赤倉山

天気:のち
メンバー:M,T
行程:登山口 9:35 …雨量観測局 10:20 …深沢神社石碑 11:15 …赤倉山(1442m) 12:25〜13:00 …林道に合流 14:10 …七曲がり分岐 14:50 …登山口 16:15
ルート地図 GPSのログを地理院地図に重ねて表示します。

前夜は宴会で少々飲み過ぎた。翌朝、酔いは醒めたけれども、どうも体調がすっきりしない。経験上、こんな時は運動して少し汗をかいた方が良い。日光方面の山に登るつもりで、Mさんと車で出発した。

この週末は好天の予報だったが、どうも天気が怪しい。R122を渡良瀬川に沿って走っていると、細かい雨粒がフロントガラスを叩く。相談の結果、日光まで足を延ばす天気ではないということで目標を近場に変更し、足尾の赤倉山に登ることにする。Mさんは既に登っているが、私にとっては未踏の山で、以前から興味を持っていたので、良い機会だ。

足尾町深沢から廃屋の間の細い坂道を上がり、荒れた林道を深沢の奥に進む。路面は凸凹、轍が深くて、シビックの底を何度も擦ってヒヤヒヤする。林道終点の広い平地に車を置く。幸い、天気は回復に向かっているようで、青空が広がりつつある。ここから見上げる赤倉山の稜線は意外と高い。準備を整えて出発する。

深沢に下り、飛び石伝いに右岸に渡る。昨夜の雨で水嵩が少し増している。徒渉点のすぐ上流には、大きな石垣がある。昔は橋が架かっていたのだが、橋桁が落ちて立派な橋台だけが残っているようだ。


林道終点


深沢の徒渉点に残る橋台
(帰りに撮影)

深沢に沿って登る道は半月峠に通じ、かつては足尾から中宮祠への主要道だったと言う。1996年4月に間藤駅を起点として、この道から半月峠、阿世潟峠を周回して歩いたことがある。その時の記憶は断片的にしか残ってないので、新鮮な感覚で歩ける。緑滴る樹林の中にところどころ藤の花が咲いているのがきれいだ。

石組みの擁壁や石畳になっている区間もあり、往時は整備された道だったことが窺える。しかし、山から崩れ落ちて来た転石が道の上に散乱し、今のところ通行に支障はないが、やはり廃道に向かいつつある荒れ方だ。

やがて、鬱蒼と繁る樹林の中に高い石垣が現れる。石垣の上の小平地は一の茶屋の跡だそうで、今は一基の灯籠だけが残る。この灯籠は古いコンクリ製で昭和初期に作られたものらしい。石垣の下には無人の雨量観測装置(深沢雨量観測局)がある。こちらは昭和60年に設置されたものだ。


かつての道型が残る


一の茶屋跡

険しい崖を横切る道から渓谷を見おろすと、深沢の大滝がある。木立に隠れて全貌はわからないが、落差は10mくらいだろうか。

道は滝の上流で左岸に渡り(「足尾⇔半月」という道標がある)、草地の中の細い道を経て、再び右岸に戻る。暗く湿った林を抜けると、開けた笹原に出る。棚田のような人工的な段があるちょっと不思議な場所だ。

やがて徒渉点に差し掛かるが、水害のために降り口が崩壊して崖に突き当たる。ここは崖を左から巻いて通過したが、右へ沢に下る踏み跡があるので、そちらを通る方が良い。対岸に渡った道はすぐに右岸に戻る。

笹原に広葉樹の若木が植えられた植林帯を過ぎると、左手の笹原の中に小さな石碑が建っている。この石碑には「大正十五年三月 正一位深沢神社 御嶽山 義仙行者」と彫り刻まれている。他に神社があったことを示すものは見当たらない。


深沢の大滝


深沢神社石碑

半月峠道はここから左岸に渡り、七曲がりと呼ぶジグザグの坂を登るが、今日はここから右岸の支尾根を登って赤倉山に向かう。背の低い笹原を登ると満開のヤマツツジの群落に出会う。真っ赤な花が新緑を背景に鮮やかだ。


支尾根を登る


ヤマツツジ(1)

しばらくヤマツツジのトンネルが続き、やがて樹林の中の緩やかな登りとなる。藪はなく、踏み跡(獣道?)があって歩き易い。この支尾根ルートはお勧め。


ヤマツツジ(2)


樹林の中を登る

支尾根の右斜面と谷が一面の笹原となった見晴らしの良い場所に出る。あちらの支尾根の上を、お尻の白い毛を振り立てた鹿がぴょんぴょん跳ねながら逃げて行った。この一帯は鹿の天国に違いない。

支尾根を登り詰めて、赤倉山から半月山への稜線に出る。稜線上も疎らな樹林と笹原に覆われて、細い踏み跡が続いている。シロヤシオが多く、稜線を渡る冷たい風がシロヤシオの花を揺らしている。花のピークは少し過ぎているようだが、十分楽しめる。


稜線に登り着く
遠景は夕日岳〜地蔵岳辺り


シロヤシオ

赤倉山に向かうと、緩く広がった一面の笹原になる。これは素晴らしい風景だ。笹原の中にズミの大木があり、満開に咲いている。


赤倉山北側の笹原


ズミ

稜線のすぐ下の笹原の窪みから水が湧き出して流れている。飲んでみたいが、鹿の水場になっているに違いないので止めておく。笹原を突っ切り、カラマツ林の中を僅かに登ると赤倉山の頂上に到着した。

頂上には三角点標石といくつかの山名標がある。樹林に囲まれて、足尾市街が木立を透かして見おろせる他は展望はない。北側の笹原を見たあとでは、開放感がなくて地味な印象の山頂だ。ここで昼食とし、Mさんのビールを分けて頂いて、ラーメンを作って食べる。


赤倉山北側の水源


赤倉山頂上

赤倉山からの下山は南東の尾根を下れば早道だが、折角なので北に向かって、半月峠道に合流する所まで稜線を辿ってみることにする。1446m標高点へは少し急な登りとなるが、その先は再び疎らな樹林と笹原の緩い稜線となり、シロヤシオが多い。ところどころで、東側に夕日岳〜地蔵岳辺りの稜線や、西側に皇海山が木の間越しに眺められる。こちらから見る皇海山は、松木川の奥に鋭角な山容で聳えてなかなか凜々しい。


笹原の稜線を辿る


皇海山を望む

1514m標高点に登り着いて一休み。男体山が高く聳えているのが見える。ここからカラマツ林の中を下って登り返すと林道に合流する。1996年に半月峠道を歩いたときは、ここは笹原の中に一直線に細い山道が続く気持ちの良い場所だった。現在は神子内川黒沢からの林道がこの先まで延長されて、辺りの様子はすっかり変わってしまった。


林道に合流する


1996年4月撮影
半月山を中央奥に望む

林道はほぼ半月峠道に沿って付けられており、ところどころに旧道の痕跡が残っている。旧道を辿ると林道をショートカットできそうに見えるが、通行できない個所もあるので、素直に林道を下った方が良い。林道からの眺めは良く、深沢を隔てて赤倉山の緩やかな稜線が見える。

途中で林道から分かれて、半月峠道の七曲がりを下る。この分岐はわかりにくい。◆のような板が木の幹に打ち付けられているのが目印だ。ジグザグに下って深沢を渡ると深沢神社石碑に着いた。あとは深沢沿いに往路を戻る。


林道から赤倉山を望む


昭和12年の旅行者の書き付け

帰る途中、道端の岩に何やら文字が書いてあるのを見つけた。石墨で書いたらしく、雨が当たらない岩陰にあるため鮮明で、大部分が読み取れる。読めない個所は後日調査して補うと、次のように記されていた。今から73年前に書かれたものである。

古峰山参拝記念
昭和十二年五月四日
此の日天氣晴朗
遠山の展望頗る良し
千葉縣安房郡神戸村竜岡
青木勝太郎
青木隆亮

安房郡神戸村(かんべむら)は、現在は館山市に編入されている。古峰神社に参拝したのち、禅頂行者道を経由して半月峠道を下って来たのだろう。昔の人の健脚振りと、房総半島の先端から遥々やって来たことに驚く。当時はここも往来で賑わっていたのだろうか。

このお二方ほどの行程ではないが、出発後に予定を変えて思い付きで決めた山行にしては、ずいぶんと歩いて汗もかけた。充実した気分で、車を置いた登山口に戻った。