エビ山〜八間山
根広(ねびろ)尾根は、野反湖南岸の十二山(1653m三角点峰)から南に延び、石ドヤ山(1503m)、木ダマ岩(1206m)を経て、根広集落、花敷温泉に落ちる長い尾根だ。地形図では尾根上に破線路が記載されており、以前から、この尾根を登って野反湖に行けないかな、と興味を持っていた。
今回、野反湖周辺の山に登ろうと考えて根広尾根のことを思い出し、調べてみると非常に良い山道が通じていることを知った。なんでも、鏑木毅氏プロデュースで2014年に第1回が開催されたトレイルランニング大会「スパトレイル〔四万to草津〕」のコースの一部として、笹藪に覆われて廃道化していた根広尾根の古道を復活させたそうである。これは歩いてみるしかないでしょう。
(なお、山と高原地図にも2015年?版から根広尾根のコースガイドが記載されている。)
という訳で、花敷温泉から根広尾根を登って野反湖岸のエビ山と八間山を巡り、野反峠から路線バスで花敷温泉に戻るという計画を立てて、出かけてきました。
深夜2時半頃に桐生を車で出発。R353、暮坂峠、R405を経由して、花敷温泉バス停に4時半頃に到着する。既に日の出の時刻になっているが、ここは深い谷間にあって薄靄に包まれ、まだ薄暗い。しかし、上空は明るくなりつつあり、天気は問題なさそうだ。郵便局の隣の広い空き地(かつて関晴館本館があったが、2008年に廃業)に車を置く。
白砂川本流に架かる橋の方へ少し戻って、民家と民家の間から山道に入る。入口に道標はない。すぐにつづら折りの山道となり、花敷温泉裏手の急斜面をグングン登る。やがて山腹を水平に巻く道となると掛小屋があり、「湯坂道」と書かれた標識が掲げられている。
平坦な山道を辿るとコンクリ舗装の作業道に合流し、R405と根広集落を結ぶ車道が越える小さな峠に出る。峠の切り通しの上には、道祖神の2基の石碑が祀られている。
峠から少し下って根広集落に入る。根広林道入口のT字路には「根広ねどふみの里」の建物と足湯があり、ねどふみって何?と興味を惹かれるが、早朝なのでさすがに開館していない。林道を少し登って集落の端から振り返ると、雲一つない青空の下に白茶けた頂の草津白根山がクッキリと眺められる。今日はやはり天気が良い。
薄暗い林間に入って未舗装林道を登り、Y字路で右の簡易舗装の道に入る。「根広配水池」の水道施設を過ぎ、山道に入る。道型ははっきりしているが、湿った落ち葉がふかふかと積もって、最近歩かれている様子はあまりない。
やがて未舗装林道に合流し、これを辿る。そのまま進んでいくと林道は左にカーブし、尾根から外れていくので、赤テープを目印に右斜面の踏み跡に入る。笹藪の夜露でズボンが濡れて冷たいが、それもわずかな距離で笹藪を抜け、尾根を絡む登りとなる。
やがて尾根の上に出て、左から上がってきた林道に合流する。さっきの林道をそのまま進んでも、ここに来るようだ。林道を辿ると木ダマ岩の頂上の左を巻いてしまうので、適当なところから丈の低い笹原を登って頂上に向かう。しかし、頂上にはそれらしい岩がある訳でもないし展望もなし、笹原に埋もれて三等三角点標石がポツンとあるだけである。
林道に戻って辿る。林道というよりは幅の広い山道で、なだらかな尾根を緩々と登る。楽で気持ちの良い道だ。トレランにうってつけだし、MTBでここを下ったウェブの記録が多いのも頷ける。
短い坂を登ると根広林道支線に出る。これを横断して、再び尾根上の緩やかな道を辿る。高トヤ山は左を巻く。樹林に囲まれて展望は乏しいが、左側の木の間に草津白根山や草津の温泉街が眺められる。日が高くなるに連れて暑くなり、ヒグラシが盛んに鳴き始める。道はずっと緩やかで、ふんわりとした土を踏む感触が気持ち良い。
やがて尾根が少し細くなって傾斜が増す。登り着いた平坦な稜線が石ドヤ山だが、どこが頂上かわからないうちに、頂の右を巻いて通過する。
木立や笹原が低くなって、植生からも標高が上がったことが感じられる。右斜面をトラバースし、程なく野反湖南岸の稜線に登り着く。小広いザレ地に道標が立つ。山と高原地図によると、根広禿と呼ばれる地点らしい。稜線に登り着くと眼前に野反湖の湖面が広がった、という感動の展開を期待していたが、樹林に覆われて残念ながらそういう展望はお預け。しかし、振り返るとなだらかな根広尾根が長々と横たわり、歩いてきた距離を一望して実感する。
まず、稜線を右(東)に辿って弁天山に向かう。稜線上では多くのハイカーさんと行き合う。巻き道を左へ分け、少し登って野反湖を見たのち、弁天山の頂上に着く。頂上には石祠と琵琶を抱えた弁天様の石像がある。東には笹原が広がる野反峠(富士見峠)が下に見える。西にはエビ山、高沢山、大高山が重なり合って眺められる。そちらはなだらかな稜線にダケカンバの樹林を交えた笹原が広がり、高山というよりは高原の眺めだ。
根広禿に戻って、エビ山に向かう。道標には「恵比山」と表記されている。十二山は北斜面を巻く。十二山の三角点標石を拝みに行こうかと思ったが、笹藪が深いので止めておく。湖畔への道を右に分け、笹原の切り分け道を緩く下っていく。正面にはエビ山がゆったりと稜線を広げる。
再び湖畔への道を右に分け、笹とバイケイソウに覆われた緩斜面を下って、エビ平に着く。分水界から少し下がったところで、流水跡の溝はあるが、水はない。湖畔に向かって笹原に覆われた浅い谷が広がり、湖面が見える。開放的で気持ち良い場所だ。
ここからエビ山へは、標高差約210mのちょっとした登りとなる。笹原にダケカンバなどの灌木が生えた斜面をぐんぐん登る。道端にはニガナの黄色い花が多い。強烈な日差しに背中から炙られて暑いが、標高が上がるにつれて野反湖の湖面が広く俯瞰され、対岸には八間山がせり上がって来て、目には涼しげな高原的風景が展開する。
登り着いたエビ山の頂上は、笹原の中を広く切り開いた平地となり、群馬百名山の標柱が立つ。高沢山から三壁山に続く稜線の眺めが良い。大高山は高沢山の影に隠れて見えないが、その左に横手山や草津白根山が遠望できる。僅かな木陰で日差しを避けて一休み。登り初めから4時間歩いたことに加えてのこの暑さは、結構こたえる。
エビ山から野反湖尻に向かって北東に稜線を辿る。最初は笹原の平坦な稜線が続き、樹林を抜けると「エビの見晴台」に出る。野反湖を俯瞰し、野反峠から八間山にかけての眺めが良い。
見晴台から針葉樹林の尾根を下り、「笹平」の標識を過ぎると広く笹原に覆われた緩斜面に出る。野反湖を隔てて、大倉山から八十三山、堂岩山が眺められる。堂岩山の向こうの白砂山には、今日はたくさんのハイカーさんが登っているだろう。
笹原を下ると炊事場の屋根が見えて来て、第二キャンプ場に着く。湖に面したキャンプ場には大きなテントが数張。ここから湖岸を周回する歩道を歩く。ウッドチップが敷かれていて綺麗に整備されている。高沢山を高く仰ぎながら入江に沿って歩く。途中に弁天橋があり、入江をショートカットできる。橋の上から眺める湖水は澄んで、でかい魚が悠々と泳いでいるのが見える。
第一キャンプ場に入ると、こちらは車で入れるので、大勢のキャンパーがいて一気に賑やかになる。体育館まで建っていて、かなり立派なキャンプ場だ。キャンプ場を抜けて舗装道を下り、野反ダムの天端を渡る。ここは湖面から涼しい風が吹き付けて、この日一番涼しい場所だ。ダムの下流は中津川支流の千沢で、秘境秋山郷に歩道が通じている。中間の魚野川の出合までは歩いたことがある。その先も踏破したいなあ、と憧れの眼で眺める。
ダムを渡って少し登り、野反湖バス停に着く。広い登山者用駐車場は車が多いが、余裕はたっぷり。観光客もちらほら居る。休憩案内所(兼食堂)の脇のベンチで大休止し、カップラーメンを作って昼食とする。周囲の草原にはノゾリキスゲがポツポツと咲き出しているが、開花のピークはまだ先だろう。
昼食後、八間山に向かう。湖岸のR405を辿って登ると、左側に駐車スペースと「池の峠」の標識がある。ここから八間山の登山道に入り、茅の尾根と呼ばれる尾根を登る。樹林に覆われて眺めはほとんどない。途中の「野反湖見晴」も樹木が育ったためか、見晴らしはない。オオシラビソやダケカンバの樹林をひたすら登る。
ようやく開けた稜線に登り着いて、堂岩山からの登山道を合わせる。北東には堂岩山に続く稜線と、その奥に白砂山を望む。稜線を少し辿って、八間山の頂上に着く。
頂上の小平地には三角点標石と山名標識がある。ハイカーさんが数組休憩していて、おばさんから梅干飴を頂いた。熱中症予防にいいかも。頂上からの眺めは素晴らしい。南面の頂上直下は豪雪に磨かれて急だが、その下は意外と穏やかな山肌が白砂川に向かって続く。対岸の山は松岩山(1512m)だろうか。緑に覆われた山並みが見渡す限り続く。
八間山頂上から野反峠に向かって下る。展望のない茅の尾根から一変して、南面の展望が開けた広い笹原の尾根道を気持ち良く下る。左の谷は白砂川支流の八間沢で、下方の谷筋には僅かに雪渓が残る。
イカ岩の頭の標識のある小さなピークを越え、なおも笹原の尾根を下る。イカ岩の肩で右折して、野反峠の駐車場や休憩舎を見下ろしながら、ザレた斜面の階段を下る。野反湖全体を良い角度で俯瞰し、先程登ったエビ山や、高沢山、大高山を望む。野反峠の手前の右側のザレ地にコマクサの群生地がある。六合中学校の生徒が植えたそうで、ちょうど見頃。綺麗に咲いている。
そして野反峠に到着。根広尾根の登りは緩くて楽だったが、その後の野反湖一周の上り下り×2回はなかなか疲れた。バスの時刻まで2時間程あるので、休憩舎脇の日陰のベンチに寝っ転がったり、周囲の草原にポツポツ咲き始めたノゾリキスゲを眺めてのんびり過ごす。ドライブの観光客や、ハイキングから戻ってきたハイカーさんの一行で峠は大賑わい。休憩舎でソフトクリームを買って食べようと思ったら、売り切れていた。残念。今日は暑いからなあ。
定刻から少し遅れてバスが到着。30分程かけて山を下り、車を置いた花敷温泉に戻る。帰りはすぐ近くのバーデ六合の温泉に立ち寄る(400円)。温泉医療センターなので、雰囲気は病院っぽく、温泉の浴室、湯船とも広くないが、源泉かけ流しの熱いお湯は温泉らしくていい。さっぱり汗を流したのち、長野原を経由し渋川ICから高速に乗って桐生への帰途についた。