独鈷山
この週末は日曜日の長野県で晴れの予報。桐生からアクセスしやすい東信の山に登ろうと考えて、塩田平(しおだだいら)の南に岩峰や岩壁を擁して聳える独鈷山(とっこざん)を思い付く。独鈷山には南面の宮沢コースから登ったことがある(山行記録)が、北麓の塩田平から登ったことはない。北面のコースの方がより険しく変化に富んでいるそうで、興味を惹かれる。と言う訳で、塩田平から西前山コースを登り、沢山湖(さやまこ)コースを下って周回する計画を立てて、出かけてきました。
桐生を早朝、車で出発。上信越道を上田菅平ICで降り、千曲川を渡って、田園が広がる塩田平を緩く上がる。予報に反して薄雲が広がる天気だが、高曇りで周囲の山々が見渡せるのは幸い。ギザギザの稜線を連ね、低山ながら峻険で風格のある独鈷山も良く見える。
独鈷山の山裾にある「塩田の郷マレットゴルフ場」の駐車場に車を置く。100台分はありそうな広い駐車場だが、1/3位埋まっていて、さらに続々と車が来る。独鈷山前衛の岩峰を背景として広がる斜面にゴルフコースが設けられ、既に大勢のお年寄りがプレーに興じている。予想外の賑わいにビックリ。念の為、管理棟の受付で駐車の許可を得る。
マレットゴルフについて:私は全く知らなかったが、昭和52年に福井県で考案され、長野県を初めとして普及した生涯スポーツだそうである。
マレットゴルフ場の前の車道を東に進むと、すぐに「独鈷山登山口」の大きな標柱と案内看板のある十字路に着く。側には東西を向いた大きな鳥居が立つ。どこに神社があるのだろう(後日調べると、さらに東へ約300mの所に在る塩野神社の鳥居だそうである)。
十字路から集落の間の車道を登り、中禅寺と沢山湖を結ぶウォーキングコースを横切って、山間に向かう。途中に虚空蔵堂がある。立派で重そうな屋根と、左右に三体ずつ並ぶお地蔵さんが被って居られるニット帽が真っ赤で印象的だ。
未舗装道を上がると頑丈な防獣柵が現れ、『信州山歩き地図』の独鈷山の案内看板が建つ。登山者専用の出入口があり、柵を通過。滝の沢沿い幅広い山道を登り、急峻な山肌に囲まれてV字に狭まった谷間に入って行く。谷は杉林に覆われて薄暗く、ヒンヤリと冷気に包まれる。Tシャツ1枚で歩いていると、ちょっと肌寒い。
「頂上まであと90分」の標識のある小平地に着く。他に「独鈷山古城・前門趾」の説明プレートがあり、それによると、鎌倉時代初期の泉親衡の乱で築かれた独鈷山城の前門がこの地にあったらしい。また、沢山湖コースにも塩田殿閑居古城という山城址があるとのこと。なるほど。
石灯籠の火袋らしい石造物があり、その奥に不動の滝が水を落とす。苔むした大岩の間を割って流れる小滝で、まあこんなものかという感じ。
右下に杉林越しに渓流をチラ見ながら、右岸をゆるゆる斜上する。途中、出水で路盤がザックリ流出した所があり、左から迂回する。少し先に先行ハイカーさんを見る。
「鉄城山新登山道」の説明プレートがあり、微かな踏み跡を右に分ける。これは雨首、鉄城山を経て西前山登山道に合流するサブコースで、ロープの使用を勧めるとのこと。
谷はこの先でいくつかの細い流れに分かれ、登山道はその間を登る。転石を覆う苔が瑞々しく美しい。出水で抉れた枯れ沢に沿って登ると、林床にシダが繁るカラマツ林となり、先っちょに注連縄の輪を冠した岩と「頂上まであと70分」の標識が現れる。何でこの岩が祀られているかは全く知らないが、多分、形がアレだからだな😅
登山道はここから急斜面をジグザグに登り始め、檜植林帯を抜けると、新緑が美しい雑木林に入る。先行していたハイカーさんを途中で追い越し、「頂上まであと40分」の標識を過ぎると、程なく稜線に登り着く。
登山道はそのまま稜線を乗り越すと、岩場の多い稜線の右を絡んで登る。「頂上まであと30分」の道標で左折して稜線上に戻り、松の生えた痩せ尾根を辿る。やがて、急峻なピークに突き当たり、右から巻いて取り付く。固定ロープ、木の根、岩角を摑んで急登すると、だるま岩の上手の鞍部に着く。ここには「頂上まであと20分」の標識がある。
だるま岩の右脇をすり抜けると岩場の先端に出て、山麓の西前山を俯瞰する眺めが良い。足元は登って来た滝の沢の谷へ急角度で切れ落ち、右岸尾根の岩峰を見おろす。
登山道に戻って稜線上を進む。少し先にも展望の良い岩場がある。滝の沢左岸尾根の直下が帯状の大岩壁となっているのが眺められる。北には塩田平の畑地や溜池群、別所温泉の市街を一望し、戸隠連峰や高妻山、まだ豊富な雪を頂く火打山や妙高山を遠望する。目を東に転じると、独鈷山の北東尾根上に高ボッチ(1104m標高点)や安曽岡山のピークがあり、その向こうに四阿山から浅間山にかけてのスカイラインがくっきり浮かぶ。
西にも展望が開け、端正な三角形の山容が目を引く大明神岳(1232m)を前景、のっそりとした稜線を長々と連ねる滝山連峰を中景にして、白銀の槍穂高連峰を遠望する。
展望地から痩せ尾根を進み、固定ロープが張られた小ピークを越えると広くなだらかな尾根となり、程なく独鈷山頂上直下の広場に着く。「頂上まであと3分」の標識があり、短い急坂をジグザグに登って、すぐに独鈷山の頂上に着く。
頂上の中央には枝を広げた1本の松の木が生え、その根元に木の祠(中に猪の彫像を祀る)や石祠、三角点標石がある。年配3人組のハイカーさんが昼食休憩中で、山談義で盛り上がって居られる。時刻はまだ11時前だが、朝食を早くに取ったので腹減った。涼しいのでビールを飲むのは止め、お湯を沸かしてカップ麺(COOP醬油ラーメン鶏だししょうゆ味)を作って食べる。これはなかなか美味い。
頂上からの眺めは、一部樹林で遮られるが、ほぼ360度で素晴らしい。塩田平を一望し、その右には浅間連峰が連なり、優美に山裾を広げる蓼科山、さらに霧ヶ峰を経て、平坦な頂上稜線を長々と連ねる美ヶ原へとスカイラインが展開する。
頂上付近にはレンゲスミレやズミの株がある。一部咲き始めているが大半が蕾で、もう少しで見頃になりそうだ。展望を楽しんで一休みしたのち、まだまだ山談義中のハイカーさんに、お先に、と告げて山頂を辞す。
頂上直下の広場に戻り、宮沢コースを下って直ぐで右に分岐する沢山湖コースに入る。稜線を巻いて直下の急斜面をトラバースし、踏み跡はか細く、野趣に富む登山道だ。なかなか宜しい。
稜線上に復帰し、新緑の雑木林に覆われた尾根道を小さく上下しつつ辿る。表面にボコボコと多数のくぼみのある大岩があちらこちらにニョキニョキと突き立つ。岩質は脆く剝がれ易い(後日調べると凝灰岩らしい)。
「沢山湖→」の標識のある大岩が現れ、奥の岩場を固定ロープで登る。岩頭の展望地があり、南面の眺めが得られる。北面ほどではないが、こちらもなかなか険しい。
なおもグネグネと小さくうねる痩せ尾根が続き、どんどん高度を下げる。やがて三段積みの大岩が現れ、左斜面をトラバースして巻く。
痩せ尾根を下って小さな鞍部に差し掛かると、尾根上を直進できないように木の間にロープが張り渡され、「この先は登山道ではありません」と書かれた看板が現れる。登山道はここから右の沢に下るようだ。
ふと、左斜面の少し下の木に、古ぼけた木札が架かっているのに気づく。何だろうと思って木札に近づくと「塩田殿閑居所跡」と書いてある。ここが往路の説明プレートに記されていたもう一つの山城址のようだ。
右の沢(西前山登山口の案内地図によると「仏の沢」)の下り口の道標は文字が掠れ、かろうじて「登山道 沢山湖→」と読める。沢の源頭の斜面を下って「頂上まであと80分」の標識を過ぎ、抉れて水流のない沢に下り着く。あとは沢沿いに下る。道端には実をつけたフタリシズカや、まだ蕾をつけていないハシリドコロが青々と葉を繁らせている。
やがて水流が現れ、苔むした転石の多い沢沿いの道となる。新緑が綺麗で雰囲気は良いが、同じような風景が続いて、いささか長く感じて来る。一箇所、水流で道が抉れた所があり、大岩の左から迂回する。
やがて右岸の高い所をトラバースすると沢山湖コースの終点は近い。最後に坂を下って、舗装道(林道沢山線)に出る。この地点には「独鈷山登山口」の道標がある。
あとは林道を右へ辿って、出発地のマレットゴルフ場に戻るだけが、左に行けば約100m先が沢山湖だ。すぐそこなので立ち寄ってみよう。このほんの僅かの距離が、赤白の車止めで封鎖されて全面通行止になっている。この区間は高い岩壁を削って通っており、路面には大きな石が多数落ちている。頭上注意。岩壁の基部には殉職碑があり、余計に怖い。
沢山湖のダム堤頂に着くと、ダムは工事中で水が抜かれて湖は空っぽ。取水口の鉄塔やインクラインが丸見えで、これはこれで貴重な物が見られた。振り返ると独鈷山の急峻な岩尾根や谷(西前山登山口の案内地図によると「モトキの沢」)が伸し掛かるように聳え立ち、西前山から仰ぐ独鈷山に勝るとも劣らない景観を見せている。これは素晴らしい。
沢山湖登山口に戻り、産川(さんがわ)の渓谷に沿って林道を下る。この辺りは深山幽谷の雰囲気がある。途中に鞍ヶ淵という所があり、これも立ち寄って見る。園地から歩道で産川に下ると、独鈷山から落下したと称する二つの大岩が折り重なり、その間から川が流れ出ている。上流のダムで工事中のためか水が濁り、土砂も堆積していて、現在はちょっと残念な状況になっている。園地や歩道は整備されているが、訪れる人は稀な感がある。
さらに車道を辿る。途中に「信州の鎌倉遊歩道」の道標がある。程なく谷が開けて、塩田平の一角に出る。産川に架かる橋の袂に石仏がある。説明板によると一光三尊の馬頭観世音菩薩で、一つの光背に三体の観音様が半肉彫で表され、中央は一面二臂、両脇は三面八臂で右手に宝斧と宝剣、左手に宝輪と宝棒を持つという、珍しい形の石仏だそうである。確かにそうなっていて、大変興味深い。
広い車道を少し登って、マレットゴルフ場に帰り着く。駐車はだいぶ減っていたが、ゴルフコースではまだ大勢のお年寄りがプレーを楽しんでいる。お元気でなによりである。
帰りはまず別所温泉外湯の大湯に立ち寄るが、残念ながら無料駐車場が満杯。まあ、休日はそうなるよね。次に別所温泉駅前の「あいそめの湯」に立ち寄る(500円)。こちらは駐車場も浴室も余裕あり。ゆったり湯船に浸かったのち、まだ明るいうちに桐生への帰途についた。