畦ヶ丸
GWの後半は横浜の実家に帰省するので、ついでに実家から日帰りで山を歩くことにする。どの山に行くか考えて、西丹沢の畦ヶ丸を思いつく。
畦ヶ丸には1983年に一度登っている。山懐に下棚(しもんたな)と本棚(ほんだな)という二つの大滝を秘め、滝下まで登山道が通じていて、至近から観瀑できる。下棚と本棚が凄い滝だったという印象は強く残っているが、畦ヶ丸がどんな山だったか、大昔の山行なので、ほとんど記憶に残っていない。下棚と本棚はまた見てみたい、という訳で、前回と同じルートで畦ヶ丸に登ってきました。
未明に実家を車で出発。東名を大井松田ICで降り、R246、県道山北藤野線を走って、箒杉公園の駐車場に車を置く。早朝なので、ここまで渋滞なし。駐車場にも他の車はない。
箒杉から西丹沢ビジターセンター(以下、西丹沢VC)まで県道を歩く。300m程進んだところにも観光客用駐車場(40台)がある。こちらも駐車なし。さらに進んで箒沢公園橋を通過。石棚山稜を経て檜洞丸に至る登山道を分ける。檜洞丸も大昔に一度登ったきりだ。再訪したい。
西丹沢VCに到着。VC近くの駐車場は早朝にもかかわらず満車となっている。VCのWCをお借りしたのち、河内川に架かる吊り橋(西丹沢公園橋)を渡って、畦ヶ丸への登山道に入る。橋の上から上流の河原のオートキャンプ場を眺めると、10数張のテントがある。まだ数が少なくて、キャンプの人出はこれからのようだ。
登山道は西沢に沿って進む。大きな石積みの砂防堰堤があり、左から階段で越える。堰堤の上流側は土石が堆積して広い河原となっている。木橋で沢を渡り、次の砂防堰堤を越える。以降、沢を木橋で何度も左右に渡り返しながら遡って行く。木橋が流失して、飛び石伝いに流れを渡る箇所もある。
ベンチのある広場を過ぎると、程なく下棚沢出合に着く。左の下棚沢に入るとV字の深い谷となり、右の岩壁から豊富な水を落とす大滝が現れる。これが下棚だ。つるつるで逆層の岩壁を水が幾筋にも分かれて滑り落ち、優美かつ悪絶な滝だ。
出合に戻って本流を遡ると10分程で本棚沢出合に着く。本棚沢に入るとこちらもV字の深い谷で、沢沿いの岩場をトラバースして進むと、左の岩壁の見上げるような高さから水を落とす本棚が現れる。落ち口から小さくジャンプした水が水飛沫となり、陽光を浴びて岩壁を流れ落ちる。豪壮かつ開放的で明るい滝だ。右の岩壁にも水量が少ない滝がかかる。こちらの滝もかなり落差がある。
出合に戻り、畦ヶ丸に向かう。尾根の鼻をジグザグに登り、しばらくガレ沢の中を歩く。切り返して左岸の山腹を斜めに登り、小尾根の上に出る。ベンチを過ぎるとアセビの群落があり、たわわに花が咲いて、良い香りを放つ。
登山道は涸れ沢を渡り、左岸の山腹をトラバースして進む。最近、雨が降ったからか、道端の苔が瑞々しい。細々と水流のある沢を渡ると小尾根に取り付いて、一直線に登る。途中、シロヤシオの木があり、一輪だけ咲いていた。そう言えば、今年はアカヤシオを見ていない。今年は裏年でいまいちの咲き具合だったようだが、シロヤシオはどうだろうか。
山腹をトラバースし、少し下った小鞍部が善六ノタワだ。両側はザレた沢の源頭で抉られ、鞍部では道幅が稜線の幅となっている。水を飲んで一休み。樹林を透かして北方を窺うと新緑に覆われた甲相国境稜線が長々と横たわり、奥山の雰囲気が感じられる。
畦ヶ丸へは尾根道を辿る。小ギャップから急坂を階段で上がると、あとはなだらかな尾根道が続く。ブナなどの樹林の新緑が美しい。展望はほとんど得られないが、木の間から甲相国境稜線に一際高い大室山が眺められる。また、1148m標高点を過ぎたあたりから、ブナの木立を透かして行く手に意外と尖った山容の畦ヶ丸を高々と仰ぐ。
ところどころに階段道を交えて、一直線上に尾根道を登ると、数組のハイカーさんが憩う畦ヶ丸の頂上に着く。頂上はブナやアセビの樹林に囲まれて展望はない。三角点標石や山名標柱、ベンチの他、「畦ヶ丸 白石峠補修記念碑」の石碑がある。ベンチの一つに腰掛けて昼食休憩とし、パンを齧る。
昼食後、下山にかかる。頂上から短い急坂を下り、西峰に登り返す。西峰には畦ヶ丸避難小屋が建つ。この小屋は真新しく綺麗でWCも完備。素晴らしいので、一度泊まってみたい(非常時のための施設であり、計画的な利用は控える建前となっている)。
甲相国境稜線のモロクボ沢の頭への道を北西に分け、南下する尾根道に入る。急坂で階段道が続く。行く手に残雪を頂く富士山を遠望する。木の間からの眺めなのが少々惜しい。
途中、崩壊して階段道が流失した箇所があり、迂回道で通過。一直線に尾根道を下って行くと、左斜面は新緑の雑木林、右斜面は檜植林地となる。坂道の途中、ベンチと道標のある地点が大滝峠上で、ここで登山道は左折して尾根を離れる。尾根を直進する道もあり、屛風岩山に至るが、間違えないようにロープで通せんぼされている。
東海自然歩道のルート図もあり、それによると、かつてはここから畦ヶ丸の南西面をトラバースして信玄平に至るルートだったが、水害で荒廃したため、1992年に畦ヶ丸を経由する新ルートに変更されたとのこと。そう言えば、旧ルートは古いガイド本で見たことがある。旧ルートの入口を覗いてみたが、道型の痕跡もなく、全くの廃道のようである。
一休みしたのち、尾根から離れて登山道を下る。急斜面をジグザグに下り、小尾根に乗って緩く下る。道標で左折して小尾根から左に下り、細い水流のあるステタロー沢に着く。
沢に沿い、何度か左右に沢を渡ると日当たりの良い平地があり、ミツマタが群生している。さすがに花は終わって実がついており、新緑が芽吹いている。ところどころに綺麗な滑床のある沢に沿ってさらに下ると、鬼石沢との出合の台地に一軒家避難小屋が建つ。この避難小屋は少し古びてWCもないが、居心地は良さそうだ。
登山道は沢の左岸沿いに下り、左折して小尾根を乗り越す。後日、前回の山行記録を読み返すと、前回はここで沢沿いに直進し、難路だが地獄棚沢の出合に降りて、地獄棚を見ている(近くに雨棚も有)。今回、地獄棚の存在は忘れていて見逃した。見てみたかったな。
小尾根を乗り越した登山道は、急峻な山腹をトラバースする。ここは谷底が見えない程、高度があり、滑落したらお陀仏。注意して進む。
やがて、ジグザグを切って急斜面を下り、マスキ嵐沢に着く。再び沢沿いの道となり、大滝沢の本流に合流。本流は水量を増し、滑滝や砂防堰堤が連続する。程なく、未舗装の作業道の終点に着く。近くの林間ではボーイスカウトがキャンプを楽しんでいる。
作業道を辿るとすぐに簡易舗装の車道に出、白い巨石が山積する大滝沢の渓流に沿って車道を下る。途中にゲート有り。県道の大滝橋の袂に下り着く。大滝橋のすぐ下にはキャンプ場があり、見おろすと、ぼつぼつお客さんが来ているようである。
あとは県道を歩いて箒杉に戻る。新箒沢隧道を抜け、真夏のような日差しが照り付ける車道を歩く。程なく行く手に黒々と巨大な箒杉が見えてきて、箒杉駐車場に帰着する。駐車が増えていて、8割方埋まっていた。帰途はまだ早い時間帯だったおかげもあり、大した渋滞もなく順調に実家に帰り着いた。