降りれば雪も止み、防寒具を脱ぐ。後は再び渓谷の紅葉を愛でつつ、往路を鎌倉橋に戻った。
帰路は中津峡から日窒鉱山、八丁隧道、志賀坂峠の山岳ドライブコースを走る。瀬林の漣痕(恐竜の足跡)を見学したのち、上野村の向屋♨ヴィラせせらぎに立ち寄って一風呂。露天風呂に浸かって見渡す野栗沢辺りの風情がなかなか良い。よーく温まったのち、湯ノ沢トンネル、上信越道を経由して帰桐した。