三ツドッケ
この週末はよく晴れて、夏のような暑さになるとの予報。そうなると、低山は暑過ぎるので避けたい。標高がある程度高い山で、できれば沢沿いのルートを登りたいな、と思って、奥多摩の三ツドッケ(天目山)に秩父側から登ることにする。
登路は、仙元谷から一杯水・三ツドッケに至るかつての登山道を辿る。このルートは既に廃道となって久しいが、最近でも歩いた山行記録が多数ある。仙元谷上流のグミの滝も観てみたいし、谷を登るから涼しさも期待できる。下りはたそがれさんが直登されたシャクナン尾根が最短ルートなので、これを下降することにして、出かけてきました。
桐生を車で5時過ぎに出発。伊勢崎、本庄、児玉を経由して秩父に入る。今日は予報通りの晴天で、武甲山や都県界尾根の山々が青空に高々とスカイラインを描く。浦山川沿いの道を走り、川俣から細久保谷沿いの幅員の狭い道に入る。人家が尽きると未舗装の悪路となり、車の底を擦らないように気を使う。
ゲートのある細久保橋の手前が駐車地点で、既に2台の車がある。この辺りを歩くハイカーさんがそんなにいるとは思えないので、多分、釣り人の車だろう。私もここに車を置いて歩き始める。辺りは深い緑に覆われた渓谷で、細久保橋から見下ろす細久保谷の渓流は水量が多く、ドウドウと流れて涼を呼ぶ。
右岸に渡ってヘアピンカーブを登ると、シゴー平と呼ばれる平地に営林署の事業所小屋が建つ。小屋は締め切られて長いこと人が入っていない感じ。小屋の前の広場は資材置き場として使用されているようだ。
左に仙元林道を分け、仙元谷を渡って、本流の右岸の高いところをトラバースする。周囲の山肌は急峻で、谷は深い。対岸の尾根は大平山から派生する大ネド尾根だ。日差しを燦々と浴びて、緑も生き生きしている。
つづら折りの二つ目のカーブが仙元谷コースの入口で、「仙元谷 ←一杯水・三ッドッケに至る」と書かれた立派な木柱の道標があり、山腹をトラバースする山道が分岐する。林道歩きで汗をかいたのでTシャツ一枚になり、ちょっと休んでから、いよいよ山道に入る。
この山道は檜が疎らに生える植林帯の山腹を巻いて、しっかりと続いている。踏み跡は明瞭で、予期していた以上に良い道だ。ただし、棘がある系の草藪が被さりつつあり、夏は歩かない方が吉だろう。オオスズメバチも見かけたので、要注意。途中に道標があり、かつては林道をショートカットする山道があったようだ。
山道が鬱蒼と茂る雑木林に入って程なく、桟道が現れる。鉄パイプで補強されているが傾いており、張り渡されたロープを摑んで恐る恐る渡る。左の急斜面の下に渓流を垣間見ながら、山腹を延々トラバースする。途中で枝沢を二つ程渡る。水際には名前は知らないが小さな花が咲いていて和む。
途中の崩落地点には右上にしっかりと巻き道がある。徐々に本流が近づいて、ナメを流れ落ちる小滝が見える。山道はこの先で水量がだいぶ減った本流を跨いで右岸に渡る。山道はカーブして右岸の段に上がり、広く明瞭な道型が続く。ダケカンバ林が広がり、新緑が美しい。
やがて石垣が残るわさび田跡が現れ、崩れ落ちてトタン屋根が散乱する小屋の残骸を見る。このすぐ先に道標があり、一杯水・三ツドッケへは右折して左岸を渡る方向を指している。グミの滝は本流を遡ってすぐのはずだから、立ち寄ってみよう。
本流に沿って登ると両岸が岩壁となって切り立ち、苔むした大岩が山積する。谷がちょっと右に曲がると、奥にグミの滝が現れる。ほぼ垂直の岩壁を流れ落ち、落差は2〜30mというところか。周囲も高い岩壁に囲まれて険しく、深山幽谷の雰囲気がある。
道標まで戻って、グミの滝を高巻く道を探す。滝周辺の険しさから、大高巻きになるのは必至。本流を渡った左岸は、伐採跡にダケカンバが疎らに生えた急斜面となり、明瞭な道型はないが、立木に赤テープが見える。テープを目印に急斜面をジグザグに登ると、斜面をトラバースする踏み跡が現れ、杉植林帯に入る。
踏み跡はここで小尾根を直上するものと、左の沢に降りるものに分かれる。左の踏み跡を辿り、トラロープで涸れ沢の川床に降りる。辺りをよく見ながら沢を上がると、左斜面にテープを発見。山腹をトラバースする踏み跡に入り、小尾根を少し登る。下には木立を通してグミの滝の瀑身が見える。
ようやくグミの滝を越え、穏やかな渓流を見下ろしながら杉林の山腹をトラバースする。やがて本流に降りると、石垣だけが棚田のように残るわさび田跡があり、傍に標識杭が朽ちて倒れている。踏み跡はここで右岸に渡るので、本流の冷たい水を飲み、顔を洗って汗を拭う。暑い時はこれが一番の疲労回復となる。
右岸に渡り、右にわさび田跡を見ながら渓流脇の苔むした転石のある緩斜面を緩く登る。花の終わったハシリドコロと花はこれからのコバイケイソウが群生する。踏み跡は不明瞭でところどころで消えており、古いテープ類を頼りに辿る。
かなり奥までわさび田跡が続き、これを作った先人の労苦が偲ばれる。沢が二股となって右の沢に小滝を見る。赤テープを辿って左の沢に入り、右の小尾根を乗り越して右の小沢に入る。この辺りは踏み跡不明瞭、完全にテープ頼りの進行となる。
小沢に入ると、あとは浅い窪をぐんぐん登るだけだ。しかし、この辺り羽虫が多く、顔の回りを飛び回るし、写真を撮ろうとするとレンズに止まる始末。追い払ってもキリがないので、諦めの境地に達して放置。稜線に上がれば風が吹くので、いなくなるだろう(実際、いなくなった)。
杉植林帯に入り、急斜面を小さくジグザグに登る。やがてコバイケイソウとハシリドコロが群生する明るい雑木林となり、急斜面を登り上げると都県境尾根の上に出て縦走路に合流する。ここにも木柱の道標が立つが、登ってきたコースの文字は「川俣…」と中途半端に塗りつぶされている。古の登山道を最後まで辿ることができて嬉しいが、テープ類がなかったらこのルートを辿ることは(沢登りと同等になって)かなり難しそうである。
ここから三ツドッケの頂上までは気楽な一般登山道だ。三ツドッケの南面を巻いて行くと、途中に一杯水の水場があるが、残念ながら今日は水が出ていない。
尾根の鼻を回るところに一杯水避難小屋が建つ。ここは1977年5月に酉谷山から縦走して通りがかったことがあるが、その時は時間切れと体力切れで三ツドッケには登っていない。小屋前の広場にはベンチもあり、ハイカーさんが二組休憩中。小屋の中を覗くと広い板敷で、居心地良さそう。WCもある。
小屋の裏手から稜線上の踏み跡を辿って三ツドッケに向かう。途中、三ツドッケから降りてくるハイカーさん数組とすれ違う。花がなくて残念、という声が聞こえたが、お目当の花はなんだったのだろう(後日知ったが、昨年のこの時期はシロヤシオが見事だったそうだ)。一つ小ピークを越え、鞍部から短い急坂を登って三ツドッケの頂上に着く。
頂上は小広い平地となり、北西を除く三方の眺めが開け、奥多摩の山々が一望できる。しかし腹が減ったので、まずは昼食だ。木立の木陰に腰を下ろし、レトルトパックの鯖味噌煮を肴にDRY ZEROを飲む。生ぬるくてもこの暑さでは美味い。それからカップ麺の天ぷらそばを食べる。食事中にも続々登ってきて、頂上は数組のハイカーさんで賑わう。
腹が満ちたところで、じっくり山岳展望を楽しもう。北にはこれから辿るシャクナン尾根が、北峰ともう一つ鋭鋒をポコポコと連ねる。あれを辿るのは楽しそうだなあ。その向こうには武甲山から有間山にかけての山並みを遠望する。
目を東に転じると、蕎麦粒山や川苔山、本仁田(ほにた)山が見える。さらに多摩川の谷を隔てて、御岳山、大岳山、御前山を遠望する。南から西にかけては、石尾根が長々と横たわり、六ッ石山から鷹ノ巣山、雲取山へ続く。雲取山の手前には、採石場を山腹に抱える天祖山がのっそりと盛り上がる。富士山が見えるというハイカーさんの言葉に目を凝らせば、鷹ノ巣山の左に白く富士山を認める。今日は天気に恵まれて、素晴らしい展望である。奥多摩の山は小学生から大学生の頃にかけてよく出かけて、ここから見える山もだいたい登ったことがあるから懐かしい。今回、未踏の三ツドッケに登ったので、奥多摩の主要な山で未踏なのは残り棒ノ嶺くらいになった。
(なお、これも後日知ったのだが、三ツドッケの頂上から展望が良いのは、2007年に違法伐採されたことによるものだとか。それはあかん。大展望に感動した気分に冷や水を浴びせられたようで、ガッカリです。)
さてそろそろ下山にかかろう。頂上北の樹林で都県境尾根から分かれて北に落ちる稜線上の踏み跡を辿る。北峰との鞍部は細尾根で、オオカメノキの花が咲いており、深山の雰囲気がある。岩場混じりの急な稜線を登って北峰の頂に着く。アセビ等の樹林に覆われて展望はないが、木の間越しに三ツドッケの本峰が見える。シロヤシオもあるが、まだ蕾だ。
北峰からは急な尾根の下りとなる。一旦、小さく登り返して大岩の脇を通り、再び急降下。鞍部から露岩の尾根を登る。左手には大平山が眺められる。登り着いた小ピークはアセビに覆われて眺めはなく、ピンクテープをハチマキのように巻いた標石がある。
この小ピークからの下降は、乱雑に伐採された檜植林帯の斜面の下りとなり、尾根筋が不明確で迷い易い。方向を定めて下り、時々GPSで現在位置を確認しつつ進む。急斜面を下り切り、再び明瞭な尾根筋に乗る。アセビの多い細尾根を緩く下ると、やがて明瞭な踏み跡が現れ、左斜面をトラバースして下ると天目山林道に着く。午後1時を回って、1日で一番暑い時間帯に入った。切り通しの日陰に入り、しばし休憩して水分を補給する。
1260m標高点は巻いて、林道を進む。振り返ると、下って来た尾根が急角度で見上げられる。奥のピークは標石のある小ピークだろうか。逆にこのルートを登る場合は、うわーこれは大変、とボヤキたくなる光景だ。
林道が左に曲がる角から林道を離れて、杉植林帯の斜面を下る。少し下ると作業用の山道があるので、これを辿ってみるが、大きくジグザグを切って、どっちに下っているのか混乱しそうなので、小尾根に乗った所で、あとは山道を無視して尾根を真っ直ぐ下る。
914m標高点に近づくと傾斜が緩み、前方の植林が伐採されて眺めが開ける。杉の切り株に腰を下ろして一息入れ、地図で進路を確認する。ここから左寄りの尾根を下れば、往路で通った仙元谷入口の道標の付近に出るはずである。
最後の下りを開始。日当たりのよい尾根には棘のある草藪が繁茂して、一見してゲンナリ。夏には絶対通りたくないところだ。幸い、獣が良く踏んでいるらしい獣道があり、これを拾って棘を搔い潜りつつ下る。
植林の密度が上がって日陰に入ると、草藪の密度が下がって少し歩き易い。程なく「公共 主図(根点)」と刻まれた標石があり、右斜面から明瞭な踏み跡が合流する。あとはこの踏み跡を辿ると、尾根末端をジグザグに下って、最後はたそがれさんの記事の写真で見覚えのある短い木の梯子を降りて天目山林道に下り着く。やれやれー。ここは仙元谷入口から30mくらいの地点で、あとは往路の林道を駐車地点に戻る。
車に戻ると、駐車が1台増えている。隣の車の持ち主(二人組の男性)が帰って来ていて、話を伺うとやはり釣りの方だった。仙元谷から三ツドッケに登ってきたと話すと、以前、仙元谷を釣りをしながら遡行し、帰りは山道で戻ったことがあるそうである。ただ、この辺りは釣り師の入り込みが多く、今日の釣果は大したことがなかったらしい。
帰りは皆野町町営「水と緑のふれあい館」の温泉に立ち寄る(600円)。山歩きの後に温泉に立ち寄るのは久しぶりだ(最近続けて出かけた南牧村は良いところだが、温泉がないのが玉に瑕)。汗と埃を流してサッパリしたのち、桐生への帰路についた。