鍋岩山神〜野峰
野峰から南東に延びる尾根の上に桐生市街からも見える岩峰があり、その頂に鍋岩山神と呼ばれる石祠が祀られているという。一昨年の秋、Hさん、Kさん、Mさん達がコラボ山行で、皆沢(かいざわ)林道奥からこの岩峰を経由して野峰を周回するコースを歩いておられる。この山行記録を読んで以来、鍋岩山神に興味を惹かれていたので、GW前半3連休の2日目に思い立って同じコースを歩いてきました。
自宅を車で出発。桐生川上流に向かい、梅田湖を梅田大橋で渡って、庚申塔が並び立つ林道入口から皆沢林道に入る。数軒の民家を過ぎるとすぐに未舗装の狭い林道となり、皆沢に沿って新緑の山間奥深くに入って行く。
途中にゲートがあるが、事前情報の通り、錠は掛かっていないので、開けて先に進む。路面に落石が多く、中には動かせないような大石もあったが、ぎりぎりすり抜ける。前方が開けて皆沢左岸の稜線が見えて来ると、437m標高点の広場に到着、車を置く。ゲートから約1kmの地点である。
ここはかつて源氏屋敷という字名で、明治から昭和30年代までは二階建ての湯屋があり、西の後沢、あるいは東の花木(かぎ)(戦後しばらくまでは黒沢沿いにあった集落)から峠を越えて入浴客があったそうだ。現在は跡形も人の気配も全くなく、往時の賑わいを想像するのは難しい。
まず、花木峠を目指し、広場から右の川に降りるブル道に入る。皆沢本流(と言っても小川)を渡って、左岸の支流に入る。沢沿いにブル道が続き、新緑の林の中、鳥の声を聞きながら気分良く歩く。
やがて谷が開けて、花木峠の稜線直下まで大々的に伐採された斜面が現れる。地形図の破線をなるべく忠実に辿って、小尾根(左下写真の正面の尾根)に取り付いて登る。道型は全く残っていないが、多少登り易い。
やがて左から上がって来る作業道に出合う。実は沢沿いのブル道が稜線まで延長されているのだった。作業道を突っ切って直登し、最低鞍部より少し上方の稜線に着く。稜線上にもずっと作業道が通じている。この辺りが花木峠だが、峠を示すものや峠道の痕跡はない。稜線に居ると冷たい風が吹き抜けて、この時期にしては少々寒い。
稜線上の作業道を辿ると、ヒノキ林をジグザグに登って終点となり、以降は道のない尾根歩きとなる。とは言っても藪はなく、薄い踏み跡とマーキングがあるので歩き易い。徐々に傾斜が強まり、岩がちの鋭峰への急登となる。岩場を左から巻いて鋭峰のピークに立つ。樹林に覆われて、展望は全くない。
鋭峰を越え、鞍部に向かって短いが急な下りとなる。行く手には木の間を透かして大きな岩場のあるピークが見える。あれが鍋岩山神だな。
鞍部から岩場を登る。頭上に覆い被さるような岩峰を右から回り込んで、後ろの稜線に這い上がる。ここから岩峰の天辺へは簡単な岩場の登りとなる。
岩峰の天辺には松の木が生え、その根元に黒沢方面を向いて石祠が祀られている。銘は読めない。以前、岩場に架かっていたという古い鎖は、石祠の前に引き上げられていた。
岩峰の南面は皆沢の谷を見おろす断崖絶壁で、遠くに仙人ヶ岳や大形山〜吾妻山の稜線を望んで、大変展望が良い。桐生市街も遠望することができ、ここが桐生市街から見えるという話も本当のようだ。ただし、鍋岩山神自体は小さな岩峰なので、肉眼での判別は難しいかも。南隣りの鋭峰ならば判るのではないかと思う。
鍋岩山神からの展望を堪能したのち、野峰に向かう。825m標高点へ、ヒノキと雑木の混じった林の中を登る。木立を透かして丸岩岳から奈良部山にかけての稜線が眺められる。間の彦間川の谷が大きく深い。
825m標高点を越えると、行く手に野峰のもっそりとした山容が望まれる。この辺り、ポツポツとアカヤシオがあるが、時期はもう遅いようだ。細い尾根が続き、意外と小さなアップダウンが多いが、やがて尾根が広くなり、背の低い笹原の中の緩い登りとなる。
笹の下生えの雑木林の尾根をゆるゆると上り詰めると野峰南峰の平坦な頂に着き、梅田ふるさとセンターからの登山道に合流する。野峰頂上に向かう前に、南峰にあるという石祠を訪ねる。Hさんの記事のGPS軌跡入り地図のおかげで難なく発見。南峰から緩い斜面をわずかに下った雑木林の中に、一基の石祠を見出した。「明治廿五年八月十五日 飛駒村」という銘が読み取れる。
南峰に戻り、登山道を辿って野峰の頂上に向かう。暗いヒノキ林の中を登って頂上に到着。GWの天気の良い日にも関わらず、誰もいなくて静かな山頂だ。樹林の間から男体山を遠望する。頂上付近の薙に白いものが残るものの、雪はだいぶ消えたようだ。雑木林の日当りの良い場所に腰を下ろして、パンの昼食をとる。
頂上で休んでいると、丸岩岳方面から山岳サイクリングの2人組が上がってきた。挨拶を交わして、下山にかかる。途中、野峰ヶ池に立ち寄ってみる。前回、野峰に登ったとき(山行記録)は見つからなかったのだが、今回はあっさり発見。池と言っても水が滲み出したヌタ場だが、ずっと昔に見たときよりも大きいし、湧き水の量も多いような気がする。記憶違いかなあ。
登山道に戻って下っていると、山サイ2人組が自転車で追い付いて来て、道を譲ると結構なスピードで走って行った。万一転んだらダメージ大きいんじゃ、という心配はあるが、下りは楽しそうだなあ。
927m標高点の下で登山道から分かれて、南に落ちる枝尾根に入る。左がヒノキ林、右が雑木林で、その境界を進む。最初は広く緩やかな尾根で、藪もなく歩き易い。
平坦な821m標高点のピークを過ぎたあたりから、段々傾斜がきつくなる。最後はかなりの急坂を下って、皆沢林道のヘアピンカーブの個所に降り着いた。ここに国有林の看板があり、その地図によると、下って来た尾根の南の沢をオオギクボ沢、花木峠への沢をユミノテ沢と呼ぶらしい。
林道を下りながら正面の高い稜線を仰ぐと、鍋岩山神の小岩峰が見える。4時間ちょっとの短い行程だったが結構歩いた気がするし、鍋岩山神の神さびた雰囲気や展望も期待した以上に良くて、充実した山歩きとなった。僅かな距離で車に戻り、帰宅の途についた。