殿城山〜烏帽子岳
このところの天気は梅雨らしくぐずつき気味だが、この週末は日曜日が晴れそうだ。先週末は所用があって山に出かけていないし、その前の週もごく軽い山歩きしかしていないので体がちょっと鈍った感があり、少し長めの行程を歩きたい。どこに行こうかなと考えて、浅間連峰の烏帽子岳に山麓の上田市民の森公園から登ることを思い付く。このコースは「山と高原地図(2018年版)」に太い実線(冊子紹介コース)で記載されている。標高差は約1100m、登りコースタイムは約4時間半なので、そこそこ歩き応えがありそうだ。
このコースを地図で見ていて、市民の森公園の北にある殿城山(とのしろやま)という山に目が留まった。ネットで検索すると、市民の森公園からハイキングコースが通じており、山歩きの対象になっているようだ。と言う訳で、途中、殿城山に立ち寄って烏帽子岳に登る計画を立てて、出かけてきました 。
桐生を朝6時過ぎに車で出発し、北関東道、上信越道を走る。浅間連峰には雲が掛かっているが、空は明るく、じきに晴れそうな感じ。東部湯の丸ICで高速を降り、山麓を西に少し走って山間を上がると、山上に段々に造成され、緑に覆われた市民の森公園に着く。広い駐車場には既にたくさんの車があって喫驚。どうも何かスポーツイベントがあるらしい。
綺麗なWCを借りてから歩き出す。森林の中に宿泊施設や体育館、キャンプ場などの設備が整い、なかなか気分の良い公園だ。グラウンドでは社会人のクラブチームの練習だろうか、やはりサッカーの試合が行われていて、掛け声が響いてくる。
シカ舎があり、ちょうど朝ごはんの時間で、群がるシカに構わず、その上にどさどさと草が投げ込まれている。シカも喜ぶと短い尻尾を犬の様に左右にパタパタ振るんだなあ。食べながらこちらを警戒する見張りのシカも数頭。可愛い仔鹿も居て、しばらく見入る。
シカ舎のすぐ先に「←殿城山登山道 烏帽子岳・殿城山を愛する会」と書かれた小さな道標があり、左の森の中の踏み跡に入る。以降、要所には道標があり、迷う所はない。山腹をトラバースする作業道を辿る。すぐに小さな溜池を通過。周囲は下草が繁茂した森林で、最近よく雨が降ったのか、しっとりと水気を含んでいる。ヤマアジサイの花やヘビイチゴの赤い実が多い。湿気は多いが、作業道は良く刈り払いされて藪もなく、快適に歩ける。
やがて森の切れ間に出て、谷を隔てて殿城山辺りの山が見える。既に6月も末だから当然なのだが、辺りの山と谷はもうもうと生い茂る緑に覆われて、完全に初夏の趣きだ。
道はやがて谷におりて、しばらく渓流のかたわらを歩く。鷲場山への林間コースを右に分け、左の渓流を渡る。丸木橋が架かっているが、苔むして如何にも滑りそう。渓流に降りて渡るのが吉。対岸に林道が通っており、これを辿って上流に向かう。
林道の脇には、小さなピンクの花を付けたアザミの仲間が蔓延っている。このアザミは高さ1〜2m。葉も茎もギザギザの棘で完全武装していて、もし、藪漕ぎでこんなのがあったらたまらない。後日調べると、アメリカオニアザミという外来種のアザミらしい。
しばらく沢沿いに林道を辿ると、「本州製紙 殿城社有林」と「林道赤坂線」の看板があり、左に折れて浅い窪を登る。程なく道標があり、林道から分かれて山道に入る。
下生えに低木の緑が広がる杉植林帯の山道を登り始めると、左の林の中に逃げ込む大きくて黒い獣を目撃。クマさんだ!カメラを向けるが、とっくに姿は林の中に消えていた。
急斜面を大きくジグザグを切って登ると、反射板が建つ殿城山の頂上に着く。頂上は小広い草地で、三角点標石と山名標、台座のみの石祠がある。樹林に囲まれているが、反射板のある西側は切り開かれて、上田市街や塩田平とその周辺の山々、北アの槍ヶ岳から鹿島槍、五龍岳までの眺めが得られる。
水を飲んでちょっと休憩したのち、烏帽子岳に向かう。頂上から刈り払いされた山道を下ると、しばらくはなだらかで小さなアップダウンのある尾根をハルゼミの鳴き声を聞きながら辿る。少し登って、市民の森公園から直接、烏帽子岳に向かう登山道に合流する。ここには「烏帽子岳 約4.0km」「烏帽子登山道(柳狭間)」と書かれた古い道標がある。
烏帽子岳に向かうと、ちょっと傾斜が強まって1276m標高点を越え、少し下って広く平坦な尾根上の林道に出る。この林道を辿っていると、右の林の中の少し離れた所で、高木から急いで降りて逃げ出した大きくて黒い獣を目撃。またクマさんだ!クマ、多いなあ。
クマが多くても、逃げるから気にしない。そのまま、林道を辿ると道標があり、山道に入る。周囲は下草が繁茂したカラマツ林で、草叢の間にはキバナノヤマオダマキがたくさん咲いている。綺麗なので写真を撮ろうとするのだが、そのために足を止めると、林道に出た辺りから現れ始めたアブに一斉に集られる。どれくらい集られるかというと、適当に腕を振り回すとペシペシ当たる。これは撮影どころではない。山道をアブを引き連れたまま突き進む。スピードを緩めると、肌の出ている二の腕や、Tシャツの上からでも肩や脇腹にチクンとくるので、ピッチを上げざるを得ず、強制的にトレーニングモードにさせられる。これはたまらん。逃げてくれるクマより災厄だ。
やがて右手にすずめ石が現れる。これは確かに雀の頭に見えなくもない。「すずめ石 S51.5 本原小」と記された文字の掠れた標識が掛かり、もしかしたら地元の小学生が想像力を発揮して名付けたのかも知れない、と想像する。
相変わらずカラマツ林の緩斜面をほぼ一直線に登る。荒れた作業道が縦横に通じ、何度も横断するが、登山道は道型がはっきりしていて、ルートは明瞭だ。
すずめ石から20分程で、尾根を横切る林道に出る。ここには「烏山林道」という標柱がある。林道はここから尾根上を大きくジグザグに上がり、登山道は林道をショートカットして、何度か横断しながら真っ直ぐに登って行く。
草深いカラマツ林を緩く登り、草藪が笹原に変わると、程なく角間温泉分岐に着く。北側は角間川へ急傾斜で落ち、四阿山が眺められる。角間温泉への道は、入口に「災害のため危険につき通行禁止」の標識が設置され、笹藪に覆われて完全に廃道化している。
少し休んで烏帽子岳に向かう。すぐに樹林を抜けてレンゲツツジが咲く低木帯となり、岩の多い明るく開けた斜面を登る。標高が上がって気温が下がり、風も吹き始めたので、アブがいなくなるかなと期待したが、まだまだたくさんに付き纏われている。もう、本当にしつこいなあ。岩塔やガレ場が現れて高山的な雰囲気の道となり、本来ならば展望を楽しみながらのんびり歩きたいところだが、アブに追い立てられてペースを上げっぱなし。最後はバテバテとなって、烏帽子岳の頂上(2002年以来、2回目)に登り着く。
ここまでハイカーさんには一人も合わなかったが(復路もゼロ)、頂上にはざっと30人程の老若男女のハイカーさんが居て、賑わっている。貴重な梅雨の晴れ間を狙って登ってきたのだろう。その狙いに違わず、頂上からの眺めはなかなか素晴らしい。東には隣に湯ノ丸山や、奥に篭ノ登山、頂上だけ覗く浅間山が連なる。南から西にかけては、上田市街を俯瞰し、北アを遠望。北には足元に切れ込む角間川の谷を隔てて、四阿山を望む。
頂上にもアブがいるので、アブが少ない風通しの良い岩の上に陣取って、カップ麺のうどんで昼食とする。ハッカのような匂いがすると思ったら、虫除けシールを取り出して貼っているハイカーさんがいた。あんなグッズがあるんだな。私も今度試してみようかな。
昼食を終え、展望を堪能したのち、往路を戻る。下りは速くて楽だ。林道から1276m標高点への登りにかかると、アブがすーっと居なくなる。これはちょっと不思議だ。
殿城山登山道分岐は左へ、直接、市民の森公園に向かう。小さなアップダウンがあり、「鷲場山登山道 →」の標識で左に山道を見送って、ほぼ平坦な尾根道通しに鷲場山に向かう。歩く人が稀なのか、草が繁茂している。鷲場山(1077m標高点)の頂上は展望も何にもなし。訪れる価値はあんまりなかった(^^;)
頂上から南へ、微かな道型を辿って植林帯を下ると、舗装された林道に出る。空はすっかり晴れ上がり、路上は日差しが強くて暑い。あとはセミの声を聞きながら、林道でジグザグに下って市民の森公園に戻る。サッカーの試合はまだやっていた。この暑さでタフだなあ。駐車場に戻ると、車はさらに増えていた。
帰りは市民の森公園から近い湯楽里館に日帰り入浴で立ち寄る(500円)。高台にあり、露天風呂からの眺めが良い。さっぱり汗を流し、ソフトクリームを食べ、ワインを土産に買って帰途につく。途中、上信越道の事故渋滞のため、碓氷軽井沢IC〜高崎ICは下道へ迂回。いつもより時間がかかって帰桐した。