不納山〜水晶山

天気:
メンバー:T
行程:日向見無料駐車場 9:20 …稲裹神社 9:35 …不納山分岐 10:30 …不納山(1291m) 11:45〜12:35 …不納山分岐 13:30 …水晶山(900m) 13:45〜13:55 …水晶山入り口 14:30 …日向見無料駐車場 15:00
ルート地図 GPSのログ(赤:往路、青:復路)を地理院地図に重ねて表示します。

この週末は、3週連続となる群馬県北西部の山へ。『群馬300山』を参考にして、四万温泉から不納山(ぶのうざん)に登ってきました。

今回は比較的軽い行程の山なので、桐生を朝7時頃のんびりと車で出発。R353を走って四万温泉へ向かい、日向見地区の無料駐車場に車を置く(今更気がついたが、桐生と四万温泉はR353一本で繋がっている)。中之条市街までは晴れていたが、群馬・新潟国境稜線に近いこの辺りは灰色の雲が空を覆い、寒々しい天気だ。

四万川本流の左岸の車道を歩いて、不納山登山口の稲裹(いなつつみ)神社に向かう。途中、本流には大泉の滝がかかり、歩道で滝の下手に降りることができる。落差約5m。深くて大きな釜をもち、水量が多くて迫力がある。


四万温泉日向見から
四万川ダムを望む


大泉の滝

車道に戻るとすぐ先に滝見園地があり、東屋から小泉の滝を遠目に眺めることができる。日向見川が本流に出合うところにかかる滝で、四万では唯一、歩かずに見られる滝とのこと。この辺りの渓谷美を楓仙峡といい、四万温泉の観光の目玉の一つになっている。


滝見園地


小泉の滝

車道脇から石段を登って木の鳥居を潜ると、檜に囲まれた山裾に稲裹神社の社殿が建つ。社殿の手前には、「上野國稻裹地神之碑」から始まって(写真では分かり難いが)漢字がびっしり刻まれた石碑がある。説明文によると、稲包山は四万川水源の山として信仰され、原町の大宮巖鼓(いわつつみ)神社と登山口のここに里宮、山頂に奥宮があるとのこと。稲包山には二度登ったことがあるが、祭神の稲裹地神については初めて知った。


稲裹神社・水晶山歩道入口


稲裹地神の碑
文化三(1807)年建立

社殿に見える建物は覆屋で、中に古く大きな石祠が鎮座する。水晶山歩道は社殿の右手から始まるが、入口には「倒木危険 立入禁止」の新しい掲示があり、実際、頭に当たったら大事なレベルの太い枝葉が折れて散乱する。これはもちろん、先月の台風19号の被害だろう。その他に「この付近にクマ出没 注意必要」と高田山で見たのと全く同じヤマビル注意の看板がある。ヒルはこの時期には活動しないから、熊と倒木に注意しつつ歩道に入る。


稲裹神社


水晶山歩道に入る

歩道は神社裏手の樹林帯の中、かなりな急斜面を大きくジグザグを切って登る。木の幹にはクリ、ミズナラ、ミズメ、モミなどの名称を記したプレートが付けられ、木の名前には詳しくないから助かる。一定間隔で熊除けの鐘が設置され、それだけ熊に遭遇する確率が高いのだろう。鐘は高圧ガスのボンベを真っ二つに輪切りにしたもので、叩くとカーンと高く澄んだいい音が出るのが段々楽しくなってきて、必ず叩いて通る。

樹林には針葉樹に混じってモミジ、カエデの類の木が多く、良い塩梅に紅葉している。黄、橙、赤のグラデーションが綺麗だ。曇り空で陽射しが足りないのは少し残念だが、晩秋のしっとりとした風情が感じられて、こういう天気の紅葉もなかなか良い。


熊除けの鐘が随所にある


山腹の紅葉

急な山肌を登り上げて尾根上に出ると、後は尾根を辿って緩く登る。途中、熊除けの鐘とボロボロになったベンチを通る。尾根の左側には、葉を大部分落とした雑木林を透かして奥四万湖の湖面や、その奥の稲包山の小さな鋭鋒を望む。


尾根上に出る


奥四万湖と稲包山(奥)を望む

尾根上にも所々でハッとする鮮やかな紅葉に出会う。標高が上がるに連れて、これも木立を透かしての眺めとなるが、栂の頭(1565m)やコシキノ頭(1610m)、木戸山(1732m)など、四万川源流域の山々がせり上がって見えてくる。特にコシキノ頭の鋭鋒は良く目立って印象的。これらの山には登山道がなく、深い笹藪に登頂を阻まれて、もっぱら残雪期に登られている。ぐんま県境稜線トレイルが全通した現在も残る、道のない秘境の山々だ。


見頃の紅葉


コシキノ頭(奥)、栂の頭を望む

なおも尾根を登り、奥四万湖や四万温泉を高所から俯瞰するようになると「水晶山 ゆずりは−あらゆ 水晶山歩道」との道標が建つ地点に着く。歩道はここで尾根を離れ、右斜面のトラバースに入る。不納山に向かって尾根上を直進すると、すぐに三角点標石がある。


水晶山分岐


水晶山分岐上の三角点(点名:水晶)

行く手に不納山の一角を高く仰ぐ。檜と唐松が混生する平坦で広い尾根となり、落ち葉に覆われて進行方向が判然としなくなるが、疎らなマーカを適当に追って進むと、再び尾根筋が明瞭になる。冬枯れの雑木林に終盤の紅葉が点在する尾根を登る。


木の間越しに不納山を仰ぐ


雑木林に覆われた尾根を辿る

やがて急坂に差し掛かって、グングン登る。小さな岩場を過ぎるとようやく傾斜が緩み、「山」と刻まれた標石を見出だす。この辺りが1221m標高点のピークだ。広くなだらかな頂を雑木と唐松、下生えの丈の低い笹が覆って、藪っぽい低山という感じを受ける。

ここから不納山へは、半円の弧を描く緩やかな稜線上の小ピークを次々に越えて行く。道型はほとんどなく、笹の間の微かな踏み跡も多分けもの道だろう。しかし、笹の丈は低いから、藪漕ぎという程ではない。進むに連れて唐松が消えて雑木林と笹原の尾根となり、奥山の雰囲気が出てくる。


急坂を登る


途中の小さな岩場


1221m標高点近くの「山」標石


笹原に覆われた稜線を歩く

1221m標高点から数えて6つめの小ピークが三角点標石のある不納山頂上だ。ここまで、道らしい道はないのに、なぜか立派な山名標柱がある。最近、高田山や松岩山で見たのと全く同じタイプの、中之条町が建てたものだ。ただし、ここの物は熊に酷く齧られている。ネットで良く見た、「MT.BUNO 1291M」と書かれた山名標識は脇に転がっている。

頂上は樹林に囲まれて展望に乏しく、東面に木立を透かして送電鉄塔が立ち並ぶ稜線が眺められる程度だ。その中の紅白鉄塔が建つピークは、昨年の秋に登った大須山だ。あの頂上は笹藪が酷かった。それに比べれば、こちらの笹は芝生のようなものだ。

この次の1300m圏のピークが不納山の最高点なので、足を延ばして行ってみる。しかし、木の幹に赤ペンキで「△1300」と書いてあるくらいで何もなく、展望もない。引き返して不納山頂上で大休止とし、小さな缶ビールで乾杯。鯖味噌と、今シーズン初めての鍋焼きうどんをガソリンコンロで煮て食べる。これからの季節は、熱々のうどんが美味い。


不納山頂上
背景に大須山を望む


不納山最高点

昼食後、往路を水晶山分岐まで戻る。往路の長い急坂も、帰りは楽だ。展望や紅葉を楽しみながら下る。分岐に着き、ここから歩道の続きを辿って水晶山に向かう。


稲包山を望む


雑木林の尾根の下り


樹間の紅葉


水晶山歩道を辿る

しばらく山腹をトラバースして緩く登り、少し下ると山腹に突き出た小岩峰に着く。これが水晶山だ。ベンチの他、中之条町が建てた山名標柱があり、標高は900mと記されている。一端の「山」扱いされているが、「山」と称する程の大きさはない。

鉄製階段で小岩峰に上がると、(正面は赤松の大木で遮られるが)素晴らしい展望が開ける。南には高田山を望み、石尊山に続く鋸歯のような稜線もよく見える。西は山腹を紅葉が多い、温泉街を俯瞰する。

水晶山の岩上には潰れた石祠があり、背後に不納山に続く稜線を仰ぐ。ここはなかなかの景勝地だ。なお、ネットの情報によると、実際に水晶があるとのこと。少し探索してみたが、事前の調査不足もあり、見つけられなかった。残念。


水晶山


岩上の石祠


水晶山から高田山を望む


水晶山から四万温泉を俯瞰

展望を楽しんだのち、下山にかかる。水晶山から落ちる岩稜を左に見ながら、急斜面を大きくジグザグを切って下る。ここは道型が細く外傾していて、滑らないよう要注意。


水晶山の岩稜


急斜面をジグザグに下る

程なく沢に下り着き、傾斜が緩む。水流を渡り、金網柵に沿って階段道を下る。ネット上の山行記録で、この辺りで夥しい数のヤマビルに襲撃された、という話を読んだことがある。今は落ち葉の下に潜んでいるのだろう。くわばら、くわばら。


沢に下り着く


作業道を下る

やがて、道は作業道となる。落ち葉の下はゴロゴロの転石で歩きにくい。熊除けの鐘に「熊対策発音柱」と書かれた札が下がっていて、これが正式名称らしい。

作業道の始点には「水晶山入り口」の標識、案内図の看板の他、「ヤマビル注意」「熊出没注意 母熊は特に凶暴です」という注意・警告の看板が勢揃いし、物々しい。

あとは舗装道を下る。林道水晶山線の標識あり。途中に「中井八幡宮」の額束を掲げた鳥居があり、石段を上がった奥には小社、脇には「元文…」の銘がある双体道祖神がある。


水晶山歩道入り口


中井八幡宮の双体道祖神

やがて集落に着き、最初の三叉路は右へ。渓谷沿いの道を、紅葉や対岸の温泉街を眺めながら歩く。そぞろ歩きを楽しむ観光客とポツポツ交差する。稲裹神社の前を通り、日向見無料駐車場に帰り着く。山中では誰にも会うことがなく、静かな山歩きを堪能した。


温泉街を見ながら駐車場に戻る


日向見無料駐車場

帰りは2回目となる町営四万清流の湯に立ち寄る(500円)。山歩きの後、冷えた体を湯船に沈めて温まるのは、やはり最高。明るいうちに温泉を出て、桐生への帰途についた。