高戸谷山
この日曜日は夕方に所用があるので、早めに帰宅できるように軽い山歩き。群馬300山を参考にして、安中市松井田町の“ローカルな低山”に登って来ました。
桐生を7時半に車で出発。北関東道〜上信越道を走って松井田妙義ICで高速を降り、天神山トンネルを抜けて、丘陵地帯を緩やかに流れる九十九(つくも)川沿いの道を走る。今日は雲ひとつない青空が広がり、明るい谷間に集落が点在する田園風景を眺めていると、ほのぼのとした気分になる。やがて、行く手にちょこなんと盛り上がった雑木林のピークが見えてくる。あれが高戸谷山らしい。
高戸谷山に登る前に、山麓にある仙ヶ滝を見物する。小根山林道を進み、途中の「←仙ヶ滝駐車場」という道標にしたがって左の脇道(滝の口線)に入ると、橋の袂に5台分くらいの駐車場がある。仙ヶ滝への入り口は橋を渡って車道をだいぶ進み、小根山林道と合流する直前にある。
仙ヶ滝の前は小広い園地となっており、東屋やベンチ、歌碑、剣形の石碑、宝塔がある。石碑には「明治三十二年三月…奉祈蠶桑倍盛…」と刻まれており、養蚕農家の信仰が厚かったようだ。その奥に鬱蒼とした杉林に囲まれて、岩盤から真っ直ぐに滝壺へ水を落とす裏見の滝がある。落差は15mと称しているが、実際はその半分くらいのようだ。それにしても、見事な滝には違いない。
滝壺の周囲には数体の不動明王と、すっかりお馴染みのなんとか童子の文字碑が祀られている。童子の名前を読むと、矜迦羅、慧光、慧喜、阿耨達多、指徳、烏倶婆迦、清浄(以上、八大童子)、金剛夜?、不動慧などがあった。
仙ヶ滝をじっくり見物したのち、高戸谷山の登山口に向かう。小根山林道は道幅が狭く、駐車できるスペースを探しているうちに、登山口の林道入口まで来てしまった。林道入口には先客の車が1台停めてあり、これを地元の方らしいおじいさんが見ている。駐車地について尋ねようと車窓から挨拶すると、ここに車を置いちゃダメ、とのこと。また、この車はテールライトが点きっぱなしのようだ、とおっしゃる。車を降りて確認すると、陽射しがまともに当たって見難いが、確かにフィラメントが自ら光っている。
おじいさんの肩には仔猫が一匹しがみついていて、先程からミャーミャーと必死に啼いている。捨て猫を拾ったんだ、こんな所に捨てるなんて困ったもんだ、とおじいさん。高くて降りるに降りられないらしく、おじいさんに少し近づいたら、私の肩に飛び移って来た。飼ってくれないかな?とおじいさん。いやー、それはちょっと。自分の家では飼えません。
仔猫を返して、駐車地を教えて頂く。小根山林道をさらに進むと橋があり、その手前で右に分岐する林道に入る。林道の途中に車止めがあり、その前に数台分の駐車余地があるとのこと。林道は高戸谷山の頂上のすぐ近くまで通じているので、そちらから登る方が楽だよ、と勧められる。群馬300山にはないルートだが、そちらから登ってみることにする。
教わったとおりの場所に駐車し、杉林に囲まれた林道を歩き始める。いささか単調な道だが、傍らを流れる渓流はナメが多く、ナメを眺めながら歩く。高戸谷山の頂上とは約90度異なる方向にどんどん進むので、ちょっと心配になった頃、おじいさんの話に聞いた石碑を見つけた。高い所にあるので碑面は読めないが、林業関係の記念碑のようだ。
石碑から右に折れて渓流を離れ、山の斜面に付けられた作業道を登ると、高戸谷山の西の稜線に登り着く。作業道は稜線上にも続いて歩き易い。というか、らくちん過ぎて物足りない(^^;)。しかし、稜線を進むと北面の眺めが開ける場所がある。稜線からの展望が、このコースの取り柄と言えそうだ。東には榛名山、西には剣の峰や先日登った雨ん坊主のぽっこりとしたピークが見える。剣の峰の裾野は広大で、緩やかな谷と尾根が延々と横たわり、遥か後方には白銀の上信越の山々が連なる。
作業道の終点からわずかの距離で高戸谷山の頂上に着いた。木立に囲まれて御嶽神社の石碑が建つ。「昭和十二年五月吉日 上原亮平建立 甚一郎敬書」と刻まれており、そう古い物ではない。頂上の日溜まりでは、おじさん二人組が枯れ葉の上にシートを広げ、旨そうなものを炙って宴会中だった。登山口の車の持ち主に違いない。挨拶すると、こんなマイナーな山で人に会うとは思わなかった、と驚いていた。それはまあお互い様ですね。
車のランプが点きっぱなしであることを知らせると、やはり心配の様子だ。話を伺うと、以前は桐生に勤めていて、リタイア後はあちこち登っておられるとのこと。私の車にはブースターケーブルが備えてあるので、もしバッテリーが上がっていたら救援することになった。
今日の行程は短いので、昼食の缶ビールはなし。お湯を沸かしてインスタントの豚汁を作り、パンを食べる。お二人は先に下山し、私も昼食後に下山にかかる。
頂上から南面の雑木林の急な尾根を下る。道型は微かだが、赤テープの目印がふんだんにある。少し下った所の岩場の基部に意波羅神社と刻んだ石碑があった。かなり急な枝尾根を、立ち木とトラロープを頼りに下る。ここは登路にとったら面白かっただろうな。雑木林から杉林に入るとようやく傾斜が弛み、草藪の中の踏み跡を下る。
作業小屋を過ぎると幅の広い作業道となり、小さな沢を渡る。水場はあてにしない方が吉。すぐ下にはワサビ田がある。作業道を下って登山口に着くと、お二人とおじいさんと仔猫が車のまわりに集まっていた。ランプは点きっぱなしだったが、バッテリーは大丈夫だったとのこと。お二人の出発を見送り、仔猫の写真を撮らせて貰ったのち、車道を歩いて駐車地に戻った。
帰りは上増田♨砦の湯に立ち寄る。先に出発したお二人も後からやって来た。山歩きのあとはやっぱり温泉、考えることは皆同じのようで。砦の湯は谷の奥のこぢんまりとした温泉で、アルカリ性のぬるぬるした良いお湯だ。近くの木馬瀬(ちませ)地区には福寿草の自生地があり、開花の時期に来るのも良さそう。温めの露天風呂にゆっくり浸かったのち、帰途についた。