小沢岳
最近、山を歩いていないとお嘆きのKさんから、西上州の小さな山で、うんと楽なコースを歩きたい、とのリクエストを頂いた。西上州は小さい山の宝庫だが、岩場を秘めて小粒でもぴりりと辛かったりするので、行程が短く楽で岩場もなくて安全安心、西上州のマッターホルンとの二つ名をもち、頂上からの展望に定評のある小沢岳を歩くことを考える。
小沢岳の頂上と途中の椚峠には石仏がある。小沢岳には2002年1月に登っているが、当時は石仏に興味がなくて、よく見ていないし写真もない。石仏を目当てに再訪するのもありだろう、という訳で、小沢岳に決定。Kさんと出かけてきました。
朝8時半に桐生を車で出発。高速を下仁田ICで降りて青倉川沿いの道を走り、「小沢岳」の標識に導かれて七久保入口の小沢岳登山口に到着。川沿いの道をさらに奥に進んだ所の5台分位の駐車スペースに車を置く。他に車が1台あり、先行ハイカーさんがいるもよう。
駐車地点から渓流に沿って未舗装の林道を歩く。上空は晴れているが、薄く靄がかかって谷間に差し込む陽光は弱々しい。周囲の樹林はすっかり葉を落とし、林道を覆う落ち葉は昨日の雨をしっとりと含んで、山は晩秋の雰囲気である。ただし、この時期にしては寒くない。各地のスキー場からも雪不足の便りを聞くし、この冬はもしかして暖冬少雪?
ほどなく林道は右に曲がって、渓流を離れる。曲がり角には文字が掠れた「至 小沢岳」との古い道標がある。前回ここに来たとき(日影山〜日向山)はもう一つ「至 八倉峠」との道標もあったが、当時から水害で谷は土石で埋まり、八倉峠道は通行できる状況になかった。今では渓流の岩は苔むして穏やかな様相だが、道標もなくなって、かつて峠道があったことを示すものは何もなくなってしまった。一度、峠越えをしてみたかったなあ。
山腹を斜めにトラバースする林道を登ると、伐採されて明るく開けた椚峠に着く。軽トラとかならばここまで林道を通行できる。なお、峠の先はゲートがある。先行のハイカーさんが小沢岳から戻って来るのにちょうど行き合う。
峠を通る林道の脇に2基の馬頭観音像が並んで祀られている。左の像は風化が進んで銘は読み取れない。右の像は3頭身くらいの頭に大きな馬頭が乗っかり、全体的に可愛らしい。「寛政十一未(1799年)十月…施主…」の銘がある。
椚峠から稜線通しの山道に入る。稜線の左側の直下には平行して作業道が通じる。稜線の右側斜面は大々的に伐採されており、鹿の食害を防ぐためにビニルに包まれた杉の苗木が植えられている。伐採のおかげで眺めが開け、登ってきた青倉川の谷を俯瞰し、山間の七久保や青倉の集落、谷を隔てて稲含山を望む。
伐採地を抜けてヒノキの植林帯に入る。少し急な登りで小ピークを越え、小沢岳への最後の登りとなる。アセビの混じる雑木林を登ると、小沢岳頂上に着く。
頂上は小広い平地となり、石祠と石仏、三角点標石と「上州南牧村 小沢岳」との山名標がある。石仏は三段の台座に載り、円盤に高く浮き彫りされた大日如来像で、しっかりと智拳印を結んでいる。像の前には金属製の新しい賽銭箱とお神酒を備えたお猪口が置かれ、今でも信仰されている様子が窺える。
頂上の北面は切れ落ちた急斜面となっていて、なかなかの高度感がある。頂上からの展望は南を除いて三方に開け、西上州の主な山岳を一望できる。北は南牧川沿いの集落を俯瞰し、その向こうに四ッ又山や鹿岳を望む。西には桧沢岳が逆光の中にギザギザの稜線を描き、烏帽子岳や大岩・碧岩などの特徴的な岩峰も望まれる。
Kさん差し入れの昼食を美味しく頂きながら四方山話をしていると、いつの間にか空は厚い灰色の雲に覆われていて、天気が怪しくなっていた。そろそろ下山するとしますか。登ってきたハイカーさんと入れ違いに頂上を辞し、往路をそのまま駐車地点に戻って、桐生への帰途についた。