蒜場山
(この記事は、下越の山1日目、俎倉山からの続きです。)
ダム公園の芝生に張ったテントで快適な一夜を過ごして起床。外に出ると、朝方のヒンヤリとした空気が辺りを包む。上空に雲は多いが、天気は安定しているようだ。もやし入りラーメンを作って朝食としたのち、テントを撤収。水場で2ℓポリタンを満タンにし、荷物を車に積み込んで加治川治水ダムの駐車場に移動する。
駐車場に車を置くと、続けて車が2台やって来た。いずれも新潟ナンバー、地元の岳人は朝が早いなあ。出発する頃には青空が広がって、ダムの天端(てんば)を渡る途中から、昨日登った俎倉山がくっきりと眺められる。急峻な山肌にスラブを纏った、なかなか険しい山容だ。蒜場山も深く険しい谷の奥高くに頂上稜線を覗かせているが、そちらにはまだ雲がかかっている。ダムの湖面は鏡のように静まり返って、青空と白い雲を映している。今日は風もなく、暑くなりそうだ。
ダム対岸の擁壁の上が蒜場山登山口で、「米平新道」と刻まれた石標が建つ(分県登山ガイドによると、平成9年に下越山岳会によって切り開かれた新道とのこと)。登山道はいきなり樹林帯の急登となり、汗を絞られる。後から来た地元の男女2人組にちゃっちゃと抜かれる。トレーニングで登っているのかな。こちらはゆっくり登る。尾根上に登り着くと傾斜が緩んで、一息つく。
針葉樹も混じる樹林に覆われた尾根の登りが延々と続く。途中、樹林が切れる区間があり、ダム湖の湖面や対岸の焼峰山が眺められる。しかし、展望のあるところは陽射しをまともに浴びて暑い。昨日の俎倉山では沢沿いの道だったので、あれは涼しくて良かった。
登るにつれてしっとりしたブナが多くなり、標高も上がって多少暑さが和らぐ。右側の樹林が切れた個所からは、スラブに覆われたV字谷を隔てて俎倉山が高々と望まれる。蒜場山は俎倉山より約500m高いから、先はまだまだ遠い。
途中の738m標高点には、何故か「独標734m」と数値の違う標識が木立に掛かっている。樹林に覆われて展望はなく、気づかずに通過しそうになる。
長い尾根を淡々と登り、中間点の岩岳頂上に到着。東側の樹林が切れて、蒜場山へ続く尾根と頂上稜線が高く仰がれる。あそこまで登るのかー、まだまだあるな、頑張ろう。
岩岳から樹林の尾根を下り、ブナ林に覆われた鞍部に着く。平地があり、幕営可能だ。水場の標識もあるが、水は当てにできないらしい(昨日の俎倉山で会った地元登山者からの情報)。
ここから烏帽子岩への登りとなる。ブナ林を登ると、行く手に烏帽子岩の釣鐘状のピークが近づく。やがて展望が開けた尾根となり、鎖場を登って烏帽子岩の頂上に出る。
頂上は小広くて四周の眺めが良く、蒜場山の頂上稜線をさらに間近に望む。しかし、まだ標高差約300mが残っている。振り返ると、登って来た尾根の先に岩岳が低くどっしりと構える。その奥、遥か遠くに霞んで横たわる大きな山塊は五頭連峰のようだ。
烏帽子岩から低木に覆われて陽当たりの良い尾根を辿ると、小さな切り立った岩場があり、「兎戻し」の標識がある。鎖が架けられ、容易に登れる。
この先にも、痩せ尾根が崩れて「通行危険注意!」の看板が立つ個所があるが、注意して通行すれば問題ない。背丈が低くなった樹林帯の尾根が続き、道脇のマイズルソウやイワカガミの花を眺めながら登る。
途中で、2人組が下って来たのとすれ違う。はやっ。低木帯に入り、緩急のある尾根を登ると蒜場山の頂上稜線の一角の山伏峰に着く。「山伏峰 標高1330m」との標識が草叢の間に落ちている。
ここから蒜場山頂上までは標高差約30m、緩い登降の続く稜線を辿る。低木帯なので展望が利くが、あいにく右側の飯豊連峰の方向はガスの中だ。右斜面は緩く、ところどころに残雪があり、周囲にはコバイケイソウが咲いている。一方、左側はすっきり晴れて、加治川治水ダムから岩岳を経て登って来た尾根が一望できる。
頂上近くで、昨日に引き続き数輪のヒメサユリを見た。今日の方が濃いピンクで、これはまた奇麗だ。緩く登り、三角点標識と立派な石柱の山名標がある蒜場山頂上に到着する。
まずは腰を下ろして、パンで昼食とする。すぐに、私より少し年上?の女性単独ハイカーさん(以降、Nさん)が到着した。2時間半で登って来たとか。はやっ!新潟市在住の方で、6月は15回山に登り、明日は友人と二王子岳に登るとのこと。いろいろ凄過ぎる。蒜場山から飯豊連峰への縦走路の入口も教わったが、密藪に突っ込む微かな踏み跡で、無雪期に行くのは相当の覚悟が要りそう。話好きの方で、笹団子までご馳走になった。
頂上の展望は360度の方向に開けているが、東の飯豊連峰方面は相変わらずガスの中だ。そろそろ下山にかかろう。しかし、Nさんにはすぐに追い付かれるだろうな(^^;)
往路を戻り、岩岳の頂上で木陰に入って一休み。水はあと0.5ℓあるから下までもちそうだ。ここで、やっぱりNさんに追い付かれて、以降、登山口まで大体前後して下る。途中の尾根道からは、ようやく飯豊連峰方面の雲が上がって、主稜線が遠望できた。ダム湖が見えてからの下りが長く感じる。やがて急降下となり、ようやくダムに降り着いた。
駐車場の車に戻り、リュックを降ろす。Nさんがすぐ近くの車にいたので、この辺で日帰り入浴できる温泉がないか尋ねたら、月岡温泉の共同浴場を教えて頂いた。礼を述べて、お別れする。
教えて貰った月岡温泉の共同浴場「美人の泉」はすぐに見つかった。料金は500円。浴室に入ると強い硫黄臭がする。湯船を見ると鮮やかなエメラルドグリーンのお湯で、まるでバスクリンだが、これがなんと天然の温泉だそうだ。びっくり仰天。浸かるとぬるぬるした肌触りで、とても温泉らしい。ここはお勧め。良い温泉を教えて貰った。さっぱり汗を流し、充実した2日間の山歩きを締めくくって、桐生への帰途についた。