妙法ヶ岳
この日曜日の天気は全国的に良くないとの予報だが、南関東だけ辛うじて晴れ間がありそう。埼玉県秩父市の三峯神社に古の表参道を登って参詣し、さらに足を延ばして奥宮のある妙法ヶ岳に登拝する計画を立てて、出かけてきました。
午前3時過ぎ、小雨の降る中、桐生を車で出発。荒川に沿ってR140を走り、大輪の三峯神社表参道入口を過ぎて、「←大滝神庭交流広場」という標識で左折。荒川を右岸に渡り、下流に少し走った突き当たりが大滝神庭(かにわ)交流広場だ。グラウンドがあり、駐車場やWCが併設されている。この駐車場に車を置く。早朝のためか、他の車はなし。夜来の雨でアスファルトは黒く濡れている。周囲の山には低く雲が纏わり付き、細かい霧雨が降り続いているが、そのうちに止むだろうと期待して出発する。
グラウンド右手の道に入る。入口には「←大輪に至る 大輪・神岡歩道」との道標がある。グラウンドの横を抜けると山道となり、水嵩を増した荒川をかなり下に見ながら急な草斜面をトラバースする。対岸にはR140が通り、時折、車の走行音が谷を越えて聞こえる。
草斜面の途中の「半洞窟・鍾乳洞→」の道標から枝道に入り、ジグザグに登る。上には岩壁の基部にぽっかり開いた洞窟が見える。草の雨露で足元が濡れ、湿度が高くて、早くもグッショリと汗をかく。
岩壁の基部で分岐を右に進むと、半洞窟に着く。「神庭洞窟遺跡」と題された説明板によると、約5万年前に荒川によって石灰岩の下部が浸食されて形成されたもので、古くから天然の住居として利用され、縄文時代から近世に至るまでの遺物が見つかっているとのこと。入口は広く高いが、奥行きが浅いので半洞窟と言うらしい。
分岐を左に進んで斜面を登ると、鍾乳洞がある。ヘッドランプを携えてコンクリート壁の穴から中に入ると、天井が高い広間となっている。空気がヒンヤリと冷たく、汗が引く。ここで終わり?と思いきや、左上に向かう縦穴があり、これを這い上がると次の広間に出る。岩壁から水が湧き出して滝となり、床の巨岩の堆積の間に流れ込んでいる。灯り無しでは完全に真っ暗で、万一、ヘッドランプを落とせば出られなくなりそうでビビる。右奥にも広間があるが、ここだけ空気が生暖かく、沢山のカマドウマが居て気味悪い。探検気分は充分味わったので、急いで外に出る。
歩道に戻り、荒川本流に沿って歩く。秋は紅葉の名所になりそうな場所だ。2つの支流の沢を木橋で渡り、木道を登ると、右に竜門の滝への枝道が分岐する(道標有り)。滝まで木道が続き、すぐの距離。水流が弧を描いて奇麗に落ちる瀟洒な滝である。
分岐に戻り、杉林の中を登って表参道の石畳の途中に出る。このあたりの林間にはシャクナゲが多く、鑑賞のための遊歩道も整備されている。開花期に散策するのも良さそう。
三峯神社へは石畳を登るが、折角なので表参道入口も見てこよう。石畳を下ると荒川に架かる登竜橋を渡り、R140に出る。入口には鳥居が立ち、周辺には民宿や土産物屋が多くて、かつての賑わいを偲ばせるが、三峰ロープウェイが廃止された今ではすっかり寂れている。
ここで、「三峰表参道(大輪〜三峰間)桟橋破損により当分通行止め」との立て看板を発見。ガ━Σ(゜Д゜|||)━ン!!。しかしまあ、行ける所まで行ってみますか。
表参道を入口から改めて辿る。三峯神社参拝の古のメインルートとあって、参道脇には寄進碑の類の石碑が建ち並ぶ。真夏で湿気っているということもあるが、石畳がぬめって滑り易いのは人通りが絶えて久しいからかも。
石畳は三峰ロープウェイの大輪駅跡の空き地で終点となる。向こうの山肌の植林が帯状に開けているのは、かつての索道が通った跡のようだ。ここから先は自己責任で、通行止めのロープを越えて、山道に入る。非常に急な斜面をトラバースするが、要所に手摺もあり、しっかりとした道が続いている。さて、どこまで行けるかな。
しばらく進むと、飴のようにひん曲がった鉄製の桟橋に遭遇する。あとで見た看板によると、この冬の大雪による被害らしい。これは簡単に迂回できる。参道は杉林の山腹をジグザグに登って行く。坂の途中には「第十四丁目」の丁目石が建つ。
急坂を登り切るとベンチがあり、再びトラバース道となる。金網製の桟橋を渡ると、次に木製の桟橋が現れる。真ん中でポッキリと曲がっており、迂回は難しい。桟橋の上をそっとを渡るが、その間に橋が折れたら只では済まない。ここが一番の危険個所。もう一か所、同じ様な折れた木製桟橋が出て来るが、容易に迂回できる。
山道が渓流に近づくと、清浄の滝に着く。落差約10mの滝で、昔は三峰神社信徒の修行の場だったとのこと。多数の鳥居や石祠が建ち、宗教的雰囲気が色濃く漂う。東屋もあるので、沢の水を飲んで一休みする。
清浄の滝から山腹をジグザグに登る。「第廿五丁目」の丁目石を過ぎた辺りが表参道の中間点になる。樹林の切れ間から眺めが開ける個所があるが、周囲の山々は雲に覆われたままだ。尾根上に登り着いたところに東屋や祠があり、「薬師堂跡」の標識が立つ。
説明板によると、かつて表参道を登る参詣者のために休憩所や薬師如来の堂が設置され、病人などの看護に当たったと言う。また、緊急時には無料で宿泊することもでき、その人数が3000人になったことを記念して1772年に建てられた塔が残っている。表参道の往時の賑わいが分かって興味深い。
参道は尾根を緩く絡みながら杉並木の間を登って行く。霧がますます濃くなって、陰鬱な感じ。廃屋(かつての宿坊?)が現れ、同じ様な廃屋が数軒、少し間を開けて続く。
杉の植林帯に入り、急坂を登る。作業道が錯綜しているが、要所に道標がある。ひと登りして奥宮遥拝所に到着。ここが通行止め区間の終点になっている。晴れていれば遥拝所から妙法ヶ岳が眺められるそうだが、今日は厚い霧に覆われて全く見えないのが残念。
ここから三峯神社の広い境内に入る。稜線を越えて少し下り、絢爛豪華な随神門を潜る。まだ8時半と朝早い時間だが、ポツポツと参拝者がある。玉砂利の道を歩き、石段を登ると三峯神社の本殿に着く。ここに来たのは雲取山登山以来2回目だが、今日は正式ルートからの参詣だから、ご利益が増しているかも(^^)。本殿で参拝したのち、交通安全御守りとお犬様が描かれた御神札を求める。
展望が全くない天気なので、モチベーションがやや低下しているが、折角の機会なので奥宮のある妙法ヶ岳も予定通り登頂しよう。土産物店でペットボトル飲料を仕入れ、奥宮参道に入る。林間を緩く登り、雲取山への登山道から分岐して奥宮への道に入る。
標高が上がって気温は下がったが、梢から結露した雫がポタポタ垂れるような天候なので、相変わらず湿っぽい。薄暗い樹林中を緩く登り、ピークを左から巻くと鳥居と東屋のある小鞍部に着く。ここから妙法ヶ岳への枝尾根に入る。露岩の多い細い尾根を小さく上下して辿り、二つめの鳥居を潜る。岩峰を巻いて階段を下り、老朽化した桟道を渡る。
小岩峰を急な石段と鎖場で登ると、三峯神社奥宮が祀られた妙法ヶ岳頂上に到着する。玉垣に囲まれた狭い境内に、比較的新しく立派な石祠が祀られている。晴れていれば木々の間から眺めが良さそうな山頂だが、相変わらず霧に閉ざされて、展望は全く得られない。
休憩していると、単独行の若い男性が続いて登って来た。三峯神社でも熱心に写真を撮っていたのをお見かけしたので、神社に興味があるのかな、と思って尋ねてみるとやはりそう。熊野神社系統の社に興味をお持ちとのこと。なかなか渋い。
しばらく天候の回復を待ったが、諦めて往路を三峯神社に戻る。途中で、数組のハイカーさんとすれ違う。
ちょっと時間は早いが、土産物屋の一つの大島屋に入って昼食とする。ざるそばと舞茸の天ぷらとノンアルコールビールを注文。まず、ノンアルコールビール(アサヒドライゼロ)を飲む。これは初めて飲んだが、ビールのテイストに近く、かなり旨くていける。ざるそばも美味しく頂き、腹が満足したところで下山にかかるとしますか。
復路は裏参道を下る。参拝者で賑わう本殿と興雲閣の前を横切り、「←神庭・岡本バス停」の道標に従って車道を辿る。えんむすびの木を過ぎると参拝者も途絶え、ひと気なく霧に覆われた車道を辿る。
車道から道標に導かれて坂を下り、三峰ロープウェイの三峰山頂駅跡地の広場(WC有り)に着く。裏参道は、その手前のシャクナゲ園という看板から樹林の中の歩道に入る(この分岐だけ道標がなく、分かりにくい)。すぐに次の道標があり、歩道から分かれて右折、作業道をジグザグに下る。
車道に合流して左に緩く下ると、道端の林間に馬頭尊碑が建つ。裏参道は馬に依る荷揚げや参詣者の帰路に使われたそうだが、昔の参道らしい遺構は、この碑の他は歩き易く丁寧にジグザグを切った道型そのもの位しかない。通る人も稀な様子で若干荒れ気味。古道の趣には乏しい。しかし、道標は整備されているので、歩くのには問題ない。
車道の終点から山道となり、急な尾根を大きくジグザグを切って緩やかに降りて行く。三十場分岐には「右ハ槌打三十場ニ至ル 左ハ裏口参道 後ハ神庭岡本ヲ経テ秩父……」と刻まれた石柱の道標が残る。これも数少ない参道の遺構の一つだ。
標高が下がると霧が消えて、周囲の山が眺められる。薄日が射して、蒸し暑さがぶり返す。樹林が開けた斜面には夏草が蔓延る。
「神庭・岡本バス停 1.8km→」の道標を過ぎ、杉林を下ると車道を横断する。神社の前を通り、小さく急な沢に入って下り始めると、すぐに神庭集落の民家の裏手に着く。簡易舗装道を下ると、今朝、車で渡った荒川に架かる橋の袂に出た。
車道を歩き、大滝神庭交流広場までは約7分の距離である。グラウンドでは少年野球の試合があったようで、途中でユニフォーム姿の大勢の子供と数名の大人、車数台とすれ違う。駐車場に戻ると既に全員帰っていて、私の車が出発の時と同じくポツンと停まっていた。
標高の高い三峯神社〜妙法ヶ岳の稜線はともかく、特に下部は蒸し暑くて、案の定、真夏に歩くルートではなかったが、古の参道を周回して歩き応えはかなりあったので、その点は満足かな。紅葉の季節には良いルートと思う(表参道の通行は自己責任で)。帰りは大滝♨遊湯館に立ち寄り、グッショリかいた汗をさっぱり流したのち、桐生へ帰った。
参考URL:計画の際、秩父観光なびのハイキングマップを参考にさせて頂きました。