熊山

天気:時々
メンバー:T
行程:万富駅 9:05 …八幡宮 9:35 …龍神山(344m) 10:25 …熊山遺跡 11:15 …熊山神社(509m) 11:30 …熊山三角点(508m) 11:55 …見晴台 12:30〜12:45 …高倉大明神 13:15 …伊部駅 14:00
ルート地図 GPSのログを地理院地図に重ねて表示します。

岡山に出張したついでに、備前(岡山県東南部)の最高峰(といっても標高509m)にして、古くは霊峰として栄えていたという熊山(くまやま)に登って来ました。

登山当日の朝、岡山市街のホテルをチェックアウトし、岡山駅で山歩き装備以外の荷物をコインロッカーに預けて、8:36発山陽本線吉永行の普通列車に乗り込む。約20分の短い乗車だが、知らない土地で鉄道に乗るのは、新鮮な感覚があって楽しい。

万富(まんとみ)駅で下車。無人駅の改札を出ると、駅前には畑と住宅地が広がり、その向こうにもっそりとした山容の熊山が見える。中腹に大規模な採石場があり、稜線に送電鉄塔が立ち並んでいるのが、ちょっと痛々しい。

万富駅
万富駅前より熊山を望む

ゆったりと流れて大河の趣きのある吉井川(岡山三大河川の一つだそうだ)を弓削(ゆげ)橋で渡る。橋の上から、上流に架かる山陽本線の鉄橋を長大な貨物列車がゴトゴト走っているのを眺める。県道79号線に沿って少し歩き、弓削の集落に入って狭い路地を通り抜ける。集落の中程の山裾にある八幡宮が熊山の登山口となる。

弓削橋の上から
吉井川の下流を眺める
八幡宮の鳥居

八幡宮の鳥居を潜ると、陶器製の二宮尊徳像と弓削小学校跡という石碑があり、古くて小さな校舎とこぢんまりとした運動場が残っている。熊山への登山道は、八幡宮の山門の前から斜め右上に通じている。

折角なので、登山の前に八幡宮にお参りしよう。山門を潜って石段を登ると、陶器製の狛犬に迎えられて、無住の社殿に着く。境内が常緑樹の森に囲まれているのが、如何にも温暖な西日本という感じだ。ただし、今日は結構風が冷たい。

八幡宮
熊山登山口

山門に戻り、「弓削古道登口」という手製の道標を見て登山道に入り、樹林に覆われた山腹を斜めに上がる。樹木に名札が付けられていて、ブナ科のアベマキやアラカシと書いてある。同じブナ科でもアベマキは落葉樹、アラカシは常緑樹と違うとは、豆知識をゲットだ(^^)。道標も山名標も、手書きのうまへたなイラスト付きのもので、見ていて面白い。

山腹を斜めに登る
アラカシのイラスト付き名札

尾根に出ると、緩い尾根道の登りがしばらく続く。四合目の標識を過ぎると、尾根の右を絡んで登る道となり、山麓に大きく弧を描いて流れる吉井川が眺められる。登山道は龍神山を左から巻いているが、巻き道から分れて龍神山に登る踏み跡があり、その入口に「私の名所 龍神山岩壁」という手製の道標がある。四つん這いになって崖下を怖々覗き込む人物のイラスト付きで、これを見たら行って実際に見たくなった。

四合目付近の尾根道
龍神山を望む

という訳で尾根を登ると、数分で龍神山の頂上に着く。頂上は樹林に囲まれて狭く、朽ちかけた祠と「龍神山 344」と書いたイラスト付き山名標がある。頂上直下には岩場が突き出た場所があり、その下は断崖絶壁だ。そして、急傾斜で吉井川まで切れ落ちており、標高の割には高度感がある。これは確かに名所と言っても良い。

龍神山分岐点の道標
龍神山の岩場より吉井川を俯瞰
龍神山の岩場から
登って来た尾根を振り返る
龍神山の岩場から熊山西峰(左)

展望を楽しんだのち、尾根を直進して登山道と合流する。白砂青松といった感じの展望の良い尾根道を登ると、六合目の標識がある。尾根から外れて浅くて緩い谷を登り、「清盛」という道標のある鞍部に着く。

鞍部の北西には熊峰西峰がちんまり盛り上がっている。枝道が通じているので登ってみた。頂上には巨大な送電鉄塔が立ち、周囲の木が切り開かれているので展望はあるが、ちと味気ない。

白砂青松の尾根道
七合目付近は浅い谷を登る
清盛
熊山西峰

鞍部に戻って先に進むと、直ぐに未舗装の林道に出る。林道の終点に向かって「南山崖遺跡 500m」という道標があり、興味を惹かれたが、ちょっと遠いので割愛。林道を横断して樹林の中を進むと、今度は「鍛冶神社100m 刀匠が信仰した神社」という道標があり、枝道がある。これは訪ねてみると、石積みの上に小さな祠が祀られていた。

八合目
鍛冶神社

元の道に戻り、2本目の林道を横断する。その先は杉の巨木の林に入って急に神さびた雰囲気となり、幅広い参道に合流する。ここまでは誰にも会わなかったが、参道はハイカーさんがちらほら行き来している。注連縄が巻かれた特に大きな杉2本は、「熊山天然杉二本」として赤磐市の天然記念物になっているそうだ。説明板によると樹高38m、幹の直径1.5m、幹の周囲4.5m、樹齢約千年とのこと。

熊山の参道
熊山天然杉

参道の終点は杉林に囲まれた広場になっており、その周辺にいろいろな宗教モニュメントがある。まず、珍しいのが熊山遺跡(国指定史跡)で、割石を4段に積み重ねたピラミッド様の建造物である。説明板によると、奈良時代前期に築成された石積みの仏塔と推定されるものとのこと。その他、鐘楼跡や観音堂跡、五輪塔、延命地蔵菩薩(これは最近のもの)、猿田彦神社がある。

熊山遺跡
管理棟

広場の一角には管理棟があり、立て看板によると、元旦には初日の出を見る人をお雑煮・甘酒・焼き餅で接待してくれるそうな。今日はなんにもなくて残念(^^;)。その裏手には展望台の東屋とベンチがある。あまり高い山はないが、うねうねと広がる山並みとそれを縫うように流れる大河の眺めは、群馬とは様子が違っていて目新しい。

展望台
展望台から山麓と岡山方面の展望

参道を戻り、次は熊山の本峰にある熊山神社に登る。立派な石段を上がって鳥居を潜ると、開けた境内に着く。こちらの社殿は、明治の神仏分離で創建されたもので、比較的新しい。両脇に控える狛犬は、やっぱり陶器製だ。境内には「児島三郎高徳挙兵(1336年)の跡」と称する岩もあり、なんでも太平記に出て来る場所らしい。

熊山神社
児島三郎高徳挙兵跡の
腰掛岩と旗立岩

熊山神社で史跡巡りは一段落。参道から車道に出ると、しばらく車道歩きが続く。途中、熊山の三角点に立ち寄る。熊山の頂上は熊山神社のようで標高も僅かに高いが、三角点のあるピークも気になるものだ。頂上はNTTドコモの巨大な無線中継所に占拠されているが、その一角に三角点の標石があった。これで気分もスッキリ。

熊山無線中継所の入口
熊山無線中継所
三角点は左奥の小高い所

単調な林道をさらに歩き、麓へ下る林道大滝線と分れて、ようやく尾根道に入る。この辺りは備前市が森林公園として整備しているらしく、尾根道も簡易舗装されて、両脇の樹木も剪定が行き届いている。三角点(点名大滝山、標高426m)の少し先に「伊部駅→」の古い道標があり、ここから伊部(いんべ)に下る。

林道大滝線分岐
伊部駅への古い道標

モチノキやネズの林を緩く下ると見晴台に着き、東屋と展望の良い岩場がある。主稜線から下って来たので風もおさまり、だいぶ暖かくなってきた。岩場で昼食とし、パンを齧りながら展望をのんびり楽しむ。山麓の伊部の街並が良く見え、その向こうには瀬戸内海に繫がる海面が光っている。

見晴台
見晴台から伊部の町並みを俯瞰
左奥は瀬戸内海の片上湾

見晴台の先は尾根上の急な下りとなる。のったりとした熊山頂上とは一変して、尾根と谷がなかなか急峻だ。岩と白いザレが多いせいか植生も低い松が多く、周囲の眺めがきく。鞍部に下って左に林道鬼ヶ城線への道を分け、送電鉄塔の建つ鋭峰に向かって直進する。

送電鉄塔の建つ鋭峰
下って来た尾根を振り返る

送電鉄塔から右へ急降下し、広い谷の底に着く。1997年刊のアルパインガイドには鬼ヶ城湿原と記載されている場所だが、水害のために埋もれたらしく、そこここに真新しい護岸や堰堤がある。現在は親水の森と称しているようだ。

谷に向かって急降下
親水の森

谷に沿って下る道からは樹林に遮られて良く見えないが、左上は屛風岩という大岩壁になっていて、道には岩が散乱している。落石に要注意。

沢を渡ると参道に出る。右に少し登ると沢山の赤鳥居を潜って高倉大明神に着く。ここのお稲荷様もまた陶器製だ。立派な社務所があるが無人で、最近使われた形跡はどうもなさそう。社殿の前から屛風岩を仰ぐことができる。この光景を見ると、屛風岩を信仰の対象としていることが自然と判る。社殿の奥には小さな滝があり、不動明王が祀られていた。

沢を渡って高倉大明神の参道に出る
赤鳥居が並ぶ高倉大明神の参道
高倉大明神
高倉大明神に峙つ屛風岩

参道を戻って下ると林道鬼ヶ城線に合流し、あとは舗装された車道を下る。振り返ると屛風岩が良く見える。二つの溜め池を過ぎると、伊部の町並みに入る。伊部は備前焼で有名で、煉瓦作りの四角い煙突があちらこちらに立っている。これだけの数の煙突がある風景は今や珍しく、懐かしさを感じる。

林道鬼ヶ城線より屛風岩を振り返る
鬼ヶ城池

川に沿って下ると、「備前寒霞渓・高倉稲荷」という道標があった。してみると、下山コースの渓谷は寒霞渓と称するらしい。小豆島の寒霞渓は行ったことがないので比較は出来ないが、多少大げさな気がしないでもない。でも、なかなか面白いコースでした。

煉瓦造りの煙突
伊部駅

伊部駅は備前焼伝統産業会館の1階の片隅にある。駅員はいなくて、土産物店で切符を買う。缶ビールと乾物も買い求めて、伊部駅14:18発赤穂線岡山行に乗る。岡山駅で荷物をコインロッカーから出し、お土産に地酒や銘菓を仕入れたのち、のぞみに乗車して帰宅の途についた。