王城山〜高間山
ぐんま百名山で、まだ登っていない山の一つに高間山がある。以前はカラマツと深い笹に包まれた静寂峰だったそうだが、新ハイキングの今月号(No.726)の記事「王城山と高間山」によると、近年、王城山〜高間山間の登山道が整備され、自然林と小笹の続く気持ち良い尾根道が歩けるとのこと。この記事で改めて興味を惹かれて、出かけてきました。
桐生駅5:19発の両毛線の列車に乗車。新前橋で吾妻線に乗り換え、川原湯温泉駅7:27着で下車する。この駅は八ッ場ダム建設に伴って高台に移設された新駅で、駅舎がとても近代的。駅前の車道も新しく幅広いが、歩道は工事中で店などもなく、ガランとしている。
駅前の通りから、これも付け替えられた県道林岩下線に出て、将来の湖面に架かる不動大橋を渡る。橋の袂には新しい不動堂が建ち、その裏手にはV字谷を深く刻み込んで3段に水を落とす不動の滝がある。落差90mとも称される名瀑で、一見の価値あり。
不動大橋の上から吾妻川の上流と下流を眺める。ダムが完成して湛水すれば、この眺めも水の下に沈む。上流の右岸には堂岩山(988m)がギザギザの稜線を連ね、小粒ながらもなかなか険しい山容を見せている。
対岸に渡ってこれも付け替えられたR145と交差し、県道を辿る。河岸段丘の上に民家が点在する林集落を見下ろし、川向こうの高ジョッキや丸岩など、なかなか個性的な山容の山々を眺める。花壇のシバザクラが見頃で校舎が近代的な長野原町立第一小学校の前を通り、「王城山」の道標に従って右折。林道に入る。
すぐにY字路となり、王城山へは右だが、左は「←0.3km かたくり」の道標がある。咲いているかもと思い、立ち寄ってみる。林間に草刈りの手が入った斜面があり、カタクリやアズマイチゲが一面に咲いている。説明板によると、例年は4月下旬に花見が催されるそうだが、今年は暖冬だったせいか、見頃が早まったようだ。
カタクリ群落から畑地を横断し、王城山への林道に戻って登る。急坂を登るうちに体が暖まり、上着を脱ぐ。谷筋から尾根の上に出、王城山神社里宮からの旧道を左から合わせる。道端に「四合目柴峯」と刻まれた小さな石標がある。林道を進むと、行く手に王城山のなかなか尖がった山頂が現れる。
林道の終点が「五合目傘木」で、カラカサ松と呼ばれる枝を大きく広げたアカマツがあり、傘木という地名はこれに因んでいる。林道終点は広場となり「王城山0.9km→」の道標がある。ここから登山道に入る。
急斜面を斜め右上に登り、「六合目炮碌(ほうろく)岩」の石標で切り返して左上に登る。炮碌って何だろう(後日検索すると、焙烙とも書き、爆弾のことらしい)。岩場の下をトラバースする細い道には手摺と鎖が設置され、よく整備されている。「七合目船窪」の石標から、雑木林と笹原に覆われた浅い窪に入り、緩く登る。
窪を登り詰めると尾根の上に着いて、「八合目中棚尾根」の石標とベンチ、新しい登山案内看板がある。ここで登山道は二手に分かれて、左は山腹を巻いて「十合目山頂尾根」に向かい、右は王城山頂上に直登する。ここは右の直登ルートに入る。と言っても頂上まで僅か120mの距離だ。痩せ尾根を渡る個所もあるが、手摺があるので問題ない。
登り着いた王城山頂上には三角点標石と三基の石祠がある。ここは二度目の登頂。ツツジの群落に囲まれているが、まだ花芽も出ていない。説明板によると、王城山は「ミコシロヤマ」とも言い、戦国時代には山頂に砦が置かれたことから「古城」とも呼ばれているとのこと。展望は南と西に開け、長く傾いた尾根を伸ばす管峰と、その向こうに谷筋に雪を残す浅間山を望む。また、梢越しに四阿山を遠望する。浅間山も四阿山も残雪が少ない。
王城山頂上を越えて木の階段道で鞍部に下ると、「十合目山頂尾根」の石碑と新旧の休憩舎がある。休憩舎の土間には空の酒瓶が10本も整列して置かれ、いい宴会場になっていることが窺える。
僅かに登ると芝の平地のあるピークで、王城山神社奥宮の石祠が祀られている。樹林に囲まれて展望に乏しいが、木の間から高間山が眺められる。
芝生の真ん中に平たい石で蓋をした穴があり、中に錆びた小さな鎌がいくつも入っている。説明板によると、これは虫切鎌と言い、持ち帰って赤ん坊の胸元で×を切る真似をすると疳の虫が治り、翌年、お礼として倍にして返すのだとか。興味深い。
また、芝生の一角にはオキナグサが咲いている。最初は迂闊にも全く気付かず、高間山を往復して戻ってきた時に気が付いた。踏みつけなくて良かった。
少し休憩したのち、高間山へ向かう。雑木林と丈の低い笹原に覆われた稜線に木の階段が設置され、ウッドチップまで敷かれている。要所には道標があり、足元の悪い区間にはロープが張られ、至れり尽くせりの整備がなされている。左斜面は崩壊していて痩せ尾根となった区間があり、小さなアップダウンも多くて変化に富む。
右斜面を少し下ると林道支線の終点に着く。ここも整備されていて、ベンチと広い駐車スペースがある(ただし、一般車両はここまで進入できない)。ここから簡易舗装された林道を辿る。すぐ先の雑木林の中に「あみだ石」と称する巨石がある。説明板によると、昔、この辺りは地元の草刈り場で、雨が降るとこの石の下で雨宿りをしたのだとか。
林道をジグザグに登ると伐採地に出て、行く手のあまり遠くない距離に高間山のなだらかな三角形の山容や、その山腹を横切る林道吾嬬山線を眺める。また、右手には、伐採地越しに榛名山のギザギザした山影を遠望する。
林道吾嬬山線に合流する個所に小さな駐車スペースがあり、4台の車が置かれている。ここから王城山と高間山をそれぞれ往復するハイカーさんが多いようだ(ここまででも、数人のハイカーさんと交差した)。
林道吾嬬山線を右に少し進むと高間山登山口で、道標によると「高間山まで0.6km」の距離だから、登りは僅かしかない。雑木とササに覆われた緩斜面をほぼ真っ直ぐに登る。かつては笹藪漕ぎがあったそうだが、現在は明瞭な道型がついている。中間点の標識を過ぎると傾斜が増し、カラマツとササの斜面を急登して高間山頂上に登り着く。
頂上には三角点標石と二つの山名標柱がある。樹林に囲まれて展望には乏しい。僅かに木立を透かして、南東に川原湯温泉の移転先の造成地を俯瞰し、北に斑らに雪を残す上信越国境稜線の山々を遠望する。少し早いが、昼食にしよう。良く晴れているが、標高1300mを超えているので、さすがに風が冷たい。フリースを着込み、もやし入りラーメンを作って食べる。
帰りは往路を戻る。王城山神社奥宮からは右の道に入り、王城山頂上は巻く。斜面の下に水がしみ出す窪地があり、御手洗(みたらし)の池と呼ぶらしい。帯状の岩壁の基部をトラバースすると、途中に「九合目お籠り岩」の石標がある。ここも手摺が完備している。八合目中棚尾根に出、四合目柴峯までは往路を戻る。
四合目から右に分岐する王城山神社への旧道に入る。分岐に道標あり。こちらのルートも良く整備されて歩き易い。
山腹を緩く下ると「三合目二反沢」の石標があり、「二合目石尊下」まで谷筋を下る。山腹をトラバースし、県道林岩下線のトンネル入口の上を通る。ここには「二合目土手下」の石標があるが、一合目の間違いだろう。最後は尾根の鼻を回って、林集落内の道路に下り着く。「王城山登山道宮原口」の石標がある。
王城山神社はすぐ隣である。鬱蒼とした社寺林に囲まれて本殿が建つ。軒下の彫刻が見事だ。境内には小さな土俵があり、8月28日の例大祭には「だんご相撲」と呼ばれる子供相撲が行われるそうである。
王城山神社の車道を隔てた斜向かいに、林温泉かたくりの湯がある。林集落の住民のために建てられた共同浴場で、村外者も300円で入れる。新ハイの件の記事で紹介されていて、ここに入りたいと思ったことが、今回の行き先とコース選定の決め手だったりする。
前には軽トラが多数駐車しているが、隣の広場でゲートボールに興じるお年寄りの車のようだ。改築間もない建屋に入る。管理人はいなくて、風呂から上がって帰り支度の人が一人いるのみ。貸切状態である。この温泉は源泉掛け流し。無色透明の湯だが、強い石油臭が鼻をつく(成分表には源泉75.5℃、ナトリウム・カルシウム塩化物泉とある)。熱々のお湯で本格的、かつ、他にないような泉質の温泉で、素晴らしい。
一風呂浴びた後、川原湯温泉駅への道の途中にある「道の駅八ッ場ふるさと館」に立ち寄る。帰りの列車の発時刻まで暇があるので、食堂で餃子と刺身こんにゃくをつまみに生ビールを飲む。それから川原湯温泉駅15:56発の列車に乗り、良い気分になって帰桐した。