櫛形山・甘利山
山梨県南アルプス市芦安の桃の木温泉に2泊3日で出かけて、周辺の山を歩いてきました。旅行中の天候は不安定でしたが、幸いなことに雨に遭うことはなく、3日間とも軽い山歩きを楽しんで来ました。
初日は横浜の実家を車で出発し、中央道・相模湖IC〜甲府昭和ICを経由して、甲府盆地西部の御勅使川(みだいがわ)に沿って南アルプスの山懐に入って行く。さすが南ア、前衛の山と言えども河川はV字谷をなし、両岸は高く険しい。芦安の集落を過ぎると、急勾配の狭隘な道となる。中学生の頃、甲斐駒〜仙丈を登った帰りに、広河原から甲府駅行き路線バスに乗ってここを通ったことがあるが、こんなに凄い所を通ったっけ。
桃の木温泉の入口を通過して、夜叉神峠登山口まで車で上がる。この先、広河原までの南アルプススーパー林道はまだ冬期閉鎖中となっている。登山口には夜叉神の森という食堂兼土産店(宿泊も可らしい。営業中)があり、その周囲に駐車場がある。ハイカーさんの車もぽつぽつあるが、到着が14時と遅かったので、皆さんもう帰り支度中だ。峠の方向を見上げると稜線はすっぽり雲の中で、名物の白根三山の展望は期待薄だが、折角ここまで来たことだし、往復2時間弱の短い行程なので、登ってみることにする。
バス停の横から登山道に入り、新緑の樹林の中をジグザグに登る。幅が広く、歩き易い道だ。途中、幹が5本に分かれた五本松という名のカラマツの大木が立ち、峠まであと30分という標識がある。
あと15分という標識を過ぎると、道は山腹を左にトラバースして、稜線に出る。オオズミの木がうす桃色の蕾をたくさん付けている。「←高谷山 約20分、夜叉神峠小屋 約3分→」という道標があり、直進して夜叉神トンネルの西口に下る道には「危険のため通行できない」という看板がある。
道標に従って稜線を右に辿ると、僅かな登りで夜叉神峠小屋に着く。小屋はまだ冬期休業中らしく、戸締まりがされて無人だ。小屋の前の広場から白根三山が見えるはずだが、ガスに巻かれて展望は全くない。まあ、適度に運動して夕食が美味しく頂けるようになったに違いないから、良しとしよう(^^)。小屋の横にはキャンプ指定地があり、笹原の中に5張りくらいは快適に張れそう。ここから鳳凰三山への縦走路も一度歩いてみたい。
今日は時間がないので高谷山は割愛し、往路を下って登山口に置いた車に戻る。今日、峠を歩いたのは、やはり我々のパーティが最後だった。
今回の宿の桃の木温泉別館山和荘は芦安温泉の奥の一軒宿で、緑豊かな渓谷にあってロケーションは最高。以前は御勅使川を挟んだ対岸の山際に本館があったが、昨年秋に取り壊したそうで、現在は埋め戻されている。別館の建物は近代的で、内部は明るい。
チェックインして、早速お風呂へゴー。微かに硫化水素臭のするぬるぬるした温めのお湯で、ゆっくり浸かるのにいい。飲用も可。昔の地図には「鉱泉」と表記されていたが、現在は源泉温度43度の立派な「温泉」なので、新しい泉源を掘ったのかな。緑濃い急峻な山肌を見上げながら浸かる露天風呂も良い。
夕食も品数が多く、地酒の夜叉神と共に美味しく頂いた。珍しい天ぷらがあると思ったら、宿の周辺にも沢山咲いているアカシヤの花だそうで、食用になるんですねー。
夜中は雷を伴う激しい雨が降ったが、朝になると雨は止み、曇ってはいるが青空もちらりとのぞく天気なので、予定通り櫛形山に出かける。
甲府盆地から眺める櫛形山は、どこが頂上なのか分からないのっそりとした稜線が南北に延び、あまりパッとしない山容だが、山体は雄大で、頂稜から東西に派生する尾根と谷は意外と長く深い。車で北面の長峰林道から櫛形山に上がり、東山腹をトラバースする櫛形山林道を走る。幾つもの尾根と谷、登山口を過ぎる。今回は、一番標高差が小さい池の茶屋登山口から登る算段だ。
池の茶屋林道は現在、林道整備中で、途中にゲートと臨時の駐車場がある。既に1台の車があるのを見ると、誰か登っているのかな。車を置いて、濃い霧が立ち込める林道を歩き始める。半時間弱で林道終点に到着。広い駐車スペース、休憩舎、WCがある。
休憩舎の脇から登山道に入り、カラマツ林の中をゆるゆると登る。湿った林床にはコバイケイソウの葉が繁茂している。やがて稜線に出て、防火帯の草地をジグザグに登る。肩のような場所に登り着くと、霧の中から捻れ曲がったダケカンバの古木が現れる。これだけ太いダケカンバは見たことがない。この先の稜線にもダケカンバの大木が多い。
やがて、三角点標石のある地点に到着する。山名標や道標の類は一切ないが、ここが地形図で櫛形山の表記のある2052m峰だ。点名を奥仙重と言い、これを山名としているガイドも多い。道の途中という感じで山頂らしくなく、樹林に囲まれて展望もなさそう。山名標がないのも何となく納得。先に進む。
マイヅルソウの葉と苔が林床を覆うカラマツ林をゆるゆると歩く。2050mの等高線を越えた次のピークに櫛形山の山名標がある。こちらもあんまり山頂らしくないが、奥仙重よりは広くて、休憩には適している。
頂上の先の稜線を歩く。櫛形山の頂稜は準平原状で、アップダウンがあっても標高差50mくらいなものなので、のんびり歩ける。シーズンには高山植物の花が多いと聞くが、今日はまだ時期が早くて、花はほとんど見ないのが残念。しかし、カラマツやコメツガの原生林が見事だ。中には推定樹齢300年、幹回り8.1mというカラマツの大木もある。
やがて開けた草地の鞍部に出る。この正面に裸山が盛り上がっているはずだが、相変わらずの霧で何も見えない。ここは、アヤメ平と並ぶアヤメ群落があったそうだが、野生のシカの食害のため?アヤメが激減しているという。原因と対策の調査のため、ネットが張られた区画がある。周回する歩道を辿って裸山頂上に立ったが、霧を見ただけのピークハントになってしまった。
ここまで来たので、ついでにアヤメ平まで足を伸ばす。少し下ると休憩舎があり、その周辺に草原が広がっている。しかし、今は花は何もなくて、キャベツを植え付けた高原の畑のようになっている。こちらもかつてはアヤメの大規模な群落があったという。一度、見たかったなー。
アヤメ平から櫛形山、奥仙重を経て池の茶屋登山口に戻る。途中、少しガスが晴れて、カラマツ林の中の視界がクリアになった。カラマツの梢にはサルオガセが大量に垂れ下がっている。見かけはとろろ昆布に似ているのに、食べられないのが如何にも残念(^^;)
臨時駐車場に置いた車に戻り、帰りは山麓まで真っ直ぐ下って宿に向かう(櫛形山林道経由より早くて、運転も楽)。林道を下ると、櫛形山の中腹に棚田が広がり、平林という山村に出る。さらに山間を下り、山麓の富士川町(旧増穂町)に降り着く。今度は花の時期に麓から櫛形山に登ってみたいと思いつつ、桃の木温泉に帰った。
2泊お世話になった桃の木温泉をチェックアウトし、最終日は甘利山に向かう。韮崎の郊外から甘利沢に沿う車道を登る。天ぷらで食べた(^^)アカシヤの花があちこちに咲いている。谷間に沿う車道がジグザグに登ると、椹池に着いた。
湖畔へ向かう脇道があり、その終点に駐車場と白鳳荘という山荘がある。今はシーズンオフなのか、山荘にも湖畔にもひと気はない。椹池の岸辺に降りると、静まり返った水面に回りの森林が写り込んでいた。湖畔にはキャンプ指定地もあるが、湿気が多そうな感じなので、乾燥する秋が良いかも知れない。
再び車で林道を上がる。山上の小広く開けた平地が広河原だ。駐車場があり、キャンピングカーが1台停まっていた。レンゲツツジの時期には混雑するそうだが、今日は他に車はない。
広河原から見た甘利山は、樹林に覆われたちっちゃな丘に見える。その麓に山小屋風の案内所があり、煙突から白い煙が上がっている。
樹林の中の広く苅り払われた道を緩く登ると、すぐに甘利山の三角点(経塚)がある。東屋があり、ヤマツツジが綺麗だ。
ゆるゆると登ると草原に出て、木道で横断する。シーズンにはここが一面のレンゲツツジになるそうだが、まだ固い蕾で、ぽつぽつとクサボケが咲いているくらいだ。
甘利山の頂上は開けていて、360度の展望がある。しかし、今はガスに取り囲まれて、西の千頭星山へ続く稜線の一部が見えているだけだ。ここまであっという間に到着したので、さらに足を伸ばして稜線を西に進む。頂上の緩い草原からカラマツやミツバツツジの林の中に入って下る。
鞍部に着くと、南に踏み跡が下っていて「大笹池 御庵沢林道」という道標がある。大変興味を惹かれるが「急坂難所 往復1時間45分」という標識もあるので、今回は断念。稜線を進む。
ここから少し急な尾根の登りとなるが、ミツバツツジやカラマツ、クマザサが綺麗な歩き易い道なので、楽しめる。登り着いた肩から脇道に入ってピークに登ると、笹とカラマツに囲まれて奥甘利山の道標がある。できれば千頭星山まで歩いてみたかったが、ここから片道1時間半はかかるので、今日はここで引き返すことにする。
往路を引き返すと徐々に青空が広がって、甘利山に戻った頃には、千頭星山が雲の中から姿を現した。あの山には次の機会に登りたいな。下界の眺めも広がって、甲府盆地が一望できる。八ヶ岳の雲は残念ながら晴れなかったが、最後に得られた広大な景観に満足して車に戻った。
帰りは青木鉱泉への道を下り、途中から鳥居峠を越えて韮崎郊外に出る。韮崎ICから中央道に乗り、横浜の実家に向かった。