千ヶ平〜毛無岩
桐生を車で出発。上信越道を下仁田ICで降りて、西上州やまびこ街道(R254)を内山峠方面に走り、荒船湖・サンスポーツランド入口の前を通過して、その少し先で斜め左に分岐する旧道に入る。「天神平グランドゴルフ場」の道標にしたがって林道に入ると、谷を埋め立てて造成した広大なグランドに着く。広い駐車場があるが、入口が閉鎖されて入れないので、路側のスペースに車を停める。北面の谷間に差し込む日射しは弱々しく、グランドには人っ子一人いなくて、索漠とした雰囲気が漂う。多分、グランドゴルフのシーズンオフなのだろう。車外に出ると吹き渡る寒風に身が竦み、フリースを着込んで歩き出す。
谷間の奥に向かう林道を辿り、薄暗い杉林の中を行く。簡易舗装の坂を上がって、2基の砂防堰堤を巻く。行く手を見上げると、意外と稜線が高い。身体が暖まってきたので、フリースを脱ぐ。
やがて地図上の林道終点を過ぎる。かつては、ここからさらに千ヶ平頂上直下まで、沢沿いに林道が通じていたそうだ。今では大量の岩屑で埋め尽くされた涸れ沢と化し、ごく一部に微かな道型を残すのみ。不安定な岩屑の上は歩きにくいこと夥しい。
荒涼とした涸れ沢を登って行くと左岸の稜線が低くなり、標高差10mくらいまで近づく。ここから沢は左に緩く曲がって浅い窪状となり、ジグザグに登る作業道の痕跡が残る。作業道の終点から、疎らに木が生えた浅い窪の斜面を登る。トタン板やワイヤーが残置された飯場跡を過ぎ、頭上に見え始めた稜線を目指して、転石の散乱する斜面を急登する。
炭焼き釜の跡を過ぎると稜線は近い。最後は藪や倒木を避けつつ適当な所を登って、千ヶ平(せんがたいら)の頂上稜線に登り着く。さらに冬枯れの雑木林に覆われた痩せ尾根を辿ると、三角点標石がある千ヶ平本峰の頂上に到着する。
頂上は小さな平地となり、そこそこ快適に休憩できる。低木の梢にMHCとGさんの山名標が掛かる。荒船山が大きく眺められるが、木の間越しとなるので、このすぐ先の西峰の方が展望は優れている。
低木の間の踏み跡に分け入り、稜線上に突き立つ岩頭を左から巻いて、西峰の頂上に登る。西面には、相沢川の谷を隔てて、荒船山の台形の山容が大迫力で眺められる。眼下の谷底に相沢の集落を俯瞰し、結構高度感がある。遠くには物見山や八風山が眺められるが、浅間山は灰色の雲の中だ。
視線を南に転じると、京塚山から毛無岩に続く稜線が眺められる。犬歯のような毛無岩の他にも、ドーム状のイデミ(1294m標高点)や等高線で1340mを越える無名峰など、険しくて目を惹くピークが連なる。西峰からの展望は素晴らしく、ここまででも十分に満足できるが、時間の余裕が十分あるので、今日は毛無岩まで足を延ばして往復するつもりだ。
西峰から下ると岩塊を固めたような岩稜となる。豊富な手がかり、足がかりと立ち木(ポッキリ折れることがあるので注意)を利用して急な岩稜を下り切ると、緩く幅広い尾根となる。振り返ると、木の間を透かして千ヶ平のゴツゴツした頂上稜線が見上げられる。
しばらく尾根上を進むと松が生える岩場に着き、その先は断崖絶壁で行き止まりとなる。巻き道を探して尾根を少し戻り、左(東)側の斜面を下る。下り口には木の幹に灰色のビニルテープが巻かれていたが、全く目立たないので、黄色のビニルテープを追加して巻いておいた。最初は踏み跡がないが、岩壁基部の斜面には、誰かが落ち葉を搔き分けて通った痕跡が残り、確かに巻き道と分かって安心する。
断崖絶壁を巻き終わって下から眺めると、かなり高い岩壁だ。これが群馬300山で称するところのマッターホルン岩に違いない。こちらから見れば、その名に頷ける部分もあるが、反対側は真っ平らな稜線なので、ネーミングに問題有りではなかろうか。敢えて言えばアイガーが近いと思うな(^^;)
しばらくは穏やかな尾根が続き、低木の小枝が少々煩いが、明瞭な踏み跡がついている。1116m標高点は樹林に覆われたピークで、展望はない。杉林を抜けて、雑木林の斜面の短い急坂を登り上げると「二四三」の標石がある。逆コースの場合、ここで尾根筋から左に折れて下るべきところを、尾根を直進しそうになる迷い易いポイントだ。
ここから長く急な登りとなる。岩場が現れ、左(東)から巻く。ここも逆コースの場合、岩場の左(西)の枝尾根に引き込まれ易い(復路で間違えた)。尾根を急登すると、急峻な岩稜の基部に着く。この岩稜の上を登降するのは、かなり危険で難しそうだ。ここも左に巻き道があり、岩壁の基部の踏み跡を辿る。
巻き終わって尾根に戻ると、「前橋山遊会 毛無岩→」という古い道標があり、相沢越えからの登山道と合流する。ここから良く踏まれた道となる。小ピークを一つ越えると、樹林が切れた展望地があり、正面に毛無岩の岩峰が現れる。
毛無岩への登りは、右側が崖っぷちのリッジの急登となる。左側は木の生えた斜面なので、右側を覗き込まないようにして登れば怖くない。
登り着いた毛無岩頂上は岩稜で、南西面がスッパリ切れ落ちた大岩壁となっている。この岩壁のスケールは、岩山が多い西上州でもトップクラスではないかと思う。前回、2004年12月に毛無岩に登ったときは、雪が降りしきる天気で眺めがなかったが、今日は好天で大展望。北東は樹林に遮られるが、荒船山や兜岩山、立岩、大屋山、物語山などを望み、遠くには浅間山や八ヶ岳、赤城山まで見通す。
前回は頂上に木柱の山名標識があったのだが、朽ちてなくなってしまい、柱を立てた穴だけが残っている。その代わりではないが、木の枝に「毛無岩 1300m」と刻んだ新しい山名標が掛かっている。地形図には毛無岩の標高が記載されていないので、等高線から読み取った標高を記したようだ。ちなみに、GPSで標高を測ると1313mを表示しているので、この記事ではこれを毛無岩の標高としている。
頂上は狭い上に大岩壁の縁で、寛げるスペースはあまりないが、他にハイカーさんはいないので、頂上を占領して昼食とする。岩壁から吹き上がる寒風を避けて腰を下ろし、フリースを着込んでノンアルコールの缶ビールを飲む(うーん、味はいまいちかも)。飲みながらガスストーブで鍋焼きうどんを作って食べる。熱々のうどんはやっぱり美味いなあ。
食事中に反対側の登山道から単独行の男性が登って来た。挨拶して、登山道を塞いで休んでいることを一言詫びる。話を伺うと、黒滝山から縦走してきたとのこと。そちらのルートは2007年の台風被害で荒れたと承知していたが、彼によると問題なく歩けたそうだ。
日が短い季節なので、あまりのんびりはできない。うどんを食べ終わって下山にかかり、往路を戻る。毛無岩→千ヶ平の場合、前述の通り、途中の2個所に枝尾根に引き込まれ易いポイントがあるので注意。千ヶ平に着けば一安心だ。リンゴを食べて、喉を潤す。
いつの間にか凪いで雲のない快晴の下、最後の展望を楽しんだ後、早くも日が傾き始めた千ヶ平頂上から下山する。痩せ尾根を辿って、小鞍部から左の浅い窪の斜面を下る。下りの場合は、どこを通っても楽だから足任せで適当に降りられる。涸れ沢を石車に注意して下り、林道をテレテレ歩いて駐車地点に戻った。
帰りは久しぶりに荒船の湯に立ち寄る。山上では一日中寒かったので、湯船にゆっくり浸かって温まるのは極楽、極楽である。今日の山歩きの計画は、この温泉に入ることありきで発案したものだったりする(^^)。久々にロングコースを歩いて強ばった足の筋肉をよく解した後、とっぷり暮れた帰桐の途についた。