水沢山〜二ツ岳〜相馬山
今年の8月、ユウスゲの観賞を兼ねて水沢山〜二ツ岳〜相馬山〜ゆうすげの道というコースを歩く計画を立てたものの、当日の朝に寝坊したため、ドライブとゆうすげの道の散歩だけに終わったことがありました(おでかけ記録)。夕暮れにポワッと咲くユウスゲの花を見ることができたのは良かったのですが、榛名山の主だったピークに登り損ねたのは何と言っても心残り。当初の計画を再び実行に移す機会をうかがって、紅葉も終盤のこの時期にようやく歩いて来ました。
JR桐生駅6:25発の両毛線で高崎駅に向かう。高崎駅西口で45分程待ち合わせて、7:55発の伊香保温泉行路線バスに乗車。高経附の制服を着た女子高生が10人位乗っている。補講かな。彼女らが下車すると残りの乗客は数人。車窓から榛名の連山が見える。青空が広がって良い天気だ。
1時間と少々かかって登山口の水沢バス停に到着する。建ち並ぶうどん屋はどこもまだ準備中だが、いろいろな店を見ているうちにうどんが食べたくなる。朝食が早かったからなあ(^^;)。見上げると水沢山がドーンと聳えて待っている。先へ進もう。
参道の石段を登って水沢観音にお参りし、御札場で交通安全御守を買い求める。水沢山の登山道は、本堂の左手からいきなり急な石段で始まる。石段を登って、飯縄大権現の社殿、萬葉集上野國歌の歌碑、熊出没注意の看板を過ぎると、雑木林の中の山道となる。
上着を脱いでTシャツ一枚になり、トレーニングのつもりでペースを上げて登る。人気の山らしく、もう頂上を踏んで降りて来るハイカーさんと何人も行き会う。紅葉は中腹辺りが見頃だ。お休み石の標識のある小平地で、頂上までの道程の約半分。休憩適地だが、休まずに進む。
雑木林を息を切らして登ると、十数体の石仏が一列に並ぶ東の肩に出た。渋川市街や赤城山の眺めが良く、ここで一息つく。
東の肩からは狭い稜線の緩い登りとなり、左には白く線を引くように水を落とす船尾滝が見下ろせる。カップ酒がお供えされた2基の石祠の間を抜けた少し先が水沢山の頂上だ。
頂上は南北が急斜面で、なかなか高度感があって四方の眺めが良い。西側にはこれから向かう二ツ岳のぽっこりとした双耳峰と、相馬山の鋭い山容がよく見える。北には小野子三山や子持山が眺められるが、その向こうの上信越国境は雪雲に覆われている。頂上は風がよく通るので、登りでかいた汗があっと言う間に冷える。厚手の長袖シャツを着込んで、のんびり展望を楽しむ。
展望盤に設置された日誌に記念カキコしたのち、次のピークの二ツ岳に向かう。尾根を緩く下り、電波塔を過ぎて色付いた雑木林の中を歩くと、林道上野原線に出る。ここは8月にドライブで通ったところだ。今日は林道を横断して、伊香保森林公園のトレイルに入る。
この付近一帯はつつじが峰といい、5月にはツツジの群落が楽しめるらしい。「むし湯跡→」という道標に惹かれ、尾根筋の道から分かれてそちらに向かう。落ち葉がふかふかの緩やかな道で、散歩に良い所だ。やがて、谷に向かってどんどん下り始める。木の間から仰ぐ二ツ岳が結構高い。
下り着いた所に「ねつむし湯跡」という看板のかかる東屋があった。傍らの説明板によると、大正初期までは蒸気が自然に吹き出していて、スチームバスとして利用され、旅館も4軒程あって大変賑わっていたが、大正初期に蒸気が止まってしまったため廃れたとのこと。今は蒸気の気配もない。
蒸し湯跡から大きな岩がごろごろ転がる谷を登る。長い階段を上がり、つつじが峰から尾根筋を辿る道と合流すると、オンマ谷入口の鞍部に出た。前方には三日月形に深く切れ込んだオンマ谷を隔てて、相馬山が鋭角に聳えている。なかなか素晴らしい山容だ。オンマ谷の底からはどんな眺めがあるのだろう。興味を惹かれるがまたの機会にして、オンマ谷に下る道から分かれて二ツ岳に向かう。
急な山腹を斜めに登り、屛風岩という岩場の下を通ると避難小屋に着く。小屋とはいっても、写真で見ての通りの小さな東屋だ。
このすぐ先に雄岳と雌岳の分岐があり、まず雌岳に登る。急な木の階段を登ると樹林に囲まれた狭い頂上に着いた。石祠と山名標があり、東側の展望が開けて、三角定規のように端正な三角形の水沢山が良く見える。そろそろお昼の時間で腹が減ったが、頂上の僅かなスペースでは先客がお弁当を広げていたので、分岐に戻る。
分岐から頂上に電波塔の立つ雄岳に向かう。岩場の多い道を落石に注意して登ると、八合目の道標があり、左にオンマ谷風穴に下る道が分かれる。雄岳頂上は右に登ってすぐだ。
頂上にはTV/ラジオ中継所が林立して、ちと味気ない雰囲気。最高点は中継所の間を抜けた奥にある小さな高まりで、狭い岩場の上に石祠と石灯籠、山名標が置かれている。こちらは西側の展望が開けて、榛名富士や掃部ヶ岳、烏帽子ヶ岳などの眺めが良い。
雄岳頂上はあまり休憩に適した感じではないので、オンマ谷風穴まで下ってお昼にすることにする。左手に相馬山を見ながら南斜面を斜めに下る道は陽が良く当たり、この日一番、紅葉が輝いて見えた。
オンマ谷に下り着くと駐車場があり、ここまではヤセオネ峠から車で入れる。しかし、車は2台程しかなく、意外と静かな場所だ。黄葉したカラマツ林の中にベンチが置かれ、近くにはWCもあって、休憩に最適v(^^)。ここでサンマ缶詰を肴に缶ビールを開け、ラーメンを作って昼食にする。
オンマ谷風穴はベンチのすぐ近くにある。夏には霧が立ちこめる程の冷気が吹き出るそうだが、この時期では外気と温度が変わらなくて、風が出ているかどうかも判らない。風穴の不思議を体験するには、夏に来ないとダメなようだ。
昼食でつい1時間ものんびりして、出発が14時になった。日が短い季節だし、先を急がねば。車道を辿って、ヤセオネ峠で伊香保温泉と榛名湖を結ぶ県道に出る。紅葉の時期の3連休とあって、車の通りが多い。県道を左に向かってすぐの赤鳥居が相馬山の登山口だ。
登山道に入り、樹林と笹原の中を緩く登って稜線に出る。付近には比較的新しい石碑や地蔵などがあり、鳥居の朱も鮮やかで、今でも信仰で盛んに登られているようだ。鳥居を潜って相馬山の頂上に向かうと、尾根上の急登となり、鉄梯子や鎖が現れる。
急坂を登り詰めると、黒髪山神社の社殿と大きな常夜灯、たくさんの石像のある相馬山頂上に着いた。時刻が遅いせいか、誰もいない。展望は南側が開け、前橋・高崎の市街と関東平野が一望出来る。黒髪山神社の説明板によると、関東平野から屹立した山容が眺められる相馬山は、雷雲を発して恵みの雨をもたらす闇龗神(クラオカミノカミ)の住まう所として信仰されて来たそうだ。
頂上に南面に向かって立つ鳥居があり、ここが表口コース(黒髪尾根)の降り口のようだ。覗いてみると非常に急峻な道で、入口には鎖が張られ、「この先危険個所あり/立入および下山を禁止します」という看板もある。ここを登った山行記録がいくつかあるが、こりゃかなりのエキスパートルートだ。
かつて東の尾根にあった登山道(事故のため現在は閉鎖)も、入口が二重三重のロープで塞がれて、道型も消えかけていた。その入口に隠れるように達筆標識があるのは、まだこちらの登山道が使われていた頃の名残だろうか。
相馬山を下ってヤセオネ峠への分岐まで戻ると、時刻は15時を少し回っていた。GPSで日の入りの時刻を調べると16:49。あと1時間半位しかない。計画では榛名湖南岸の稜線をずっと辿って榛名湖バス停まで歩き、最終の18:05発のバスに乗る予定にしていた。バスには十分間に合うが、その前に日没になりそうだ。この季節の日の短さをすっかり忘れていた6(^^;)。行けるところまで行って、あとは県道を歩こう。
傾きかけた陽に向かって、尾根を緩く下る。前方が開けると、稜線上に固形の墨を立てたような磨墨(するす)岩が見える。磨墨峠には東屋があり、すぐ先で沼の原に下る道を分ける。時間はまだあるので、磨墨岩を経て松之沢峠に向かう。
磨墨岩の基部には小さな道標があり、それによると鉄梯子で岩の上に立てるらしい。登ってみると、頂上には烏天狗像が祀られていて、沼の原の枯れ野原を見渡す展望が素晴らしい。沼の原の向こうには半分が影になった榛名富士、振り返ると相馬山には全面に陽が当たって、頂上付近をグイッと擡(もた)げて聳えている。こんな景色が最後に控えていたとは思っていなかったので嬉しい。
磨墨岩からの展望を楽しんだし、時間もそろそろリミットなので、松之沢峠から県道に下る。天目山、天神峠への稜線はまたいずれ。下った所は8月に訪れたゆうすげの道の入口だ。ユウスゲやマツムシソウが咲いていた草原も、今は一面の枯れススキの原だ。ここから、徐々に茜色に染まる榛名富士を眺めつつ、県道を榛名湖バス停に向かう。車道を歩くのは早く、16:35発高崎駅行バスに丁度間に合った。近くの土産物屋で急いで缶ビールを買い込み、乗車する。
バスは定刻通りに発車。三連休の初日とあって乗客も多いので、最後部の座席に座ってそーっと缶ビールのプルトップを引く。あとはグビグビ、うまー。天神峠を越えて榛名神社に下る区間は、車窓から眺める紅葉に夕日が当たって、乗客からも奇麗ねー、と声が上がる。日没の時刻を過ぎると、あっという間に真っ暗になった。こうなると山道は歩けない。途中、WC休憩を入れて1時間半程で高崎駅に到着。18:13発の列車に滑り込んで桐生に帰った。