土岳・竪破山
春分の日を含む3連休は、茨城県北部太平洋岸にある五浦(いづら)温泉へ2泊3日の温泉旅行。初日は観光、2日目は近くの土岳(つちたけ)、3日目は竪破山(たつわれさん)に登って、軽い山歩きを楽しんできました。
天心記念五浦美術館・五浦六角堂
桐生を朝10時頃に車で出発。北関東道と常磐道を経由して、JR日立駅に向かう。途中、休憩で笠間PAに立ち寄ると、ちょうど茨城県の観光キャンペーン実施中で、無料配布されているパンフレットを一揃い貰う。
日立駅に12時半に到着。日立駅は2011年に壁面が全面ガラス張りの橋上駅に改装され、太平洋を一望するカフェもでき、大変お洒落な駅となっている。ここで品川から特急に乗ってやって来たS&Sをピックアップ。近くの蕎麦屋に寄って昼食をとりながら観光パンフレットを見て、今後の予定について作戦会議。今日は時折小雨がぱらつく曇天なので、五浦海岸の観光スポットを巡ることにする。
まず、茨城県天心記念五浦美術館に向かう。五浦美術館は太平洋に面して緑に覆われた小高い丘の上にあり、ロケーションと建物自体が既にアートという感じである。岡倉天心は明治36(1903)年に、ここ五浦海岸に居を構えて、横山大観ら気鋭の日本画家を呼び寄せ、新しい日本画の創造を目指したとのこと。天心所縁の品々を見、企画展の日本画を鑑賞する。
美術館を出て脇の展望広場に行くと、切り立った断崖の続く海岸線の彼方に薄青く霞む山並みが浮かんで、なかなか良い眺めが得られる。
車で少し移動し、次の観光スポットの六角堂に向かう。六角堂は、同じく天心が思索の場所として、五浦海岸の海に突き出た岩場の上に建てた小さな堂である。堂の直下には太平洋から押し寄せる荒波が砕け、考え事をするには波音が気になるかも(^^;)。3.11の震災で高さ約10mの津波が直撃して流失し、1年後の2012年4月に再建されたものである。
今回の宿の五浦観光ホテル別館大観荘は六角堂のすぐ近く、五浦海岸の断崖絶壁の際に建つ。海側の客室に入ったので、バルコニーから太平洋が一望できる。早速、温泉へゴー。ちょっとモール臭のする熱い湯で、源泉掛け流しとのこと。太平洋を望む露天風呂もあり、温泉として期待以上にレベルが高い。
温泉から上がると、ロビーでアンコウ吊るし切りの実演が始まるところであった。顎にフックを引っ掛けて吊るされた重さ14kgのアンコウが、大きな出刃包丁で手際よく解体されていく。アンコウは、七つ道具と呼ばれる部位(身、皮、胃袋、肝臓、卵巣、エラ、ヒレ)が食べられ、骨と顎、眼しか捨てるところがないそうな。内臓が捌かれると、僅かに生臭い潮の香りが漂ってきた。
そして、今日の夕食はすごく楽しみにしていたアンコウづくしである。まさに海のフォアグラで濃厚な味のあん肝、酢味噌でサッパリ頂くコリコリの皮、ふわふわさくさくの白身の唐揚げ、そして骨に付いた身がもちもちのアンコウ鍋を堪能する。料理もレベル高し。
土岳
2日目は晴れ間が広がって、絶好のハイキング日和である。土岳に向かう前に、宿のすぐ近くの大津岬に立ち寄る。五浦岬公園として整備され、大津岬灯台や展望台、映画「天心」で日本美術院研究所として用いられたロケセットがある。また、六角堂を見おろす絶好のポイントで、宿の五浦観光ホテル別館大観荘もよく見える。花壇もあり、春には綺麗な花が楽しめそうである。
大津岬から大津港を抜け、R6に出た所のコンビニで昼食のパンとペットボトル飲料を調達。R6を南下し、高萩から山地を横断して大子方面に向かう幹線道路のR461を走る。R461は花貫川に沿って山間に入って行く。周囲の山は高くはないが、川は小さなV字谷を成していて、景観が楽しめる。
花貫ダムのダム湖湖畔を走り、湖尻にある花貫ふるさと自然公園の駐車場に車を置く。管理人さんから案内図と、駐車場は16時で閉鎖されるので、それまでに戻って下さい、との注意を頂く。
ここからR461脇の園地を歩いて、花貫川を遡る。10分程歩くと名馬里ヶ淵(なめりがふち)という滑滝がある。滝は小さいが釜は大きくて、翠色の水を満々と湛えている。
さらに花貫川に沿ってR461の歩道を歩くと、開けた谷の緩斜面に民家が点在する鳥曽根の集落に入る。発電所の取水堰があり、その周りの梅林は満開で、春らしい眺めだ。
集落中程のうどん・そば処「とりそね」の脇でR461から分岐する旧国道に入る。R461の高架橋を潜ると、花貫駐車場(駐車100台)がある。紅葉まつり期間中は有料だが、期間外は無料。ここに車を置いて土岳を周回しても良い。駐車場の奥で花貫川に降りると、不動滝と乙女滝がある。どちらも落差は小さいが、なかなか綺麗な滝である。
ここから谷がぐっと狭まる。渓流に沿って旧国道を辿り、汐見滝吊り橋で川を渡って右岸の遊歩道に入る(旧国道は渓谷に沿って大きく蛇行するので、遊歩道の方が近道)。この辺り、連休中とあってドライブがてら散歩を楽しんでいるグループを多く見かける。
緩く登って小尾根を越えると、小滝沢キャンプ場の駐車場に出て、再び旧国道に合流する。8台程の駐車スペースは満車。近くに新しく綺麗なWCがある。ここから土岳への登山道に入る。入り口には「県立自然公園 土岳山登山口」の案内板が建ち、以降も「土岳山」表記の標識を多数見た(地形図や観光パンフレットでは「土岳」表記)。
登山道は最初、杉林に覆われた浅い谷を緩く登る。ちょっと傾斜が増して杉林を抜けると、雑木林に覆われた小尾根の登りとなり、露岩が点在する意外と急な坂が続く。振り返って木の間から眺めると花貫川を隔てて延々と平坦な山稜が広がり、既にだいぶ標高を稼いだ。
「大黒岩」の標識のある大岩を過ぎ、ところどころ岩場を4Wで越えると、「←土岳神社奥ノ院」の標識があり、左山腹をトラバースする踏み跡が分岐する。奥ノ院がどんな場所か、興味を惹かれるが、トラバース道が悪そうなので割愛する(後日、ネット検索すると、岩穴に御神体が祀られているようである)。
急な小尾根を登り切ると平坦な稜線の上に着く。雑木林と笹の稜線を小さくアップダウンし、芝生の広場に出て急に視界が開ける。ここが土岳の頂上だ。
頂上には三角点標石の他、ベンチや展望盤、展望台が設置され、芝生の所々に露岩を配し、公園のように整備されている。ガイド本によると、土岳頂上の丸みを帯びた高原状の地形は浸食残丘と呼ばれるもので、芝生で覆われているのは昔、馬の放牧場だった名残とか。開放的で気分の良い頂上である。今日はちょっと風が冷たいが、暖かければ芝生に寝っ転がって昼寝するのも気持ち良さそうだ。
展望台に上がれば、周辺の多賀山地の山々が眺められる。いずれも緩やかなスカイラインを拡げる準平原の山々で、その中で目立つピークは、日立市郊外の神峰山(かみねやま)と高鈴山、明日登る予定の竪破山くらいである。
ベンチに腰掛けて軽く昼食を済ませたのち、下山にかかる。芝生広場を緩く下っていくと東屋が建つ。ここは夏場は雷が多い所だそうで、この東屋は避雷針付きの避難棟である(避雷針がない東屋は、落雷に対して安全ではない)。
幅広く緩い道を下ると、けやき平キャンプ場に着く。整地された広場に炊事棟や避難棟、WC等が整備されている。シーズンオフなので、今日は誰もいなくてガランとしている。振り返るとけやきの大木の林があり、そのすぐ上に平らな土岳の頂上が見えている。
キャンプ場を突っ切って、中戸川に下る山道に入る。これまでの道と違って少し荒れているが、道型は明瞭だし、要所に道標があるので問題ない。杉林の中を緩く下ると、やがて白く風化した砂が堆積した沢に沿う道となり、最後は作業道を辿って中戸川登山口に下り着く。浅く開けた谷間には田おこしされた水田が広がり、数軒の民家が点在する。
あとは車道を歩いて、花貫ふるさと自然公園まで戻る。途中の畑地や廃屋の空き地には、オオイヌノフグリの紫色の花が敷き詰められたように咲いていて、もうすっかり春の風情である。最後の車道歩きは約1時間かかって少々長かったが、これで益々風呂上がりのビールがうまくなるな。温泉と夕食を楽しみにして、宿に戻った。
竪破山
3連休の最終日は、S&Sが帰りの特急を日立15:02発で予約しているので、短い行程の山歩きを計画。ガイド本によると往復のコースタイムが1時間半程と短く、登山道も整備されている竪破山に登ることにする。
宿をチェックアウト。R6を南下して日立市に入り、十王川に沿って県道日立いわき線を走る。細かな山襞を縫って狭隘な車道が延々と続き、カーナビ任せだがどこをどう走っているのか、分からなくなる。「茨城百選 竪破山 黒前(くろさき)神社 入口」の看板で右折。十王町黒坂の集落を通り抜け、竪破山の山懐に入って行く。しかし、周囲は丘陵ばかりで、竪破山の山容は全く見えない。
林道に入ってY字の分岐点が竪破山の登山口だが、左の未舗装の竪破山林道をもう少し進むと駐車場があり、ここに車を置く。WCやベンチの他、「竪破山観光案内図」の新しい看板もある。これに書かれた「竪破山のいわれ」は次の通り。
寛治元年(1087年)八幡太郎義家が奥州遠征の途中黒崎神社で一夜戦勝を祈ったところ神様が夢に現れ一振りの刀を授けた。この刀で山中にある大石を切りつけたところ真っ二つに割れ、この石が太刀割石と呼ばれ、山の名もそれが転化し、竪破山となったと言い伝えられる。また、「常陸国風土記」黒坂命が蝦夷を平定するため、「茨刺」(うばら)で穴を塞ぎ、敵を攻め滅ぼしたことにちなんで、「茨城」の地名が起こったとされている。
登山道に入り、薄暗い杉林の中の緩く登って行くと、名の付いた巨石が次々に現れる。一つ目は不動石。岩の上に顔の欠けた不動尊が祀られ、引かれた水が岩肌を滴り落ちている。そのすぐ先には烏帽子石。八幡太郎義家がかぶっていた烏帽子に似ていたそうだ。
杉林を斜めに登って行くと、窪みに三つの巨石があり、畳石との説明板がある。近くには水場があり、パイプから水が滴っている。
高く育った杉林の急斜面をジグザグに登り、小尾根を乗り越して山腹をトラバースすると、小さな窪地の底に弁天池がある。山上にありながら澄んだ水を湛え、なかなか神さびた雰囲気がある。
左に太刀割石経由で頂上に向かう道を分け、右の頂上へ直登する道をとる。鳥居を潜ると仁王門がある。廃仏毀釈から仁王像を隠して守るため、仁王像の前に右大臣・左大臣像が置かれている。鳥居も同じ目的で置かれたものだとか。珍しい。
仁王門を潜り、細くて急な石段を真っ直ぐに登ると釈迦堂に着く。広い境内には舟石と甲石の二つの巨石がある。
釈迦堂の左脇からさらに参道の石段を直登すると、黒前神社の本殿に着く。竪破山の頂上は本殿のすぐ裏手で、三角点標石と山名標がある。樹林に囲まれて眺めはないが、土岳と同じくこちらにも展望台が建っている。まず昼食を食べた後で、展望台に上ってみよう。
展望台に上ると、神峰山〜高鈴山と、少し白い那須連山の眺めが得られる。昨日登った土岳は、育ったアカマツの梢が邪魔をして、残念ながら見えない。
頂上から先に進んで少し下ると、右斜面に胎内石と呼ばれる大きな岩屋がある。頂上に戻って脇道で釈迦堂に下り、太刀割石に向かう。
ブナ林の平坦な稜線を辿ると、緩斜面に半球状の巨大な岩が二つ、まるで一つの球状の岩を真っ二つに切ったように転がっている。これが太刀割石だ。ガイド本で写真は見ているが、実際に見ると予想外の大きさに驚く。同種の切れた岩は他山でも見たことがあるが、これは大きさ・切り口・配置の見事さが規格外で、一見の価値がある。二つの切断面を見比べると面積が明らかに異なり、実は一つの岩が割れて出来たのではなさそうである。ますます成り立ちが不思議な岩である。
太刀割石から弁天池に出、下山する。サブコースとして神楽石、奈々久良の滝経由の下山道もあるが、時間がかかるので往路を戻った。ゆっくり歩いて往復2時間弱の軽い山であるが、巨石群や神社と見処が多く、非常に面白かった。低山であるが奥まった山地にあり、歴史もあって、この地域の名山と思う。日立駅でS&Sと別れ、常磐道・北関東道を経由して桐生へ帰った。