四阿山
今年の夏はとにかく暑〜い。桐生では、8/11に最高気温40.5℃を記録したほか、8月中の猛暑日(最高気温が35℃以上の日)が8/28までに19日もあり(ちなみに昨年は13日)、この週末も「危険な暑さ」との予報である。さすがに低山は暑過ぎてアウト。標高が高くて涼めそうな山に出かけることを考える。
とは言え、運動不足で脚が鈍っているし、あまり遠出する気力も湧かないので、日帰りで気楽に登れる高山はないかなと考えて、四阿山を思い付く。四阿山には3度登ったことがあるが(前回の山行記録)、鳥居峠林道からのコースは歩いたことがなく、興味が湧く。行程も登り約3時間と手頃だ。という訳で、久しぶりの高山に出かけて来ました。
桐生を未明の3時半に車で出発し、コンビニで朝昼の食料を仕入れたのち、太田藪塚ICから北関東道に乗る。コロナで遠出を控えていたので、高速を走るのも2月に古賀志山に出かけた時以来、半年振りだ。上信越道を上田菅平ICで降り、R144(幸村街道)を北上。鳥居峠で左折して鳥居峠林道に入る。この林道は未舗装だが、路面は良好で問題なし。林道終点は広い駐車場となり、仮設WCもあって、地元の嬬恋村によって良く整備されている。既に3台の車と1台のバイクがあり、ちょうどバイクの兄ちゃんが出発するところだった。
ここから四阿山への登山道は、花童子の宮跡(げどうじのみやあと)を経由する道(上州古道)と的岩を経由する道の2コースに分かれ、途中で一緒になる。登りは上州古道、下りは的岩コースを歩くことにして、駐車場の右奥から登山道に入る。
まだ、夜の冷気が残るカラマツ林の中、笹原の切り開き道をゆるゆると登る。早くも下山して来たハイカーさんとすれ違う。なだらかな尾根に登り着くと、樹林中には横から朝日が差し込んで、今日も暑い日になりそうな予感がしてくる。少し登ると小さな砂礫地があり、ここが賽の河原と呼ばれる場所らしい。マツムシソウがポツポツと咲いていて、初秋の雰囲気が漂う。砂礫地の奥には石祠があり、東屋が建っている。
ダケカンバが混じる樹林に入って少し緩登すると、刈り払いされた草地の斜面に出て、展望が開ける。草地の中に木道が通じ、道端に石祠等の石造物や説明板がある。ここが花童子の宮跡だ。説明板に拠ると、古く吾妻(四阿)山は修験道の山で、山頂に白山権現、ここに中社を祀り、修験者が加持祈禱を行っていたとのこと。草地の上端には石柱や石垣の遺構があり、それを見ると、こんな山中にしては意外と大きな宮があったことが窺える。
ここからの眺めはなかなか良く、振り返れば烏帽子岳、湯ノ丸山から篭ノ登山辺りの山並みを望み、右に目を転じると遠く北アの山嶺には雲がかかっているが、鹿島槍や五龍岳のピークが視認できる。その手前、谷を一つ隔てた尾根上には、遠目にも大きな岩屛風があり、あれが的岩らしい。
花童子の宮跡から樹林に覆われた尾根の登りとなるが、所々で展望が開けて、浅間山を遠望する。谷から冷んやりとした微風が上がって来て、高山らしい快適な気候だ。
道端には石祠が点在する。数は多くないがホタルブクロやマルバダケブキなど夏の残りの花、アキノキリンソウなど初秋を告げる花が咲いて、目を楽しませる。
石祠の多くは風化が進んで文字が読み取り難いが、そのうちの一つは「信刕高井郡仁礼村中福沢村中」と判じられる(刕は州の異体字)。後日調べると、仁礼村は現在の須坂市南部、福沢村は良く分からないが、仁礼村に福沢という地名があるらしい。
緩やかな尾根道を一登りし、展望の良い岩場のある小ピークに着く。行く手に針葉樹林の梢越しに四阿山への稜線を眺めるが、頂には灰色の雲がかかっている。
程なく山と高原地図記載の「古永井分岐」に着いて、的岩からの登路を合わせる。東屋があるので一休み。南面が開けているが、生憎とガスに閉ざされて眺めはない。道標には「ぐんま県境稜線トレイル」のプレート有。そう言えば、このコースは県境トレイルの西端の区間になっているんだった。トレイルの未踏区間の縦走もやりたいと思っているのだが、なかなか暇が取れない。
休憩を終えて四阿山に向かう。針葉樹林帯を抜け、両側が開けた笹原のガレた尾根を登る。再び樹林に入り、2144m標高点を越えると小さな下りとなる。木の階段道が整備されているが、湿り気を含んだ木材は蠟を引いたように滑る。途中でバイクの兄ちゃんと交差。はやっ!頂上はガスって眺めがなかったらしい。
鬱蒼と繁る針葉樹林帯を登り詰めると「嬬恋清水 100m→」の道標があり、右斜面に水場への踏み跡が分岐する。水場は笹原の斜面の向こうに見えているので、分岐にザックをデポして立ち寄ってみる。
この水場は古くは熊野清水として修験者に知られていたとのこと。関東最高地点(標高2179m)の水場で、シーズンを通して水が涸れることはないらしい。確かに塩ビのパイプから細いが勢いよく水流が出ている。手を浸すと5秒と耐えられないないほど冷たい。周囲にはトリカブトが群生し、山麓に田代湖を俯瞰して、深山の雰囲気がある。美味い水を何度も味わってから、登山道に戻る。
さらに針葉樹林帯を急登。笹原の斜面を斜めに登ると漸く傾斜が緩み、根子岳からの主稜線上の登山道と合流する。
稜線上の木道を登ると、立派な石垣に囲まれた上州祠があり、その少し奥に信州祠が建つ。ここが四阿山の最高点で、日本百名山だけあって、ハイカーさんの数が多い。
少し奥の岩に腰掛けて、昼食には時間が早いから、スモークタンを肴にハイネケンを飲むだけにする。頂上は雲に覆われて眺めは全くないが、ここからの展望は前回堪能しているので、まっいいか。しかし、高い山の上はやはり涼しくて快適だ。ゆっくり過ごしていたが、グループのハイカーさんに密に包囲されたのを潮に頂上を辞す。
雲間からちょっと姿を現した根子岳を一瞥し、主稜線から分かれて往路を戻る。まだ10時と早い時間帯なので、登ってくるハイカーさん多数と交差する。嬬恋清水は通過。2144m標高点を越えて開けた尾根に出ると、雲も上がって展望が楽しめる。
古永井分岐の東屋で昼食休憩とし、カップ麺の天ぷらそばを食べる。ここから的岩に向かって、樹林に覆われた広い尾根を下る。
途中、樹林が切れて、笹原から眺めが開ける。左手の尾根には花童子の宮跡の草地がポツンと開けて見える。行く手には的岩山がもっさりと横たわる。山名のある山だが、特徴がなくてピークハントの食指はちょっと動かないかな。
やがて「コメツガ原生林」の標識のある針葉樹林帯に入り、下草のない林間を緩く下る。コメツガ林を抜けると雑木と笹原の尾根となり、ゆるゆると下って的岩に着く。
的岩は「四阿山の的岩」として国指定天然記念物になっている巨大な岩脈だ(同様の岩脈には子持山の屛風岩がある)。俵を積んだような岩場が続き、端っこは低いが、中央部分は見上げるような大岩壁となる。高さ15m、幅2〜3m、長さは約200mとのこと。上に登ってみたい気もするが、危険なため禁止されている。
的岩から尾根を離れて、笹原の切り分け道を緩く下り、林道終点の駐車場に帰り着く。駐車が20台程に増えて、広い駐車場はほぼ満杯となっている。こちらのコースは比較的マイナーかと思っていたが、さすが百名山。気軽に高山の雰囲気に浸ることができて、なかなか良いコースであった。
帰り際に一仕事。駐車場の一角に立看板があり、それによると、群馬県内の山林でCSF(豚熱)ウイルスに感染した野生イノシシが見つかっている。養豚場への感染を防ぐため、靴とタイヤを消毒して下さい、とのことで、消石灰が置かれている。タイヤの消毒は難しいが、登山靴の靴底には消石灰を擦りつけておく(後日調べだが、豚熱は旧称豚コレラ。豚と養豚業にはかなりやばい感染症のようだ。なお、ヒトには感染しない)。
高山で涼しかったとはいえ、やはり運動して汗はかいているので、久しぶりに日帰り温泉でさっぱりして帰りたい。しかし、時節柄、温泉に立ち寄って良いものだろうか。と、迷っていたが、着替え一式持って来るのを忘れたことが発覚(^^;)。桐生へ真っ直ぐ帰る途につく。なお、この日の桐生の最高気温は37.8℃であった。