釜ノ沢五峰
この週末も先週に引き続き、秩父の山へ。今回は、分県登山ガイド『埼玉県の山』に掲載されているコースで、秩父札所32番法性寺(ほうしょうじ)の巡礼道と埼玉百山№20の釜ノ沢五峰を結んで8の字に周回するコースを歩いてきました。
桐生を早朝、車で出発。寄居からR140バイパス、R299を経由して法性寺へ。法性寺の少し手前にある参拝者駐車場に車を置く。既にハイカーさんの車が2台。その1台では3人組ハイカーさんが出発準備中で、挨拶を交わす。天気は快晴だが、冷え込みが厳しい。ULDジャケットを着込んで出発する。
法性寺前のWCをお借りした後、「般若山」の扁額を掲げた立派な鐘楼門を潜る。庭木に囲まれ、苔むした細い石段の参道を登ると、日当たりの良い斜面に建つ本堂に着く。境内整備協力金(1口300円)を募る奉納箱があり、駐車させて頂いているので少し多めに奉納。
本堂からさらに奥に進んで杉林に入り、大岩の間を石段道で登ると、岩壁から張り出して建てられた観音堂に着く。堂の裏手の岩壁には蜂の巣状の穴がびっしりと開いていて奇観を呈す。これはタフォニという風化現象で、岩石中の塩分が表面に染み出し、結晶化して岩石の表面を崩してできたものだそうだ(ジオパーク秩父「札所32番法性寺のお船岩とタフォニ」)。観音堂では靴をスリッパに履き替えて、床の間にも上がってみる。縁側から本堂を見おろす眺めが良い。
観音堂から石段道を少し戻り、「←至奥の院」の道標にしたがって大岩の割れ目を潜り、奥の院への巡礼道に入る。小さな谷間を遡って細い道型を辿ると、岩盤にステップを刻んだトラバース道となり、上部の岩壁にはジグゾーパズルのピースの一つのような形の大穴がぽっかりと開いている。これが龍虎岩で、鎖を手繰って岩穴に入ると、中には朽ちた木の祠がある。これは金毘羅様を祀っているそうだ。
さらに谷の奥に進み、「月光(がっこう)坂」の標識を通り過ぎる。ようやく身体が暖まってきたので、上着を脱ぐ。右手の斜面に取り付き、岩盤に刻まれた階段道を急登すると岩窟があり、13体の石仏が建ち並ぶ。
岩窟の前を右に進むと、すぐに「お船岩」と称する岩尾根の上に出る。岩尾根を右に辿って下ると、お船観音が建つ。観音の裏手は切れ落ちた断崖絶壁だ。眼下の谷間に法性寺本堂の赤い屋根を見おろし、その向こうに低く直線的に連なる長尾根(尾田蒔丘陵)を望み、彼方には外秩父の山々がゆったりとスカイラインを描く。これはなかなか良い眺めだ。振り返って岩尾根を見上げると、右側はすっぱりと切れ落ちた岩壁だ。その縁には近づかないのが吉。
分岐に戻り、次は大日如来に向かう。すぐに高く尖った岩塔が現れ、上から鎖が垂れ下がっている。大日如来にお参りするには、これを登るのか😱。岩壁にはステップが刻まれ、上部には手摺りも設置されて容易に登ることができるが、高度感があり、滑ったら御陀仏。岩塔の天辺近くの岩の窪みに大日如来像が祀られている。像の前の平地は狭くて囲いの柵もなく、立つと肝が冷える。像の前に「般若山 法性寺 大日如来」と書かれた札が置かれており、この写真を提示すると朱印が頂けるとのこと。一通り、写真を撮ったのち、岩塔を慎重に下って戻る。
岩塔の基部から、「←亀ヶ岳展望台を経て釜の沢」の道標にしたがって、大日如来の岩塔を左から巻く山道に入る。尾根筋に復帰し、岩場を交えた尾根道を辿ると送電鉄塔が現れる。その手前に「←釜の沢 柿の久保→」の道標が立ち、左右に山道が分かれる。黄色標柱もあるので、この道は送電線巡視路らしい。
左へ下ると、滑り易い斜面のトラバースとなり、小さな岩場を横切る箇所もある。隣りの枝尾根の上に登り着くと、二つ目の送電鉄塔が立つ。この尾根をまっすぐ下ると亀ヶ岳だが、道はない。山道は岩尾根を巻いて右斜面を下る。岩場を交えた滑り易い斜面をジグザグに下り、谷底に着いたと思ったら、すぐに枝沢の登りに転ずる。小さな尾根と谷の登り降りが多く、変化に富んで楽しくなってくる。
沢の源頭の崩壊地を右手に見て急坂を登ると、次の枝尾根の上に出て、三つ目の送電鉄塔に着く。この枝尾根をゆるゆると下ると砂岩の岩尾根となり、左手に谷を隔てて亀ヶ岳の岩峰が現れる。傾斜した巨大な一枚岩の岩峰で、奇観だ。また、正面も展望が開けて、左側が切り崩されて鋭利な頂を見せる武甲山や、その右に小さなギザギザを連ねる大持山を遠望する。このパノラマも素晴らしい。
岩尾根はすぐ先でなだらかな下りとなり、鎖も張られているが、(先週の山行で踏んですっ転んだ岩とは違い)砂岩の乾いてザラザラな表面に対しては新しいソールが無敵。フリクションが良く効いて、鎖なしでも滑る気が全くしない。
樹林帯に入って下ると、「雨乞岩洞穴」の道標があり、右斜面のすぐ下にそれらしい物が見えているので立ち寄っていく。巨大な岩壁の基部に水平な隙間があり、覗き込むとそこそこ奥行きがある。同じような岩穴で、両神山の尾ノ内渓谷コースで見た地獄穴を思い出す。こういう、入ると身動きが取れなくなりそうな閉所は覗くだけでゾワゾワする。
洞穴の分岐からジグザクに下り、長若山荘の裏手に出て、そのまま釜ノ沢五峰への登山道に入る。墓地の前を通り、「←金精神社」の道標にしたがって、薄暗い谷間の登山道を進む。この谷も崖や大岩が多い。
木橋で水量の少ない沢を渡り、右岸の斜面を小さくジグザグを切って登る。左側には岩壁とその上に岩尾根を見上げて、早くも釜ノ沢五峰の片鱗?が現れる。斜面を右へトラバースし、枝尾根に出て登ると馬の背のような丸みを帯びた岩尾根となる。岩尾根上の見晴らしの良い所に「一の峰」の石碑が置かれているが、ピークではなく、登りの途中にある。
一ノ峰からなだらかな尾根道を進む。「← 子兵重岩展望台・鎖場 金精神社 文殊峠→」の道標があり、右に巻き道を分けて尾根を直進すると「二ノ峰」の石碑が置かれた岩峰の頂に着く。この石碑の「二」の字は「三」と紛らわしく、最初は三ノ峰に着いたかと思った。
頂上は左側が岩壁となって切れ落ちて眺めが開け、秩父御岳山付近の山々が遠望できる。(また、後日、写真を見返して気がついたが、谷を隔てて二つ隣りの尾根の中程に木立のないのっぺりとした箇所が見えており、これがこの後に通過した兎岩だったようだ。)
二ノ峰からは岩場を鎖で下る。傾斜があまりきつくないので、問題なく下れた。と思ったら、途中の岩で中指の関節を擦ったらしく、気がつくと血がダラダラ。手袋をすれば良いのだが、そうすると素手より鎖が滑るしなあ。クライミンググローブのいい物を買うか。
血をなめつつ、次のピークへ向かう。ザレた急坂を一直線状に登ると右へ巻き道を分けて、「三ノ峰」の石碑のある岩峰の頂に着く。この頂も西側が深く切れ落ちており、二ノ峰より少し高い分、展望も開けて、これから辿る釜ノ沢五峰の残りの稜線も見渡せる。
三ノ峰からは手前の巻き道に入り、急斜面を下って尾根筋に復帰する。これで釜ノ沢五峰の険しい所は終了。冬枯れの雑木林に覆われた尾根を登ると「四ノ峰」の石碑のある小さなピークに着く。そろそろ正午に近く、腹が減ってきたので昼食休憩にしようかとも思ったが、ここは風が冷たい。良い場所がないか、もう少し進んでみよう。
ところどころに残る終盤の紅葉を愛でつつ、里山らしい雑木と杉の林の尾根を緩く登る。「五ノ峯」の石碑は尾根道の途中にあり、頂上らしくない。ぽさぽさと枯れ草や笹の藪が混じる道を登って565m標高点のピークに着く。ここには2級基準点が埋設されている。
尾根道を西に辿ると、杉が植林された送電鉄塔跡の空き地を通り、布沢峠に着く。ここには南を指す道標があるが、古くて文字は読み取れない。さらに尾根道をゆるく登ると、樹林が伐採され、明るく開けたピークに着く。武甲山の眺めもが良いので、ここで昼食休憩にしよう。鯖味噌煮を摘んでノンアルを飲み、ガソリンコンロで鍋焼きうどんを作る。以前は生麺タイプの鍋焼きうどんが美味くて好きだったのだが、最近、売ってなくて、今日は長期保存タイプ。敢えて比較すると味はイマイチ落ちるなあ。しかし、体の芯から温まったから良し。日差しもあり、風を避けて日向に座っていればポカポカと暖かい。
昼食休憩を終えて先に進む。落ち葉を踏んで尾根を下ると石祠がある。「金精神社」の標識もあるから、これがそうかと思ったら、金精神社はまだ先だった😅。
尾根の右側を絡んで進むと、「モミの巨木→」と記された道標があり、そのすぐ右上に周囲の植林を圧倒して聳え立つ大きなモミの木が見える。
ここからひと登りで、中ノ沢ノ頭の頂に着く。山名標識の類はなく、「←竜神山・中ノ沢方面 金精神社・文殊峠方面→」の道標があるのみ。杉林に囲まれて猫の額程の広さしかなく、休憩には適さない。下山路は左だが、文殊峠は近いので往復して立ち寄ってこよう。
右の文殊峠への道を下ると、すぐに伐採地に出て、武甲山から矢岳、熊倉山にかけての眺めが開ける。峠から一段高い壇上に金精神社の社殿が建つ。由来書きによると、日光の金精峠の金精神社を勧請し、1992年に造営されたとのこと。古びた社殿の割には創建が新しいが、そうは言っても30数年が過ぎているから古びもするか。
文殊峠には林道釜の沢伊豆沢線が開鑿され、峠の切り通しに舗装道が通じている。東側は広大な伐採斜面に面しており、武甲山の眺めが良い。
切り通しを石段で登ると、平坦な尾根上の草地に長若天体観測所があり、小さな天文ドームやログハウスが建つ。この施設も林道の開通を見越して1986年に開所されたとのこと。
観測所からは西から北にかけての展望も広がる。秩父御嶽山から両神山、二子山、毘沙門山にかけて延々と連なる山並みを一望し、さらに奥には赤久縄山や御荷鉾山の頂を遠望する。見える山の中でも、特に毘沙門山は先週登ったばかりなので注目。灰白色の大岩壁を擁し、両翼に稜線を広げた立派な山容が見えて、登頂の思い出が深まる。
大展望に満足したのち、文殊峠から中ノ沢ノ頭に戻り、中ノ沢方面への尾根道に入って下る。急坂を登り返すと竜神山の頂上に着く。若い植林に囲まれて展望はない。頂上は狭く、大人数グループが休憩中なので、写真を1枚撮っただけで通過する。
竜神山からサクサク下っていくと、尾根上が伐採されて枯れ薄に覆われた岩稜が現れ、その先の小ピークの上に送電線が撤去された烏帽子型送電鉄塔が立っているのが見える。この光景は珍しく、また、岩稜歩きも変化があって面白い。鉄塔付近から振り返ると、稜線近くに布沢集落の民家が見え、こんな山奥に集落があることに驚かされる。
鉄塔を過ぎ、岩稜の右を絡んで下ると、岩壁の基部の窪みに「賽ノ洞窟」の標識がある。岩壁に沿って斜めに下っていくと、傾斜した岩場を横断する箇所がある。トラロープが張られているが、これを摑んでいても撓むと滑落するような箇所なので、何気に嫌らしい。
さらに岩場の登降があり、続いて、木の根とトラロープを頼りに岩場を登ると、丸く長々と寝そべるような岩尾根の上に出る。これが兎岩だ。両側に鎖の手摺りが設置され、安全に通行できるように整備されている。とはいえ、足元が傾斜しているので滑落注意。岩の上から左方を眺めると、三ノ峰の岩峰が稜線から鋭く突き出しているのが眺められる。
兎岩を過ぎると尾根から離れて、右側の急斜面をジグザグに下り、谷底に通じる車道(林道釜の沢伊豆沢線)に下り着く。この地点には朽ちかけているが辛うじて「兎岩を経て竜神山文殊峠登山口」と読める標識がある。
あとは車道を歩いて法性寺に戻る。日陰の谷間の道はシンシンと冷え込む。谷が開けると般若集落に入り、釜ノ沢五峰登山口の案内標識、次いで民宿「長若山荘」の前を通る。このあたりは農畜産で栄えているのか、民家も豪邸が多い気がする。山麓の山村を通り抜け、無事、法性寺の駐車場に戻った。
帰りは日帰り入浴で、道の駅両神温泉薬師の湯に立ち寄る(700円)。今年3月にリニューアルしたそうで、館内設備が新しい。昼間はポカポカと暖かい時間帯もあったが、夕方にかけては寒かったので、湯船にゆったり浸かって冷えた体を温めるのはやはり最高。道の駅の直売所でお土産にパウンドケーキを買ったのち、桐生への帰途についた。