皆野アルプス
1〜2月が忙しいのは毎年のことだが、今年はさらに仕事が増えて、山に出かける余裕がなかなかない。この週末、ようやく6週間ぶりに暇ができた。足も鈍っているだろうし、軽い山歩きにしておこう。前回、長瀞アルプスを歩いたときに、地元の方からお勧め頂いた皆野アルプスに行ってみることにする。これも「アルプス」と名付いているが、破風山(はっぷさん)を中心とする標高600m台の低山の連なりだ。皆野町観光協会の「破風山ハイキングマップ」を参考にし、秩父華厳の滝から大前山、破風山、前原山を経て大渕登山口までミニ縦走する計画を立てて、出かけて来ました。
桐生を車で発ち、ハイキングマップに記載のある破風山登山口駐車場に車を置く。既に駐車が3台あり。広い駐車場なので、余裕は十分にある。登山口の秩父華厳の滝へは皆野町営バスを利用して行くので、最寄りの長生荘バス停まで車道を15分程歩く。
途中、「前原の不整合」という地質学的スポットがあるので、立ち寄ってみる。荒川の川岸にある露頭で、地質学素人の私が見ても良く分からないが、下のボロボロの黒っぽい地層(秩父帯粘板岩)と上の白っぽい地層(第三紀層)の間には、できた年代に約1億3500万年もの差があるとのこと。時間スケールが日常とは桁違い(1億=108)に遠大だなあ。
長生荘バス停で、皆野駅前始発の日野沢線西立沢行のバスを待つ。ほぼ定刻の8:30に来た小型バスは、皆野駅から乗って来たハイカーさんで座席がちょうど埋まっている。秩父華厳前バス停まで17分の乗車。料金は220円也。多くのハイカーさんがここで下車する。
バス停から登山口とは逆方向になるが、せっかくなので秩父華厳の滝を見て行こう(時間も往復10分しかかからない)。支流沿いの車道から遊歩道に入ると、岩盤を水が優美に滑り落ちる滝が現れる。落ち口の上に車道の橋が架かっているのが玉に瑕だが、滝下の釜は大きく、満々と水を湛えて綺麗だ。お勧めの観光スポットと思う。
皆野アルプスへの登山口は、バス停から少し戻った所にある。橋を渡り、左に妙に高い石垣とその上の廃屋を見て、北向きで杉林に囲まれて薄暗い谷を登る。大きくジグザグを切って山腹を登ると、民家が点在する山上の開けた斜面に出る。ここが大前集落だ。集落の中の十字路を道標に従って左折。前回登った宝登山と大平山が良く眺められる。
再び杉林に入り、左に大前山への近道を分けて、右の天狗山への道を登る。ひとしきり登って、尾根の上に出た所で大ポカ。てっきり天狗山近くの主稜線に登り着いたと思い込み、小峰山を往復するつもりで尾根を右に辿る。踏み跡は微かだが、ハイキングコースから外れるので、こんなものかなと。しかし、小ピークを2つ越えると、その先はどんどん下っている。ここで初めて地図を確認し、主稜線の手前の枝尾根で右折しちゃったことが発覚(ハイキングマップで、ご丁寧にも侵入禁止の×印のついている尾根である)。
気を取り直して正規コースに戻り、ちょこっと登って主稜線に出る。ここには道標有。天狗山の頂上はすぐ左で、小峰山へはここで稜線を右だ。少々距離がありそうだが、道迷いの失敗をフォローするためにも、ここは小峰山に行かない訳にはいかないでしょう(^^;)。
踏み跡を辿ってアセビ林を抜け、杉植林の尾根を下って、広い鞍部に着く。ここから急坂を登り返すと、三角点標石のある小峰山頂上に着く。北側に木立を透かして城峯山が見える程度で展望に乏しく、山名標識の類もない地味な頂だが、計画通りピークを一つゲットしたという満足感はある。
引き返して、天狗山の頂上へ。石垣の上に少し大き目の石祠があり、「天狗山(お天狗様)」の山名標識が立つ。樹林に囲まれているが東側が開け、鞍部を隔てて眼前に大前山が眺められる。もう正午に近いし、道迷いと小峰山往復で既に結構歩いて腹も減ったから、ここで大前山を眺めながら昼食とする。今日は暖かいので缶ビール(小)が美味い。
鯖味噌煮、鍋焼きうどんを食べて、後半のためのエネルギーを補給したのちに出発。急坂を下り、鞍部で大前からの近道を合わせる。登り返しには岩場や鎖場も出てきて、変化に富む。傾斜が緩むと、石垣の上に束帯の御嶽座王大権現像が建つ。台座には「山に丸三」の神紋がある。この直ぐ先が大前山の頂上で、皆野アルプスの最高地点だが展望は今一。
大前山から岩と松が多い細尾根となる。急坂を下り、鎖が架かる岩場を登る。天辺が武蔵展望台で、ソロハイカーさんが休憩中。秩父盆地に向かって、好展望が開ける。
細尾根をさらに辿ると、如金峰の岩塔がその名の通りニョッキと立つ。説明板によると、如金は金精大明神のことで、疣神様として崇められ、願掛けの人と筒酒を持って御礼に来る人で賑わったとか。この先のピークには富士山浅間大神の石碑もあり、この辺りにはバラエティに富んだ宗教モニュメントが散在している。
杉林の尾根を緩く下った所が札立峠だ。秩父札所三十四ヶ所観音霊場の巡礼道が峠を越え、南に33番菊水寺、北に34番水潜寺がある。34番ということは最後に越える峠な訳だ。
札立峠から明るい雑木林の尾根を緩く登り、桜ヶ谷・野巻への道を右へ分ける。アセビに覆われた尾根を登ると、三角点標石と山名標識のある破風山頂上に到着する。
頂上は南面が大きく開けて、奥武蔵から奥秩父にかけての山々、秩父盆地のパノラマが広がる。また、木立の間から大前山や城峯山も眺められる。今日は気温が高くて霞んでいるが、なかなかの展望だ。東にはこれから辿る前原尾根が徐々に低くなりつつ延び、最後は秩父盆地に落ちる。ゴールまでは結構、距離がありそうで楽しみ。頂上の直ぐ先には東屋がある。樹林に囲まれて展望はないが、こちらも休憩適地だ。
東屋で右に桜ヶ谷コースを分け、左の尾根道を辿る。モミジ平と呼ばれる広くなだらかな尾根を過ぎ、木の階段のある急坂に差し掛かって下る。
下った所には猿岩と呼ばれる岩塔が立つ。如金峰よりも高く荒々しい。登山道は基部から右斜面へ下って行くが、猿岩の右側にロープが張られているのに興味を惹かれて登ってみる。天辺の直下まで登るが、最後の数歩は滑りそうな岩場なので、天辺に立つのは止めておく。そのまま反対側へ降り、落ち葉をガサガサと踏み分けて登山道に復帰する。
再び歩き易い道となって尾根を緩く下り、左に風戸(ふっと)集落に下る道を分ける。この尾根は前原尾根、この先の尾根道は「山靴の道コース」と言うそうで、「(注)急坂・岩場あり」の注意書きと共に刻まれた手作りの木製道標がある。この先でH8.4開通との道標も見たから、割と新しく(と言っても23年前だが)拓かれたコースだ。
程なく「男体拝」の標識のある小ピークに着く。日光の男体山は霞んで望むことは叶わないが、宝登山が近くに、またその左奥には長瀞北アルプスの三山(不動、雨乞、陣見)が眺められる。この辺りの山は最近登っているので、馴染みが深い。
男体拝の下りには岩場があり、ロープが張られている。基準点標石を過ぎると急な下りとなる。ここは樹林に覆われているので、それとは気付きにくいが、左(北)側の斜面は結構切れ落ちていて、谷下からヒンヤリと冷えた風が吹き上がってくる。眼下には木の間越しに満願の湯の辺りの建物が見える。
やがてなだらかな尾根となり、左に長生荘バス停へ下る道を分ける。尾根上を直進して小さな岩場に登ると、眺めがちょっと開けて「前原岩稜」の道標がある。まあ、岩稜は大仰と思うが、低山ながらこういう場所があって変化に富み、なかなか楽しい。
さらに岩と松の尾根を辿る。急で滑りやすい下りとなり、先行していた年配ハイカーさんグループが苦戦中。先に行かせて貰う。前原山も休憩中のハイカーさんで賑わっている。前原山からは明るい雑木林の尾根となり、ひと下りで山麓に着く。
大渕登山口からは道標に従って集落を抜け、車を置いた破風山登山口駐車場に戻る。所々に小さな岩場を交え、展望にも恵まれたコースで、人気があるのも頷ける。ハイキングコース+αを歩いたせいもあるが、歩き応えも十分で、かなり楽しめた。
帰りは最寄りの満願の湯に立ち寄ろうかとも考えたが、混んでいそうな気がしたので、最近、こちら方面で気に入っているかんぽの宿寄居へ。ゆっくり湯に浸かり、久し振りの山歩きで少々強張った脚の筋肉を解したのち、高速経由で桐生に帰った。