小倉山観音院〜吾妻山
関東甲信は梅雨の真っ只中。この土曜日もだいたいのところで雨の予報だが、桐生は曇りの予報。土曜日の朝、自宅から空模様を眺めてみると、低く垂れ込めた雲が吾妻山を巻いていたが、昼前には雲の底が上がって、吾妻山の稜線が見えてきた。予報通り、雨は降らなさそうだ。吾妻山を眺めて思い出したが、吾妻山の南西尾根の末端部分は歩いたことがない。遠出する元気が出る天気ではないが、地元の未踏のコースを歩くには良い機会かも。と言う訳で、運動不足の解消も兼ねて、軽く歩いてきました。
トレランシューズ+布製ザックという軽装で自宅から歩き出す。市街を横断して上毛電鉄西桐生駅まで来ると、昼間30分間隔の上り列車の発時刻に間に合いそうだ。乗っても次の丸山下駅まで1駅(180円)の僅かな距離だが、タイミングがドンピシャなので乗車する。乗客は大半が中高の学生さん。2両編成の後ろの車両は自転車持ち込み可(持込料無料)で、そちらも含めて結構利用者が多い。蒸し暑い天気なので、車内は冷房が効いている。
丸山下駅は無人駅なので、運転手に切符を手渡しして降車する。山の端の路地を西に進み、一旦、県道川内堤線まで歩いて、コンビニで昼食のパンとペットボトルのお茶1ℓを調達。少し戻って、聖フランシスコ修道院と青葉台の住宅地への坂道に入る。坂道の途中に修道院の正門がある。敷地内には綺麗な緑の斜面が広がり、奥にクリーム色の建屋がある。中に入って、散歩や礼拝は自由にできるようだ。
修道院正門のすぐ横の道端に「命名桐生市青葉台」の石碑がある。銘文によると昭和48(1973)年に竣工したようだ。施主、設計管理、施工の会社名の他、福田赳夫の銘もある。後日調べると、当時は田中角栄内閣の閣僚で、数年後に総理大臣になっている。脱俗の境地の最たる修道院の隣に、権勢を誇るかのような石碑が建っている訳で、ちょっと興味を引かれる。ちなみに聖フランシスコ修道院は昭和30(1955)年献堂とのこと。
斜面を利用して造成された高級住宅街の中、大きくジグザグを切って急な坂道が続く。標高が上がり、見晴らしが素晴らしくて高級感が増す。しかし、そのつもりも財力もないが、もし私がここに住んだら、日々の買い物までマイカー頼りになって足腰弱りそうだなあ、などと勝手な感想を抱きつつ登る。
住宅地最上部の車道に達すると擁壁の間に切り通しがあり、「この先川内町方面に至る390mの区間は幅員が狭く転落のおそれがあるので「車両通行止」とします」との看板標識が建つ。
切り通しの奥から左の高みに登ると、樹林とボサボサの笹藪の中に三角点標石(標高203m、点名:西堤)を見出す。展望は全くない。標石の先には擁壁で一段下がった広場があり、そこからは眺めが良いのか、タープが張られてビーチチェアが残置されている。
川内町に向かう前に、青葉台の吾妻山登山口を見ておこう。最上部の車道を北東に向かう。ここからの眺望は一番良くて、雨降りで増水中の渡良瀬川や、桐生市街、丸山、八王子丘陵を一望する。登山口は水道施設の下にあり、夏草が茂っているが、良い道が奥に続いている。なお、登山口周辺は緊急車両出入口のため、駐車禁止になっている。
切り通しに戻って川内町へ車道を下る。車道というか舗装された遊歩道で、車が通れる道ではない。薄暗くてジメジメした森林に覆われ、道端には猛毒のキノコや食べられる(が怖いから手が出せない)キノコが出ている。短い距離だが山道の散歩を楽しむと、小さな谷間のY字路に出る。右は小倉山観音院に通じ、左は県道川内堤線に出る。
県道沿いに石塔があるそうなので、見学に立ち寄る。途中の谷筋には夥しい量の粗大ゴミが廃棄され、雰囲気の良い山道を歩いて来たあとに、かなりガッカリさせられる。石塔には、六角柱の塔、「奉納百番供養塔 宝暦四天甲戌(1754年)」の銘のあるもの、2基の無縫塔がある。後日調べると、百番供養塔とは、計100ヶ所の観音霊場を巡拝した記念に建てられるものだそうだ。
Y字路に戻って、小倉山観音院に向かう。緑深い谷を抜けると、突然、広大な伐採地に出て、正面の尾根に長い石段が続いている。道標があり、直進は「小倉山観音院 吾妻山 1.9km」、左は「吾妻山 1.9km」と記されている。ここはもちろん直進。石段の登り口には多数の石碑や如意輪観音像があり、かつては篤く信仰を集めていたことが窺われる。
左右が伐採されて開けっ広げな参道石段を一直線に登る。天辺周辺には樹林が残され、その中の小広い平地にお堂が建つ。これが小倉山観音院だ。礼拝したのち、お堂の中を覗いて見ると、「東上州三十三番霊場 めぐり来て みのりの舟に 渡良瀬の 御佛拝む 誓いたのもし」との巡礼歌の額が掲げられているが、御本尊は見あたらない。
『桐生市ことがら事典』には「小倉(おぐら)峠観音堂」の項で掲載され、それによると創建は奈良か平安の頃、元小倉山観音院新勝寺持ち堂宇、本尊は木彫の馬頭観音坐像、とのこと。東上州三十三番霊場の三十三番となっている。由緒ありそうな寺なのだが、現在ではゴミ廃棄や伐採などの仕打ちを受けて、荒廃一歩手前の感がある。
お堂の前の石段に腰を下ろし、コンビニで仕入れたパンとペットボトルで昼食とする。石段を登ってひと汗かいたので、まだ十分に冷たいペットボトルのお茶をゴクゴク飲む。一息ついたのち、出発。
お堂の右脇から踏み跡を辿り、裏手の岩場の間を登る。岩の間に小さな石祠あり。岩場を越え、伐採地に繁茂する笹原の切り開きを進んで杉植林の斜面を登り、尾根上に出て青葉台からの山道と合流する。この地点には道標あり。道はどちらもしっかり整備されている。季節が季節なので、蜘蛛の巣にしょっちゅう引っ掛かるのは致し方なし。
低い笹原と樹林に覆われた尾根道を辿る。電車の警笛など、下界の音が微かに伝わって来る。石段の前で分かれた道と合流。ここにも「←吾妻山 ↓川内町 青葉台→」との道標が建つ。川内町への道(小倉山観音院を迂回するルート)は、歩く人が稀なのか、踏まれた様子がない。樹林中の地面には湿った落ち葉が積もり、キノコがワラワラと生えている。
330m標高点を越えて少し下った地点に道標があり、御嶽神社への道が分岐する。昔、吾妻山からここを経由して御嶽神社へ歩いたことがある(山行記録)。御嶽神社へ僅かに下った所に2基の石祠がある。吾妻山に向かい、急坂を登って420m圏ピークの展望地に着く。木立が切れて展望が得られ、丸山や桐生市街、渡良瀬川を俯瞰する。
展望地から吾妻山へ最後の急坂を登る。ここまで、山中では誰にも合わなかったが、吾妻公園からの登山道を合わせると、さすが人気の山、こんな天気でも登って来たハイカーさんにポツポツ出会う。
高い湿気の中、最後の急登で大汗をかいて、吾妻山頂上に到着。一休みしたのち、サクッと吾妻公園へ登山道を下る。途中でちょっと晴れ間が出たが、すぐに曇り空に戻る。吾妻公園駐車場に下り着き、市街を横断して帰宅した。