雨乞山
金曜の夜は飲み会があり、土曜の朝は少々寝坊して目が覚める。外を見ると雲は多いが青空も覗いて、普通に良い天気だ。日曜は雨の予報なので、今日、出かけないと勿体ない。以前から興味を持っていた雨乞山に出かけることにする。沼田盆地の東にある低山で、この時期は藪っぽそうな気がするが、近場だし、ちょこっと登るには丁度良い山だろう。
桐生を車で出発。駐車場で車を発進させた直後に、詳細は書かないが、気が滅入る不可抗力なアクシデントがあり、今日は山歩きを中止しようかとも思ったが、気分転換の為に出かけることにする。
R122、県道沼田大間々線、望郷ラインを経由して、まず、雨乞山の高平口登山口に向かい、登山者用駐車場にマイ自転車Radon I号をデポする。今日は西麓の下古語父(しもここぶ)を起点として雨乞山に登り、ここに下って来て、自転車で起点に戻る予定である。駐車場には車2台があり、登っているハイカーさんがいるようだ。
自転車をデポしたのち、細い林道を下り、望郷ラインを西に走って、十字路左の広いスペースに車を置く。雨乞山にはポピュラーな高平口の他に、括林口、下古語父口などの登山コースがあるが、下古語父口についてはトレランで下ったというレポがヤマレコにあるだけで、正確な場所の情報がなく、多分ここが登山口ではないかと推測。しかし、現地には道標の類は全く見あたらない。
正面に雨乞山のもっこりした山容を眺めながら、谷間に広がる畑地の中の車道を上がる。振り返ると、田園風景の向こうに三峰山の特異なテーブル状の山容が眺められる。
畑地の奥にはりんご園があり、大きく広がる枝を撓めて小さな実がたわわに付いている。道端に桑の木があり、熟した実を少し頂いて甘酸っぱい味を楽しむ。群馬の年配の方から、ありふれ過ぎて美味しいと思わない、と聞いたことがあるが、私は結構好きだ。
やがて、半遮光のかまぼこ型ハウスが建ち並ぶ一角に着く。看板を見ると家畜糞尿発酵処理施設らしい。車道は施設の右から裏手に回った所で終点となり、代わって耕地跡と思しき草原の中の轍を辿る。覆い被さる草の先っぽに毛虫がもぞもぞと蠢いて居たりして、歩かれている痕跡は薄い。
右手の杉林の中に並行して作業道が通じているのに気が付き、そちらは荒れてはいるが藪はないので乗り換える。しかし、少し進んだ所で道を塞いで斃れたシカに遭遇。大きく立派な雄ジカで、死後間もない様子。死因は不明。山歩きをしていると偶に目にする光景ではあるが、これは生々し過ぎる。しかも何の因果か、朝のアクシデントに続いて動物の死骸を目にし、トラウマ級に気が滅入る。が、何とか気を取り直し、迂回して先に進む。
杉林の中の荒れた作業道を辿ると、やがてY字路となる。ここは山勘で左へ。作業道は古い木橋で小川を渡り、右岸の斜面に取り付いてジグザグに登る。
程なく小尾根を乗り越し、反対側の小さな谷に下ると、谷沿いに上がって来た作業道に合流する。これまでとは違って、この道は良く踏まれている様子が窺える。後日調べると、これが括林口からの登山道らしい。
登山道を登り、谷を詰め上がって尾根の上に出ると「←雨乞山」の道標があり、確かに登山コースに乗ったことがわかって、一安心。あとはハイキングに相応しい良い道が続く。
尾根上の道を登ると大きな岩場が現れ、これを右から巻いて鞍部に出る。ここには「←ふたつ岩 雨乞山→」との道標があり、来た方向は「中野集落」と示されている。
雨乞山に向かう前にふたつ岩(849m標高点)に立ち寄ってみる。踏み跡を辿って、雑木林に覆われた小ピークに登る。頂上も樹林に覆われるが、小さな岩場(これがふたつ岩?)があり、西側の樹林の切れ間から三峰山が眺められる。
鞍部に戻って、雨乞山に向かう。短い間だが、明るく開けたザレ地の道となって、両側の草叢にはアヤメが点々と咲いている。
梅雨らしくコアジサイが咲く雑木林に入って尾根道を登ると、「白沢町下古語父口 0.6km →」の道標があり、右に下る山道が分岐する。この道の入口は藪っぽく、その先の道型も微かで、歩かれている様子がない。下古語父口は一体どこだろう。結局、今日の駐車地点は下古語父口ではなかったようだ。下古語父口の位置を突き止めるため、帰りはここから下ってみようかとも考えたが、今日は高平口に自転車をデポしているので、止めておく。
ここから急斜面に差し掛かり、大きくジグザグを切って登る。やがて傾斜が緩んで、尾根道をまっすぐに登ると雨乞山の頂上に着く。
頂上は小広い平地で、三方を樹林に囲まれているが、西側が大きく切り開かれて、アヤメが咲く草地の斜面となり、沼田盆地とそれを取り巻く山々の眺めが開ける。また、展望を楽しめる位置にベンチがあり、三人組のハイカーさんが休憩中。その他に東屋や、頂上の一角の小高い所に雨乞宮の大きな石祠と三角点標石がある。
私もベンチに腰掛けて、眺めを楽しみながら昼食のパンを齧る。ここからの展望は素晴らしく、今日これまでの気が滅入った出来事もすっかり忘れるほどだ。正面に沼田盆地の田園と片品川の河岸段丘、周辺に赤城山、子持山、三峰山などの山々を眺める。季節柄、靄がかかって遠望は得られないが、展望説明板によると奥秩父、南ア北部、八ヶ岳、浅間山、谷川岳まで見えるそうである。また、北側の樹林の切れ間からは武尊山が見える。
頂上でのんびり過ごしたのち、高平口に向かって下山する。頂上直下に簡易WCのある広場があり、そこから車も通れそうな幅広い道を辿る。左に川場村林道終点口への道を分け、樹林の中を緩く下る。途中で数輪のニッコウキスゲの花を見る。
山腹を斜めに横切って下ると、程なく舗装された車道に出る。下ってきた道の入口には車止め有り。また、「雨乞山散策道」との案内図もある。確かにこちらから雨乞山を往復する場合は良く整備されて藪も全くないし、散策と言って良い軽い山歩きだ。自転車をデポした駐車場は、車道を少し下った所にある。
あとは自転車に乗って駐車地点に戻る。林道をジグザグに下って、望郷ラインに出たところに「河岸段丘ビューポイント」の駐車スペースと展望台があり、立ち寄ってみる。ここも展望は悪くないが、雨乞山頂上の方が標高が高い分、格段に優れている。
ここから望郷ラインを快適に下り、最後だけ少し登り坂を漕いで、駐車地点に帰り着く。サイクリングを含めて約3時間の軽い山歩きだったが、良い気分転換になった。
帰りの立ち寄り湯は、すぐ近くの米山温泉旅館に行ってみる。しかし、旅館の人が不在のようで、残念ながら入れず。久し振りに道の駅・白沢の望郷の湯に立ち寄る。風呂上がりにイチゴのソフトクリームを食べたのち、往路を戻って桐生に帰った。