396m三角点峰
渡良瀬川東岸の大畑山から南進する山稜は、中間に623m三角点(点名:瀬見)、南端に396m三角点(点名:月下沢)のピークを緩やかに起こし、大間々町浅原付近で急峻に落ちる。どちらのピークも山名は無いか不明で、山歩きの対象になっていない。しかし、この山稜は、大間々町の山域では赤柴山稜や荒神山稜に次いで顕著な山稜なので、ちょっと興味をもって、623m三角点峰に登ったことがある(山行記録)。623m三角点峰から南へはハイトスさんが歩いておられるが、山稜の途中までで、396m三角点峰は登っていない。
この土曜日は好天だが、朝をのんびり過ごして出遅れた。近場の山を軽く歩くことにして、課題の396m三角点峰に登って来ました。
桐生を車で出発。小平方面に向かって県道を北上し、396m三角点峰南面の巨大な水圧鉄管(落差約100m)の下を通って、キンケン石産の看板で左折。枝道に入って、採石場入口脇のスペースに車を置く。この採石場では、輝緑凝灰岩を採取しているらしい。大型ダンプの往来が多く、とても埃っぽい。鍾乳洞公園の無料駐車場からでも大した距離はないので、あっちに駐車した方が良かった。
採石場入口から左へ車道を登る。数軒の民家を過ぎると、山の端の斜面の奥に赤い鳥居と高い杉木立が見える。立ち寄ってみると、小さな石垣の上に稲荷神社が祀られている。この神社から稜線へ通じる山道があるかもと期待したが、そんなものはなく、密な竹藪で入り込めそうにない。
山の端を左へ向かう小道をしばらく辿って、取り付けそうな所を探す。竹藪の切り開きがあり、これを登ると細い作業道に出た。この作業道は分岐が多く、枝道が錯綜しているが、上に向かう道を適当に辿って行くと、幸運にも稜線上まで登り着いた。稜線の北面は伐採されていて、展望が得られる。
396m三角点峰に向かって、稜線上の作業道を辿る。次の小ピークを巻くと、作業道は終点となる。巻いた小ピークに登ってみると、なかなかの山容をもつ623m三角点峰が、山麓の月下沢(つきげさわ)の集落とともに眺められる。あの山が無名なのは何とも惜しい。
作業道終点から雑木林の尾根を少し登ると、396m三角点標石のある頂上に着く。北面を杉林、南面を雑木林に覆われて、展望は皆無。渋〜い山頂である。山名標識の類や、この辺りの三角点峰では必ずといって良い程見かけるR.K氏の標高プレートもない。
三角点標石の先の平坦な稜線を進むと、左斜面のすぐ下に導水路が見える。導水路の先は、麓に向かって真っ逆さまに落ちる水圧鉄管に続いている。これは、草木ダムから小平発電所へ送水する設備だ。静かに深く渦巻く流れを見ていると、引き込まれそうでクラクラする。導水路付近は急な法面なので、近寄らないのが吉である。
さて、このあとはどうしようか。396m三角点峰の登頂という今日の山歩きの目的は果たしたので、ここから浅原に下っても、往路の作業道を戻るでも良いのだが、それでは少々歩き足りない。もう少し稜線を623m三角点峰の方へ辿ってみますか。適当なところで東側の県道に降りれば、車の回収も楽だろう。
三角点標石に戻って、稜線を北東に進む。作業道から離れ、杉林と雑木林の境界の稜線を登ると、短い急登があって小ピークの頂上に着く。出発が遅くて、もう13時を回っているので、ここで昼食。パンとペットボトルのお茶で手軽に済ませる。
稜線を辿ると、右側に採石場を見おろすようになり、稜線直下まで階段状に削られた斜面となる。土曜日でも採石場は操業しているようで、作業の音が風に乗って聞こえて来る。やがて、稜線まで削り取られた区間となり、急なエッジを雑木の小枝を摑んで半ば強引に登って行く。多少スリルがあるが、足元がボロボロな上に藪っぽいので、好事家向き。
小ピークを越え、採石場から離れて雑木林に覆われた稜線となる。小さな鞍部があり、石祠を見つけた。「山主 藤生弥三兵 世話 赤石芳右ェ門 同 鹿沼文蔵」の銘があり、年号はないが、そこそこ古い感じ。採石場ができるまでは、ここに峠道が通じていたのかも。
石祠から緩く登ると、採石場の縁で最高点のピークに着く。頂上から少し東に行くと、採石場の真上に出る。足元はすっぱりと切れ落ち、眼下の広大な採石場では、でかいショベルカーが何台も作業中。小平川を隔てて高倉山と赤地山がこんもりと並び立ち、殺風景だが展望が開ける。
採石場の縁歩きはここで終わり。稜線をさらに北に進んで杉の植林を抜けると、陽当たりの良い小さなカヤト原があり、西側の眺めが開ける。急坂を登ると、等高線で500mを数える小ピークに着く。ハイトスさんは623m三角点峰からここまで歩かれているので、これでこの山稜の様子が大体判ったことになる。
500m峰から稜線を下って行くとしばらく岩場が続き、そこかしこにアカヤシオが咲いている。予期せず今シーズン初のアカヤシオを見て、思わずにまにまする。花付きが良く、つぼみも多い。今日は平地では桜が満開で見事だったが、アカヤシオもなかなか。この春は桜もアカヤシオの当たり年の気がする。
このまま稜線を北に辿れば623m三角点峰に至るが、花も見られたし、この辺で満足して下山することにする。次に東側に降りる比較的緩そうな枝尾根を下る。この尾根は藪も全くなくて歩き易い。やがて椿の林に入ると、尾根筋が不明瞭となる。暗い椿林の斜面を適当に下ると、墓地の脇から山麓の車道に出た。「小平椿園」の看板があり、先程の椿林は観光地になっている(いた)らしい。車道を下るとすぐに県道に出る。県道の手前には「小平鉱泉」の看板が掛かる廃屋と、木之宮神社がある。
木之宮神社の覆屋の中には木の社があり、御神体の鏡が祀られている。御神灯には「文久三(1863)年九月吉日」の銘があり、なかなか古い神社である。あとは県道を歩いて、駐車地点に戻る。途中、山側にある墓地の入口で、立派な笠塔婆付きの青面金剛を見つけた。桐生地域では久々に新しく見つけた像だ。
車道を歩いていると山側に石段があり、急斜面を長く一直線に登っているのを見つける。興味を惹かれて上がってみると尾根上の大岩に登り着き、愛宕神社の石祠が祀られている。「明治百年記念 小平一同建立」の銘がある新しい祠だが、石段は古いので、昔から地元で信仰されていることが伺える。石祠の先の尾根を辿れば、439m標高点のピークを経て十二山に至る。この尾根歩きもなかなか面白そうである。
鍾乳洞公園の入口まで戻ると、県道右側に嵯峨宮の鳥居がある。説明板に依ると、弘仁四(823)年に最澄の願が嵯峨天皇によって許されて設立されたとのこと。立ち寄ってみますかな。畑地の奥の山裾に二本の杉の大木と小さな社殿がある。振り返ると、里山に囲まれた小平の集落を見渡すことが出来る。
今日の山歩きは初物の花も見たし、山麓の散歩でもいろいろ見所があって、面白かった。大間々の山は桐生に較べると情報がとても少なく、その分、調べてみればまだまだ発見がありそうである。次の計画を考えながら駐車地点に戻り、帰宅の途についた。