ピンネシリ
(この記事は、北海道の山2日目、富良野岳からの続きです。)
早朝、ホテルをチェックアウトして出発。街は濃い朝霧に閉ざされて静まり返っている。1ブロック先のコンビニで朝と昼の分の食料を買い込む。石狩川を渡るころには霧が晴れて青空が広がり、行く手にピンネシリの丸い頂が望まれる。
新十津川の街並みを抜け、一面の畑を横切って、山間に入っていく。そっち岳スキー場という小さなスキー場の前を過ぎると未舗装の林道となり、砂金沢の渓流に沿ってどんどん山奥へ分け入って行く。この辺りの山々は標高は低く、山容も穏やかだが、手付かずの森林に覆われて、北海道の山らしい原始の雰囲気がある。ヒグマが居そうでちょっと怖い。
まだ着かないのかと心配になる程走って、ようやくピンネシリの砂金沢コースの登山口に着く。100m程先に登山者用駐車場があり、ここに車を置く。他の車はない。大きな案内板があり、それによるとピンネシリとはアイヌ語で「男の山」という意味があり、隣の標高1002mの山は「女の山」を意味する待根尻(マツネシリ)山と呼ばれているそうだ。
登山道に入り、緩く登って尾根の上に出る。樹林に覆われて展望はないが、所々の木の切れ間から周囲の深い森林に覆われた山々が眺められる。登山道は尾根上をゆるゆると登って行く。良く踏まれており、道標もあって整備された道だ。
道は良いし、登りは緩くて楽だが、展望と変化には乏しく、いささか単調。「山頂まで5km 急がずゆっくり守ろうマイペース」、その次には「山頂まで4km ばったりと熊にあったら死んだふり」という道標が出てくる。熊へのこの対応はちと疑問(^^;)。これを過ぎると、尾根を越える舗装道(後述のレーダ管理用道路)を横断する。
ここでデジカメにトラブル。撮影できなくなったと思ったら、なんとSDメモリカードを入れ忘れている。今朝からの写真は内蔵メモリに記録されていたのだが、満杯になったらしい。最初から記録できなければ入れ忘れにすぐ気がつけるのだが、これは盲点だ。以降の写真は携帯電話で撮影したものです。
少し傾斜が増して、「山頂まで3km あわてるなようやくこれで半分だ」という道標がある。確かに思ったより距離が長い。ダケカンバ林と笹原が現れ、段々傾斜がきつくなる。木の間から、行く手にマツネシリが結構高く聳えているのが眺められる。
マツネシリの山腹に取り付くと、これまでの緩登とは打って変わった急登となる。道に覆いかぶさる草が深くなり、草露でズボンの裾が濡れるが、構わずに登る。「山頂まで1km あと少しこれから先を確実に」という道標を過ぎると山腹のトラバースとなり、ピンネシリの頂上が見え始める。そして、マツネシリとピンネシリの中間の鞍部に登り着く。
樹林がなく笹原が広がる稜線からは、ピンネシリの山頂と、稜線の向こう(北)側の眺めが一気に広がる。とはいえ、雲が多くて遠望は利かない。風当たりが強くて寒く、ピンネシリの山頂にも、早く流れる雲が時折かかる。ここで、防寒のためにゴアを着る。
まず、マツネシリの頂上を往復する。擬木の階段を登って笹原を切り開いた登山道を辿ると、平坦なマツネシリ頂上に着く。360度の展望が広がり、気持ち良い山頂だ。稜線上には道が続き、「←隈根尻山」の道標が倒れて落ちている。隈根尻山と思しき山には残念ながら雲がかかっている。北面はゆったりとした笹原の斜面となり、その下には山麓の樹林が見渡す限り広がる。北海道の山らしいなあ。
腰を落ち着けて展望を楽しみたいところだが、風がまともに当たって寒く、長居はできない。ピンネシリに向かおう。鞍部に戻り、稜線を進んでピンネシリの笹原の斜面を登る。
登り着いたピンネシリの頂上には、三角点標石の他に、石祠や「山神」と刻まれた石碑、展望指示盤がある。また、少し下がった場所に大きな球体のレーダドームがでんと建つ。これは「ピンネシリレーダ雨雪量観測所」で、野趣を少々削がれる思いがあるが、重要な施設であることは間違いないから文句は言えない。
風が強くてあまりに寒いので、写真を2、3枚撮っただけで下山にかかる。復路はレーダ管理用道路を辿ることにする。道路上で、木立に遮られて風の当たらないところに腰を下ろし、軽くパンを腹に入れる。
管理用道路はピンネシリの北面をトラバースして下っていく。舗装道で単調な代わりに、展望はなかなか良い。特に西に連なる神居尻山(947m)は、低山とは思えない険しい山肌を見せている。北には暑寒別岳も見えるはずだが、あいにく雲の中で広大な山麓しか見えない。だいぶ下ったところから振り返ると、ピンネシリの緩やかな頂上稜線がもう随分高くに仰がれる。
道路から往路の尾根上の道に入る。ここでようやくハイカーさんとすれ違う。静かでいい山だ。あとは尾根道をゆるゆると下り、午前のうちに登山口に戻った。
帰りはまず新十津川♨グリーンパークしんとつかわで日帰り入浴し、温まる(500円)。ここは田園風景の只中で、ピンネシリとマツネシリの丸い頂が並んで眺められる。それから、腹が減ったのでR12沿いのラーメン屋で昼食をとったのち、道央道を走って札幌に戻り、レンタカーを返却。17:12発の寝台特急北斗星に乗車して、3日間の北海道の山歩きから桐生への帰途についた。