黒山三滝〜関八州見晴台
桐生を早朝に車で出発。今日は、奥武蔵の名勝として知られる黒山三滝を起点として、周辺の山を軽く歩く予定。越生(おごせ)町の市街を通過し、越辺(おっぺ)川に沿って、長閑な田園風景が広がる山間を進む。越生梅林の脇を通り、谷が狭まって一車線道路から狭隘道路に入って程なく全洞院前の町営無料駐車場に到着。車を置く。既にハイカーさんと思しき駐車が6台程並んでいる。今日は三連休の最終日で天気も良いから、山歩きを楽しむ人も多そうだ。
車道と渓流を隔てた向かいのすぐそこに全洞院があるので、立ち寄ってみる。全洞院は無住。右手の墓地の奥に渋沢平九郎の墓がある。平九郎は新一万円札の顔にもなった渋沢栄一の義弟だそうだ。明治維新期の慶応四(1868)年に勃発した飯能戦争において旧幕府軍に加わり、新政府軍と戦ったが敗走して、この近くで自刃したとのこと。享年22歳。
全洞院から車道を歩いて黒山三滝に向かう。黒山バス停を過ぎ、左に顔振川沿いの道を分けて、右の三滝川沿いの道に入る。入口には「名所黒山三滝 日本観光百選」と書かれたゲートがある。日本観光百選とは何ぞや(後日調べると、1950年に新日本観光百選瀑布の部に入選したらしい)。
ゲートから少し入った所にも無料駐車場があるが、3時間以上の駐車は禁止。また、この先は(有料駐車場への通行以外)車両通行止となっている。軽食や土産物の店が点々と建ち並ぶが、朝早いので、まだ人通りはない。渓谷に入ると白煙が立ち込めていて、何事かと思ったら、岩魚の塩焼きの準備で炭火を起こしているところだった。
さらに渓流沿い車道を上ると、左に黒山三滝の一つの天狗滝への歩道を分ける。天狗滝は後で立ち寄ることにして、車道を直進。関八州見晴台への山道を右に分け、車道終点の広場に着くと、本流の屈曲部に黒山三滝の男滝(おだき)と女滝(めだき)が上下二段になってかかる。落差は10mと5mくらい。観光地の滝なのであまり期待はしていなかったのだが、高く険しい側壁に囲まれ、雨後ということもあって豊富な水を落としており、なかなか見事。これは見に来た甲斐があった。
車道を少し戻り、天狗滝に向かって、右岸の支流(藤原入)沿いの歩道に入る。出合からゴルジュになっていて、奥に天狗滝が見える。岩場に刻まれた階段道を登り、ゴルジュの奥に進む。短い距離だが沢登りの感覚があって面白い。天狗滝は落差10数m。岩壁を割り、水飛沫を上げて流下する。この滝もなかなか良い。
天狗滝の下から左岸の急斜面の歩道をジグザグに登る。小尾根上に出ると東屋がある。天狗滝の落口の脇を進み、男滝・女滝からの道を合わせて藤原入の沢筋に戻る。ここで右に、藤原入を遡って傘杉峠に至る登山道を分けるが、入口に進入禁止の標識がある。大量のスズメバチが確認されたための措置らしい。何時の話?とも思うが、今日は最初から左の、役(えん)の行者を経由する登山道を歩く予定だから問題ない。
左の道に進み、細くなった水流に沿って登る。小さな岩場を越えるとほどなく水が消え、斜面をジグザグに登って尾根上に着く。
杉林に覆われた幅広い尾根をゆるゆると登る。やがて小広い平地に登り着くと「越生町指定有形文化財(彫刻)石造役行者坐像付石像四軀」と記された新しい標柱がある。平地の奥に大岩を積み上げたような小山(築山?)があり、その中程の苔むした岩の上に役の行者や二体の鬼、不動明王の像が祀られている。後日調べると、右の斧を持っている鬼は前鬼(ぜんき)、左の瓶を持っている鬼は後鬼(ごき)といい、役の行者が従えていた夫婦の鬼だそうだ。興味深い。
さらに小山を登るともう一体の石仏があり、最高点には「大平山」の山名標識がある。平坦で樹林に囲まれて展望もなく、あまり山頂らしくない。
踏み跡を辿って尾根上を直進すると、小山を巻いて来た登山道に合流する。登山道は急な左斜面のトラバースに入る。奥武蔵は里山・低山のイメージがあるが、この辺りは山懐が深くて険しい。こういう所もあるので、なかなか侮れない。桟道や手摺りのある山道を登ると、越生町・飯能市境の主稜線に出る。
主稜線を右に折れて北上する。鬱蒼とした杉植林中の尾根道を登ると622m標高点のピークに着く。山と高原地図には大峰山の記載があるが、関東ふれあいの道の道標があるだけで山名標識の類はなく、ここもあまり山頂という感じがしない。
大峰山から尾根道を下ると、小さな登りやベンチを経て傘杉峠に下り着き、奥武蔵グリーンライン(以下、奥武蔵GLと略)に出る。峠から黒山三滝に下る道の入口には、天狗滝上と同様、通行止の標識がある。
車道を横断し、主稜線上の登山道に入る。意外と急で岩場を交えた険しい坂道を登り、ピークの左を巻く。再び奥武蔵GLを横断して登山道に入る。
木の階段道を登り、小ピーク(683m標高点峰)は左から巻く。樹林に覆われた尾根道が続き、展望はない。下りの途中に花立松ノ峠の標識があり、そのすぐ先で奥武蔵GLに出る。右に猿岩林道を分け、そちらの眺めが少し開ける。しばらく奥武蔵GLを歩くが、時折、バイクや自転車が通るくらいで、自動車の通行は少ない。
「←関八州見晴台へ至る」との標柱から尾根道に入ると、あとは関八州見晴台まで登山道が続く。七曲り峠で右に四寸道(しすんみち)を分け、杉植林帯の中を直登。傾斜が緩むと木立が疎になって日差しのある尾根道となり、すぐに関八州見晴台の頂上に着く。
頂上は小広く、高山不動尊奥の院と東屋が建ち、周囲にもベンチが設置されている。老若男女、大勢のハイカーさんが休憩中で、年配ハイカーさんの大人数のグループも居られ、大賑わい。南東方面に展望が開けるが、今日は暖かく、遠方は靄がかかる。その他の方面は樹林に囲まれ、あるいは木の梢が邪魔をして、展望はいまいち。関八州見晴台と銘打つ程の見晴らしはない気がする。しかし、明るく居心地の良い頂で休憩適地。人気の程も頷ける。ベンチに腰掛け、カップ麺の昼食を摂る。
のんびり昼食をとったのち、頂上を辞して下山にかかる。七曲り峠まで戻り、四寸道に入る。主稜線から外れると、ハイカーさんには全く遭わなくなる。
急な山腹をトラバースしたのち、小さな谷に入って、丹念に切られたジグザグ道(七曲り)を下る。途中、岩の上に石仏がある。『新装版奥武蔵登山詳細図』(以下、詳細図)には「隠れ不動」と記載されているが、不動明王像ではなく馬頭観音像で「寛政十戊午(1798)十月吉日」の銘がある。古くは荷馬の往来があったことが窺える。
四寸道は石仏のすぐ先で猿岩林道に下り、しばらく林道を辿って山腹をトラバースする。林道が尾根を回る角から尾根上の山道に復帰する。重機の動く音がするなあと思ったら、尾根上が伐採された工事現場に出た。送電鉄塔撤去工事で使用するヘリポート用地になっているとのこと。設置された迂回路を通り、再び尾根道に入る。
尾根道から、山腹を横切って下る幅広い山道に進む。途中、樹林の切れ間から振り返って、主稜線を見上げることができる。こう見ると、奥武蔵の山もなかなか険しい。すぐに林道に出、「高山街道 四寸道」の道標を見る。林道を約200m辿り、「猿岩山 御嶽山→」の道標のある林道の曲がり角から山道に入る。
幅広い山道に入るとすぐに「猿岩山→」の道標があり、斜め右後ろに山道が分岐する。ピークがあるなら登らなくちゃ、という訳で猿岩山に向かうが、緑鮮やかな低木の間を登ってあっという間に「猿岩山 461m」の標識のある高みに着く。あっけなくて拍子抜け。
そのまま直進して、四寸道に戻る。なだらかな尾根を絡んで幅広い山道を下ると「御嶽山→」の道標があり、左へ尾根通しに踏み跡が分岐する。今度はどんな山頂かしらん。ともあれ、御嶽山にも立ち寄って行こう。
踏み跡を辿ると右から来た山道に合流し、「御嶽山・御嶽神社」の道標に従って左へ山道を辿る。程なく、平坦な小尾根の末端に建つ社殿に着く。ここが御嶽山・御嶽神社だ。社殿の前は岩場となって切れ落ち、展望が開ける。これはなかなかの眺めだ。社殿脇の説明板によると、明治中期から末期にかけて御嶽信仰が盛んになり、この地にも御嶽神社が建立され、この山を御嶽山と呼ぶようになったとのこと。岩場には「藤野一心霊神」と刻まれた石碑がある。ここは興味深いスポットで、訪れることができて良かった。
神社から山道を戻って四寸道に出る。尾根上を進み、山腹のトラバースに入るところで、左上に分岐する踏み跡に入る。短い急坂を上がると、三角点標石のある頂上に着く。『詳細図』には越生駒ヶ岳という惹かれる山名が記載されているが、来てみたら樹林に囲まれて展望皆無。山名標識の類もなく、今日2回目の拍子抜けである😅
頂上の先は急そうなので、登って来た道を四寸道まで引き返して下るが吉。四寸道で越生駒ヶ岳の南面のトラバースに入ると、道が崩落して岩盤が露出している。トラロープが張り渡されているが、崩壊が進んでちゅうぶらりんになり、役に立たない。今日の行程も終盤に差し掛かったところで、今日一番の危ない箇所に出くわす。しかし、ここは注意して通過すれば問題ない。
その後は良い道が続く。越生駒ヶ岳南面の急な山腹をトラバースして下ると、未舗装車道が通る横吹峠に着く。峠から右に下るとすぐに舗装道となり、山村の間をジグザグに下る。行く手の高く尖った山は鼻曲山のようだ。
程なく越辺川沿いの車道に下り着く。ここには火の見下バス停がある。車道を次の神社前バス停まで一区間分(約3分)歩いて、全洞院前駐車場に帰り着く。車は大分減っているが、駐車場の真ん中に駐車があるのを見ると、一時的に満杯になったようだ。
帰りは越生梅林に近い「うめその梅の駅」に立ち寄り、越生うめと越生ゆずのクラフトチューハイを土産に買う。それから、ときがわ町に向かい、比企丘陵の谷津(やつ)の奥にある玉川温泉に日帰り入浴で立ち寄る。昭和レトロな温泉銭湯と銘打っているが、施設自体は新しく、館内外に多数のレトロな物品が展示されている。非常に人気が高く、広い駐車場は多くの車で埋まっているが、浴室は余裕があって、ゆったり浸かれる。湯は強アルカリ泉でぬるぬる。温泉らしくて良い。のんびり浸かったのち、桐生への帰途についた。