有明山
安曇節に「なにか思案の有明山に小首かしげて出たわらび」と唄われる有明山は、安曇野のどこからでも台形の特徴ある山容が仰がれる山である。全山深い樹林に覆われて、常念山脈を隠す屛風のような黒々とした山影が目を引く。標高は2268mで、北アにあっては高峰ではないが、急峻な山として知られている。山麓に有明山神社、頂上稜線には北岳、中岳、南岳にそれぞれ奥宮があって、山岳信仰の山でもある。
有明山の登山コースは、黒川沢に沿って登る表参道(行者道)、中房♨有明荘からの裏参道、松川からのコースの三つがある。このうち、表参道は崩落のために10数年前から廃道となっていたが、数年前に整備されて復活している。表参道を登り、裏参道を下るコースを歩いて来ました。
未明に桐生を車で出発し、太田藪塚IC〜豊科IC間は高速を走って、R147を白馬方面へ。JR有明駅の手前で左折し、中房温泉への道に入る。行く手には有明山がどっかりと聳えている。山あいの道に入ってほどなくで有明山表参道入口に到着する。黒川沢に架かる橋の袂に2台分の駐車スペースがあり、ここに車を置く。
黒川沢に沿って舗装道を5分程歩くと、車道は終点となる。ここまで車で乗り入れることもでき、広い駐車スペースもある。松本ナンバーの車が1台停まっていた。
山道に入り、木橋で渓流を渡ると、後は黒川沢の右岸を登って行く。道は細いが良く踏まれていて、道標も随所にある。南東に開けた谷なので、早朝でも陽が差し込んで雰囲気は明るい。谷の両側は急峻な斜面で、一か所、雪が残る崩壊地のトラバースがあった。落石には注意。
小滝を見て、赤ペンキの丸印に導かれて左岸に渡ると「妙見の瀧」と記した道標があり、そのすぐ先に右岸から妙見の滝が落ちていた。水が飛沫をあげながら岩壁を流れ下る様は、涼味満点だ。
滝の水を汲んでポリタンを満タンにし、さらに本流を遡る。谷はU字に狭まり、大きなチョックストーン滝を右から新品の鎖で越える。次のナメ滝を左から越えると谷が開けて、見渡す限り白い巨岩で埋まっている。左側の山腹に大きな崖崩れがあり、ここが崩壊現場らしい。割れた岩のまだ鋭利な岩角が、崩壊の様子を生々しく伝えている。
赤ペンキを目印に岩を渡り歩いて登って行くと、陽光を浴びて岩盤を流れ落ちる白河の滝が現れる。滝の上には青空がスカッと広がっていて、開放的で素晴らしい景観だ。
登山道はここで谷から離れ、右側の草付き急斜面の鎖場を登る。なお、ルート地図の背景地図(電子国土)に記載されている妙見滝と白河滝の位置は誤っていて、実際はもっと下流になるのではないかと思う。
シャクナゲの木が多い針葉樹林に入り、木の根とロープが頼りのものすごい急登が始まる。点々と石碑があり、かつての行者道であることを偲ばせる。有明山の頂上稜線が見えて来て、雪が残るルンゼが急角度で駆け上がっている。山道の周囲も転げ落ちそうな急斜面で、気が抜けない。
ほとんど緩むことのない急登が続く。朽ちかけた祠のある大岩に息を切らせて到着し、ぽつぽつ咲いているシャクナゲを眺めながら、水分を補給して一休み。今日は天気も良いので、水の消費が速い。
大岩の間をすり抜けてさらに登る。山腹を巻き気味に進み、岩場を鎖でトラバースする。ところどころから見える有明山の頂上は、まだまだ高くて遠い。新緑の岳樺林と笹原の斜面を登ると、1904m峰の西の鞍部で稜線に出て、松川からのコースと合流した。地元の工業高校が設置した立派な道標がある。
稜線に出れば後は多少は楽な道になるのかと思ったら、そうは問屋が下ろさない。針葉樹林に覆われた岩場の多い急登が続く。山岳信仰の祠や石碑が点在する。岩場には木の梯子が架けられているが、老朽化したものが多いので注意。登り始めて4時間以上が経過し、エネルギー切れを起こしたようで、足が重い(^^;)。結構、へろへろになって、真新しい金属製の鳥居が建つ北岳に到着した。この鳥居は避雷針を兼ねているそうだ。
北岳からの展望は樹林に遮られて部分的なので、社殿の裏を通って中岳に向かう。表参道では誰にも会わなかったが、裏参道から登って来る人は多いようで、頂上稜線では数組のハイカーさんと行き会う。5分程で有明山の二等三角点に着く。西側は、常念岳から大天井岳、燕岳にかけての展望が開ける。東側は黒川沢に向かって急崖となり、遠くには安曇野が広がる。狭い頂上は既に一組のハイカーさんが休憩中で満杯だったので、先に進む。
短い岩稜を通過すると開けた広場に社殿のある中岳に着く。社殿の背後には常念山脈が一望できる。社殿の庇から鐘が下がっていたので、打ち鳴らすとカーンという澄んだ音が辺りに響いた。他に誰もいなくて、昼食にはうってつけの場所だ。一汗かいたので、缶ビールがうまい。そのあと、餅入りレトルトカレーを作って食べる。
エネルギー補充が完了した所で、さらに先の南岳までデジカメだけを携行して空身で往復する。針葉樹林に覆われた岩稜の道は意外と険しい。南岳の社殿もなかなか立派だ。社殿の前は東側に眺めが開けて、やはり安曇野が俯瞰できる。安曇野からも、この社殿を遥拝することができるのかも知れない。元の道を北岳まで戻った。
北岳から裏参道を中房温泉方面に下る。最初は北へ稜線を下り、2283m峰の手前から西へ、山腹を巻く様に下って行く。後は下り一方かと思いきや、岩場や崖を避けるためにアップダウンが結構ある。途中、岩場を鎖でトラバースする個所もあり、慎重に歩く。途中には一面のシャクナゲ林もあるが、もう時期も過ぎているのか、花はポツポツだった。
急な下りが延々と続くが、漸く傾斜が緩むと右に三段の滝への道が分岐する。滝は表参道で堪能しているので、有明荘に直行する。新緑が美しいカラマツ林と笹原の中を下ると、有明荘の裏手にあるヘリポートに降り着いた。
早速、有明荘で日帰り入浴する。まだ夏山登山シーズン前なのでお客さんは少なく、ゆっくりと♨の湯船に浸かることができた。休憩室で1時間程爆睡したのち、タクシー(運良く便乗させて貰った)で黒川沢の駐車地点まで戻り、帰途についた。