石砂山
所用があって、土曜日に横浜の実家に帰った。日曜日は良い天気になったので、神奈川近郊の低山を軽く歩くことにする。山渓の分県登山ガイドを参考にして、丹沢山塊の北部に位置し、ギフチョウの生息地として知られる石砂山(いしざれやま)に登って来ました。
実家を車で出発。R246、R16、R413を経由し、相模湖南岸の細く曲がりくねった車道を走って石砂山北麓の篠原(しのばら)に向かう。篠原は標高400〜700mの山々に三方を囲まれた山里だ。集落の中央に、閉校となった小学校を利用した「篠原の里」という施設があり、その駐車場(有料)に車を置く。この時期の石砂山はギフチョウがお目当てのハイカーさんに人気があり、既に多くの車がある。
車道を牧馬(まきめ)峠側へ少し歩き、篠原川を渡って右に分岐する道に入る。この道は東海自然歩道の一区間となっているので、石砂山までの要所に道標が設置されている。直ぐにギフチョウについての説明板がある。それによると、ギフチョウは春の暖かな日中に陽当たりの良い斜面の地上近くを緩やかに舞い、その美しく可憐な姿から「春の女神」と称されているとのこと。今日は快晴で風も穏やか、暑いくらいの陽気だ。女神様がお出ましになるには絶好のコンディションではなかろうか。期待が高まる。
小さな谷に沿って狭い車道を歩く。丘陵に畑地と民家が点在し、梅が満開だ。神奈川近郊にもこんな長閑な山里があるとは、神奈川県民だった時期も長いのに知らなかった。機材を抱えた写真愛好家のグループもいて、山村風景に向けてカメラを構えている。ここで早くも一匹のギフチョウを見かける。どこにも止まらず飛んで行ってしまったので、カメラに収めることはできなかったが、幸先が良い。
やがて登山口に着き、小川を橋で渡って山道に入る。登山口にはギフチョウ保護のお願いと、ヤマビルにご注意!の掲示があった。ヒルの発生は4〜9月と書いてあるが、今日はようやく暖かくなったばかりだから、まだお出ましにはならないだろう。
暗い杉林の中をジグザグに登って尾根の上に出ると、尾根道の緩い登りがしばらく続く。尾根も谷も小さな山だが、尾根の両側の斜面は結構急だ。冬枯れの明るい雑木林の中を気持ち良く登って行くと、木立を透かして石砂山のピークがすぐ近くに見えてくる。
前方から話し声がすると思ったら、20人くらいの団体さんが降りて来た。地元のガイドさんが引率する一行のようだ。頂上への最後の登りは木の階段のある急坂となり、ひと汗かいて石砂山の頂上に登り着く。山頂はそこそこ広い平地となっているが、ハイカーさんで満員。二つあるベンチも鈴なりの大賑わいだ。
頂上からの展望は南側が開け、道志川を隔てて丹沢主脈北端の焼山が大きい。稜線の高い所には、まだまだらに雪が残っている。丹沢主脈は未踏なので、一度縦走してみたいなあ。焼山の左奥に見えるギザギザの稜線は丹沢三峰のようだ。あそこも歩いたのはずいぶん昔なので、また歩くのも良いな。
眺めの良い場所にシートを敷いて腰を下ろし、おにぎり、ペットボトルのお茶とお菓子で昼食とする。空気は少し冷たいが、風もなく日が良く当たって寛げる。
頂上では1匹のギフチョウがヒラヒラ舞っている。大勢の人がカメラを構えて撮ろうとしているのだが、なかなか止まってくれないので、気まぐれな女神様の姿をはっきりと捉えるのは至難の業だ。その他、2、3匹のヒオドシチョウが忙しく追っかけっこをしている。こちらは地面に止まったところをなんとか撮ることができた。
帰りは牧馬峠への縦走も考えていたのだが、分岐点がはっきりしない上に急斜面を降りることになりそうなので、安全に往路を戻ることにする。
木の階段を降りて緩い尾根道に入ったあたりで、1匹のギフチョウがヒラヒラ飛んで来て、今度はすぐ先の道の上に着陸、羽を広げてジッとしている。これはシャッターチャンス!そっと近づいて、撮影に成功した\^o^/。白黒の縞模様に赤青黄の帯が入っていて、女神の称号に相応しい美しさだ。
尾根道の脇にはシュンランが咲き、ギフチョウの幼虫の餌になるカンアオイ(別名カントウカンアオイ)も生えている。カンアオイは、地面に接して柿の実のヘタのような花(実?)をつけている。地味なので、前後を歩いていたハイカーさんに教えて貰うまで気がつかなかった。よく見ると杉林の日陰の地面にもたくさん生えている。カンアオイの保護のため、生育地は立ち入り禁止となっている。
お目当てのギフチョウや、カンアオイ、シュンランの写真を撮ることができ、今日の山歩きは短い行程だがとても充実したものとなった。杉林をジグザグに下って車道に出、すっかり春めいた山村風景をのんびり眺めながら駐車地の篠原の里に戻った。