雁坂峠
桐生を未明に車で出発。伊勢崎、児玉、皆野を経由してR140(通称、彩甲斐街道)を走り、豆焼橋手前の「出会いの丘」というパーキングエリアに入る。駐車場の隅に車を止めて外に出ると、既に標高1040mの高所なので空気がひんやりと冷たい。
ここには休憩所やWCが完備している。休憩所の軒先でパーキングビバークしたらしいパーティが、沢登りの登攀用具を広げて出発の準備をしている。駐車場からは、豆焼橋の向こうに和名倉山の大きな山体が見える。逆光で靄もかかり、稜線の輪郭しか分からないが、上空には真っ青な空が広がる。こちらも出発の用意をしていると、沢登りの3人パーティが駐車場から堰堤が連続する沢の左岸の急斜面を豆焼沢の谷底目がけて下って行った。へー、こんな所から入渓するのか(@_@)
出会いの丘を発って豆焼橋の上を渡って行くと、遥か眼下の豆焼沢の河原を件のパーティが歩いているのが、豆粒のように小さく見えた。今日は絶好の沢登り日和だよなー、とちょっと羨ましく見送る。橋を渡り、奥秩父トンネル入口から左に分岐する林道が、今日歩く黒岩尾根登山道の入口だ。登山届のポストがあるので、記入して投函する。
林道は山腹を巻いてほぼ水平に付けられている。奥秩父トンネル電源室の建物を過ぎ、30分程で林道終点に着く。ここから道標に導かれて山道に入る。道標には「自転車通行不能」と書いてあった。そう言えば、今回の山行の下調べでネットを検索したら、雁坂峠を自転車で越えた記録が結構あった。しかし、それは旧秩父往還の方で、黒岩尾根の稀な輪行記録によると、かなりの困難があったそうだ。山道は山腹を巻いて進む。輪行には詳しくないが、誤って滑落したら止まらないような急斜面なので、確かに自転車では無理そう(この先にも危険個所多数)。
滝川に向かう?道を左に分け、ところどころにジグザグに切り返す急坂はあるが、だいたいユルユルと山腹を巻きながら登って行く。暗い林間にはスズタケが繁茂しているが、シカに葉を食われるのか茎ばかりになっていて、ちょっと殺風景だ。ひとしきり続いた登りがやっと緩んだ所に「あせみ峠」の道標とベンチがあり、休憩して水を飲む。木陰があるので助かっているが、気温がどんどん上がっているようだ。
あせみ峠からなおも山腹を巻く道が続く。深い樹林に覆われて展望がないので、足元を見つめて歩きに専念するしかない。「火打石尾根」の道標を過ぎると、ところどころの木の間から、深く大きい谷を隔てた向こうの稜線が見える。和名倉山のあたりだろうか。「天然カラマツ見本林」という看板があり、その辺りは確かにカラマツの大木が多かった。ふくろ久保という地点を過ぎると、針葉樹林と背の低いミヤコザサの道となって、奥山らしい良い雰囲気になる。しかし、相変わらず山腹を巻く道で展望は乏しい。
やがて、「黒岩展望台」の道標のある地点に着く。登山道からちょっと脇に入り、木の根岩角を摑んで急登すると、稜線上の露岩に出た。ここで今日初めて(そして唯一の)360度の展望が開ける。今、辿っている黒岩尾根は、南北を水晶沢と豆焼沢の深い谷に挟まれて、東西にゴツゴツと小ピークを峙たせた意外と険しい尾根であることが見て取れる。稜線通しではなく、巻き道になっていて良かった。行く手には雁坂峠辺りの奥秩父主脈がゆったりと横たわっている。
登山道に戻って先に進むと、岩峰を桟道で巻く所が数カ所ある。歩きならばどうということはないが、自転車では乗るにしろ担ぐにしろ、怖そうな所だ。桟道が終わると緩やかな尾根になって、雁坂峠がだいぶ近づいて見える。雁坂小屋まではあと僅かだ。
テン場とWCを通ると雁坂小屋に到着した。小屋の前にはベンチがあり、水も引かれているのでここで一休み。小屋の入口には書き置きの掛け札があり、荷揚げのために管理人さんは一時下山しているらしい。小屋は無人でも、一部は使用が可能になっている。こじんまりとした、昔の雰囲気を残す山小屋だ。
雁坂小屋のベンチで休憩したあと、樹林の中を少し登ると雁坂峠に着いた。ここまではハイカーさんに全く会わなかったが、峠まで来ると奥秩父主稜線を縦走するハイカーさんがちらほら通る。山梨県側はミヤコザサの開けた斜面で、霧を含んだ風が吹き上がって来て、とても涼しい。峠にはベンチもあり、休憩するには良い所だが、折角の機会なので主稜線を少し歩いて、雁坂嶺まで往復して来ることにする。
雁坂峠から雁坂嶺に向かう主稜線には、山と高原地図(2004年版)には7〜8月お花畑という記述があって、少し期待していたのだが、笹原の中にぽつぽつとオトギリソウとシモツケソウが咲いているくらいだった。やがて針葉樹林に入って緩く登り詰めると、雁坂嶺の頂上に着いた。頂上には三等三角点の標石の他、ベンチもあるが、大きなアブの大群がブンブン飛んでいるので、一通り写真を撮って退散する。
雁坂峠に戻り、ベンチで缶ビールを開けて、ラーメンで昼食とする。それにしても、山梨県側から吹き上がって来る風が涼しくて気持ち良い。この好天だと、下界は暑いだろうなぁ。食事が終わっても、しばし涼んでのんびりする。山梨県側から自転車を担いだ人が上がって来たのには驚いた。これから旧秩父往還を川又に下るそうだ。うへー。見るからに鍛えられた脚のおじさんで、感服仕りました。
いつまでも涼んでいたいところだが、そろそろ腰を上げて帰り支度としますか。帰りは往路を戻る。緩い下り道を快調に歩いて、約2時間半で出会いの丘の車に戻る。ここで既に暑い。R140を下ると、下界はやはり30℃越えの世界だった。大滝♨に立ち寄って汗を流し、酷暑の桐生(この日の最高気温は34.5℃)に帰った。