方丈山
この数日、山積みの仕事を集中して片付けたのは良いが、おかげで睡眠不足。車で遠出して長時間運転すると眠ってしまいそうなレベルなので、この週末は鉄道を利用して駅から登れる山に行くことにする。上越線沿線にいくつか候補の山があり、その中から今回は方丈山を選択。越後湯沢を取り囲む、低いながらも豪雪に削られた険しい山々の中の一峰で、トレッキングコース(2022-07-16追記:リンク切れ)があることを知って以来、歩いてみたいと思っていた山だ。
JR桐生駅7:30発の列車に乗車し、新前橋、水上で普通列車を乗り継いで、岩原スキー場前駅に10:13着。乗車中はぐっすり寝て、睡眠不足も解消できた。
「いわっぱらすきーじょうまえ」駅は、かつてはJRで読み仮名が日本一長い駅名として知られていた(現在は「上越国際スキー場前駅」が一番長い。ちなみに駅とは関係ないが、読み仮名が日本一長い山名は「牛奥ノ雁ヶ腹摺山」だそうだ)。下り線ホームから地下道を潜ると、駅舎を経由せず直接表に出る。無人駅でも、ここまでオープンなのは珍しい。
今日は快晴微風。暑くも寒くもなく、本当に気持ちの良い天気だ。駅前から疎らな街並みを抜けて、広々とした田園風景の中を歩く。周囲の山々はちょうど紅葉している。民家の玄関先で紫煙を燻らせていたお姉さんから「いい天気ですねー」と声をかけられたので、「紅葉が綺麗ですねー」と返すと、「この時期だけで、もうすぐ雪が降っちゃうんですよ」と仰る。スキーヤーとしては雪は待ち遠しいくらいだが、豪雪地帯に住む地元の人にとっては、そういうのが実感なんだな。
上越線を高架橋で越え、登山口の湯沢パークホテルに着く。ここから三本松コースで方丈山に登り、ブナ林コースを下って周回する予定だ。ホテル前には特に道標や登山案内板の類はなく、コースの入口はちょっと分かりにくい。三本松コースはホテル左脇の車道に入り、ゲレンデを右に見ながら民宿の間を通る。ゲレンデではスキー場オープンを控えてリフトを試運転中。カラカラと搬器の回る音が、ガランとしたゲレンデに響く。
やがて車道が尽き、細いながらも水がバンバン流れる用水路に沿って歩く。杉林に入ってしばらくすると、地面に古い道標が落ちていて、「←方丈山入口」と書いてある。
ここから登山道に入り、杉林の中を登る。道型は細いが、刈り払いされているようで明瞭。良く踏まれてもいる。杉林を抜けると色付いた樹林に覆われた尾根道となる。右側にはゲレンデを隔てて、方丈山が眺められる。
露岩の多い尾根を登ると「方丈山→」の道標があり、登山道は右折するが、すぐ先に小さな赤鳥居と石祠があるので行ってみる。これがトレッキングコースの略図にあった鎮守様だろうか。石祠は湯沢市街を向いて建ち、その方向は樹林が切り開かれて眺めが良い。
登山道に戻って進むとススキが刈り払われたゲレンデトップに出て、さらに展望が広がる。山麓を俯瞰し、その先に湯沢市街や背後に控える大峰を眺める。
ゲレンデの反対側も眺めが開け、麓にスキー場跡(後日調べると、2011年に閉鎖された加山キャプテンコーストスキー場)のある紅葉した山並みが見える。この辺りの山は標高1300m程の無名の山だが、豪雪地帯の山らしい峻険な山肌を見せて、興味を惹かれる。そこから右へ山並みを辿ると、大源太山の鋭鋒が一際大きく聳える。また、方丈山の頂上部も眺められる。なかなかいい色合いだ。
ゲレンデから道標に従って再び山道に入る。すぐに596m三角点の標石を通過。綺麗に刈り払いされた尾根道が続く。左側は紅葉した低木の斜面で、尾根上も明るく開けたところが多く、大源太川上流の旭原の集落や、奥に聳える大源太山が眺められる。
露岩の多い急坂を上ると、大岩のある小ピークに登り着いて、正面に方丈山を望む。頂上稜線の直下には険しい斜面があり、低山ながらちょっと厳つい山容だ。
さらに小さなアップダウンのある尾根道が続く。紅葉とブナの黄葉がちょうどピークを迎えている。左手の山並みの奥には薄っすらと白くなった上越国境稜線のなだらかなピークが見える。地形図を見ると柄沢山(1900m)のようだ。
尾根道は小さく上下しながら、段々と高度を上げていく。紅葉と黄葉の樹林が続き、所々から大源太山や足拍子岳の展望も得られて、至極ご機嫌な道のりが続く。正直、これほど良い山だとは期待していなかった。途中、ハイカーさん数組と交差する。マイナーな山と思っていたが、結構人気もあるようだ。まあ、それも宜なるかな。
頂上に近づくと傾斜が増して、トラロープが張られた急坂も現れる。樹林の梢越しに頂上を仰ぐ。結構高く見えるが、あと10数分の距離だろう。右側は急傾斜となって谷に落ち、木の間に頂上直下のスラブを垣間見る。とは言え、歩いていて危なく感じる所はない。
急坂を上ると白ザレの尾根に出て、頂上はすぐそこだ。展望が一段と開け、左(南)には柄沢山から足拍子山に続く稜線が眺められる。険しい稜線だが、柄沢山までなら行けそうだし、そこから右(西)に落ちる尾根を下れば湯沢中里スキー場のトップで、何とかなりそうな気がするが、どうだろう(後日、検索するとやはり山行記録があった)。
白ザレの尾根の右側はザレて切れ落ちた斜面なので、スリップしないように。左側には湯沢中里スキー場を見下ろし、山腹の紅葉が素晴らしい。背景の山は霞んでいるが、タカマタギや日白山あたりかな。その右手前には、これも尖った低山で目を引く正面山が見える。振り返れば登ってきた尾根を俯瞰。背景の紅葉の山並みを一望する。
最後は左に巻いて、ひと登りで方丈山の頂上に着く。頂上は白ザレの小広い平地で、三角点標石と山名標柱がある。ハイカーさん一組が食事休憩中。ここまでの登りででも眺めを堪能したが、頂上からの360度の展望はさらに素晴らしい。飯士山から大源太山に連なる山並みの奥には、薄っすらと白くなった上越国境稜線を遠望する。もう11月だからなあ。冬はあそこまで来ている(後日知ったが、浅草岳では20cmの積雪となったそうだ)。
頂上の一角に腰をおろし、鯖味噌煮のレトルトパックをツマミに缶ビールを飲み、鍋焼きうどんを作って食べる。昼食を終えて、おもむろにブナ林コースに入って下山にかかる。下り始めは急坂で、トラロープが設置されている。傾斜が緩んで細尾根となると、キタゴヨウマツの大木がある。根本の土砂が流されて、今にも谷に落ちそうである。
再び眺めが開け、中腹の見事な紅葉と山麓を眺めながら下る。
やがて尾根から右斜面に入り、ブナの美林に覆われた傾斜の緩い山腹を降りる。ブナの黄葉を透かして日差しが零れ、林内はカラッとして明るい。山道に積もる枯葉をカサカサと踏んで、斜面をジグザグに下って行く。小さな窪を渡ると杉林に入り、麓に近づいたことが感じられる。
小さな沢に沿って下り、沢を何度か渡り返すと、杉林からゲレンデに出る。この地点には道標がある。あとはゲレンデを下って、湯沢パークホテルまで戻る。
湯沢パークホテルから、時々、方丈山を振り返りながら、岩原スキー場前駅へ向かう。登り1時間25分、下り50分の本当に小さな山だったが、険しい一面もあり、大展望と見頃の紅葉に恵まれて、期待していた以上に良い山で楽しめた。
駅に到着すると次の上り列車は15:12発で、1時間20分の待ち時間がある。湯沢パークホテルで日帰り入浴するという手もあったな。こんなに時間の余裕ができるとは思っていなかったので、入浴の準備をして来なかった。しかし、駅待合室の日溜まりのベンチでうつらうつらしてたら、あっと言う間に定刻となった。
列車は土樽で多くの登山者を乗せる。清水トンネルを通る間に車掌さんの改札があり、行き先は土樽が多いようだ。土樽では入れ替わりに大勢がどっと乗り込む。谷川岳は大賑わいだったろうな。水上と新前橋で列車を乗り継ぐ。新前橋では、全く偶々だが「SLぐんまみなかみ号」に遭遇。大勢の鉄道ファンに混じり、にわか撮り鉄になってC6120の勇姿をカメラに収める。今日は鉄道で出かけて来て運が良かったと思いつつ、桐生に帰った。