東谷山・金華山・御在所岳・菰野富士
年末年始恒例のS&Sとの温泉旅行。今回はあまり馴染みのない中京地方へ。12月30日から1月2日まで3泊4日の日程で、岐阜県岐阜市の長良川温泉(1泊)と三重県三重郡菰野町の湯の山温泉(2泊)に出かけて、周辺の山を散歩して来ました。
東谷山
横浜の実家から出発して、新横浜10:09発ののぞみに乗車。帰省客で駅構内は大混雑。名古屋に11:31着。駅レンタカーでヴィッツを借り出して出発。今日は軽く山歩きをしてから、宿泊地の長良川温泉に向かう予定である。短時間で楽に登れる山を探し、『分県登山ガイド 愛知県の山』を参考にして、名古屋市の北東端にある名古屋市の最高峰、東谷山(とうごくさん)に登ることにする。最高峰と言っても、標高198mの低山である。
東谷山フルーツパークの第一駐車場に車を置く。フルーツパークは年末年始で休園中のため、駐車は少ない。東谷山はすぐそこの丘という感じの山だが、一応、登山靴に履き替えて歩き始める。「東谷山散策路」という大きな標識があり、その右手からヒサカキやアラカシなどの常緑樹の林の中の山道に入る。木の階段道が続き、良く整備されている。
やがて樹林に覆われた小ピークの直下に登り着く。御影石に「史跡志段味古墳群南社古墳」と刻んだ立派な石柱があり、土管のような埴輪(のレプリカ)が並べられ、その後ろに小さな祠を祀った塚がこんもりと盛り上がる。説明板によると、志段味(しだみ)古墳群は4世紀前半から7世紀末(古墳時代前期から終末期)に造られた総数約70基の古墳からなる。この南社(みなみやしろ)古墳は4世紀中頃に築かれた円墳で、次のピークにある中社古墳に葬られた庄内川流域の首長を支えた有力者の墓とのこと。
階段道を一旦下って登り返すと中社(なかやしろ)古墳に着く。こちらは前方後円墳で、4世紀中頃の築造。ここから出た埴輪は、南社古墳と同時期に造られたものとのこと。
中社古墳から少し登ると尾張戸(おわりべ)神社拝殿に着く。拝殿の後ろが尾張戸神社古墳と呼ばれる円墳で、実はこの古墳が東谷山の頂上そのもので、その上に尾張戸神社本殿が建つ。この古墳の築造は4世紀前半で、山麓の白鳥塚古墳に葬られた庄内川流域の首長を支えた有力者の墓とのこと。なお、尾張戸神社の祭神は古代豪族尾張氏の祖先神である。
尾張戸神社の境内の東西にはそれぞれ展望所があり、濃尾平野の眺めが良い。西方を遠望して一際目立つ冠雪した山は伊吹山らしい。なかなかの威容で、古来より名山と言われているのも頷ける。伊吹山には昨年秋に登ったので、再会できて嬉しい。
東谷山の三角点標石は、通常は立ち入れない本殿を囲む塀内にある。ネット情報によると、神主さんにお願いして塀内に入り、三角点標石を拝観した人もいるようだが、今日は残念ながら神社は無人。古墳の周囲を回ったのち、往路を戻って下山。小さな山だが、古い歴史があり興味深かった。今晩の宿の長良川温泉十八楼に向かい、車を走らせた。
参考URL:東谷山フルーツパークHPの「散策路」のページ。
金華山
長良川温泉は金華山麓、長良川河畔に位置する温泉街だ。岐阜市街から近く、人気が高い。十八楼はその中でも老舗の大きな旅館だ(建物や設備は近代的で豪華)。夕食の飛驒牛味しゃぶが大変美味かった。
今日はチェックアウト後、車を宿の駐車場に置かせて貰い、周辺を散歩してから金華山に登ることにする。金華山には、名古屋に住んでいた子供の頃にS&Sと登ったことがあるそうだが、物心つく前のことで、全く覚えていない。麓から仰ぐ金華山は鋭く切り立ち、低山ながらもなかなかそそられる山容をしている。岐阜市民の山として親しまれ、頂上には岐阜城の復興された天守閣が建ち、定番の観光地でもある。
まず、十八楼の前の通りを西へぷらぷらと散歩。この辺りは川原町といい、江戸時代に長良川の水運の要所として栄え、当時の町並みの佇まいを残しているとのこと。端で引き返して十八楼から東に行くと、鵜飼観覧船乗り場がある。長良川と言えば鵜飼で有名だが、この辺りでやるのだとは知らなかった。ただし、この時期は鵜飼のシーズン外である。
長良川に沿って歩き、R256のアンダーパスをくぐり、金華山麓の岐阜公園を通り抜けて、ロープウェイ山麓駅に向かう。麓からの登山道もいくつかあるが、今回はロープウェイを利用する(往復1080円。宿でクーポンを貰うと100円引き)。通常は15分間隔の運行だが、今日は搔き入れ時で客が多いので、随時運行中。乗車約4分で山頂駅に着く。
山頂駅から観光客の列に混じり、整備された散策コースを歩いて、山頂の岐阜城に向かう。歩道は緩やかだが、見おろす山の斜面はかなり急だ。山城としては難攻不落だろう。二の丸跡で天守閣が姿を見せる。「斎藤道三 織田信長ゆかりの岐阜城」という看板があり、その脇で天守閣を背景に記念撮影する観光客がなかなか途切れない。
階段を登って馬の背と呼ばれる痩せた稜線上に出ると、ここからも天守閣が良く見える。「馬の背登山道下り口」の標識があり、「途中断崖や難所が多く大変危険です。体力に自信のない方は通行を控えてください。」との注意書きがある。観光客向けの警告と思うが、下山道を覗き込むと眼下に長良川温泉を俯瞰し、なかなか急峻で面白そうである。
天守閣に登るのは有料(入館料200円、70歳以上無料)だが、せっかくなので登ってみよう。天守からの展望は素晴らしく、四方に眺めが開ける。北東から南西へ長良川が滔々と流れ、北には長良川を隔てて金華山と似た山容の百々ヶ峰(どどがみね)が聳える。東から北にかけては恵那山や白い御嶽山を遠望。西には伊吹山と養老・鈴鹿の山々が連なり、南には濃尾平野が広がる。この展望は一見の価値がある。
岐阜城資料館も見学したのち、山頂駅へ戻る。頂上稜線は岩場が続き、よくまあこんな険しい山上に城を築いたものと思う。岩場には青々とシダが茂り、後日調べるとヒトツバという種類らしい。ますます人出が多くなるなか、山頂駅に着いてロープウェイで下る。
山麓駅の傍はかつて織田信長の居館のあった場所で、現在、発掘調査が進んでいる。これも立ち寄ってみる。居館の入口から続く虎口(こぐち)と呼ばれる折れ曲がった通路の両側には巨石の石垣が続き、壮観である。説明板によると、信長と会見したポルトガル宣教師ルイス・フロイスの著書『日本史』にも、この巨石列のことが書かれているとか。入口の通路を見るだけでも豪邸であったことが窺える。山麓の公園の中を通って、車に戻る。
今日はこのあと車で湯の山温泉に向かうが、時間に余裕があるので、途中で昼食に蕎麦を食べた後、木曽三川(きそさんせん)公園センターに立ち寄っていくことにする。
木曽三川公園センター
木曽三川公園は濃尾平野を流れる揖斐川、長良川、木曽川の流域に分散して開設された日本一広い国営公園で、木曽三川公園センターはそのうちの中央水郷地区にある。
まず、センターに隣接する治水神社に参拝する。この神社の由来は実に興味深く、大変感銘を受けたので、掲げられていた「宝暦治水由緒書」を全文引用しよう。
昔この地方は木曽三川に囲まれ、木曽川より長良川揖斐川と、それぞれ一メートル余り川底の差があり低くなっていた。その為土地の低い美濃側は絶えず水害を被り、徳川時代、特に慶長から宝暦にかけては毎年氾濫して、治水工事の嘆願が続き、ついに幕府は宝暦三年(西暦1753年)十二月二十五日、西国の雄藩薩摩藩にお手伝い方を命じた。
当時、借財に苦しんでいた薩摩藩ではあるが藩の存亡を懸けその命に従うこととなった。総奉行に平田靱負正輔(ひらたゆきえまさすけ)を任じ年が明けて一月二十一日江戸より、次いで二十九日には薩摩より総勢九百四十七名を出発させた。途中大阪で工事費を調達し二月二十七日四の手にわかれて工事に着手。水との苦闘は難工事の連続。その上度重なる洪水に工事費ははるかに超過し、幕府側の迫害や侮辱、工事の邪魔等に耐えかねて自決したもの五十三名、疫病の流行で病没三十三名にも及んだ。総奉行は藩主重年公に工事竣工の報告を副奉行に託し、全責任を負って宝暦五年五月二十五日享年五十二才でこの世を去った。
幕府の命令とはいえ三百里も離れた異郷の地を水害苦難から救った薩摩藩の人達の血と汗と涙の結晶は、今もこの地に語り継がれて薩摩義士の偉業として称えられる大治水事業であった。
この治水神社は平田靱負を祭神とし、その時亡くなられた八十余名の方々をお祀りして感謝の誠を捧げ願望成就の神として崇敬されている。
徳川幕府、超ブラックである。私はこの話は初めて知った。Sはこちらで水政課長を務めていたときにここに参拝したことがあるそうだ(それで今回ここに来た)。郷土の安全・防災のために身命を賭した先人の労に頭が下がる。
次にセンターの園地に建てられた展望タワーに上がる(入館料620円)。65mの高さから、眼下に三川を俯瞰する。3つの大河が細い堤で仕切られて平行に流れる様子は初めて見るもので、これも非常に興味深く面白い。
センター訪問を終え、揖斐川と長良川を仕切る油島千本松締切堤の上に車を走らせる。両側ともすぐそこに水面があり、とても不思議な光景。揖斐川と長良川の間を8km程走り、伊勢大橋で揖斐川を渡って桑名市に入る。行く手に鈴鹿山脈の山々が見え、その中に一際高い金字形の山が二峰並び立っている。あれが鎌ヶ岳と御在所岳のようだ。
山間に入り、急な坂を登って、今晩の宿の湯の山温泉ホテル湯の本に着く。御在所ロープウェイ湯の山温泉駅のすぐ手前に建ち、急峻な御在所岳を間近に仰ぎ見る。夕食の松坂牛のすき焼きが美味かった。ほろ酔い気分で早めに就寝。布団に包まって年を越す。
御在所岳
明けて2017年。天気は曇りで御在所岳の頂は雲に隠れているが、今日、登っておくことにする。ロープウェイで上がれば、頂上までの距離と登りはほんの僅かなので、登頂は問題なくできるだろう。
御在所ロープウェイは、元旦は初日の出運転の5〜8時と、9〜12時に運転する。9時過ぎに湯の山温泉駅に出向くと、冬山装備の登山者が集結していて、軽装の我々はちょっとビビる。ゴンドラなので、すぐに乗車できて気分はスキー場(実は、山頂には三重県で唯一というスキー場がある。1/6からオープン)。御在所岳の岩場を交えた急峻な山肌を眺め、振り返れば山あいの湯の山温泉や山麓の平野を俯瞰する。ロープウェイ途中の白い6号鉄塔は高さが61mもあり、ロープウェイの鉄塔としては日本一の高さだそうだ。
山上公園駅に着いて表に出ると、一面に薄く雪が積もり、灰色のガスに包まれている。本格的な雪景色は初めてのS&Sもビックリ。幅広い歩道を滑らないように注意して緩く下るとそり用ゲレンデがあり、小さな子供がそりで滑って遊んでいる。元気だなあ。
人工の氷瀑を見てレストランの前を通り、斜面をトラバースして雪道を緩く登る。寒風が吹きつけて来るが、年末に新調して履いて来たロングパンツは暖かくて快適。「冠峰歌」の歌碑を過ぎ、道標に従って右折、山道に入る。御在所岳の頂上までは階段の坂道で、距離は短いが、雪が踏み固められて滑りやすく、ちょっとアイゼンが欲しくなる。でもまあなんとかS&Sも無事に頂上に到着。
御在所岳の頂上は広場となり、真ん中に大きな「御在所岳 一等三角点」の看板がある。周囲の樹林は低く、晴天ならば眺めが良さそうだが、今日はあいにく雲の中である。ロープウェイ駅から頂上の一角まで観光リフトが通じているが、今は動いていない。登山者はなく、街中を歩くような服装の若い女性が二人。ひっそりとした頂上である。
晴れて眺めが開けないかなとしばらく待つと、上空の雲が切れて青空が覗き、隣の(琵琶湖が見えると言う)望湖台のピークがガスの中から現れる。標高はあちら(1212m)の方がここ(1209m)よりも高く、つまり御在所岳の最高点なので踏んでおきたいところだが、雪が深そうなので止めておく。これ以上は晴れそうにないので、山上公園駅に戻る。駅の売店で濃厚な甘酒を飲んで温まったのち、ロープウェイで湯の山温泉駅に下った。
下山してもまだ昼前。時間があるので、近くにある蒼滝(あおたき)を訪ねることにする。
蒼滝
湯の山温泉駅から坂道を下り、涙橋を渡って三滝川沿いの道を上がる。こちらにも温泉旅館が点々とある。実はちょっと遠回りをしていて、湯の山温泉駅からのショートカットルートを合わせると「裏登山道一合目」の標識がある。
裏登山道に入り、ロープウェイの架線の下を通って急な山腹をジグザグに登る。小尾根上に登り着くと蒼滝不動がある。蒼滝へは尾根を乗り越して谷に下るが、帰りの登りがきつそうなのでS&Sはここで待機。私だけ滝を見に行く。蒼滝は落差50mとも言われ、花崗岩の岩壁の上に一直線に水を落とす豪壮かつ優美な滝である。
宿舎に戻り、露天風呂に入ったのち、天皇杯サッカー決勝戦をTV観戦(鹿島が2-1で勝って優勝)。ホテル湯の本の露天風呂は5階から連絡通路で出た尾根の上にあり、山麓を一望する眺めが素晴らしい。
温泉旅行の最終日は、湯の山温泉のすぐ近くにある菰野富士に登ってから、名古屋駅に戻ることにする。菰野富士は標高369m。御在所岳の前衛にこんもりと盛り上がり、往復1時間程で登頂できる手頃な山である。ホテル湯の本をチェックアウトして外に出ると、今日は快晴で、御在所岳の山巓がくっきりと見える。今日登れば展望が良いだろうな。ちょっと悔しいが、菰野富士は御在所岳の眺めが良いそうなので、それを楽しみにしよう。
車で移動し、R477(鈴鹿スカイライン)を上がって、鳥居道駐車場に駐車する。WCあり。既に駐車が1台あり、ハイカーさんのグループが出発しようとしている。結構人気の山なのかも。駐車場の下手から登山道に入り、橋で川を渡って対岸を川沿いに登る。この道は東海自然歩道の一部となっている。「菰野富士コース」の道標に従って左折。階段道を上がって、小尾根上の十字路に登り着く。菰野富士へは左に小尾根上の道を辿る。
左右に屈曲するが、登り降りはあまりない尾根を辿る。杉やナツツバキに覆われて展望はない。途中で、ハイカーさんグループに追い付き、先に行かせてもらう。最後に小さな登りがあり、菰野富士の頂上に登り着く。
頂上は樹林が刈り払われて草地が広がり、360度の展望が得られる。東には山麓の平野が広がり、西には御在所岳と鎌ヶ岳が聳える。どちらもピラミダルな山容で、1200m内外の標高の山とは思えない迫力がある。これは是非、自分の足でも登って見たい山である。
頂上には御影石のベンチがあり、腰掛けて休憩しているとハイカーさんグループも到着。ベンチに相席して頂いたら、ミカンをおすそ分け頂く。展望を楽しんだのち、往路を駐車場に戻る。
これにて正月旅行の山歩きは終了。四日市市街、伊勢湾岸のR23を経由して名古屋駅に戻り、レンタカーを返却。新幹線地下街で昼食に名古屋名物「あんかけスパゲッティ」を食す。見た目は甘そうでギョッとするが、味はなかなかイケる。お土産を買ったのち、名古屋15:32発のぞみに乗車して、横浜への帰途についた。
参考URL:湯の山温泉公式HPの「近鉄湯の山温泉駅周辺マップ」