簑山
GW以降は、毎週末に野暮用があったり天気がイマイチだったりして、軽登山部の山行も流れたし、山歩きの間隔が一ヶ月開いた。この週末の天気は良さそうだが、長時間運転する気力がちょっと湧かないので、桐生から割と近い秩父近郊に出かけて簑山に登ることにする。簑山の頂上は美の山公園として整備され、春は花見で賑わうらしい。車で登れる山だが、山麓から登るルートもあり、久し振りの山歩きにはちょうど良いかも。という訳で、出かけてきました。
桐生を朝のんびりと車で出発。簑山の北麓にある道の駅「みなの」の第二駐車場に車を置くつもりで、いざ来てみると「当施設をご利用以外の長時間駐車禁止」との看板あり。うーむむむ。まあ、この時期は第二駐車場までは混まないだろうと考えて、端っこに置かせて貰う。もちろん、山歩きの後は道の駅を利用し、たくさんお土産を買う所存である。
道の駅から直に簑山に至るコースもあるが、それは復路に使い、往路は簑山神社の表参道を登る予定である。登山口までは鉄道で一駅移動する。道の駅から10分程歩いて秩父鉄道親鼻駅へ。無人駅で、自動販売機で皆野駅までの切符を買うと、レシートにQRコードが印刷されて出てきた。運賃は200円也。影森行9:28発の電車に乗車して、次の皆野駅で下車する。


皆野駅も無人駅。QRコードの切符を回収箱に入れ、駅前に出る。天気予報で今日は7月の陽気になると伝えられていた通り、低山歩きに来たのをちょっと後悔するレベルの暑さだ。「美の山参道入口」の案内に従って市街地を通り抜け、のっぺりとした山容を濃い緑に包んだ簑山に向かって進む。途中の皆野町運動公園に駐車場があり、野球の試合でも無い限りは空いているから、山歩きにも利用できそうだ。


R140を横断する手前に「簑山神社表参道」と記された石造の新しい標柱が立ち、渡ったところの道端にも「簑神社入口是拾弍丁目」と刻まれた古い標石がある。渓流に沿って歩き、住宅地の外れから山腹を蛇行して上がる簡易舗装の道に入る。山中は木陰に入り、ひんやりと涼しい。登山者の数を調査するカウンタがあり、一つ押して通過。ここには「弍丁目」と刻まれた古い標石があり、以降、道端には順番に丁目石が立っている。




山神社、三丁目、四丁目の標石を過ぎ、思いの外に急な山腹を、小さく蛇行して登る。七丁目付近には林間に別荘が点在し、切り開かれた林の間から宝登山が眺められる。駐車があるのを見ると、この週末を別荘で過ごす人が居るようだ。「七丁目」以降の標石は建て替えられて、御影石の新しい物が設置されている。




「十一丁目」の標石を過ぎると未舗装道となり、車の通行は難しい。「十二丁目」の標石のある曲がり角でツツジ園地への山道を右に分け、参道は傾斜の緩んだ山腹を左へトラバースする。「十四丁目」で参道も山道となり、東屋の脇を抜けると程なく十字路に着く。左は皆野駅、直進はみはらし園地への道だ。右が「美の山山頂」への道で、「蓑山神社」(蓑は簑の異体字)の立派な社号標と石鳥居が建ち、その奥には石灯籠や長い参道石段が見える。「蓑山の名の起源と蓑神社」という案内板があり、興味深い話が記されているので、テキストに起こしておこう。
蓑山の名は、知知夫国造に任命された知知夫彦命に起因するものだと言い伝えられている。知知夫彦命は、産業をおこし、文化を高めることに力を注いで秩父地方一帯を平和に治めていた。しかし、ある年、昼夜雨が降り続いて、農作物などに大きな被害が生じ、農民が大変苦しんだ。そのとき、命は民家と一諸にこの山に登り祈晴祭を行って長雨を晴し農民の苦しみを救った。その際、命がそばの松の木に蓑をかけて置いたことから、この松を蓑懸松、山を蓑山と呼ぶようになったそうである。
また、この山にある蓑神社については、皆野の大浜郷に住んでいた畠山重能が蓑山の北端の天狗山に見張所を置いた時、蓑山の由来を聞き、知知夫彦命の国造りの業績を称え、蓑懸松のそばに大山祇神・大己貴神・高龗神を合祭した祠を建てたのが、蓑神社の起りといわれている。
その後、高龗神は、旱魃の時の祈雨祭のため、近くの坊が池のほとりに遷座し、代って稚産霊神を合祀し、現在に至っている。




参道の石段は擦り減って苔が付き、周囲は深い緑に覆われて神さびた雰囲気があり、なかなか良い。これは表参道を登って来た甲斐があった。石段の最後の方は傾斜が増して、滑らないように手摺を掴んで登る。山腹を切り開いた小平地に登り着くと簑山神社の社殿が建つ。秩父の神社らしく、社殿の前に陣取るのは狛犬ではなく狛狼で、一対の古びた石像が参拝者を待っている。




参拝後、境内のベンチで一休みしたのち、神社の右手の山道に入って簑山頂上に向かう。山歩きらしくなった山道を辿り、樹林が切り開かれた斜面を登ると尾根上の車道に合流する。ここには車道を間に挟んで榛名神社とパノラマデッキがある。榛名神社の狛犬は普通の狛犬だ。デッキの上からは秩父や小鹿野の展望が開け、今日は残念ながら霞んでいるが、両神山も微かに遠望できる。




榛名神社からはなだらかな起伏の尾根上に舗装された幅広い歩道となる。右斜面は森林で、つつじ園地の道標があり、5月中頃にヤマツツジが見頃らしい。やがて美の山公園の一角に入り、左斜面が開けた草地となって、サクラが植えられている。もちろん、今は葉桜。この先で右の山道に入って高みを目指すと、程なく電波塔が建つ簑山の頂上に着く。電波塔を囲むフェンスに沿って反対側に回ると明るく平坦な草地が広がり、「美の山山頂586.9m」の山名標識がある。
電波塔は少々目障りだが、2基のベンチもあり、意外と居心地は良い。日差しを避けて木陰のベンチで休憩とし、昼食にカップ麺を食べる。その間、車で上がって来たと思しき軽装のハイカーがパラパラと頂上にやって来ては、山名標柱で記念写真を撮り、戻って行く。花見の季節を外しているせいか、頂上付近の人出は思った程多くないが、それでもパラパラとハイカーを見かける。


休憩後は、美の山公園の中を軽く一回りしてから下山にかかろう。まず、頂上の少し先にある展望台に上がってみる。ここからの展望は素晴らしい。南には美の山公園のエントランス広場を見おろし、その向こうに大霧山や丸山のゆったりと大きな山容を望む。西には秩父盆地を俯瞰し、武甲山を背にして広がる秩父市街を一望する。目を右に転じると、小鹿野市街や両神山が眺められる。ここは、秩父盆地の展望台としてはピカイチと思う。今日は靄っているので、空気が澄んだ季節に再訪して、また展望を楽しんでみたい。




エントランス広場の一角にある東展望台のテラスからは、東に横たわる登谷山から秩父高原牧場、大霧山にかけての稜線を一望する。平坦だが長く大きな稜線で、大霧山の山容も意外と大きく、低い山並みながら目を惹く。この稜線は外秩父七峰縦走で歩いたことがある。見た通りの長〜い稜線で、歩き通すのは大変だった。


エントランス広場の周辺には管理棟やインフォメーション、WCなどがある。売店もあるが営業していなくて、自販機のみ稼働している。広場の南端の入口展望台から秩父市街を眺めたのち、引き返す。入口展望台の下に駐車場があり、車で来た場合はそこまで上がって来られる。
一通り展望を楽しんだのち、下山にかかる。エントランス広場から蓑山頂上の東側を巻いて歩道を歩く。こちら側の斜面は広い「あじさい園」となっているが、あじさいはまだ蕾が出始めたばかりだ。あじさいの見頃は、例年、6月下旬〜7月上旬とのこと。


なだらかな頂上稜線上の歩道を榛名神社まで戻り、往路を左に見送って直進。親鼻駅に向かって下る。この道は関東ふれあいのみちで、整備が行き届いている。今回はふと思い付いて簑山に登りに来ており、開花時期など調べていなくて、サクラ、ヤマツツジ、アジサイの見頃をことごとく外しているが、この辺りでようやく咲いているコアジサイの花を見かける。


ジグザグに下る道を、一部ショートカットしつつ下る。傾斜が緩むとみはらし園地に下り着く。ベンチがあり、若い外国人グループが休憩している。こんなところにまでインバウンドで来ているのかな。みはらし園地と言いつつ、樹林に覆われて展望は全くないので、休まずに通過。


みはらし園地から山道となり、なだらかな尾根上をゆるゆると下る。樹林に覆われて、展望は全くない。車道を横断し、さらに雑木林の斜面を下って、山麓の住宅街に着く。木陰から日向に出ると暑い。山中はまだ涼しい方だった。今日の気温はどこまで上がっているのだろうか(後日、この日の秩父の最高気温を調べたら、30.3℃に達していた🥵)。




振り返ると簑山が鬱蒼と茂る緑に覆われて、こんもりとした山容を示す。山頂まで車道が通じて観光地化された山かとばかり思っていたが、意外と山歩きが楽しめたし、蓑山神社と山頂展望台から秩父盆地を俯瞰する展望は訪れた価値があった。


あとは車道を歩いて「道の駅みなの」に戻る。第一駐車場はほぼ満杯だが、第二駐車場は空きが多い。登山靴をサンダルに履き替え、ザックを車に置いて、道の駅の農産物直売所に買い物で入る。ここで、前回、熊倉山の帰りで買いそびれた「秩父錦」の特別純米酒1.8ℓをゲット。つまみに秩父きゅうりぴくるす(燻製)も買い、さらに売店でソフトクリームを食べて涼んだのち、桐生への帰途についた(その晩、秩父錦とピクルスを頂く。大変旨かった)。