鷲子山・尺丈山・御亭山・八溝山
年末年始は、塩原温泉郷の大網温泉に2泊3日で宿泊して過ごしました。塩原の山を歩く予定でしたが、大晦日の晩から雪が降り続いたので断念。雪が少ない八溝山地の山々まで出向き、楽して車で登って来ました。
桐生を車で出発。足利市駅でS&Sをピックアップし、東北道栃木IC〜西那須野塩原ICを経て塩原に向かう。チェックインまで時間があるので、竜化ノ滝を見に行く。大網温泉を少し過ぎた国道沿いの谷側に広い駐車場とWC、山側に竜化ノ滝への遊歩道の入口があり、滝までゆっくり歩いて25分と案内板にある。
国道と水量の多い箒川本流を見おろしながら遊歩道を歩く。与謝野晶子の句碑「龍化瀧 二十五丈を 青葉する 毛欅のかこめり 上は岩山」を見て、支流の寒沢(かんざわ)に入り、谷沿いに緩く登る。両岸が切り立った険しい渓谷だが、良く整備された遊歩道が通じている。今日は冬枯れの谷間に寒風が吹き込む天候にも関わらず、観光客の姿がちらほら。紅葉の時期には大勢が訪れそうな景勝地だ。
風挙(ふうきょ)ノ滝を越えると、谷は狭まって右に折れる。断崖絶壁の基部に落石防護のシェルターがあり、そこまで行って初めて竜化ノ滝の全貌が見える。高さ約60mを三段に流れ落ちる様子を竜になぞらえたことが滝の名の由来と言われ、左側の側壁が高く聳えて凄い迫力がある。これは名瀑と言えよう。一見の価値あり。
往路を車まで戻り、宿舎に向かう。大網温泉は塩原温泉郷の入口にある一軒宿で、約300段の石段を下った渓谷の底にある露天風呂が名物だ。チェックインして、早速行ってみる。
国道を渡って急な石段を下ると、4つの湯船がある。ひとつは女性専用だが、残りは混浴になっていて、女性はバスタオルを巻いて入る。スキー帰りらしい若いカップルが数組(^^)。川に近い湯船の中に、熱い湯が自噴している所がある。かつてはここに湯治の宿舎があったそうだが、今はコンクリの基礎が残るだけだ。
夕食は炉端焼きと部屋食のコースがあり、初日は前者を選ぶ。栃木牛のステーキがジューシーでうまかった。大晦日の晩は紅白歌合戦を見て過ごす。夜になると猛然と雪が降り出し、気がついたときには窓の外は一面真っ白になっていた。
2010年の元旦、雪が止む気配はない。今日は安戸山に登る計画を立てていて、多少の積雪ならば登る用意もあるのだが、これだけ降られては断念。塩原から東の方へ離れれば雪雲が届かず、積雪も少ないと考えて、広域地図で適当な山を探すと、栃木・茨城県境の鷲子山(とりのこさん)という山に目がとまる。山上に鷲子山上神社という神社があって車道が通じているが、初詣ができて良いかも。ということで、鷲子山に行くことにする。
車の屋根には4cm程の雪が積もっていた。雪道となったR400を慎重に運転し(もちろん、スタッドレスは履いている)、平野部に出て東北道を横切る辺りで、ようやく路面から雪が消える。R293に入って那珂川を渡り、国道から分かれて鷲子山へ登る車道に入ろうとすると、おや、お巡りさんがいて通行止になっている。鷲子山を登り降りする車道は細いため一方通行規制中で、こちら側は出口専用ということらしい。下調べもなしに、山中の寂しい神社と勝手に思い込んでいたが、実は大変メジャーな神社のようだ。
南の茨城県側から鷲子山に登る車道に入ると、すれ違いが難しい狭い道となる。神社に着くと門前には露店が並び、初詣客で大いに賑わっている。少し下ったところに駐車場があり、車を置く。神社までは、昔の参道を5分程登って戻ることになる。
門前から本殿に続く参道の石段の真ん中には「ここが県境 栃木県|茨城県」という看板が立てられていて、面白い。神社の由来を記した説明板によると、祭神は天日鷲命(あめひわしのみこと)と大黒様、恵比寿様で、地元の宝珠上人によって807年に創建。社殿は元は朝日嶽(現在の本宮の地だそうだが、何処かしらん)にあり、現在の本殿は1552年に建設、1788年に建替えられたとのこと。大変由緒ある神社だ。
フクロウ神社としても知られているそうで、あちこちにフクロウの像がある。「不苦労」との語呂合わせで縁起物になっているらしい。石段も96段あり、往復すると296(フクロウ)となって幸福になるんだとか。本殿は杉の大木に囲まれた山頂にあり、初詣客が列を作って並んでいて、順番に二礼二拍一礼で参拝していた。このように丁寧に手を合わせれば、ご利益もありそうだ。
今回は神社にお参りするだけとなったが、鷲子山は日本の自然100選にも選ばれており、周辺の自然を愛でて歩くのも良いかも知れない。
車に戻り、北東側に下って行くと、道端に「尺丈山登山口」という道標を発見する。これは面白そうなので、尺丈山(しゃくじょうさん)に寄り道してみることにする。車で行ける所まで行こう、と進むと、頂上直下まで林道が延びていた。終点の駐車場から草原状の斜面を登ったすぐ上に立派な休憩小屋がある。晴れてはいるが風が強く寒いので、この小屋はありがたい。中に入って風を避け、パンを食べてお昼とする。
小屋の回りには、筑波山から関東平野にかけての展望が広がる。遠く富士山の輪郭も微かに見える。日光・那須の方向にも眺めが開けるが、今日は真っ白な雪雲の中だ。周辺の栃木・茨城県境の山地に顕著なピークはなく、低い山並みが延々と連なる。
頂上に広がる草地は、「百樹の森」と称して広葉樹の苗木を植栽するなど、地元が熱心に森作りを行っていた場所が、近年二度の山火事で燃えてしまった跡とのことだ。車で安易に来られる所では、火の不始末による火災の危険性が高いのだろう。
展望が開けた平坦な頂上の一角に、杉木立に囲まれて尺丈山神社がある。休憩小屋に山名の由来を説明した文があったので、引用しよう。
むかし、親鸞上人の孫にあたる如真上人が布教のため久慈川を北上して大子町相川(番所があった)へ行く途中、たまたま道を間違えて仲河内の谷をとおったという。そのとき休息した山の上のほこらに尺丈(錫杖)を忘れたといわれ、以来この山を尺丈山とよぶようになったという。(美和村史より)
このほこらは、現在の尺丈山神社らしい。それにしても、道に迷ったり、忘れ物をしたり、なかなかうっかりなお坊さんである(^^;)
神社の裏手には三角点と山名標識の柱の他、山名プレートが各種7枚もあった。神社の脇には「奉納 明治七年三月十七日 尺丈山駒形神社」と刻まれた石碑、階段を下ったところには馬頭観世音の石碑がある。
車に戻り、林道を南麓の仲河戸川に下ると、途中に尺丈山登山口の標識がある。頂上まで山道が通じ、軽いハイキング楽しめるようだ。
宿に帰ると、相変わらず雪が降り続いていた。渓谷の露天風呂に降りる道は雪で滑って危ないので、内湯に浸かって温まる。こちらの風呂も広くて、なかなか良い。
2日も雪が降っているので、八溝山(やみぞさん)に行くことにする。八溝山も頂上まで車道が通じている山なので、カーナビの目的地を山頂に設定して、後はナビ任せである。
八溝山に向かって大田原市黒羽町を通り、R461を唐松峠へ向かうと、途中で「御亭山登山口」の道標を発見する。頂上まで車道が通じているようである。これは寄り道しなくては。頂上直下を広い道が通り、駐車場には5、6台の車がある。展望が素晴らしいので、結構人気のスポットのようだ。凧を揚げている人もいる。付近にはキャンプ場があり、バンガローやWCもある。
ほんのわずかの登りで御亭山(こてやさん)の頂上に着く。変わった読みがなの山だが、頂上登り口の林道開通記念の石碑には、小手谷山の文字が見える。この山は八溝林業地帯の一角をなし、藩政時代から林業が盛んだったそうだ。また、1977年には住宅9棟まで焼失した大規模な山林火災に遭っているらしい。
頂上からの展望を楽しんだのち、近くにある綾織池を訪れる。バンガローの間の歩道を下ると、薄氷の張った小さな池がある。池のほとりの説明板によると、昔、池の底に竜宮があり、竜女の綾織姫が那須絹を織っていた、という伝説があるとのこと。周囲の林間には、ふかふかの落ち葉が気持ち良さそうなテントサイトがあるが、この寒い時期にキャンプをする人はさすがにいない。
道草から戻って、八溝山に向かう。那珂川支流の武茂川を遡って行くと、鬱蒼とした森に覆われた谷になり、川を渡る橋にはどれも擬宝珠がついている。何があるのかなと思ったら、人が集まっていて屋台も出ている。どうやらお寺があるらしいということで、またまた寄り道。
駐車場に車を置き、渓流を橋で渡って石段を登る。山門を潜ると常緑樹の山に囲まれた静謐な境内に入り、仏殿など数棟が建つ。雲巌寺(うんがんじ)というお寺で、後で調べたら禅宗の四大道場の一つという名刹である。仏殿の背後の山腹には方丈があり、厳かな雰囲気が漂う。こういう場所なら、深い勉強ができそうだ。
芭蕉も立ち寄ったことがあるそうで、境内の一角に句碑がある。刻まれたくずし文字は読めなかったが、説明板によると「木啄(きつつき)も庵(いほ)はやぶらず夏木立」という一句とのこと。それにしても、今回は寄り道でヒット連発だv(^^)。大変良いものを見させて頂きました。
雲巌寺を過ぎると、開けた明るい谷間に集落が点在する。最奥の民家を過ぎると細い林道となり、ところどころ雪が現われる。つづら折れの坂道を登ると、稜線直下を通る雪道となる。さすがに標高が高いところは積雪が多い。稜線北側の福島県側に下る林道は、どれも冬期通行止になっている。栃木・福島・茨城の三国境点付近を通り、八溝山頂上直下の駐車場に着く。軽トラが1台あり。
八溝山は、以前、正月に大子温泉に泊まって蛇穴(じゃけじ)から登ったことがあり、今回は2度目の(全然歩いてないが)登頂だ。前回は風が強かった印象が強いが、今回も強風が吹き荒れて寒い。
頂上には、牛伏山にあるのとそっくりな、天守閣を模した展望台がある。折角なので登ってみよう。入口の受付には「無料」の張り紙があり、奥におじいさんがいた。軽トラの主で、ここの管理人さんらしい。階段を登ると3階が展望台となっており、正に360度の眺望が得られる。ただし、吹き抜けになっているので風も一段と強烈で、寒くて長居はできない。展望を一通りカメラに収めて、そこそこに降りる。
この展望台は前回はなかったので新しい建物のはずだが、その割には老朽化しているなあ、と思ったが、確認したら前回登ったのは20年も前だった。それなら、この古さもありかー。月日が経つのは早い(^^;)
行き当たりばったりの寄り道が多かった正月温泉旅行もこれにて終了。計画なしのこんな旅行もなかなか良い。下道を走って日光でS&Sと別れ、R122経由で桐生に向かった。