石尊山〜高田山〜大戸谷山〜高野山
天気予報によると、この週末の文化の日を挟む3連休は1日目と3日目が晴れそう。まず、1日目に日帰りで出かけることにし、行き先を考えて、紅葉が見事との評判を聞いたことのある石尊山(中之条町)を思い付く。ネット上の山行記録を読むと11月上旬が紅葉の時期で、タイミングは良さそうだ。
ただし、石尊山だけでは少し歩き足りないので、高田山、わらび峠を経て、さらに大戸谷山(おおとややま)と高野山(たかやさん)の2座に繋ぐ行程を考える。この2座は『群馬300山』に載っているのに、ネット上の山行記録はどちらも片手で足りる数しかない。
わらび峠から大戸谷山までは、2007年に爺イ先生が歩いておられる。『群馬300山』では、1996年に四万温泉から登山道で高野山に登っているが、ネットの情報によると、この登山道は廃道化しているようだ。また、Googleストリートビューで見ると、R353沿いに「高野山登山口」の道標が写っているが、道標の指し示す先は酷い藪になっている。いずれにしても、わらび峠から先は道のない山歩きとなるので、多少の藪漕ぎは(したくないけど)想定して出かけてきました。
未明の4時に桐生を車で出発して四万温泉へ。R353沿いの山口駐車場(無料)に車を置く。この駐車場は温泉街から少し離れた場所にあり、広くて空いているので、今日一日、駐車させて貰っても差し支えないだろう。
駐車場からR353を横断して向かいの坂道を下り、月見橋バス停で6:52発の中之条駅行バスを待つ。今日はバスで石尊山登山口の駒岩集落まで移動し、そこから石尊山、高田山、大戸谷山、高野山を経て、山口駐車場に戻ってくる予定だ。バスの時刻まで小一時間の待ちがあったが、渓流や周囲の紅葉を眺めているうちに定刻となり、バスが来た。
バスの乗客は数名程。約10分で駒岩バス停に到着、私一人が下車する。運賃は430円也。バス停から、駒岩集落を抜ける脇道を一人のハイカーさんが歩いているのが見える。R353沿いの駐車スペース(四万温泉情報ぽけっと)に駐車して、石尊山に向かっているところだろう。畦道を上がって脇道に出、ハイカーさんに続いて石尊山登山口に向かう。
登山コースに入るとすぐに注意看板があり、「吸血性のヤマビルが生息していますので、忌避材として下の箱に10%の食塩水が入っています。靴やズボンの裾に吹き付けて下さい」と恐ろしいことが書いてある。まあ、今日は気温が低いので、出ては来ないだろう。
集落を抜けると杉林の中の作業道に入り、山腹を左へトラバースしつつ登って行く。作業道が錯綜して多数の分岐があるが、要所に道標があるおかげで、迷う所はない。
やがて作業道を離れて山道に入り、すぐに石鳥居を潜る。この地点を御幣所と呼ぶらしい。杉林を抜けて自然林に入り、急斜面の登りに取り付く。登山口にあったのと同じ注意看板があり、つまり、杉林内でヤマビルが多いことが窺える。
山道は急斜面を大きくジグザグを切って登る。この辺りは落葉高木に覆われて、紅葉したら見栄えしそうだが、まだ少し時期が早いようで、ほんのり黄葉している程度だ。先行ハイカーさんに追い付いたので話を伺うと、以前も石尊山に登ったことがあるそうで、この辺りの紅葉は実に見事だが今年は遅れている、とおっしゃっていた。
それでも、標高が上がるに連れて、色付きは段々良くなってくる。途中、獅子井戸の水場があるが、地面から水が染み出す程度。急な山腹を右へトラバースして稜線に上がる。この辺りの紅葉は見頃だ。
紅葉を鑑賞しながら稜線を登る。やがて、前方左手に大きな岩壁が立ちはだかり、右から回り込んで急坂を登ると石尊山の頂上に着く。
頂上は低木に囲まれるものの、四方に展望が開ける。南面はスッパリ切れ落ちた岩壁で、四万川沿いの集落を俯瞰し、遠くには蟻川岳や嵩山、小野子三山、子持山、遥かに赤城山の山影を望む。東には不納山や、稲包山から大須山にかけての稜線、その後方に谷川連峰が僅かに頂を覗かせる。北には四万川源流域の山並の向こうに、上信越国境稜線がこれも僅かに頂を覗かせる。西にはお隣の高田山とその左に浅間山を遠望する。中景の鋭鋒は吾嬬山、ぽっこりした岩峰は有笠山だな。
頂上には石祠があり、その後ろから高田山への山道が始まる。しかし、その入口にはトラロープやバリケードテープが張られて、どうも石尊山〜高田山の間は通行禁止になっているらしい。これは困った。慌ててスマホで検索すると、数日前にここを通った報告があるので、風水害による通行止ではなく、行けることは行けるようだ。数年前に滑落死亡事故が起きているので、そのためだろうか。
石祠の傍にハイカーさんが陣取っているので、通行禁止のロープを潜るのは少し躊躇われる。意を決して、高田山に行ってきます、と声をかけると、ハイカーさんも行ったことがある(事故の数週間後で、その際は通行禁止でなかった)そうで、やはり一歩間違えたらアウトな個所があるとのこと。改めて気を引き締めて進む。
高田山へは小さなアップダウンの多い痩せ尾根を辿る。道型ははっきりしており、出だしからしばらくは問題ない。やがてギャップへ急降下する個所に差し掛かり、滑りやすそうな岩場に古いロープが垂れ下がっている。ここは高度感があり、慎重に下る。
ギャップから登り返し、痩せ尾根を辿ると、またギャップ。崖の縁のトラバースも要注意だ。岩場を登ってトラロープの張られた地点を過ぎると「通行禁止」区間の終点で、すぐ先が高田山の頂上だ。
頂上には「一等三角点の山」と記された立派な山名標柱と三角点標石がある。枯れススキの草叢に囲まれて、物寂しい雰囲気が漂う。訪れるハイカーさんはあまりいないのだろうか。展望は雑木に遮られて、東に谷川連峰が遠望できるだけだ。
水を飲んで少し休憩したのち、わらび峠に向かって西尾根を下り始める。こちらの道もなかなか急だ。途中、小さな瘤に上がると樹林が切れて前方の展望が開け、大戸谷山がその山容を現す。背景には上信越国境稜線がズズズィーっと連なって壮観だ。
さらに痩せ尾根の急降下が続く。小さな岩場を右から巻いて下ると、ようやく傾斜が緩まり、「高田山 唐繰原」の道標を見る。ちなみに唐繰原はわらび峠の西にある地名だ。
なだらかな尾根を下ると、尾根の幅が広がって道型が怪しくなるが直進。枝葉に埋もれて荒れた作業道に出て、右に進むと無事、わらび峠に下り着く。ここに建つ「高田山登山口」の道標も古びて枯れススキに覆われ、侘しい佇まい。峠には舗装道が通じ、広い駐車場や簡易WCもあるが、こちらから高田山に登る人は少ない感じがする。
登山口の向かいに石鳥居と「唐繰原大黒天」の石碑が建つ。碑文には、戦時中、食糧増産のため唐繰原が開墾され、開拓の神様である大黒天が祀られた。その後、道路事情の変化により、わらび峠に移転した、と記されている。鳥居を潜って緩く階段を登ると、石祠と立派な大黒天像がある。
ここから檜と雑木に覆われた稜線を辿る。藪はなく、なだらかな起伏が続いて、快適に歩ける。1038m標高点を過ぎると、やがて林床に丈の低い笹原が現れる。少し傾斜が増すと、標石のあるピークに登り着く。ここが高野山への分岐点で、まず、大戸谷山を往復してから、高野山に向かう予定。日没まで時間の余裕は多くないが、なんとかなるだろう。
次のピークの1133m標高点に向かうと、道の様子が一変して痩せ尾根となり、丸みを帯びてのっぺりした岩稜に行き当たる。これはちょっと難所だ。手がかりがなく、両側とも切れ落ちている。ここは小さなスタンスとフリクションに頼って直登する。しかし、これ、帰りは下れるかなあ。このあともコンクリを固めたような岩稜がしばし続く。
1133m標高点は気づかずに通過。林床が笹に覆われた緩やかな稜線を辿る。笹の丈は今の所、腿までなので、藪漕ぎに苦労するという程ではなく、周囲の黄葉を眺める余裕がある。暫く緩い登りが続くが、やがて急斜面の登りに差し掛かる。急坂を登り切ると大戸谷山の北東の肩に出て、後は笹を搔き分けて緩く登ると頂上に着く。
頂上も笹に覆われ、その中に三角点標石と山名標識がある。樹林に囲まれて展望には乏しく、北に木立を透かして上信越国境稜線の山並が見えるくらいだ。笹原が少し切れた平地の枯れ葉の上にレジャーシートを広げて腰を下ろし、まずはレトルトパウチの鯖味噌煮と缶ビール。続いてカップ麺の坦々麺を作って食べる。風もなく穏やかで、Tシャツ1枚でも寒くない。13時を回り、そろそろ残りの行程の長さと日没までの時間が気になって来たので、昼食を済ませたら早々に頂上を辞して往路を戻る。
帰りはほとんどが下りだから早くて楽だ。しかし、長丁場の歩きが応えてきて、倒木を跨いだ拍子に足が攣った。芍薬甘草湯を飲んで事なきを得る。
程なくのっぺりした岩稜に差し掛かる。行きは登ることができたが、下るのは無理だ。挑戦してみたものの、登りより下りの方が難しいのを実感して敗退。右から巻いて下る。痩せ尾根を辿って、標石が目印の高野山分岐点ピークに着く。
ここで往路から分かれて稜線を北へ、高野山に向かう。出だしの下りはちょっと急だが、すぐに緩やかな稜線となる。雑木に覆われて藪はなく、至極歩き易い。傾きかけた陽射しに照らされて、紅葉が一段と映える。左後方を振り返ると、木立を透かして大戸谷山の山影が既に遠ざかって見える。
途中、稜線の脇に浅い凹地があり、その縁に石が積み上がった塚のような所がある。塚の上には大木が生えている。自然にできた物と思うが、一見、人工物のようにも見える。
しばらく笹原と雑木林に覆われた幅広い稜線が続き、紅葉を透かして四万川原流域の山並を垣間見ながら進む。
笹原が消え、枯れ葉を踏んで短い急坂を上がると、倒木でとっ散らかった小ピークに登り着く。ここが高野山の頂上かな。三角点標石を探すと、倒木の陰にあった。山名標識の類は見当たらない。なんとも殺風景な頂だが、延々歩いて辿り着いた今日最後の山頂だから、ホッとして満足感もある。後は四万温泉に向かって下るだけだ。
頂上から北東へ稜線を辿ると、小鞍部に下り着く。鞍部の右斜面には笹原が広がり、その中を微かな道の痕跡がジグザグを切って下っているので、これを辿ってみる。
道の痕跡は左に大きく切り返すと急斜面のトラバースに入る。上は岩壁で、周囲には大岩が散在する。この辺りは既に道が怪しく、どうもけもの道に誘いこまれたようだ。急斜面の高い所をトラバースするので、滑落するとただではすまない。ようやく傾斜が緩まり、東に延びる枝尾根に下り着く。この尾根は藪もなく傾斜も程々で、安全快適なルートだ。なお、この辺りのどこかに弘法大師像があるそうだが、残念ながら見逃した。
枝尾根を下って行くと、地べたに赤い屋根が伏せっている。かつての登山道の脇にあった東屋の跡らしい。ここから左斜面を切り返して下る道の痕跡があり、これを辿る。
道の痕跡はやがて杉林に入り、枝葉にボサボサと覆われて判然としなくなる。なんとなく道かなー、と思える歩き易い所を下っていくと、ベンチ跡と吸い殻入れがあったから、かつての登山道から外れてはいないようだ。さらに山勘で下って行くと車道が見え、藪に覆われた階段を下って、R353沿いの「高野山登山口」の道標に対面する。藪が酷かったのは最後の僅かな間だけで幸いだった。山口駐車場にはR353を歩いて、少し距離で帰り着く。
帰りは町営四万清流の湯に立ち寄る。長丁場をこなし、冷えた体を湯船に沈めて温まるのは、もー最高。連休中だが、それほど込んではいなくて、のんびり浸かれる。温泉を出る頃にはとっぷりと日が暮れ、夜道を走って桐生へ帰った。
参考ガイド:新ハイキング No.678(2012年4月)の高田山、高野山の記事。