木曽駒ヶ岳
山岳信仰の道で、かつてウェストンも歩いた上松Aコースから、木曽駒ヶ岳に1泊2日で登って来ました。海の日3連休とあって、千畳敷から駒ヶ岳頂上までのメインルートはハイカーさんで大賑わいでしたが、その裏側に一歩外れた今回のコースは人影も疎らで、静かな山歩きを楽しんで来ました。
桐生を午前3時頃に車で出発。太田藪塚IC〜佐久IC間は高速を走る。R142和田峠をトンネルで抜ける頃には夜が明けて、塩尻市街のすき屋で今日の長い登りに備えて「うな牛」をがっつり食べた後、R19木曽路を南下する。大型トラックが多い。上松の市街を過ぎ、R19から左折して滑川の開けた谷に沿う細い車道を上がる。
やがて、アルプス山荘とたくさんの石碑のある二合目に着く。以前はここが上松Aコースの登山口だったが、ネットの情報によると、さらに車道を滑川砂防公園まで進んだ方が行程を短縮出来る。砂防公園までは分岐毎に道標がある。巨大な砂防堰堤のある滑川支流北股沢を、これまた巨大な赤い鉄橋で渡るとゲートがあり、その手前に広い駐車スペースがある。既に車が3台あった。
それにしても今日はスカッと良く晴れている。陽射しが強いが、早朝で標高も1200mあるので爽やか。鉄橋の上から北股沢の上流を見ると、これから登る上松Aコースの尾根が高々と聳え、振り返ると青空の中に木曽御嶽の山容がどっしりと大きい。この光景を見ると、長距離の運転でボケた頭も、山に来たな〜、と実感してシャッキリする。準備を整えて、さあ行きますか。
ゲートの脇を通って車道をジグザグに下ると、滑川本谷の広い河原に沿う道となる。途中に風越山登山口の道標が河原を指して立っている。登山道は対岸から始まるらしい。山頂まで1時間30分とのこと。
敬神ノ滝はこのすぐ先だ。立派な山荘があり、地元の山岳会?の方が一人詰めていた。今日は9人パーティが30分程前に登って行ったと伺う。登山届を記入し、山荘の前の沢で2リットルポリタンを満タンにする。薄暗い敬神ノ滝の前で右に折れて、樹林の中を緩く登る。
すぐに三合目の道標があり、四合目まで50分、頂上まで7時間と書いてある。以降、1/2合毎に道標があり、次の合目までの所要時間が書いてある。だいたい一合が一時間見当なので、休憩地点の目安になる。道標の傍らには合目を刻んだ苔むした石柱もあった。
四合目で先行していた9人パーティが休憩しているところに追い付く。女性を含む大学生っぽい若者パーティだ。山岳部でもなさそうな感じなのに、この長丁場にチャレンジするとは元気あるなあ(^^)
四合半の辺りはシラビソなどに覆われた尾根の登りで、それから急な岩場に突き当たって右に巻くように登ると、金懸小屋のある五合目に着く。小屋の前は開けて、御岳が眺められる。小屋の内部は2階建て畳敷きで、寝具もあり快適そう。WCも外にある。小屋から少し進んだ所には水場もあり、ちょろちょろだが水が流れていた(涸れることもあるらしい)。
五合目でしばらく休んだ後、まだ休憩中の若者パーティの先に出発する。岩壁の下をトラバースし、胸突き八丁という急登で尾根の上の五合半の地点に出る。ここからは針葉樹林に覆われた緩い尾根道となる。一旦下って、らくだの背という鞍部を過ぎると、あとはひたすら登りだ。しかし急ではなく、歩きやすい。
六合目を過ぎると、ところどころ樹林が切れた所からすっくと聳えた三ノ沢岳が眺められる。道端にはギンリョウソウやゴゼンタチバナが多く、特にゴゼンタチバナはずっと続いて咲いている。
六合半から七合目にかけての道は、カニコウモリなどの下草が青々と繁る針葉樹林の中で、いい雰囲気だ。遠見場という道標のある地点には古い三角点と石仏があり、三ノ沢岳と御岳の方向の展望が開ける。さらに、天の岩戸と称する大きな割れ目のある岩場を過ぎると、七合目に着いた。時刻は11時を過ぎ、そろそろお腹が減った。日陰に入って、マルタイ棒ラーメンを作って昼食にする。
七合目から八合目も樹林帯の中の尾根道だが、登るにしたがって展望が得られる個所が多くなる。八合目は小広く開けた場所で、緑に覆い隠された大きな石碑がある。それにしても陽射しが強い。木陰で休憩して、水分を補給する。
八合目のすこし先に比較的新しい三沢不動明王の石像があり、この辺りで森林限界を越えてハイマツが現れる。俄然、展望も開けて、急峻な滑川本谷をぐるりと取り巻く木曽前岳、駒ヶ岳、宝剣岳、三ノ沢岳のパノラマが展開する。んー、これぞ夏山!という眺めだね。
木曽前岳と、大ナギを経由する巻き道の分岐では、展望の良さそうな木曽前岳のコースに進む。露岩が点在するハイマツやダケカンバの稜線を登る。稜線の左側には、北股沢源流の崩壊壁の眺めが凄い。
木曽前岳の頂上直下の登りは急で、頑張りどころ。その代わり、高山の花も現れて、イワツメクサ、シナノキンバイ、タカネグンナイフウロ、ハクサンイチゲ、ヒメウスユキソウ、ミヤマシオガマ、ミヤマダイコンソウなど、いろいろ咲いている。振り返ると、北股沢の河原や砂防公園の赤い鉄橋がはるか下に見える。ずいぶん登って来たなあ。
木曽前岳の頂上は二重山稜のように凸凹していて、どこが最高点かはっきりしない。麦草岳からの道を合わせ、木曽前岳の標識のあるところで一休み。360度の展望が素晴らしい。ここから少し下った鞍部に、今日の宿の玉ノ窪山荘がある。
最後は鞍部に残る雪渓の上を渡って、玉ノ窪山荘に到着。早速、小屋の中に入って宿泊をお願いすると、愛想の良い管理人さんが、まず、お茶と梅酒の梅を出してくれた。お茶を頂いてホッと一息。1泊2食付で6,500円也。今日の宿泊者は私が最初のようだ。小屋の中は小ぎれいにしていて、WCも新しく、至極快適。
まだ2時を回ったばかり。時間がたっぷりあるので、デジカメと長袖シャツだけを持って駒ヶ岳の山頂まで往復する。巨石を背にした修験者の銅像や鳥居、石碑の横を通り、イワツメクサやヒメウスユキソウなどの花を眺めながらザクザクの坂道を登る。頂上木曽小屋の横を過ぎると、駒ヶ岳の頂上に到着した。
頂上はゆったりと広く、360度の展望だ。北東の将棋頭山へは馬の背と呼ばれる尾根がゆるゆると連なって、歩いてみたくなる。遠方は霞んでいるが、南アの甲斐駒、仙丈、白根三山、塩見が見える。南には宝剣岳付近の荒々しい岩壁と、すっくときれいな三角形の山容の三ノ沢岳の眺めが良い。明日はこの二つのピークにも行きたいな。その間に中央アルプスの主脈が遥か遠くへ続いているのが見えるが、奥の空木岳の頂上は雲の中だった。頂上にいるハイカーさんは時間帯のせいか意外と少ないが、眼下の頂上山荘のキャンプ場にはカラフルなテントがたくさん張られていた。
頂上からの展望を楽しんだのち、小屋に戻る。ちょうど、若者パーティが木曽前岳から下って来て、雪渓を滑って遊んでいた。元気あるなあ。その後、頂上に向かったので、頂上周辺の小屋に泊るようだ。小屋に戻ると宿泊者が一人増えていた。缶ビール(600円)を買って、小屋の外で景色を見ながらサラミと豆菓子をつまみに飲む。うーむ、美味いのでもう一本買っちゃおう。
心地良く酔っぱらって、夕食までひと寝入り。18時頃、客でちゃぶ台を囲んで夕食をとる。メニューは炊き込みご飯、肉じゃが、ワカメと溶き卵のお吸い物、香の物。家庭的でうまーい。ご飯はお櫃からおかわり自由。その後、もう一人宿泊者が到着して、この日の客は合計3人となった。夕日を眺めたのち、広い居間にポツンポツンと適当に布団を敷いて、20時頃消灯、就寝する。
ぐっすり寝て、起床する。宝剣岳の稜線にかかる朝焼けの雲を眺める。天気は良いが、雲は少し多い。朝食は、ご飯、みそ汁、のり、魚の甘露煮、キャベツ。ご飯とみそ汁はおかわり自由。食欲旺盛で、ご飯おかわり3杯、みそ汁もおかわり(^^;)。昨晩、遅く到着したおじさんは福島Bコースを登って来たそうだ。もう一人の方は、この小屋は3回目だとか。私もこの小屋はすごく気に入りました。
今日は宝剣岳と、余裕があれば三ノ沢岳に登るつもりだ。小屋でポリタンに水を分けて貰い、出発する。駒ヶ岳に向かって、写真を撮りながらのんびり登り始める。
駒ヶ岳の頂上は昨日より人が多い。薄雲が広がって、展望は昨日より悪いので通過。宝剣岳に向かう。反対側から、老若男女のハイカーさんが続々と列をなしてやって来る。中岳を越えて、宝剣岳の岩稜に取り付く。頂上直下の鎖場では、下る人とのすれ違いで待ち合わせ。渋滞が発生する。
宝剣岳の頂上は狭い岩場で、古い祠がある。眼下は千畳敷に向かって断崖絶壁となり、高度感がなかなか。頂上の最高点は岩峰の上だが、そこに登るのはちょっと怖いので止めておく。三ノ沢岳はここから片道約2時間かかるし、今日はのんびり歩きたい気分になってきたので割愛して、ここから引き返すことにする。
宝剣岳を降りると、それまで稜線を覆っていたガスが上がり始めて、天狗岩の向こうに三ノ沢岳がくっきりと見えた。一瞬、決断がぐらついたが、また登る機会もあるだろう。
帰りは中岳の巻き道を通る。途中に岩場があるため、積雪期通行禁止の立て札があるが、無雪期は問題ない。中岳を巻き、続いて駒ヶ岳の巻き道に入る。この巻き道の入り口付近はヒメウスユキソウが特に多く、それを目当てのハイカーさんも多い。しかし、巻き道を先に進むハイカーさんは皆無で、再び静かな山歩きとなる。
駒ヶ岳を巻き、玉ノ窪山荘を過ぎて木曽前岳の巻き道に入る。巻き道3連発は楽だ。この巻き道は花が多い。後は下るだけなので(長いけど)、のんびり写真を撮りながら歩く。途中、スズリ岩という大岩で寝っ転がって休憩中の若者パーティに会う。さすがにお疲れかな。巻き道はここからジグザグに急降下して大ナギを渡ると、ダケカンバの明るい林の道になり、いろいろな花を見る。お花畑という道標もあった。
以下は、木曽前岳の巻き道で見た花です。
巻き道が終わり、稜線上の道と合流すれば、あとは往路と同じ道を戻る。途中、六合目で昼食にして、棒ラーメンを食べる。登って来るハイカーさん数名とすれ違う。高度を下げて、下界の暑さの中にだんだん戻って行く。蟬の声が大きい。
ようやく敬神ノ滝に下り着き、沢の冷たい水を飲んで一息つく。山荘には昨日の方の他2人がいて、このコースについての感想アンケートへの協力を求められたので、山荘の中で記入させて頂く。ついでにいろいろ話を伺った。今でも8月に信仰登山が行われていることや、日帰りで登る人も多いとのこと。そう言えばウェストンも1日で伊那に抜けている。すごい健脚だ。あと、玉ノ窪山荘の食事は昔はカレーだったらしい(^^;)。この素晴らしいコースを保全している関係各位に感謝して、滑川砂防公園に置いた車に戻った。
帰りは、木曽福島町の中心部から山間に入った所にある二本木の湯に立ち寄る。3連休の2日目とあって、家族連れなどで大賑わい。湯船もあまり大きくないが、タイミングが良かったせいか、ゆったり浸かれた。ここのお湯は褐色の天然炭酸水で、手足に泡がたくさん着く。さっぱり汗を流したのち、塩尻ICから高速に乗って桐生に帰った。