武尊山

天気:のち
メンバー:T
行程:川場野営場 5:45 …不動岳・前武尊分岐 6:15 …旭小屋分岐 6:45 …不動岳 7:40〜7:55 …前武尊(2040m) 9:20〜9:30 …家ノ串山(2103m) 10:30 …中ノ岳南の分岐 11:10 …武尊山(2158m) 11:50〜12:25 …中ノ岳南の分岐 13:00 …家ノ串山 13:20 …前武尊 14:30 …スキー場分岐 15:10 …不動岳・前武尊分岐 16:10 …川場野営場 16:30
ルート地図 GPSのログ(赤:往路、青:復路)を地理院地図に重ねて表示します。

桐生を深夜に車で出発。コンビニで朝食のパンとペットボトル飲料を買い入れ、R122、県道沼田大間々線、県道平川横塚線(奥利根ゆけむり街道)を走る。途中、川場田園プラザで休憩して、朝食を摂る。駐車場に車中泊のキャンピングカーが多いのは、お盆休みが始まったせいだろうか。

さらに奥利根ゆけむり街道を走って薄根川の渓谷を遡り、「←川場谷野営場」の標識で左折。未舗装の林道で谷間に分け入り、野営場(=駐車場)に車を置く。ここには一度、山田昇記念杯登山競争大会に参加した際、ここがスタート地点だったので、来たことがあるのだが、こんな場所だったっけ。大昔のせいか記憶がない。車が数台、テントが数張。とても空いている。ここでキャンプするのも良いかも。

と思ったが、車から外に出ると、とたんにアブの大群に襲われる。野趣に富み過ぎのキャンプ場であった。もう日の出の時刻を疾うに過ぎているが、厚い雲に覆われて山の上の方は見えない。まあ、今日は晴れの予報が出ているから、天気はおいおい良くなるだろう。

川場野営場
最初は幅広い道

今日はここから不動岳経由で前武尊に登り、武尊山(沖武尊)を往復したのち、天狗尾根を下って戻ってくる計画である。コースタイムが9時間半の長丁場なので、ゆっくりなペースで歩き出す。最初は荒れた林道を歩く。5分程で林道終点となり、薄暗い林間の山道に入る。相変わらずアブに付き纏われる。途中、下って来る二人組男性ハイカーさんに遭う。アブが多くて撤退するとのこと。確かにアブには辟易するが、撤退する程ではないかな。

まだ薄暗い林間の山道を辿る
不動岳・前武尊分岐

程なく「←不動岳2.1km 前武尊2.5km→」の道標のある分岐に着く。復路は右の道を下って来る予定。左の道を進み、水量は少ないが清冽な荒山沢を渡り、右岸の山腹に取り付いて急登する。ササが綺麗に刈り払われ、良く整備された登山道が続く。

荒山沢を渡る
刈り払いされた登山道を登る

標高が上がるとクロベ等の針葉樹林に入る。林床にはシダ類が多い。まだ晴れ間は見えず、白い霧に包まれて登る。しばし急登して川場尾根上に登り着き、旭小屋からの登山道を左から合わせる。

根曲がりしたクロベ
川場尾根に登り着く

ここからは針葉樹林に覆われた尾根道を登る。アブはほとんど居なくなった。最初はなだらかだが、徐々に傾斜が増し、大岩を巻いたりして登る。ガスが少し上がって、行く手のピークが薄らと姿を現す。

川場尾根を登る
行く手にピークを望む

岩稜を通過し、急坂を登って不動岳の狭い肩に着く。右に不動岳の巻道を分け、左に僅かに登ると「不動岩 群馬修験」の標識が立木に架けられ、すぐ先が不動岳頂上となる。

岩稜を通過
不動岳頂上

頂上は三方が切れ落ちた岩峰で、その天辺には怖くて立てない。天辺の左を巻いて鎖が張られており、その先は右の岩壁に垂れる鎖場に続いている。鎖の先は絶壁となり、その下端は見えない。ヒエッ、恐っろしー。この鎖場は降りず、巻道を行こう。

天辺直下の岩壁には小さな窪みがあり、中に不動様の銅像が祀られている。良く見ると、不動様の足元に百円玉が1枚置かれている。お賽銭をお供えするのも、命懸けな気がする。

ガスが去来して、この先の岩峰が見え隠れする。次は壮絶な一枚岩の大岩峰で、とても登って越えられるようには見えないし、巻くにしても遥か下まで岩壁で、どこをどう通るのやら。これは気合を入れて臨まねばなるまい。ゆっくり休憩したのち、リスタートする。

不動岳から行く手の岩峰群を望む
不動岳の鎖場
(画像クリックで拡大表示)

巻道に入るとすぐに鎖場の下りがある。岩はつるつるで足場が覚束無く、鎖が濡れて両手で強く握らないと滑る。ここは注意して降りれたが、この先どうなるか。不安がよぎる。

頂上から垂れる鎖場の下端を過ぎ、次の岩峰を見上げつつ、鞍部に向かって下る。急坂に鎖が張られているが、ここは問題ない。

巻道の鎖場を下る
次の岩峰を仰ぐ

鞍部から岩峰の基部に沿って右に下ると、岩壁をトラバースする鎖場が現れる。鎖場の下も切れ落ち、鎖が中空にブラブラしているように見えるが、取り付いてみれば足場がある。なんとか通過して岩場に攀じ登ると、次の鎖場が現れる。こ、これは凄い😱

ほとんど垂直な岩壁を斜上して鎖が張られ、足場になるのか、金属棒が疎らに設置されている。その先は、岩壁にへばりついて生える樹木を挟んで、二手に分かれて鎖が上に延びる。これまでに経験した鎖場の中でも、見た目のスケール感、威圧感はピカイチかも。

岩峰の基部を鎖場で横断
鎖場が連続する
(画像クリックで拡大表示)

まず、鎖場を斜上。ここは鎖が良く乾いていて助かる。鎖の分岐は左へ。鎖と木の根を頼りに岩壁を直上する。木の根と言っても、しっかりと根を張っている訳ではなくて、危なっかしい。鎖場を登り上げると、反対側はすぐに下りの鎖場だ。ルンゼ状で岩が滑り易く、足の置き場に苦労する。最後はほとんどずり落ちるようにして岩壁の基部に下り着く。いやー、強烈な鎖場だった。無事に通過できて、ホッと息をつく。

鎖と立木で直上
反対側の鎖場を下って
振り返る

この先に難所はない。次のピークに登る途中で振り返ると、岩峰と不動岳が眺められる。ピークの頂上は岩場で「角田藤川霊神」と刻まれた石標が建つ。スラブ状の右斜面の下を降りると木立に「修験道相撲の場」の標識が架かり、木陰に涼しい風が吹き抜ける小鞍部となる。ここで一休み。休憩中、後続の単独行ハイカーさんに追い越される。

岩峰と不動岳(奥)を振り返る
スラブをトラバース

あとは前武尊へ、一定斜度で直線的な登りとなる。丈の高い笹原が広がり始めると、三角点標石と屋根の下に日本武尊の大きな銅像が祀られる前武尊頂上に着く。ここで休憩とするが、腰掛けているとアブに集られて鬱陶しいことこの上ない。頂上の南斜面は笹原となり、晴れれば眺めが開けそうだが、まだガスに閉ざされて何も見えない。

樹林帯を一直線に登る
前武尊頂上

ここから沖武尊は往復4時間。先は長い。前武尊までの登りで結構疲れて、歩き応え十分な感じなので、すぐに下山しようかという気にもなったが、ここは初志貫徹、沖武尊に向かう。これから天気が良くなるだろうし、そうなれば稜線からの大展望が期待できる。

前武尊から樹林帯の尾根を緩く下る。剣ヶ峰は東斜面の巻道で通過する。笹原を綺麗に切り開いた道だが、外傾して一部歩きにくい。岩壁の基部を横切って稜線に復帰し、「剣ヶ峰岩峰群の鞍部」記された道標のある鞍部に着く。ここで水を飲んで一休み。ここから剣ヶ峰北峰を越えて稜線を伝うルートもあるが、体力を温存したいので、西面の巻道を使う。岩壁の基部を進み、振り返れば険しい岩峰が高々と聳えて見える。あれを越えるのはやはり大変そうだ。

剣ヶ峰南峰は東斜面を巻く
剣ヶ峰岩峰群の鞍部
剣ヶ峰北峰は西斜面を巻く
振り返って北峰を仰ぐ
家ノ串山が見えてきた

剣ヶ峰北峰を巻き終わり、稜線に戻って、東斜面に笹原が広がる家ノ串山の登りに取り付く。だんだんガスが上がって、左に川場谷を隔てて剣ヶ峰山が姿を現す。陽も射してきて、木陰のない登りは暑さが応える。登り着いた家ノ串山山頂は笹原と樹林に囲まれた地味な頂だが、小広く、丸太の腰掛けもあって休憩適地。腰を下ろし、シャリバテ気味なのでアミノバイタルを服用する。

家ノ串山への登り
家ノ串山頂上

家ノ串山からの下りは尾根が痩せて岩稜が現れる。固定ロープが張られた箇所もあるが問題ない。行く手のガスが晴れると中ノ岳が現れ、その右に続くセビオス岳のゆったりとした尾根も見える。あちらの尾根は、前回の武尊山登頂で歩いたコースだから懐かしい。尾根を緩く登って中ノ岳南の分岐に着き、セビオス岳からのコースとここで合流する。やれやれ、ここでも一休み。沖武尊まであと35分。ようやく先の目処が付いてきた。

岩尾根を下る
固定ロープで下る
中ノ岳を目指して登る
中ノ岳南の分岐

ここから稜線の南面に広がる笹原をトラバースする。青空が広がり始め、景色も映えるようになって気分が良い。すぐに笹清水に着き、塩ビのパイプからチロチロと流れ出る水をコップで受けて3杯飲む。冷たくて、本当に生き返る心地がして、有難い。

稜線南面の笹原をトラバース
笹清水

登山道は細長い窪地に水が溜まった三ッ池に沿って進む。雲が取れ、行く手には沖武尊の山頂も見えてきて、高山らしい景観だ。

鳳の池(三ッ池のひとつ)
三ッ池から沖武尊(奥)を望む

笹原の短い坂を登ると、日本武尊の銅像が建つ。ここから僅かな距離と登りで、沖武尊の頂上に到着する。

笹斜面を登る
日本武尊の銅像
銅像のピークから沖武尊を望む
武尊山(沖武尊)頂上

頂上にはハイカーさん3、4組が休憩中。晴天の日本百名山の頂にしては意外と少ない。もっと高い山に出かける人が多いのだろう。腹が減ったので昼食とする。まずは鶏レバー缶詰を肴に缶ビールを飲む。今日は暑いから🍺が最高。それからカップ麺の味噌ラーメンを作って食べる。

腹が満ちたところで、周囲の大景観に目を向ける。南は川場谷の源頭で笹斜面が広がる。なだらかな尾根の先には剣ヶ峰山のピークがツンと尖って聳える。あちらのコース(高手新道)は登山競争大会で下ったが、女子高生と競って負けたくらいしか記憶にない😅。紅葉の時期か残雪期にじっくり歩いてみようと思う。

沖武尊から剣ヶ峰山を望む
キオン

東には武尊山の主稜線が大きく弧を描いて延び、中ノ岳や家ノ串山、剣ヶ峰のピークを連ねる。前武尊は剣ヶ峰に隠れているようだ。それにしても素晴らしい山岳景観で、武尊山に登ること4度目で初めて見ることができた。

西から北にかけては灌木の梢越しとなるが、県北の山々を遠望する。雲がかかって一部の山しか判らなかったが、平ヶ岳や至仏山が視認できた。

沖武尊から中ノ岳
家ノ串山、剣ヶ峰を望む
沖武尊から平ヶ岳、至仏山を遠望

山頂で十分に休息を取り、展望も堪能した。下山にかかる。前武尊までは往路を戻る。笹清水で再び冷たい水を飲み、中ノ岳南の分岐で一休み。

往路を戻る
三ッ池への下り
中ノ岳南の分岐

ゆるゆると稜線を下る。行く手に家ノ串山が盛り上がり、ルートの岩尾根が見える。家ノ串山の登りで振り返ると、沖武尊と中ノ岳がくっきりと眺められる。稜線と源頭斜面を覆う笹原が美しい。夏山らしいねえ。

家ノ串山と右奥に剣ヶ峰を望む
沖武尊(左奥)と中ノ岳を振り返る

家ノ串山頂上で一休みして、剣ヶ峰に向かう。剣ヶ峰の左に前武尊が見えて元気が出る。剣ヶ峰北峰は復路も巻き、鞍部でまた一休み。剣ヶ峰東面の巻道を辿り、樹林帯の尾根を緩く登って前武尊頂上に戻り着く。あとは下りだけだ。朝方に比べると何故かアブの数が減っていて、落ち着いて休める。アブも日中の暑い時間帯はお休みらしい。靄っているが展望も得られ、山麓の山林や片品川辺りの耕地が俯瞰できる。

剣ヶ峰と左奥に前武尊を望む
剣ヶ峰の巻道から前武尊を望む
前武尊頂上
天狗尾根を下る

前武尊からは、往路の不動岳の道を右に分けて、左の天狗尾根の道を下る。ほぼ一直線状にグングン急降下する。こちらも山岳信仰の道らしく、途中には石仏が二体ある。

途中の石仏(1)
途中の石仏(2)

二体目の石仏のすぐ先で、左下にオグナほたかスキー場のリフト山頂の降り場を見る。夏草に覆われたゲレンデの斜面を横目に下ると「天狗尾根・スキー場への分岐」と記された道標があり、左にスキー場経由の登山道を分ける。

オグナほたかスキー場
リフト山頂
スキー場分岐

天狗尾根を直進。しばらくゆるゆるだらだらと尾根上の道を辿り、それから右折して荒山沢の谷底に向かって下り始める。木の間から谷を隔てた向こうの尾根に不動岳と岩峰のスカイラインを望む。今日はあのギザギザをよく歩いた。

天狗尾根から右折して下る
不動岳を望む

樹林帯を急降下し、ようやく不動岳・前武尊分岐に着く。あとは渓谷に沿って緩く下って、野営場に帰着。久し振りに10時間超えの山行で疲れたが、鎖場のスリルと稜線からの大展望を堪能して、満足感は半端ない。野営場には2、3組のキャンパーが居て、焚き火を起こしたり、テントを張ったりしている。涼しくなったからか、アブも活発化。急いでザックを車内に放り込み、登山靴をスポーツサンダルに履き替えて、車を発進させる。

谷に向かってどんどん下る
不動岳・前武尊分岐
オオハンゴンソウ
川場野営場に帰着

途中、小住(こじゅう)に立ち寄る。ここは千貫峠〜高岩の山行で立ち寄って以来、2回目の訪問。薄根川の渓流を車幅ギリギリの狭い橋で渡った対岸にある一軒家で日帰り専門の温泉だ(750円)。空いていて、湯船にゆったり浸かる。温めでヌルヌルする肌触りの泉質が気持ち良い。汗を流してさっぱりしたのち、桐生への帰途についた。