神ノ上山
岡山に出張したついでに、岡山県東南部の和気(わけ)アルプスと呼ばれるミニ山塊に登ってきました。最高峰の神ノ上山(こうのうえやま)で標高が370mの低山ですが、和気富士からの縦走路は数多くの岩山を越えるもので、独特の高山的な景観が楽しめました。
岡山駅で登山以外の荷物をコインロッカーに預け、山陽本線上り普通列車に乗る。車内は高校生でぎっしり満員、おしゃべりで賑やかだ。まだ春休みに入っていないのかな。和気駅で高校生の大半と共に下車。駅前から直進し、吉井川支流の金剛川を歩行者専用の富士見橋で渡る。対岸には、小さいながらも端正な円錐形の和気富士がすっくと聳えている。
橋を渡って県道を直進し、和気富士の左側山麓を行くと、すぐに「和気富士健康づくりの路」という真新しい道標がある。道標に従って右折すると、小さな赤鳥居が立つ。ここが和気富士の登山口となる。
鳥居を潜って山道に入るとこじんまりとした社殿が建ち、傍らに健康づくりの路の案内看板がある。地元の和気町によってハイキングコースが整備されているようだ。ここから急な山腹をジグザグに登ると、数基の電波中継施設が建つ和気富士の山頂に着く。樹林を透かして和気の町並を見おろす眺めが得られる。案内看板によると、ここには戦国末期に北曽根城と呼ばれる山城があったらしい。
和気富士から縦走路に入る。尾根上の道は随所でザレや岩が露出し、樹林が少なくて展望が良い。「エボシ岩展望所」という古い道標がある小さな岩場に差し掛かる。岩の上に立つと、西側の吉井川に向かっては急崖となり、山麓の町並がすぐ下に見える。また、北側に延々と続く山並みを眺めると、一番奥に神ノ上山が小さく見える。あそこまで行くとなると、なかなか歩き甲斐がありそうだ。
一旦、鞍部に下り、左に和気地区への道を分ける。次のピーク(観音山)もザレの稜線で展望が良い。下生えのシダと若いマツを主とする樹林の道を進む。右前方に岩肌が露出した山並みを眺める。整った三角形の山が穂高山と称するピークのようだ。この景観を見ると、標高とスケールを別にすれば、和気アルプスと称する訳も分からんではない(^^)。
岩尾根を登り詰めた次のピークには、「岩山」という即物的な山名がついている。マツやネズの幼木が生える尾根を緩く上下すると、前ノ峰のピークに登り着く。樹木の間から山麓の鵜飼谷温泉の大きな宿舎を俯瞰する。何となく鄙びた一軒宿の温泉を想像していたが、近代的なホテルのようだ。
岩とザレが露出した楽しい尾根歩きがまだまだ続く。中腹にスラブを抱く竜王山が右手に近づくと、穂高山の頂上に着く。小腹が空いたので腰を下ろして一休み。ドーナッツを午後の紅茶で腹に入れる。
目の前の竜王山のスラブは竜王バットレスと呼ばれ、高さ120m、幅300mの規模があるらしい(「新ルート岡山の山百選」による)。越後の豪雪地帯の山のスラブと見紛うが、風化が進んでボロボロのザレとなっている。いずれにしても、低山らしからぬ雄大な景観だ。
穂高山の次のピークは、神ノ上山への主稜線と竜王山への稜線の分岐点となる。主稜線もゴツゴツと恐竜の背のような尾根が続く。分岐点から竜王山に往復する。ザレ尾根を下って振り返ると、稜線から中腹まで岩肌を纏った穂高山が眺められる。
樹林帯に入ってひと登り、分岐点からわずか10分程の行程で竜王山の頂上に着く。ぽっかりひらけた小平地に祠が祀られている。展望は頂上から少し下った所から得られ、山麓の集落の間をゆったりと流れる金剛川が眺められる。竜王山から主稜線に引き返す。目の前に横たわる主稜線は、岩山に疎らに針葉樹が生えているためか、妙に高山的な景観だ。
分岐点に戻って、神の上山に向かう。一旦下って、奥ノ峰までのやや長い登りに取り付く。奥ノ峰はどこが頂上か、はっきりしない。傾斜が緩んだ尾根を進むと、左に鵜飼谷北稜線への山道を分ける。ここから今までの岩稜とは打って変わって、ツバキやヒサカキなどの常緑樹に覆われた緩斜面となる。樹海の中には湿地が点在し、獣達のヌタ場になっているようだ。
T字路に突き当たって右に鷲ノ巣への下山路を分け、次のT字路は右折して緩くひと登りすると、神ノ上山の頂上に着く。頂上は明るく開けた平地となり、男性二人組のハイカーさんがのんびり休憩していた。陽射しが当たって風がなく、セーターを一枚着るだけでぽかぽかと暖かい。私もここでパンと午後の紅茶で昼食とする。
頂上からの展望は低い樹林越しとなるが、西側を除く三方に見晴しがきく。北側には中国山地の準平原が広がる。遥か彼方に白い山脈が霞んで見えるのは、那岐山だろうか。
ハイカーさんが下山してしばらくのち、私も頂上を辞す。樹林中の平坦な道を鷲ノ巣岩方面に向かう。神ノ上山の頂上を中心とする台地状の地形も、準平原の一部のようだ。左に何本か山道を分ける。これらは鷲ノ巣の岩場を経由するバリエーションルートのようで、チンネ、スラブなどの楽しげな道標がある。
尾根が狭くなると、急に下界の眺めが開ける。傾斜を増した細尾根を下ると、左に大きな岩場があり、岩頭で懸垂下降の準備をしているクライマーさんの姿が見えた。この岩場が、ロッククライミングのゲレンデになっている鷲ノ巣岩のようだ。
鞍部から登り返したピークには丸山の山名標がある。このあたりから道は少々藪っぽくなり、松茸の時期に入山禁止の境界を示すために張られたビニル紐がゴミと化していて、裏山の雰囲気だ。御大師山(おだいしさん)の山名標のあるピークから少し下ると、明るく開けた斜面に御大師様の簡素な社殿が建つ。軒先の額には、旧和気郡八十八ヶ所第三十三番泉大師堂と書かれていた。
若いマツがしょぼしょぼと生えるザレた斜面を下り、道標に従って左に折れる。赤鳥居と覆屋のある祠を過ぎ、猪除けの防護柵を開閉して通ると、山麓の集落に降り着いた。
車道を歩いて集落を抜けると、金剛川に沿う県道に出る。あとは左手に滔々と流れる金剛川、右手に和気アルプスの山々を眺めながら車道を歩く。
和気富士の麓に着くと、大きな文字で南無妙法蓮華経と刻まれた岩壁がある。説明板によると岩壁の高さは約17m、横幅は約5m。見上げるように大きい。大正三年の落成で、当時、民間信仰を禁止して南無妙法蓮華経だけを信仰する「雑乱勧請廃止運動」と称する運動があり、その一環として造られたものとのこと。興味深い。
富士見橋を渡り、和気駅に戻って今日の山歩きは終了。春らしい陽気と特色ある景観に恵まれて、なかなか楽しめた。地方によって、山の雰囲気がそれぞれ異なるから面白い。
和気駅から列車で岡山駅に戻った後、コインロッカーから荷物を出し、路面電車に乗って4駅先の田町まで行き、田町温泉という銭湯でさっぱり汗と埃を流す。岡山駅に戻り、駅ビル内で生ビールと岡山名物のママカリ、黄ニラ等で一人大宴会。お土産に吉備団子を買い、18:23発の新幹線に乗車して、少々酩酊しつつ桐生への帰途についた。