居鞍岳・烏帽子ヶ岳
春分の日の20日は榛名湖畔で所用があり、そのついでに、榛名山でまだ登ったことがない2座のピークハントを企てる。天気はあいにく曇りでしたが、もうすっかり暖かく、軽装で気楽なハイキングを楽しんできました。
桐生をのんびり車で発ち、R353、渋川、伊香保を経由して榛名湖に向かう。上空を灰色の雲が覆うものの、湖岸の山々はそこそこ姿を現していて、これならば山歩きを楽しめそう。展望のない山歩きは、興趣が半減する。
湖面の氷はあらかた融けて、もう一部にしか残ってない。休日なのに湖畔にひと気がないのは、シーズンオフだからだろうか。榛名湖北岸から東吾妻町方面に向かう県道高崎東吾妻線を下る。左前方には、これから登る居鞍岳がもっそりながらも独立した山容を見せている。
県道が居鞍岳の北尾根を横切る切り通しに登山口がある。すぐ手前の路側に広いスペースがあるが、何故かガードレールで囲われて侵入できないようになっている。その脇の林道入口のゲートの前のスペースに駐車する。全く使われている形跡のない林道なので、ここに止めても問題ないだろう。傍には岩の上に大きな石祠が祀られている。銘は風化して読み取り難い。
登山口には「居鞍岳」との道標がある。倒れかけた土留柵を越えて、朽ちた木の階段を登る。これは登山道ではなく、送電線巡視路として整備されたもののようだ。階段を上ると「←尾根つたいの急登0:50 巡視路を行き山頂へ1:15→」という道標と「注意 登山道 整備されていない」という注意書きがある。右に山腹をトラバースする巡視路を見送り、正面の稜線を登る。道はないが、踏み跡が冬枯れの雑木林の中に続いている。湿った落ち葉と土の急坂で、滑りやすい。
ほぼ真っ直ぐに尾根を登って行く。雑木林の中にはところどころに大木が混じり、なかなか良い雰囲気だ。しかし、なにやらけもの臭いのは気のせいか。途中で右から枝尾根を合わせる。下りの際は、この枝尾根の分岐が迷いやすいかも。
なごり雪を横目に登り上げると、大岩のあるピークに着く。岩の上には二基の石祠が背中合わせに祀られ、一方には「文政十(1827)歳次丁 亥五月吉祥日 世話人 …兵衛 新左ヱ門 川戸村中」、もう一方には「…三…三月 大戸村」との銘がある。後日調べると、居鞍岳の東面が川戸、西面が大戸に属するらしい。
石祠からは平坦な稜線が続き、ほどなく三角点標石のある居鞍岳頂上に着く。達筆標識とGさんのプラ標識の2つの山名標が立ち木に掲げられている。ここでパンを齧って一休みする。相変わらずの曇り空だが、時々陽も射して、取りあえず天気の心配はなさそうだ。
下山は巡視路コースを辿ってみることにする。頂上から西側の樹林を透かすと、巨大な送電鉄塔が建っているのが見える。これを目指して小尾根を下ると、カラマツの植林帯を抜けて送電鉄塔の傍の巡視路に出る。この地点には「新榛名線17号に至る」という黄色の標識が立っている(この鉄塔は18号になる)。
巡視路を北に辿ると、雑木林の山腹をトラバースして明瞭な道型が続いている。しかし、あまり踏まれていないようで、土砂に埋もれて路面が傾斜している個所もあり、積雪時は気をつけた方が良さそう。急な区間には、巡視路でよく見かけるプラ板階段が丹念に設置されている。
「新榛名線14号に至る」という標識を過ぎると小尾根の下りとなり、水がちょろちょろ流れる沢を渡って、稜線コースとの分岐に着く。木の階段を下り、車に戻る。暖かくなったせいか羽虫が大量に湧いていて、車に集っているのには閉口した。
頂上での休憩を除いて僅か1時間半の行程の山だったが、道中誰にも会わず、静かな山歩きが楽しめた。県道を榛名湖方面に戻って、次に登る烏帽子ヶ岳の登山口に向かう。途中、県道の東の尾根上に突き出た烏帽子岩が目を惹いた。ちょっと登ってみたいかも。さらには「掃部の大グリ(クリ巨木)0.5km」との道標も見かけた。榛名山には、小粒だが面白そうなスポットが多い。
榛名湖の北岸を走って、烏帽子ヶ岳登山口近くの路側に車を置く。登山口には数基の赤鳥居が立ち並び、「奉納大願成就 加護丸稲荷大明神 願主信州諏訪郡小林研山謹書」と記された額束が掲げられている。赤鳥居の奥には祠があり、夥しい数の陶器の白狐が奉納されている。脇には「加護玉稲荷大明神 鳥居献上及び階段新設社修復名簿」と題して寄進者の名前を掲げたステンレス製の掲示板がある。平成14年のものだから新しい。榛名山には、現在も多種多様な信仰の対象になっている山が多い気がする。祠の前を横切る作業道を右に行くとすぐに道標があり、ここから登山道に入る。
登山道は烏帽子ヶ岳の山裾を斜めに横切る様に登って行く。黒土の上に付けられた登山道はふかふかとして踏み心地が良い。途中で下山するご夫婦ハイカーさんと行き会う(その後は山中で誰にも会わなかった)。
背の低い笹原が現れると、烏帽子ヶ岳と鬢櫛山の間の鞍部に登り着く。稜線を左に辿ると鬢櫛山で、道標によると「約30分・後半急坂」とあり、笹原の中に明瞭な道型が付いている。鬢櫛山も未踏なので登ってみたいが、今日は時間がなさそうだ。いずれにしても、右に稜線を辿って烏帽子ヶ岳に登ろう。
すぐに赤鳥居と二体のお稲荷様の石像がある。鳥居を潜ると急斜面の登りとなる。ぬかるんで滑りやすい急坂だが、木とロープの新しい手摺がずっと続いて設置されており、大変助けになる。
頂上に近づくと岩場が現れ、赤鳥居の奥に小さな岩屋が口を開けている。岩屋の中を覗くと陶器の白狐がうずたかく積み重ねられ、こぼれ落ちた白狐が岩屋の外にまで散乱している。これだけ多いと何かの情念が籠っているような気がして、少々気味が悪い。
大岩のすぐ上が烏帽子ヶ岳の頂上だ。平坦で広い笹原を進むと「烏帽子ヶ岳1363m」の山名標があるが、休むならばこのすぐ先の南端の岩場が良い。
南端の岩場は断崖絶壁の上で、高度感と展望が素晴らしい。正面には端正な円錐形の榛名富士が聳え、その左には相馬山や二ツ岳の鋭峰が曇り空に突き刺さっている。
榛名富士の右側には榛名湖の湖面が広がり、南岸の天目山、氷室山から西岸の掃部ヶ岳が一望できる。今日は生憎の天気で、折角の展望にも靄がかかっている。良く晴れたときならば、さらに素晴らしい展望だろうな。条件の良い時にまた訪れて見たいと思う。
展望を堪能したのち、往路を戻る。榛名湖畔での所用を済ませたのち、県道安中榛名湖線を経由して桐生への帰途についた。